忍者ブログ

SkyrimとFallout4・76の二次創作メインブログです。 たまにMODの紹介も。
04 2025/05 1 2 34 5 6 7 8 9 1011 12 13 14 15 16 1718 19 20 21 22 23 2425 26 27 28 29 30 31 06

05.16.06:01

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

  • 05/16/06:01

06.03.11:05

ちょっと待て!!

※スカイリム二次創作小説チャプター02です。
その手のものが苦手な方はブラウザバックでお戻りください。
・これは第二章です。最初から読みたい方は前作「オープニング・ムーブ(第一手)」からお読みくださいませ。



 スカイリムのおよそ中心部にある都市、ホワイトラン。
 交易の中心都市であり、行商人はここを拠点としてスカイリムの各都市──ソリチュード、ウインドヘルム、ウィンターホールド、モーサル、マルカルス、リフテン、ファルクリース──へ向かう。
 タムリエルの中心部からやって来る者達は大体ここに辿り着いてから各都市に向かうため、ホワイトランは他の都市と比べると行商人は勿論、旅人や傭兵の出入りも多く活気づいている。
 ──しかし、お気づきだろうか。ホワイトランの街中を歩いている者がノルドやインペリアル、時折珍しくレッドガードやエルフなどの人間に近い姿の者しか居ないことに?
 ホワイトランの住人はノルドが大多数を占めている。そしてノルドは他種族──主にカジート、アルゴニアンなど獣人種族──を極端に嫌う。本来ならエルフとてその中の一つに入るのだろうが白金協定によって帝国がアルドメリ自治領に下ったため、エルフに対して大きな口は叩けなくなった。
 その為ホワイトラン城下町でカジートやアルゴニアンの姿は一切見ない。旅人がいたとしても城門に突っ立っている衛兵にで咎められ、引き返させられるのがオチだ。行商人の格好をしたカジートや旅人姿のアルゴニアンが城門前の衛兵に食って掛かっていた姿を見かけるのは日常茶飯事だったが、どんなに食い下がっても彼らは中に入れてもらうことは出来なかった。
 しかしそんなことがあってもカジート達は諦めなかった。彼らは門の中に入れてもらう事を諦め、城門から少し外れた街道沿いにテントを張って商売をするようになった。……だがホワイトランに住むノルドは全く相手にしなかった。カジートやアルゴニアンは毒──麻薬と似たような幻覚作用と興奮状態に陥らせてくれるムーン・シュガーやスクゥーマの事だ──を売る連中だの、盗人だのという先入観をかたくなに信じきっていたせいだ。
 全く相手にされない彼らだったが、ある男だけは違った。ノルドなのにもかかわらず彼らと他愛ない世間話をし、商品を買ったり色々と手助けしてくれるその姿は、カジートの行商人にとっても意外だったのだろう、彼らは次第にその男に心を開いていくようになった。一部の者は彼と行動を共にしてもいいといいと言わせた程。
 その男はホワイトランの従士なせいもあって、彼らの間ではちょっとした有名人だった。変わった奴だと言い訝しむ者も居たが、大半の行商人カジート達は彼に友好的だった。
 ただ彼らは知らない。その男が何故カジートやアルゴニアンに対して友好的な立場で居られるのか。
 そう、彼は人種という垣根を越えて、ヒトとして生きる者の味方という立場にいるからだ……竜の血を持ちながらも、ヒトを守る者──ドヴァーキンとして。

 馬を止め、小高い丘の向こうに見慣れたドラゴンズリーチの尖塔部分が姿を現した。夕暮れが近いため若干赤く染まっている。何とか夜になる前に着きそうだ。
「一ヶ月ぶりのホワイトランだな。随分ご無沙汰してたもんだぜ」
 片手は手綱を握ったまま、もう片方の手でひさしを作るようにして遠くを眺めるポーズを取る。しばらくぶりに見るドラゴンズリーチの姿だった。先端部分しか見えてないが城下町も至って変化はないだろう。
 別件で俺はホワイトランから程遠いウィンターホールドまで出向き、そこにある魔術師大学で依頼を受けていた。気がつけばあっという間に一ヶ月が経っていた。ホワイトランの従士という立場上、あまり長くホワイトランを離れるのは立場的に見てもよくない。
 依頼はまだまだ途絶える事はなさそうだったため、一区切りをつけて俺はホワイトランに帰ることにした。
 一ヶ月以上最北端に近い場所に居たためか、ホワイトラン地方までやってくるとその温度差にほっとする。毎日雪が降り続けるウィンターホールド地方と比べ、ここホワイトラン地方の気温も降雪量もウィンターホールドのそれと比べたら雲泥の差だ。それでもモロウィンドと比べたらかなり低いのだが。
 さて、今日は久しぶりに自分の家に帰れそうだ。リディアが居るだろうから何かちょっと豪華な晩御飯でも作ってもらえたら有難いのだが。……というかリディアに飯を作ってもらったことなんてあっただろうか? 剣の腕はまぁまぁと言ったところだが、料理の腕となると検証した覚えが無い……食べれるものを作れるのだろうか彼女は?
 などとどうでもいい事を考えつつ、俺は鐙に掛けた足でとん、と馬の横腹を蹴った。それに反応して馬がゆっくり並足で歩き始める。夕暮れは釣瓶落とし。ぐずぐずしてたらあっという間に闇に塗りつぶされてしまう。
 更に馬の横腹を蹴り、やや早く走らせる。街道を一気に駆けていくと、やがてホワイトラン城下町まで見える距離まで近づいてきた。橋を渡り、更に街道を走らせていくとホワイトランの馬屋が見えてくる。そこに馬を預ける厩舎があるのだ。
 馬屋の看板が見えてきたところで走らせていた馬を並足までに速度を落とす。そのままゆっくりと歩かせて厩舎に入り、馬から降りて繋ぐ。
「お疲れさん、ゆっくり休んでろよ」
 馬のたてがみをゆっくり撫でて疲れをねぎらってから、俺は厩舎を出た。
 まさかそれから数時間もたたないうちに再びここに戻ってくるなど、誰が予想できただろう?

 城壁の間にある舗装された道をぐるりと回り込むようにして歩いていくとやがて正門が見えてくる。ホワイトランは城壁で囲まれた城塞都市なため、この壁を越えて城下町に潜入するといった行為は無理に等しい。城壁周辺には物見櫓が立てられ、衛兵が常駐しているし近くには監視塔がいくつも設けられている。見回りをする衛兵の姿も多い。城壁を越えて不法侵入する方がばかげている。
 城門が見えてきた。いつもとなんら変わらない……と思った矢先、おや、と俺の心の中で何かが違和感を訴えた。
 いつも居るであろう衛兵の姿がない。
 巨大な木製の門の前には必ずといっていいほど衛兵が両脇に突っ立っているのにも関わらず、突っ立ってる場所には誰の姿もなかった。これじゃ誰でも入って大丈夫ですよといってるようなもんではないか。
 妙だな……心の中がざわつく。
 しかし何が妙なのか分からない。もしかしたらただ単に見張りの交替の時間帯でたまたま姿が見えないだけかもしれない。そう自分で納得させようとしても何故か心にひっかかる。今までこんな事がなかったから?
 俺が居ない間に何かあったのだろうか……山賊の襲撃があったのか? それともドラゴンが襲ってきたりでも? 嫌な考えばかりが頭をよぎる。
 しかし……辺りは特に襲撃にあったような様子はない。血溜まりが地面にある訳でもないし、城壁が崩れ落ちている様子もない。前に見たホワイトランとなんら変わりは無い。景色だけは……ただ在るべき所に在るべき人がいないだけで。
 気にしないほうがいい……そう思い込む事にしよう。俺はホワイトランの正門である木製の大扉に手をかけ、開けようとした。が……
 胸騒ぎがする。この先──この先は城下町じゃないか──に何かよくないものが潜んでる。長年傭兵として、冒険者として培ってきた勘が、この扉の先に自分に害を与えるものがあると察知している。
 扉の取っ手に手をかけたものの、引くことを躊躇ってしまう。だが俺は──その先に何があるのか確かめたく、次の瞬間には扉を開けていた。
 大丈夫だ。大丈夫だ。何も問題はない。この町が襲われたりする筈なんてない。
 その考えは間違っていなかった。唯一つ間違っている点──襲われた相手が山賊ではなかった──を除いて。

 扉を開け、ホワイトラン城下町に入った直後。
 周辺の空気が一瞬にして変わったのを俺は見逃さなかった。
「…………?」
 門の前に待機しているであろう衛兵の姿はやはりなく。
 辺りを歩く市民の姿はちらほら見かける……が、その彼らの視線が全て、扉を開けて入ってきた俺に注がれていた。
 しかしその視線はいつも俺を見かけた時に向けてくれる友好的なそれとは違い、敵に向ける視線……驚愕、敵対心、猜疑心をむき出しにしているのだ。
 あまりの変貌に思わず俺は腰にさしてある剣の位置を確かめてしまう。……何なんだ? この異様な雰囲気は? 
 その時、遠巻きで俺を見ていた市民の間を掻き分けて衛兵が数人、こちらに向かって走ってきた。俺の目前に止まるやいなや、こちらに向けて指をびしっ、と指し、
「ジュリアン、だな?」
 威圧的な言い方で俺の名前を呼び捨てる。何だその態度は? 俺は一応ホワイトランの従士だぞ?
「……そうだけど。一体どうしたんだ? 衛兵の姿はないし町の人まで俺を変な目で見──」
 言い終わる前に衛兵はさっと俺を囲み、淀みなく腰にさした剣を抜いてこちらに切っ先を向けた。
「お前はホワイトランとその市民を恐怖に陥れた。罪を償ってもらおう」
 ──は? 
 頭の中で今衛兵が言った言葉を反芻させてみる。けれど……全くもって意味が分からない。
 罪? 償う? 俺は今までウインターホールドに居たんだぞ?
「ちょっと待てよ。何のことだかさっぱり──」
 反論しようと手を上げた時、衛兵の一人がこちらが攻撃してくると勘違いしたのか手にした剣で突いてきた。切っ先は俺の左手を掠め、直後に傷口から鮮血が溢れ出す。
「刃向ったら次は命をもらうぞ!」
 刃向うも何もこちらは剣すら抜いてないじゃないか。
「俺が一体何をやったと言ってるんだ? 罪状を言え!」
 手を一方的に切られるわ、一方的に罪を償え言われるわ、俺の言い分くらい聞け!
 すると衛兵は何を馬鹿な事を、というような嘲る態度を見せてきた。ますますもって腹が立つ。睨みつけてやると、囲んでいる衛兵の一人がとんでもない事を口にした。
「はぁ? お前自分がしでかした事を忘れた、などといわないだろうな? お前は数人の男を引き連れて器物損壊、窃盗、横領、強奪、強姦。市民に対してありとあらゆる残虐行為を行った。逮捕しない訳ないだろうが? 従士という身分にしてもその罪は重く、首長バルグルーフもお前を罪人として捕らえよと命じておられる。大人しく我々に捕まり罪を償うことだ。刑期を終えるまでな」
 ……何だって?

 闇が帳となって世界を覆いつくす前。
 俺を囲む衛兵。遠巻きでこちらを見つめる市民。
 辺りから発せられる異様な敵対心に気圧され、俺は何も言えずにその場に立ち尽くしていた──。

拍手[0回]

PR

05.20.16:16

オープニング・ムーブ(第一手)

※スカイリムの二次創作小説です。
その手のモノが嫌いな方はブラウザバックをして戻ってください。
今回は新シリーズ第一章目となります。一応ギャグ路線を目指してますがどうなることやら。
気長に見てやってくださると助かります。
今回触りの部分だけなんでどばきんさんとか出てきませんw

「……知ってるか? “伝説のドラゴンボーン”とやらが復活したらしいぜ?」
 薄暗くじめっとした室内──室内、という言い方は正確ではないが──に、低音の声が響いた。低い声でも周りがごつごつした岩肌のため、若干離れた場所からでも聞こえてくる。
「ああ……聞いたことがあるぜ。ドラゴンの魂を食べるとか言う奴だろ? 今スカイリムじゃそこかしこでドラゴンが復活してるらしいから、ドラゴンボーンも復活したってことじゃねぇのか?」
 あちこちぼろぼろに擦り切れた皮鎧を纏った男が、エールの瓶を口に運びつつ低音の声を持つ男に返事をする。
 最初にドラゴンボーンの話を振った男も同様の格好だった。破れた鎧を直そうともせず、破れたまま着ているのであちこち肌が露出してみっともない格好だと思われても仕方が無い容貌だ。
 しかし彼らは敢えてそういう格好をしているのだ。何故なら彼らが身に纏う鎧こそ、彼らが倒した奴から奪ったものだから。
 相手を斬り殺した故に奪ったもの故、鎧には刀傷があちこちついている。
「羨ましいねぇ。そのドラゴンボーンとやら。一躍英雄のお仲間入り、って事だろ? 英雄ともなればスカイリムの住民から賞賛やら何やらもらい放題、やり放題、ってか? 俺らもそういう英雄様とお近づきになりてぇもんだ」
 ガハハと下卑た笑い声があたりに響く。最初にドラゴンボーンの話を振った男も全くだと同調させながらエールの入ったジョッキを口に一気に流し込んだ。
「確かにな。俺らもあやかりたいねぇ。そいつが俺らの仲間だったらこっちにも分け前をくれるだろうになぁ」
 そりゃ無理だよなぁ、と再び笑い声が響く。他愛ない談笑だと第三者から見たら思う光景だった。一人の男が奥の部屋から出てくるまでは。
「……その“ドラゴンボーン”という奴の容貌は知ってるのか?」
 のそっと奥から出てきた男に、話していた二人の男は軽く頭を下げた。自分たちよりは格が上なのだろう、出てきた男は板金鎧を身につけ、両手で持つ巨大な斧を背負っていた。顔には刀傷がいくつか刻まれ、一見歴戦の戦士と思われるような風貌をしている。
「ああ、兄貴か。……ドラゴンボーンの容貌ですかい? 男だ、って事しか聞いたことはねぇが……」
 兄貴と呼ばれた板金鎧の男は軽く頷くと、手近な椅子に腰を下ろし、粗末なテーブルに置かれてあったハチミツ酒の瓶に手を伸ばす。
「最近、俺達山賊を襲う手練の男が居るって話、聞いてるか?」
 瓶の蓋を片手でぴん、と跳ね飛ばし一気に口に流し込む。低音の男はああ、といった様子で首肯した。
「聞いたことありやす。たった一人で他の山賊の根城を壊滅させたとか……それがまさか、ドラゴンボーンだと?」
 擦り切れた鎧を纏った男はそれを知らなかったらしく「たった一人で?!」と傍らで驚愕していた。
 一人で十数人はいるであろう山賊の根城を壊滅させたなんて信じられないのは当たり前だ。それも聞くところによるとそこそこ大きな根城を悉く壊滅させたとのこと。ますますもって信じがたい。
「……その可能性は無きにしも非ずだ。ドラゴンを倒し魂を食うことが出来る英雄、ドラゴンボーンなら一人で数十人の山賊相手でも怯むことはあるまい」
 板金鎧の男は口調を変えずにぽつりとそう言い放つ。低音の男はなんてこったと言った様子でテーブルをばんと叩き付けた。
「もしそうなら兄貴、俺らは黙ってやられるしかねぇんですかい? いずれそいつは俺らを倒しにくるんですぜ?」
 倒しに来るという単語に引っかかったのか、低音の男の傍らで驚愕の表情を浮かべたままだった男がひぃっと情けない声を上げた。
 板金鎧の男はその質問に答えようとはせず、黙ってハチミツ酒の瓶を呷る。
 しばし静寂が辺りを支配し──
「……その男の顔、分かるか? 名前も知りたい」
 意外な答えだった。低音の声を持つ男と擦り切れた鎧を着た男は一瞬、顔を板金鎧の男に向けたまま視線を交わし……
「え、ええ……情報屋に調べてもらえれば一発で分かりまさァ」
 擦り切れた鎧を着た男が声を震わせつつ答えた。板金鎧の男は返事をする代わりに頷く。
「ちょっとまってくだせぇ兄貴。俺、そのドラゴンボーンの名前聞いたことがあるんでさ」
 横槍を出してきたのは低音の男。
「ほぉ、名前が分かったほうが情報が掴めやすいからな。なんて名前だ?」
 板金鎧の男に急かされ、低音の声を持つ男は一生懸命思い出すポーズを取り……
「確か……えーっと、まってくだせぇ……ジュリ、いや違うな……そうだ思い出した! ジュリアン。ジュリアンって名前だ。間違いない」

 時折、風で草が擦れる音しか聞こえてこない静かな夜。
 山間にある洞窟の奥から、男達の低い声が響いていた。
 その笑い声は、まるで──悪巧みを考えた時に出るような、いやらしく下卑た笑い声だったという──

拍手[0回]

05.13.17:16

小説仕立ててMODを検証してみる(Katixas Ciderhouse Restaurant)

「久しぶり、フルダ。エールを一杯くれないか」
 夕闇が訪れたホワイトランはバナード・メア。
 その日の仕事を終えた市民がちらほら集まっては酒を飲み疲れを癒す憩いの場。辺りには数人の男女が言葉を交わし笑いあい、吟遊詩人がリュートを雰囲気に合わせ奏でている。
 久しぶりにホワイトランに帰ってきた俺は、共に旅をしているホロキと共にバナード・メアを訪れた。ここで酒を傾け喧騒に身を浸すのが俺は好きだった。
 半月ほど、俺はウィンターホールドの方に出向いて仕事をしていた。ホワイトランは比較的スカイリムの中心部にあるため、寒さも降雪量もウインターホールドに比べたら雲泥の差である。周りを見渡せば、ウインターホールドの市民よりもホワイトラン市民の着ている服は若干薄着だ。まぁ、室内は十分すぎるほど暖かい温度で保たれているせいもあるのだが……
 フルダと呼ばれるここバナード・メアの女主人は俺がカウンターに座って注文してすぐ、グラス二つとエールの瓶をテーブルに置き、こちらに寄越してくれた。栓を抜いてグラスに注ぎ、隣に座っているホロキに渡した。
「久しぶりじゃない? 何処か旅に出ていたの?」
 注ぎ終わったところで待ちかねたようにフルダが声をかけてきた。
「ん? ああ、まあそんなところだ。何か変わった事でもあったか?」
 酒場は情報収集にうってつけの場所故、帰ってきてバナード・メアに来てはいつも俺はそう聞いていた。従士だとかそういう立場からではなく、あくまで個人的に。
「変わった事、ねぇ……ああ、そういえば一つ変な話を聞いたわ。一日で家が建ったとか何とかいう……」
「……家? 一日で家が建っちまったってのか?」
 そりゃおかしな話だな、と内心ごちる。まさか召喚術でも、と思ったが思った直後に馬鹿らしいと思った。そんな召喚をして何になる? 大工要らずな位しかメリットがない。
「……って聞いたのよ。バトル・ボーン農場の隣に急に家が建ったって。バトル・ボーン家の者が見に行ったらしいけど、誰も居なかったみたいよ。おかしな機械があったりして気味が悪いってことで、それ以来手付かずらしいわ」
 エールの瓶を口に傾けつつ、フルダの話を頭の中で反芻させる。変な機械……誰も居ない家? そりゃ一般人からして薄気味悪くなるのも無理は無い。何もなきゃいいが、用心するに越したことはなさそうだ。
「ふぅん……明日見に行ってみるかな。バトル・ボーン農場の隣、といったよな」
 興味に駆られたので行ってみることにしよう。何もなければいいのだが。

 次の日──
 ブリーズホームで一夜をあかしてから、俺とホロキはその建物に向かった。
 ホワイトランの正門を出て、街道沿いに馬を走らせると橋の手前で道が分かれる。東方面に向かえばイヴァルステッド方面へ、北方面に向かえばドーンスター方面へ向かう街道だ。バトル・ボーン農場はホワイトランの城壁すぐ下にある農場でホワイトランの東側に位置する。俺は北に向けて馬を走らせた。
 するとすぐに、おかしな建物が目に飛び込んでくる。見た目はごく普通の建物だ。しかし……農場の隣にこんな建物が建っていたか? 俺の記憶には無い。半月ほど前にウインターホールドへ向かう時はこんなのは無かった。
 建物前で馬から下りる。
 やや小高い場所にその家は建てられてあった。特に怪しい感じはしない。庭のような場所には林檎の木がいくつも植えられており、実がいくつかなっていた。玄関まで歩いていくと、左手の窓枠の下に木箱がいくつか置かれてある。空けてみてもどれも中はからっぽだった。
「……外見だけ見ても怪しい感じはしねぇな」
「そうね。やっぱり中に入らなくちゃ分からないわね」
 俺の独白にホロキが応じる。俺は黙って頷き、玄関の扉をこつこつと軽くノックしてみた。が、返事はない。やはり空き家のようだ。
「入ってみようぜ。警戒を怠らないようにな」
 いつでも剣を取り出せるように身構えつつ、俺はドアノブに手をかけ、軽く引っ張る。鍵が掛かってるかと思ったら以外にも扉はあっさり開いた。バトル・ボーン家の人が入ったとかフルダが言ってたから誰かが鍵を持ってるんじゃないかと思いきやそうではなかったらしい。
 俺とホロキはおそるおそるといった様子で中に入り込んだ。

 入って唖然とした。
 薄暗い室内はホールのように広く。部屋の端には大きな樽がいくつも置かれてある。中央部分にはテーブルと椅子が置かれ、俺達が今いる玄関から一番遠くにカウンターのような台がある。
 ぱっと見はバナード・メアのような酒場と思っても間違いないような作りだった。人気はまるでなく、部屋の置くからゴゥン……と何かが動く音が聞こえてくる。
「なんだこりゃ? まるで酒場みたいじゃないか」
 ホロキも同感らしく、辺りを見回しつつ頷いてみせる。
「同感ね。見たところ酒場みたいな感じだけど……あら? ジュリアン、そこに何か置いてあるわよ」
 ホロキが指を指す方向を見やると、テーブルの片隅に手帳が置かれてあった。誰かが忘れたものだろうかと思って手帳を開くと、その考えが間違っている事に気がついた。
2012-05-09_00001.jpg









「……こりゃ、この建物を作った奴の書き置きだ」
 手帳を読み進めていくと、この建物が酒場のように飲み食いできる施設として作られたこと、酒を醸造できる機械の扱い方等が書かれてあった。そして最後に──
「“この建物は汝に任せる”だと……?」
 書置きを残した主は建物を作って満足したのか、ここから去ってしまったようだ。書き置きを読んだものにこの建物を与えるつもりだったのだろう。厄介な話だ。勝手に建てて勝手に消え去ってしまうとは。
 一通り読み終わってからホロキにも見せると、彼女も同感なのか、読み終わって肩をすくめた。
「随分勝手な奴がここを残していったようね。……で、どうするの? ジュリアン。この酒場経営するつもり?」
 そうは言われても……。俺はただの傭兵であって、酒場の主人ではない。そこそこ調理とかはするが酒を醸造したり出来るはずがない。
 考えあぐねつつ、部屋を見て回った。カウンターの奥に扉があり、開くと先程から規則正しく機械音を鳴らしていた物の正体が判明した。
 身長ほどの高さまである機械。弁がいくつかあり、ボタンを押すと何かを入れるための穴が開く。これが手帳に書かれてあった機械か。リンゴ酒が作れるとか何とか。
 そうか、だから建物の横にリンゴの木が植えられてあったのか。書き置きを再度見てみると、穴にリンゴを投入して一週間程で酒が造れるようだった。大した機械を残してくれたもんだ。
 機械のある部屋を離れ、ホールの脇にある厨房に入ると、酒場とかにあるようなオーブンが置かれてあった。一度に数人分の調理が出来る優れものだ。一般家庭にはなかなかないものまであるとは……。
 俺の考えと裏腹に、ホロキはちょっと楽しそうだ。経営する気満々な感じが窺える……さすが元酒場の看板娘といったところか。
「ジュリアン、やってみない? 調理とかは私がやるから、ジュリアンはあのお酒が作れる機械を扱ってくれればいいし」
 一抹の不安を感じたが……俺はその考えに乗ってみることにした。金も儲かるかもしれないし。

 その日から出店まで慌しかった。
 ホロキは食材の買い付け、俺はリンゴ酒に使うリンゴの収穫などなど。
 埃まみれの店内をざっと掃除し、機械にリンゴを投入し順番どおりに弁を開ける。
 経験したことの無い作業に手こずる俺を他所に、酒場で働いていたホロキはいたって慣れた様子で、あっさり食材の買い付けを終わらせ、この建物まで定期的に配達させるよう手配までしたのだ。
 さすがだな、俺は舌を巻いた。戦闘するよりこっちの方が性に合ってるようだ。
 リンゴ酒が完成するまでは早くても一週間だから、それまでは酒は仕入れつつ店を開店させて金を入れていくしかない。
 俺はホワイトランに出向き、店の事をあちらこちらに話し、告知した。客が来てくれるといいのだが。
 そして開店当日──


 とりあえずここで止めておきます(爆死
 日本語化がされたので、すぐさまDLして遊んで見ました。
 なかなか面白いです。小説では書いてませんでしたが、ウェイトレスも雇えたりできるので便利。
 自分が出かける時とか任せっぱなしでできるのがいいですね。調理とかはしてくれないけど(ウェイトレスはあくまで給仕のみ)
 お金も入るのでお金儲けにはもってこい。オーナー気分も味わえます(笑
 オススメMODです!w

 次回小説のほうはまだぜんぜん書いてませんが、さわりの部分だけでもいずれ書きたいなぁ。
 いやーこうあったかくなって来ると、バイクに乗って出かけるのが楽しくてね……w

 ではまた。

 

拍手[0回]

04.29.17:28

守りたい者──一つの道、二つの意見

 ……ひた、ひた、と、何かが落ちる音。
 何だろう……何も感じない。
 暗闇に包まれた静寂の中でただその音のみが、規則正しく奏でては辺りに響き渡っている。
 ──ここは何処だ? 自分はどうなったんだ?
 随分長い間気を失っていたように感じる。──そして気づいたら静寂が包み込む暗闇……暗闇なのは俺が気を失っているせいか? 
 ともかく今の状況を確認しないと。俺が今何処にいるのか。
 仰向けで倒れている四肢に力を入れてみる。……大丈夫だ、何も問題はない。ちゃんと指が動くし、指で地面を擦る感覚が伝わってくる。
 そして俺は閉じていた瞼をゆっくりと開けてみた。
 
 ──しかし、開けても尚、そこにあるのは暗闇。
 ひた、ひた、と落ちる何か──その正体すら掴むことのできない、闇だけが辺りを支配している。
「……ここは、何処だ……?」
 首を振って辺りを見回してみるが、入ってくるのはやはり黒く塗りつぶされた闇のみ。
 仰向けに倒れていた体を起こし、さっきまで横たわっていた地面に足をついて立ってみても、何も変わらない。
 何故こんなところにいるのだろう? ここに来る前に記憶を呼び起こしてみる。
 気を失う前に俺は……アルドゥインと話し合おうとしていたんだった。苦労してドラゴンの背中にまでたどりついて、話しかけたんだった。
 それでアルドゥインの叫びによってもたらされた雷に直撃して、そして──
 落ちたんだった。飛んでいるアルドゥインの背中から。
 アルドゥインの姿が遠のいていくのを最後に見た。あれは自らの体が引力によって地面にまっさかさまの最中に見た光景だったわけだ。
 そして気を失い──気づいたら闇の中。非現実的すぎる。つまりそれは……
「俺は、死んだ、のか……?」
 言葉に出してみる。まるで実感が沸かない。とはいえ、あの高さから落ちて無事でいる訳がない……飛んでいるドラゴンの背中から落ちたのだ、普通なら体を強打して死ぬのがおちだ。
 しかし、地面に強打している筈なのに、体は自由に動く。思考だって──ここが何処なのかを除けば──しっかりしている。
 生きている……筈だ。ならここは何処だ? 結局最初の疑問の振り出しに戻っちまった。
 もし死んでいるとしたら、ここが楽園ソブンガルデなのだろうか? この暗闇が? いずれ暗闇が晴れるとでもいうのだろうか?
 暗闇……? 
 おや、と思った。まてよ、こんなのを前に、何処かで──
 その時。
「……ドヴァーキン……」
 闇の中で規則正しく落ちていた音をかき消すほどの、闇を切り裂くようなしわがれた声が突然耳に入ってきた。
 その声は間違いなく、あの時背中の上で聞いた声と同じ──
「アルドゥイン……アルドゥインか! 俺はここにいるぞ!」
 何故ここであいつの声が聞こえるんだ、と疑問が一瞬沸いたが、ここが何処なのか分からない以上、その呼びかけに応じた方が賢明だ。
 俺の声が闇の中に響き渡る。……すると目の前の闇が反応するかのようにゆらり、と蠢いた。
 何かが近くにいる。俺はさっと身構え、状況に応じれるように体勢を作った。アルドゥインか? 目を凝らして闇の先を見ようとしてもどだい無理な話だ。しかし何故か闇が蠢いているのは分かった。
 ……そうだ、先程思い出した。あの時見た“夢”と同じ。
 身構えていると、再び闇の向こう側から声が響いた。 
「……ドヴァーキン……汝は何を求める?」
 ──え? 俺が何を求める……だって? 
 身構えただけにその問いは意外すぎて、俺は思わず前のめりに倒れそうになった。
 背中に乗って話を聞いてくれと言った時、アルドゥインは明らかに激昂していた。俺の話なぞ聞く耳持たないといった様子で。
 腰抜けのドヴァーキン、とまで言ったのに、今の態度は明らかに違う。しかし、声の主は間違いなくアルドゥインだった。一度聞いたら聞き間違えようが無い特殊な声。ヒトとは違う器官から発せられる声は、おいそれと真似できるものではない。
「……話を聞いてくれるというのか?」
 闇に向かって話すのも傍から見たら滑稽だが──俺はその声に応えてみた。理解してくれるのか一瞬不安がよぎったが、アルドゥインは何も言うことなく、黙っている。
 黙っている態度になんとなく、俺の話を聞こうじゃないかといったような促しているような態度が感じられ、俺は警戒を解いた。身構えていた姿勢をすっと元にもどす。
 息をすぅっ、と吸い込み──闇の中でもしっかり声が届くように、ややトーンを高くして俺は声を出した。
「ドラゴンボーンとして言う。ドラゴンとヒトとが共存できる世を作りたい。スカイリムでこれ以上多くの血を流させない為に、あんた達ドラゴンと共栄できる世界にしたい。だから協力して欲しい」
 ゆっくりとその言葉を吐き出した。
 
 ……しばし、静寂が辺りを包む。
 言ってすぐ、馬鹿にされるか、罵倒されるかを予想していたのだが──闇の向こうにいるであろう、アルドゥインは黙ったままだった。
 闇が時折、ゆらりと蠢く。変わらぬ暗闇に既に目は慣れていたのだが、それでもアルドゥインの巨体は目に入ってこない。そしてここが何処かも未ださっぱり掴めないままだった。
「……ドヴァーキン」
 闇の中に再びアルドゥインの声が響く。こちらが応じようとする前に再びアルドゥインの声が続いた。
「我々がかつて、ヒトを支配していたのをお前も知っているだろう。我々はかつてここスカイリムでヒトを支配していた。その頃のヒトは言葉も知らず、我々に隷属するのみが全ての愚かな種族だった。
 しかしヒトは幾度と無く我々に戦いを挑んだ。我々からの支配を逃れる為。自由の身になる為。
 しかしヒトはその時声を持ってはいなかった。声無き者が声ある我々に敵う筈も無く、彼らは何度と無く戦いを挑み、悉くその命を無駄に散らしていった」
 淡々と話すアルドゥインの声は変わらぬものの、その落ち着いた様子に俺は驚いていた。最初に俺が交渉したときと明らかに違うその態度はまるで別人──いや、ドラゴンに別人という言い方はおかしいだろうが──
「そんなヒトを手助けしたのがカイネとパーサーナックス……その辺の下りはノルドの古い文献にも残っているはずだ。ヒトに“声”を与えた。声秘術と呼ばれる我々ドラゴンの言葉を。扱える者は限られていたが、彼らはその力で我々から自由を得ることは出来た。……しかし、それと同時に彼らはその道を生きるしか術は無くなった」
 その道──?
 最後の部分が引っかかる。あまり横入れはしたくなかったのだが、そう思う前に言葉が自然と口から漏れていた。
 そんな俺に気を悪くした様子も無く、アルドゥインは淡々と声を出す。
「──共存も和解もできず、どちらかが最後まで生き残るかを賭けた、血塗られた道だ」
 え? 共存……できない? 血塗られた道? 
 俺の表情を見て取ったのかはわからないが、アルドゥインは続けてこういった。
「お前も分かっているだろう。我々の“声”は発しただけで相手を傷つけてしまう。それと同じ物をヒトは与えられた。叫びはヒトの一部に語り継がれ、そして我々と同じ血を分かち合う者まで現れた。我々を倒す者としての宿命を背負って。
 ……ドヴァーキン、いや、ドラゴンボーン。汝はヒトでもなく、またドラゴンでもない。しかし汝はヒトと我々の間に干渉できる唯一の者。我々に刃向う事もできれば、我々にも与する力をも持っている。……だからこそ我に提案を申し出てきたのであろう。共存できやしないか、と。
 しかし、共存は我々にとっても、ヒトにとっても、共倒れとなる道を進むことになってしまうのだ……ヒトが“声”を受け取り、我々に刃向う手段を得た時から、我々とヒト、殺るか殺られるか……ただそれだけしかなくなった。それ以上でも以下でもない」
 何だって……しばし、言葉が出なかった。
 神から声を受け取った事によって、人間とドラゴンの共存する道は無くなったとは……自由を得る手段を貰えた代償がこれか。カイネもパーサーナックスも神とはいえ、対価としては重すぎやしないか? それとも何か、ドラゴンとヒトは一生分かり合えないとでも決め付けていたのかもしれない。共存は無理だ、と。
 当時生きていた訳じゃないから憶測に過ぎないが、よくよく考えたらその頃のヒトがドラゴンと共存なんて道は間違っても取ろうとしないだろう。今まで支配していた奴と共存して下さいなんて言われても御免だ。俺だってそうする。
 だからこそ神は手段を選ばず、俺の祖先に声を与えたのだろう、けれど……、俺は表情を強張らせたまま声を絞り出す。
「しかし、アルドゥイン……今のスカイリムの情勢は分かるだろう? 内戦が勃発してる時に、あんたたちのことで人々は絶望してる。これ以上スカイリムに無駄な血を流すことは……」
「“無駄な血”? ヒトはヒト同士でも争うのだから我々が支配していた頃より貪欲になったようだな? はっ! ヒト同士が争っても我々には関係ない事だ!」
 こちらが言い終わる前に、闇が激しくうねり、その先からアルドゥインの怒声がびりびりと空気を震わせて襲ってくる。思わず耳を塞ぎたくなる位の激しく大きな叫びだった。
「ヒト同士が殺しあう関係に成り下がろうと我々には関係ない。スカイリムが、タムリエルがどうなろうと、我々の望みは唯一つ。……ヒトを再び我々の隷属下に置く。それだけの事。
 ──ドヴァーキン、止められるなら止めてみよ。我々は再びこの世界を支配してみせようぞ」
 闇が大きくゆらめく。その時自分の足を着いていた地面がにわかに揺れだした。
「何をするつもりだ、アルドゥイン!」
 背負った両手剣を引き抜き、身構えた。しかし揺れはどんどん大きくなっていく。構えていた体勢が揺れによって崩れ、立っていられず俺は地面に膝を着いてしまった。
 それでも剣はゆらぐ闇に向けていた。何をするつもりか分からない。殺気は感じないがそれでもこの揺れはただの地震じゃなさそうだ。
「……ドヴァーキン。再び相見える時が来る。その時は今以上に言葉を操れるようになっているのを期待しているぞ。汝の意思、我は忘れまい」
 剣を突きつけていた闇の先、揺らいでいた闇の動きが固まった──その時俺は暗闇の中でもはっきりと見えた。その先にいる者の姿が。
 人のような姿をしている。しかし背中に翼が生え、首には二つの頭があった……ドラゴンの頭と、人の頭。
 その姿に俺ははっとする。まさか、俺が今まで話していた相手は──
「……アカトシュ?」
 俺が名前を口にするのとほぼ同時だった。
 雷が一筋、天空から大地へ──びしっ、と黒い闇に白い亀裂が上下に作った。──闇に亀裂が走った、というのもおかしな表現だが。その亀裂はそれでは終わらず、びしびしと音を立てながら枝を広げ、闇に囲まれた俺の周囲をだんだんと白い枝葉で塗りつぶしていく。
 大地は揺れ続け、世界は黒から白へ変貌していく様を俺は変えることすらできず、かといって揺れでまともに立ってもいられない。
 このまま死んでしまうのか──俺は覚悟を決めた。といっても自分は既にソブンガルデにいるのかもしれない。さっきから分からないことだらけだったが、今更どうこうできるものでもない。 
 そして──白に支配され耐え切れなくなった闇は、ガラスを叩いて割ったようにぱりん、と音を立てて壊れた。途端に白い世界は強烈にまぶしい光を放ち、今までずっと闇の中にいて慣れていた俺の目を焼いた。
「ぐぁっ……!」
 何も見えない。真っ白く輝く光だけが視界に飛び込んでくるだけで、他には何も見当たらない。しかしそれと同時に、ずっと揺れていた大地が耐え切れなくなったのか、がらがらと音を立てて崩れ落ちていく。逃げようにも辺りが白く塗りつぶされているため、どちらの方向に行けばいいかもわからない。
 このまま落ちていくより他はないのかと諦めかけた時──凄まじい音を立て、崩れて陥没したた地面の中から何かが噴出してきた。突き上げるような強烈な風と、その風に伴って舞い上がる砂埃を纏って。
 何だ──? 俺が目を凝らそうとした時、ふっ……と俺の意識がそこで途切れた。
 意識が失せる直前、俺の目はその姿をしっかり捉えていた。その姿はまるで──墓から蘇ったばかりのドラゴンのようだった。

 大地に埋め込まれたサークルを一気に破って、それは姿を現した。
 砂埃と土煙をぶわっと巻き上げ、現れたのは──骨だけのドラゴン。
 煙は上空を旋回し飛び回っているアルドゥインのもとにまで届く。それはまるで、間欠泉が一気に大地から吹き出た位の勢いだった。
 土埃にまみれた骨だけのドラゴンが勢いよく墓から出てきたのと同時に、人影だろうか、小さい影が骨だけのドラゴンと同じく土煙を舞い上げ上空に飛び出してきたではないか。
 その影は空中で体勢を整えつつ、叩きつけられもせず風に守られているかのようにふわっと大地に降り立つ。するとアルドゥインが復活したドラゴンに力を与えようと叫び始めた。叫びは力となってドラゴンに降り注ぎ、ドラゴンの体に肉体と鱗が宿る。
 降り立った人物は握っていたままの両手剣を両手で握りしめ、流れるような動作で身構える。その目は躊躇いもなく、ドラゴンを倒す闘志に燃えていた。
 その時、復活したドラゴンを倒そうと走ってきたデルフィンが人影に気づき、目を丸くしながら片手を口に、片方の手を人影に向かって指し、
「……ジュリアン?」
 それに気づき、名前を呼ばれた人影が、挨拶代わりに片手を上げた。
「よっ、デルフィン。ただいま」

 視界がぐるん、と180度回転する。
 何が……何がおきたんだ? 
 気を失う前は確かに白い光の中にいた。瞬間意識を失って──取り戻したと思ったら、見下げる格好で見れば青い空が映って……つまり俺は頭を地面に向けて落ちてるっていうのか?
 何がなんだか分からなかったが、このままだと頭から突っ込んで死ぬことになりかねない。両手両足をばたつかせ、どうにか足を地面に向けることができた。が──普通だったらとっくに地面に叩きつけられていてもいいはずなのに、俺の体は重力に反して、羽毛のようにゆっくり落ちている。
 両手両足に枷ではないがなにかがまとわりついてる感じがする。何だこれは、と手を目前にかざそうとした時、視界に入ってきたのは目を疑う光景。
 目の前の世界がゆるやかに動いていたのだ。──スローモーションで動いている。アルドゥインの翼がゆっくりとはためき、地面から突き出ている土煙さえその粒子がはっきり見て取れるほど。
 死ぬ直前に人間は視界がスローモーションになるとかそういうものじゃないか、とふと思い出してひやりとしたが──どうやら違うようだ。自分の体は普通に動くし、動きも減速していない。減速しているのは俺以外の世界。つまり──何らかの力が俺にかけられている。それをかけたのは、恐らく……。
 俺は顔を上げ、上空で旋回を続けているアルドゥインを見た。その姿からは何も汲み取ることは出来ない。けれど──アルドゥインは俺の意思を聞き、答えを出してくれた。
 共存は共倒れの道──アルドゥインはドラゴンをこれからも復活させ、再び世界を支配せんとしてくるだろう。それが目的であり、彼らの生きる道。
 しかしヒトとて、一度は自由を得た身。おいそれと再びドラゴンの支配下に置かれるわけにはいかないのだ。だからこそ声を操り、ドラゴンを“喰う”が如く魂を力として得ることが出来る──ドラゴンボーン、すなわち俺自身──が居る限り。
 両者が手を取り合う事は未来永劫、成し得る事は不可能──二手に別れた道は一つに合流することは出来ないのだ。あるとすれば、支配する者とと支配下に置かれた者──かつてあったその関係に戻るしか無い。しかしそれは出来ない。両者共に。
 アルドゥインがドラゴンを復活させ続ける限り、自分の立ち位置は決まっている。俺がやることは──
 秒針が緩慢な働きをしてくれたおかげで、大地に叩きつけられることなく両足を着くことができた。その直後──きん、と甲高い耳鳴りが響き──時が通常の動きへと戻った。重力が一気に体にのしかかり、空中を漂っていたせいで力を抜いていた自分の体ががくっ、とよろめく。が、すぐに体勢を起こし、俺は先程、闇の中で抜いたまま持っていた両手剣を両手で握り締め、構えた。
 アルドゥインは空中に漂いながら、復活したばかりで骨だけのドラゴンに命と力を与えるべく──“叫ぶ”。叫びに応じ、骨だけの姿だった体全体が徐々に光を放ち──その光が肉体、鱗へと変貌していく。
 肉体を得る事が出来たドラゴンは嬉しいのか、甲高い声で鳴いた。そして間近で突っ立っている俺にギロリ、と鋭い眼光を向けてくる。敵意むき出しの視線は襲う気満々で、こちらも応じるように睨み返してやった。
 俺は剣の切っ先を、今度はアルドゥインではなく──復活したドラゴンに向けた。自分がやることは──一つ。アルドゥインがドラゴンに与し続ける限り、俺は仇名す者でいなければならない。人として。人を守る者として。
 その時、後方からざっざっ、と草を掻き分けて走ってくる音が聞こえた。
「やっぱり復活してしまった、ドラゴンボーンは居なくなってしまうしどうすればいいの!」とか一人でごちる声も聞こえてくる。
 が……その足音が突如として止まった。俺の姿に気づいたのだろう。その人物は振り向かなくても分かる。
「……ジュリアン?」
 俺は顔だけ振り向かせ、片手をひらりとあげて見せた。
「よっ、デルフィン。ただいま」
 彼女の表情は文字通り、目を丸くして口に手を当てて、いかにも驚いてます、といった様子。無理もないだろうな。
「なんで……一体、どうし……」
「話は後々。今はこいつを倒すのが先決だろう?」
 聞きたそうなデルフィンを制し、俺は顔を再び正面に向ける。ドラゴンは叫び、ぶわっと土埃を舞い上げて得たばかりの翼をはためかせ、上空へ一気に飛び出した。そのまま上空からブレスでも吐いてくるのかと思ったが、急降下してこちらに突っ込んでくる。
 躊躇いもせず俺は“叫んだ”──Liz Slen Nus.
 声が大気と混じり、瞬時に凍てつく刃となり一斉に襲い掛かる。突っ込んできたドラゴンその攻撃を避けようと首を持ち上げ、再び上空高く舞い上がろうとした。だが──翼が動かない。
 ドラゴンが異変に気づいた時、片方の翼は既に凍っていた。そう……俺はドラゴンが飛べないように翼を凍らせたのだ。逃さない為に。
 一旦ドラゴンが上空に飛び出すと、翼を持たないこちらは一方的に攻撃され不利になる。氷晶のスゥームは相手を凍らせることが出来るが、ドラゴンはそれ自体が巨大な為体全体がが凍らない。……しかし一部分のみ凍らすことは可能だとしたら? 
 その目論見は間違いなかった。翼を動かせないドラゴンは体勢を崩し、ずしん、と叩きつけられるような音を立てて地面に落ちた。大地が揺れたため、こちらも体がよろめく。
 ドラゴンが落ちた衝撃で再び土埃が舞い上がっていたが、そんなのはお構いなしに俺は体勢を立て直すと剣を構え突っ込んでいた。
「人間を、なめるな──!」
 走りながら両手剣を大きく振りかぶり、次の瞬間一気にそれを振り下ろす。がきっ、と鱗に剣が食い込む音と共に刺さった肉感の手応えが感じられる。切っ先から鮮血が噴出し、鱗を赤く染めていく。
 傍らを見ると、デルフィンも片手剣をドラゴンに深々と突き刺していた。しかしドラゴンもやられっぱなしではいられない。長い首をこちらに向け、口から炎のブレスを放ってきた。思わず両手剣で防御姿勢をとるも、炎の攻撃では避けようもなく真正面からブレスを浴びてしまう。
「あちちちち! 熱いじゃねぇかよ!」
 さすがにこれを浴びされ続けたらこちらも焼死体になりかねず、俺は腰のベルトにさしてある生体賦活剤の入った試験管を一つ手に取り、一気に口に流し込んだ。痛み止めも入っているポーションの影響はすぐに現れ、傷ついた体を瞬時に癒す。
 俺はなおもブレスを吐いてこようとするドラゴンの正面に剣を突き刺した。がっ、と鈍い音を響かせてドラゴンの口に剣が食い込む。そのまま力任せに剣を突き刺していくとばきばきとドラゴンの歯を割るいやな音が耳に入ってきた。
 明らかに今の攻撃で疲弊したドラゴンだったが、変わらず殺気立った瞳をこちらに向けたまま──剣が刺さったまま口を開き、かっとブレスを吐き出す。しまった、と思った時デルフィンが盾を構えて俺とドラゴンの間に割り込み、そのブレスを盾で防いでくれた。
「盾くらい持ち歩いたほうが賢明ね、ドラゴンボーン」
 言ってくれる。軽口が叩けるくらいだから恐らく炎耐性のついた盾なのだろう。ダメージは飛んでくるどころか熱ささえ感じられない。
「……借りておくぜ、一気に畳み掛ける!」
 ドラゴンがブレスを止めた瞬間を見計らい、俺はデルフィンの背後から突き刺さったままの両手剣に向かって飛んだ。
 刺さった剣を足場代わりにして更に飛び、ドラゴンの鼻筋に足を着く。ベルトにさしてあった片手剣を瞬時に抜き、そのまま一気に突き刺した。
 致命傷を与えたのか弱点だったのかは分からないが、ドラゴンはよじるようにして痛がり、声を上げた。突き刺したままの剣をぎゅっと握り締めて俺は振り落とされまいと耐える。動く度にに剣が食い込み、だらだらと血が流れた。それでもドラゴンはよじり、俺を振り落とそうとしてくる。
 明らかにドラゴンは弱ってきていた。あと一撃攻撃を叩き込めば倒れるはずだ──そう確信し、俺は突き刺さったままの剣から手を離し、ドラゴンの鱗を蹴って飛び上がった。ふわっと一瞬体が浮き、重力に逆らうことなく落ちた足が地面に着く。
 俺が落ちたことに気づいたのか、ドラゴンはよじっていた体の動きを止めた。首を動かして俺が何処にいるか目で追おうとした時──ドラゴンの口に突き刺さったままの両手剣を俺は一気に引き抜いた。鮮血が流れ落ちる。ぼたぼたと大地に赤い染みを作った。
 痛みにドラゴンが低く呻きながら、俺の姿を見つけ、口を開けてブレスを吐く前に俺は“叫んだ”──Fus Ro Dah.
 ぶわっ、と大気は圧力となりドラゴンに襲い掛かる。攻撃の手を緩めず、俺は先程引き抜いた両手剣を再び鱗に深々と突き刺す。
 ドラゴン長い首を空に向け、甲高い呻き声をあげた──直後、力を失ったかのように首がだらりと地面に落ちる。それがドラゴンの最後だった。
 そして、ドラゴンの体を纏っていた肉体が開放されたかのように剥がれ落ち……それらは無数の光の糸となり、俺の体に向かって一本残らず吸収されていく。ずきん、と胸と体に痛みが走った。……いつものことだが。
 光が収まると、残ったのは生き返った時同様、骨だけのドラゴンの姿。変わったのは命があるかないか、位か……
 突き刺したままだった片手剣が地面に落ちていたので、それを拾って鞘に収める。辺りは静寂を取り戻していた。
 デルフィンがほっとした様子でこちらに走ってきたが、次の瞬間顔を強張らせた。どうしたんだ? と聞く前に、
「アルドゥイン!?」
 えっ、と俺はデルフィンの向いている方向に体を向ける。
 アルドゥインは確かに居た。空中で翼を動かしながら旋回や飛び回ることなく、こちらをじっと見据え──俺を見ていた。いつもは復活させたら飛び去ってしまうのにも関わらず。
 戦いが終わるまで見ていた……? もしかして、俺がどう答えを出すのかを見届けたかったのか? アルドゥイン。
 勿論、こちらの疑問に答える筈もなく、骨だけになったドラゴンに一瞥をし、翼を動かしてぐるんと旋回をし、アルドゥインは静かに飛び去っていった。
「おかしなことね。アルドゥインは他のドラゴンが復活を遂げたらすぐどっかに飛んでいっちゃうのに、今日は見届けていただなんて」
 デルフィンも同じ疑問を口にする。
「そうだな……」
 納得した返事じゃなかったのか、デルフィンは眉間に皺を寄せた表情を浮かべ、骨だけになったドラゴンの死骸を調べようとそちらへ歩いていく。
 姿が見えなくなってもアルドゥインが去っていった方向を、俺はただずっと見ていた。

 次の日。
 俺はマルカルスに居た。正確にはマルカルスの死者の間だが。
 ずっと躊躇っていた事。俺の心の中で燻っていた事を消し去るために。
「先日のドラゴンが襲ってきたことで被害に会われた人々の遺骨は何処にある……ですか? ええ、それでしたらまだこちらに。まだ日も浅いので、納骨堂に納めず供養している最中ですので……」
 死者の間に入り、そこの管理を行っているヴェルラス修道士に話をして、俺は彼らと向き合った。
 アーケイの祠が祭られている場所に、遺骨が納められている壷が数個、無造作にテーブルに置かれてあった。死体はすぐに腐ってしまう為、焼いて骨だけにしたのだろう。あれから一週間以上は経っているし無理もない。
 その場で俺は跪き、胸に手を当てて祈った。あの時どうしても出来なかったこと……俺が守りきることが出来なかったことを謝った。
 けど、俺は成すべき事がある。──貴方方の命、無駄にはしない。どうかソブンガルデで見ていてほしい。
 心の中でそう呟き、立ち上がった。何も変わりはしない。けど──心の中で燻っていたものはいつしか消えていた。
 修道士に別れを告げ、死者の間を出る。石だらけの町に暖かい日差しがまぶしく降り注ぐ。
 軽やかに階段を降りて正門まで走った。扉を開けてマルカルスを出ると、厩に繋いでいた馬に飛び乗った。
 巡回していたマルカルスの衛兵に軽く会釈をし、俺は手綱を引く。馬が嬉しそうにいななき、ゆっくり歩き始めた。
「さて、次は何処に行こうかね…そういや、山賊の手配書が回ってたっけな。それから済ますとするか……」
 鐙で馬の腹を軽くこづくと、勢いよく馬は走り出した。街道を軽やかに駆けていく。
 当て所なく終わりもない、いつもと変わらぬ旅が今日も始まろうとしていた。

 あとがきは別で書いておきますorz
 つ、、、つかれた、、、

拍手[0回]

04.15.18:06

善後策

 双子の月が太陽の光に反射され三日月形となりスカイリムをぼんやり照らしている。
 惑星ニルンにある大陸のひとつ、スカイリム地方を含むここタムリエル大陸ではこの二つの月──ニルンの衛星、マッサーとセツンダの事だ──を双子の月、として呼ばれる事が多かった。
 猫のような獣人、カジートはこの月を信仰の対象とし、町外れで時折見かけるカジートの行商人一行が夜になれば月夜を見て故郷を懐かしむ、といった様子がみられるほど。
 スカイリム地方は雪と氷に閉ざされたツンドラ地帯だから、夜になれば月とオーロラが組み合わさる幻想的な夜空が拝めることもある。その光景はため息がつくほどと言ってもいいだろう。
 ……しかし、今夜は月が雲に覆われているし、オーロラが辺りを輝かせることもない。分厚い雲の切れ切れから月明かりがたまに大地を照らす程度だ。
 そんな闇夜を、二匹の馬が走っていた。勿論馬だけが走っているのではない。二頭の馬の背中には人影が──二つ。
 二人とも、身なりは戦士のようだ。一人は金髪、もう一人は暗くてよくは見えないが、山吹色の髪。
 金色の髪を時折月明かりにきらめかせながら馬を走らせているのは女性のようだ。華奢な体型には合わない皮製の鎧を身につけ、腰には剣をさしている。
 もう一方は男性、陽光のような色の髪も夜となってはくすんだ色にしか見えないが、体つきはがっしりとし、闇と同じ色の鎧を身につけ、背中には身長ほどともいえる両手剣を背負って馬を走らせていた。
 二人は馬を走らせて向かっていた。──ドラゴンの墓に。

「なんでついてきたんだ、デルフィン。あんたが来る理由はないはずだが?」
 馬を走らせながら俺は傍らで黙ったまま馬を走らせている金髪の女性、デルフィンに言葉を投げかけた。馬を走らせているせいで声が届いたかは分からないが、彼女はちゃんと聞こえたようだった。
「おおありでしょう? ドラゴンボーンが無駄死にしたらスカイリムは……いえ、世界が終わるのよ? わたしは貴方を見張る必要がある、だからついていく。違う?」
 甲高い声で彼女はそう答えた。無駄死にとか……言ってくれる。俺は死ぬつもりはない。かといって無駄に終わらせるつもりもない。
「俺を見張るだ、なんて聞いたことないんだが?」
「見張ってるの。貴方が変な気起こさないようにね。尻尾巻いて逃げられちゃ困るんだから」
「逃げるつもりなんてない。まだそんな事──」
「そろそろ場所が近いわ。馬から下りて歩いたほうがよさそうね」
 デルフィンはそういって、襲歩状態で走らせていた馬を手綱を引いて並足程度にまで速度を下げ、止めてから馬から下りた。
 タイミングがずれたせいで、俺は彼女から若干離れた場所で馬から下りて地面に足を着く。あたりはしんと静まり返っている。時折野生の動物が動いているのか、かさかさと草の擦れる音が聞こえてくるだけだ。
「街道からずれた、あの小高い丘に墓があるわ。そこにあいつが現れる筈なんだけど……」
 デルフィンは地図を片手に、もう片方は既に武器を抜き手に握られた状態だった。夜、というのもあるだろう。万が一、ドラゴンが来なくても夜盗が来ないと言う事は普通、考えられない。彼女の持つ剣の刀身が月夜に照らされ光を反射していた。
「行ってみよう。夜盗や山賊が相手にならないことを願うぜ」
 彼女が黙って首肯したところで、俺は背中に背負った剣を抜くために右手で柄を握り、身を屈め鞘を傾け、一気に引き抜いた。
 デルフィンの持つそれよりも細く長い刀身が両手剣の特徴だ。ダメージも大きいが振りかぶる時の隙が大きいのが難点といったところか。
 街道を外れ、草や岩肌がむき出しになっている台地を、地図と照らし合わせて俺達は進んだ。街道はしっかりと石造りの舗装で固められているが、一端街道を外れれば、そこは野草や木々、岩や小川が流れている原野そのものとなる。人の手が入っている場所なんてのは、ほんの一部といっていい。
 闇に紛れるようにして歩いていくうちに、デルフィンの言ってた丘らしきものが見えてきた。……と同時に、丘の頂上らしき場所で何かが地上から噴出しているようなものも視界に飛び込んでくる。
「デルフィン、あれは……」
「間違いないわね。貴方も一度カイネスグローブで見た事があるでしょ? あれと同じ事をしてるわ。アルドゥインが」
 先頭を歩いていた俺は背後にいるであろうデルフィンに小声で言うのと、彼女の確信を得た返事がほぼ同時だった。
 丘に近づくにつれ、体の中の血が沸き立つように共鳴しているのが分かる。──血が疼いているのだ。ドラゴンの魂が欲しい、と。
 体はそう訴えているのに反し、俺の心は冷静だった。相手はドラゴン、ましてやドラゴン復活をさせているアルドゥインそのもの──アーンゲールはああいったが、本当に俺の訴えを聞いてくれるのだろうか?
 大地──ドラゴンの墓と呼ばれる丸型のサークル──から空に向かってどす黒い、瘴気のような光が溢れんばかりに伸びている。その光は稲光を伴い、そしてそのサークルの周りをぐるぐると周回しながら──銀色の鱗を持つ、巨大なドラゴンが飛んでいた。
 俺達とドラゴンの墓までの距離は走ればすぐに到達できる位まで縮んでいた。しかし闇夜がアルドゥインの視界を遮っているのか、気づかれた様子はない。アルドゥインは旋回しながら何か“叫んで”いた。それはドラゴンの言葉。墓に眠るドラゴンを復活させる言葉。
 旋回するアルドゥインの真下まで身を屈め歩いてきたところで、俺はデルフィンに言った。
「デルフィン、行くぞ!」
 えっ、と彼女が言うのと、俺が隠密状態を解除するのは同時だった。俺は息を吸い──こちらに気づかせるため──“叫んだ”。
 叫びは瞬時に力へと変わり──空間を捻じ曲げ、空気を刃と化しアルドゥインの腹部に命中した。巨大な体躯のドラゴンが空中でよろめき、体勢を崩す。
「アルドゥイン!!」
 今度は普通の言語でドラゴンに向かって叫んだ。いくら夜だとはいえ、真下にいる人間の姿が分からないほどではない。俺のシャウトと声で、アルドゥインは鋭い眼光を俺に向けた。
「あんたに話があるんだ、アルドゥイン! 俺の話を聞いてくれないか!!」
 辺りに声が響いた──しかし、アルドゥインは何事もなかったかのようにサークルの辺りを飛び、ドラゴンを復活させようと地面に向かって時折“叫んで”いる。先程俺らが見つかる前となんら変わらない様子で。
「ジュリアン! あんた何やってんの? アルドゥインがここの墓に眠ってるドラゴンを復活させる、そいつを倒さないと」
 岩陰に隠れていたデルフィンが俺の腕を引っ張り、体制を立て直そうと言ってくるが、俺は彼女の腕を振り払い、
「聞こえないのか、アルドゥイン!」
 上空を旋回するアルドゥインに再び叫ぶが、攻撃も仕掛けてこなければこちらに向かって降下してくる訳でもなかった。まるで俺とデルフィンなんて眼中にない、と言った様子だった。
「だから言ったでしょ、アルドゥインが理解するような奴じゃないって……ちょ、ジュリアン、何を……」
 デルフィンが悪態をつく前に俺は両手剣を鞘に戻し、弓と矢を構え、上空に向かって狙いをつけた。
 無視し続けるならしろ、だが俺の話は聞いてもらうぜ、アルドゥイン──話を聞こうとする気になるまで!
 弓弦を目一杯引いたところで、つがえた矢を指から離す。ぶん、としなる音を立てて弓弦が跳ねると同時に勢いよく矢が放たれた。月光りを帯びて鏃は閃光のように煌き、直後アルドゥインの鱗に深々と突き刺さった。……しかし、アルドゥインの様子は変わらない。何故だ?
「くそっ……」
 毒づく。これじゃアルドゥインとの話し合いのテーブルにつけるどころか、また新たなドラゴンが墓から復活しちまう。どちらにせよ、アルドゥインがこちらを無視し続ければ、空を飛んでブレスを吐くことも出来ないただの人間に手も足も出せないのだ。
 墓から噴出す光と雷はどんどん強くなってきている。その光に影響してか、大地がぐらぐらと波打つように揺れた。立っていられない程ではないが、その揺れは確実に、墓に眠るドラゴンの目覚めを現している。
 どうすればいい? 復活を遂げれば、アルドゥインはカイネスグローブでの時と同じようにまた何処かへ飛んでいってしまうだろう。次に奴が現れる場所がデルフィンが予測できるとは限らない。今しかない。しかし奴は無視してる。どうやって……
 その時、無謀ながらも僅かな可能性を賭ける方法が頭に浮かんだ。これしかないのか、と思う気持ちと、これしかないんだ、と断言する気持ちが瞬間俺の中で争ったが──俺は即座に後者を選んだ。
「デルフィン! ロープ持ってたよな、貸してくれ」
 いきなり何を言い出すのか、と彼女は一瞬、怪訝そうな表情を浮かべたが、すぐに袈裟懸け状に背負っていた長めのロープを肩から外し、黙って俺に差し出した。
「一体何をしようっていうの? まだ話し合いをしようとでも──」
 俺は彼女の声を無視し、背中の矢筒から一本矢を取り出した。
 矢筒にはいくつか種類の違う矢があったが、もっとも太く、最も強度があって耐えられそうなものといったら、弩にも使えると言われてるドワーフの太矢しかない。スカイリムで弩──一般的にクロスボウと呼ばれる武器だ──は見られないが、元々ドワーフの太矢は弓用の矢ではなく強度と厚みが違うため、弩用とも言われている。弓でも扱うことは可能だが。
 矢羽を弄ると威力と飛距離が落ちてしまうので、柄部分にしっかりとロープを縛り付けた。一回のチャンスを与えてくれさえすればいい。あとは運に任せるしかない。
 矢にロープを縛った後、自分の胴体にも同じようにしてロープをしっかり縛り付けた。これでよし。
「ジュリアン、あなた、まさか──」
 俺のやろうとしてる事が分かったのか、デルフィン──しかし、もう遅い。
 ロープが括り付けられた矢を番えると、再び空中に向かって弓を構え……放った。足元に垂れていたロープがみるみるうちに矢に連れられ空中に舞い上がっていく。
 月明かりのおかげで、矢はアルドゥインに向かって襲い掛かるように首元に矢はしっかりと突き刺さったのが見えた、と同時に足元に落ちていたロープがぴん、と突っ張り、釣り上げられた魚のように俺の体は地面を離れ、空中に持ち上げられた。ブランコに乗っているかのように体が前後に揺れ、しばらく制御がきかなくなる。
 何度か揺れた後、吊るされた格好になってようやく落ち着いた。今ロープが切れたり、矢が折れたら一巻の終わりだ。
 体の制御を取り戻した俺は、矢と自分の体を結ぶロープを掴み、よじ登ってアルドゥインの体にしがみつこうとした……途端、ドラゴンがぐるりと弧を描くように旋回した。
 成す術無く、俺の体はアルドゥインが旋回時に起こした上昇気流でふわりと持ち上がってしまう。アルドゥインの飛ぶ位置よりもさらに高くまで吹っ飛ばされた時──奴の首元に突き刺さっていた矢が耐え切れず、ばきっ、と真っ二つに折れたのを俺は見逃さなかった。
 アルドゥインと自分を結んでいたロープが緩む。このままじゃ地面に叩きつけられて即死だ。即死しない方法は唯一つ。──アルドゥインの背中に落ちるしかない。
 首だけを動かし、空に向かって俺は“叫んだ”──Fus Ro Dah.
 声は圧力となり、空中に放たれた直後、俺の体は空中で耐え切れずに吹っ飛ばされた。──そう、地面に足を着いていない状態なら、俺の体も同じように吹っ飛ぶのだ……最も、まともにうけたものとは威力もダメージも違うが。
 空中で見えない力に吹っ飛ばされた俺の体は、アルドゥインのごつごつした背中にうつ伏せ状態で落ちた。両手両指を総動員させ、振り落とされまいとしっかり鱗を掴む。鱗は堅く、掴みやすく滑りもしないのでなんとか落ちずに済んだ。
 無謀とも思われた作戦だったが、なんとか無事に目的の第一段階を達したようだ。しかし、これで終わりではない。
 飛び続けるアルドゥインの背中を這うようにして背中から首元まで向かう。ドラゴンに耳があるのは何処か知らないため、顔の辺りまでくれば聞こえるだろうと踏んでの事だった。
「アルドゥイン! 俺の話を聞いてくれって言っただろう!!」
 声が間近で聞こえたのに気付いたのか、それとも首元に何かがいるのが分かったのか、アルドゥインはこちらに長い首を伸ばして視線を向けた。
「………ドヴァーキン?」
 しわがれ声のような老人めいた声が、僅かに開いたアルドゥインの口から漏れた。──やはり喋れる。アーンゲールの言うとおりだった。
「俺は今あんたを倒そうとして来てるんじゃない。話があるんだ。あんたに提案があるんだ」
 提案、と言った時、鋭く眼光炯々としたアルドゥインの瞳が驚いたように瞬時丸くなった……ように見えた。
 しかし、
「話し合い? 提案? ……お前は本当にドヴァーキンか?」
 ドヴァーキン、という言い方はアーンゲール他グレイビアードがよく口にした、ドラゴンボーンの別の言い方だというのは知っていた。タイバー・セプティムも同じようにドヴァーキンと呼ばれ、そしてドラゴンボーンだった、ということも。
「お前がドヴァーキンだというのか? 我と話し合いをするだと? 定命の者が我に口を出すだと? 本当にそれが出来ると思っての事か?」
 飛翔しながらアルドゥインは言い──そして笑うように“叫んだ”。地面から噴出す瘴気が共鳴するかのように光った。
「ふざけたことを! 提案、などと言える立場なのか? 我はお前たち定命の者を支配せんとする者。提案、などという戯言、聞く耳持たぬわ!」
 アルドゥインの怒号が、静寂に包まれている夜の闇を切り裂くようににこだましていった。振り落とされまいと必死でしがみつく俺の手がしびれてきているのが分かる。あまり時間は残されていない。
 その時アルドゥインが再び大きく旋回した。体がぐらりと安定を崩す。
「アルドゥイン、あんたたちにとっても、今はまだ復活が完全にじゃない。だからこそ俺の話を聞いてほしいんだ。あんたたちにとっても決していい戦況じゃないはずだ。だから俺の話を──」
 こちらが言い終わる前にアルドゥインの声が突風となって襲ってきた。
「我と話し合いなどという腰抜けなドヴァーキンよ、よく見ておくがいい。我が今からする事を。我と汝は相容れぬ者。我は一度力を失い、長き眠りについていたのだ。今こうして復活した今、汝ら定命の者の提案なぞ受け容れる訳が無い! 我らは再びこの世界を支配するのだ! ドヴァーキン、止めるなら止めてみるがいい!」
 そしてアルドゥインは首を持ち上げ、“叫んだ”。今度は空に向かって。──直後暗雲が辺りを包み、かっ、と辺りを光らせ一筋の閃光が大地に落ちた。
 ストームコールか? と同時に背負っている両手剣を外したほうがいい、と思った時、両手の集中を失ったため指が滑るように掴んでいた鱗を離してしまった。
「しまっ……」
 た、と言い切る前に俺の体に衝撃が走る。天から落ちた閃光が、俺の背負った両手剣が避雷針の役目を果たし、まっすぐ落ちてきたのだ。
 鱗を再び掴もうとする行為もできないまま、雷で麻痺した俺の体は動かず、アルドゥインの首から地面に向かってずるずると滑り──次の瞬間体が地面に向かって落ちていた。
「………!」
 手を伸ばそうにも麻痺していて何がなんだか分からない。アルドゥインの巨体が遠のいていく。 

「ドヴァーキン、汝は何を求める?」
 遠くで、アルドゥインの声が聞こえた気がし──そして、闇が訪れた。

 次で終わるかな? な感じです^^;
 今回長くてすいません;;

拍手[0回]