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SkyrimとFallout4・76の二次創作メインブログです。 たまにMODの紹介も。
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05.16.00:16

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  • 05/16/00:16

07.23.00:53

初カラーイラストを描いてみた。


 タイトルどおり。
 初カラーイラストです。
 これはTESNSのアバターとして描きました(笑)
 いやーだって今までずっとアレだったから、FNOのキャラの色無し下絵アバターだったから(笑)

 自キャラのどばきんさん。
 鎧は某MODの鎧なんですけど(これがめちゃくちゃ気に入ってるため描かずにはいられなかった)。
 TINAMIにも載せてますけど、まあほら、メジャーなジャンルじゃないのでね、
(といっても俺が同人で活動してるシャイフォだってメジャーじゃないけどね・・・)

 絵を描くのは小説書くよりやっぱたのしいなw
 元は絵描きがメインですからね・・・・絵のがやっぱり性に合ってるけど、
 なかなかほら、濃い顔とか描けないわけで。
 だから若干アメリカナイズからジャパニーズっぽい絵になっちゃって(これは単に俺の画力が低いせい)ますけどw
 下手ですが下手なりにがんばりました・・・カラーイラストを最後に描いたのは多分去年の冬コミの新刊表紙以来(爆死

 とりあえずたまには視覚的に見てもらえるものを。
 感想その他お待ちしてますw とかいってみる(笑)

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07.19.01:22

掘って掘られて

※スカイリム二次創作小説チャプター06です。
その手のものが苦手な方はブラウザバックでお戻りください。
・これは第6章です。最初から読みたい方は「オープニング・ムーブ(第一手)」からお読みくださいませ。


 惑星ニルンはタムリエル大陸、スカイリム地方は更に9つの地方に分類されており、各地に主要都市が置かれ、首長が各々の地方を守っている。
 帝国の拠点がある帝都ソリチュードがあるハーフィンガル、それに対抗しようとする勢力、ストームクローク率いるウルフリック・ストームクロークが治めるウインドヘルムを要塞とするイーストマーチ、
 湿地帯が領土の大部分を占めるハイヤルマーチ、北は亡霊の海、南側は山岳地帯を占め、平地が少ないペイル、魔術師大学とかつては巨大な都市として機能していたウインターホールド、
 先住民とノルドの抗争が今も激しいリーチ、スカイリム中央部に位置し平坦な場所が多く、公益1盛んなホワイトラン、シロディールとの国境付近に位置する最南端のファルクリース、そしてスカイリムの最も南側に位置し、比較的暖かい地方とされるリフト。
 9つの地方は内戦状態の今現在において、どちらにつくか──帝国か、ストームクロークか──緊迫した状況を保ちながらも、現在は小競り合い程度に留まっていた。
 そしてその地方の一つ──リフト地方の最南端。シロディールとスカイリムの国境を隔てている山脈地帯の一角に、目的の場所はあった。
 随分辺鄙な場所に遺跡があったものだ……まあ、ドゥーマーの遺跡はスカイリム中あちこち散らばっているから、国境付近の山岳地帯にあっても何らおかしくはない。
 山裾から山頂に向かって細い道が螺旋状に伸びている。その道を進んでいくと、やがて石でできた柱やアーチの残骸やらが目に付く。更に進むと、山肌をまるで舐めるように、切り崩したその部分に巨大な建造物が押し込められる形で立っていた。
 元々ここにあったものではない。どうみても人の手──作ったのはドゥーマーだろうが──で山の一角を崩し、その部分に石と特殊な金属──ドゥーマーの装備等で使われる金色の特殊な金属──で作られている。所々は崩れているものの、その素材の丈夫さ故に崩落はしておらず、夜が明ける前、朝ぼらけの中遠目から見ても、その建造物の巨大さに圧倒される。
 ここなら人気はないし村や町からも遠く離れてはいるから、山賊の身の隠し所としては申し分ないだろう。とはいえいくらスカイリムの最南端に近い場所でも山岳地帯にあるため、寒さは平地の倍以上だが。
 その奇妙な──ドゥーマーの遺跡は、グブドリネール、という名前だった。

「……なにも着いてこなくったっていいんだぜ? 俺一人で何とかなる。あんたは温泉地帯で待ってりゃよかったのに」
 山道故にゆったりとした足取りで馬を歩かせながら、俺は背後から着いてきている奴に正面を向いたまま声をかけた。
 着いてきている者はリズだった。何処から調達したのか馬に跨り、一定の距離を保ちながら俺の背後をずっとくっついてきていた。くねくねと曲がりくねった山道だから後ろに気を取られれば道を外して馬ごと転落してしまう。だから俺は正面向いたまま声をかけたのだ。
 声が返ってこないな、と自然と耳をそばだてると、
「貴方が尻尾巻いて逃げたらどうするの? もしかしたらそのまま国境越えてシロディールに逃げてしまったら私が話した意味ないじゃない」
 やや下の方から甲高い声が響いた。やはりついてきているようだがやや遅れている様子。山道は馬を操るのが難しい故に手こずっているのだろう。……やれやれ、俺が逃げると思っているのかね? こっちだって死活問題なんだぜ。
 遺跡はもう目の前だ。俺は馬を降り、手近の柱に手綱を括り付けて馬を逃げないようにしてから、彼女を向かいに行くべく、一旦道を引き返す。
 しかしリズはなんとか馬を操って遺跡の入り口まで進めていた。俺の姿を見て何故かむっとした表情を浮かべ、馬からさっと下りて俺と同じように手綱を近くの柱に括り付けた。
「ここで間違いないんだな?」
 リズの方を向いたまま、俺は親指で後方を差す。そう、これから向かう場所──ドゥーマーの遺跡、グブドリネールだ。
 彼女は黙ったまま、こくりと頷く。
「そうよ。数年前ここは私達の仲間の住処として拠点を置いてた。あの一件以来、ここには近づいてなかったけど……見た感じ、前と変わらないわね」
「ま、そうだろうな。ドゥーマーの遺跡はそこらの遺跡より頑丈だしな……じゃ、あんたはここで待ってな。行ってくる」
 彼女は承諾すると思っていたのだが──意外なことに、リズは首を横に振り、
「いいえ、私も行くわ。あなた一人じゃ心許ないから」
 心許ない?
「おいおい、俺を誰だと──」
 ぱっと両手を広げ、わざとおどけるような仕草をしてみる。が、彼女はむすっとした表情を変えずに俺に近づき、唐突にびっ、と人差し指を目前に突き出した。
「ドラゴンボーンだから死なないっていうの? そんなの分からないでしょ? 私は貴方がドラゴンボーンだという事を聞いたけど、貴方の力なんてどういうもんか知らない。勝手に一人でもぐって勝手に死なれたら困る。だから私も行く。以上よ」
 言いたい事を言ってすっきりしたのか、リズは俺の横を素通りし、先頭をきってすたすたと遺跡に向かって歩き出した。
「おいおい、何処に向かうんだよ」
「道順を教えるまでよ。……といっても私も走って逃げたから道なんてほとんど覚えてないんだけどね。でも入り口から少しの間の道は覚えてるから」
 振り向かずに歩くリズ。話してる最中はあんなに怯えていたのに、今は微塵もそんな様子を見せない。威勢だけはいいようだ。その威勢が俺が居るせいなのか、はたまた別のものか──

『何故そんな事を知りたがるの? 遺跡に行って何を探すつもり?』
 リズの疑問は至極当たり前のものだった。何故わざわざ遺跡に出向かなければならないのか、普通なら頭をひねって当然だ。
『ま、俺なりに考えってもんがあるんでね。……教えてくれるよな?』
『教えるのはいいけど、行く理由くらい聞かせてもらってもいいわよね? まさか遺跡荒らしでも?』
 そんな暇がある訳ないだろうが。
『俺が知りたいのはその仮面の構造。何処で手に入れたのか、その仮面について何か残されてはいないか、それを探りたい。遺跡荒らしとか金目のもの目当てに行くあんたらとは違うよ』
 最後の一言が余計だったか。むっと彼女は顔をしかめた。……思えばそれ以来ずっと顔をしかめたままのような気がする。
『あんたらの仲間の一人がどっかでその仮面を手に入れたのは間違いないだろう、それはあんた達がオートマトンによって混乱し、逃げた場所からあんたが昇降機を発見した広間に行き着く間の道でだ。何処かで手に入れたのなら、その何処かで何か手がかりが残されてるかもしれない。仮面についての何かが』
 ドゥーマーの事については、スカイリムではマルカルスに居るカルセルモがドゥーマー研究者の第一人者だが、恐らく今回の仮面については彼も知らない物に違いない。彼の論文はいくつか出版されており、俺はそれを盗賊ギルドでの事件の際、一通り読んだ事があるが、仮面について言及されている一文は無かった。単に書いてないだけかもしれないけど。
『……貴方、学者なの? まさか魔法使い? どうみてもそんな出で立ちには見えないけど?』
 勿論違う。普段は軽装鎧を好んで着ているが、一応自分の身分は傭兵という立場だ。……ドラゴンボーンだとかいうのは置いといて。
 俺の説明に納得したのかどうかは分からないが、彼女は遺跡のある場所と名前を教えてくれた。リフテンの更に南の、シロディールとスカイリムの国境にあるドゥーマーの遺跡らしい。その場所を手持ちの地図に書き込む。
『ありがとよ。じゃ行ってみるとするわ。』
 立ち上がり、手持ちの荷袋から松明を取り出し、焚き火から火を移させる。今から行けば夜明け前にはその場所に辿り着けるはずだ。
『そんなところに行ってる暇なんて無いわよ、またホワイトランを襲撃するって……リーダーは言ってたから』
 荷物を引っ掛け、馬に乗り込もうとした矢先にリズが重大なことを口に出した。
 俺は鐙に足を引っ掛けようとしていた動作を一時止め、
『いつ?』
『わからない。けど、近いうちって言ってたのは確かよ……貴方がホワイトランに現れたのだって既に彼の耳に届いてる筈』
 あまり時間は残されてねぇな、急がないと。
『分かった。仮面の謎が分かったらすぐホワイトランに戻るとしよう。情報ありがとさん
 ひらりと馬に飛び乗り、手綱を持ち、足を掛けた鐙で馬の横腹を蹴った。十分休んで体力回復したのか、馬は勢いよく走り出した。
 その後リズも慌てて俺を追ってきた──それが今までの経緯だ。

 遺跡の扉は意匠を凝らした幾何学的な模様がいくつも入った、豪華で重圧感のある扉だった。観音扉な為、リズ一人では開くはずも無い。
 さすがに自分じゃ開けられないと分かっているようで、リズは身を翻して場を俺に譲った。
 こちらも黙って扉に手をかけ、ぐっと押し込むとずずず、と音を立てて重い金属製の扉が開く。
 中に入ってみると、薄暗い通路が壁に取り付けられているこれまた薄暗い証明によって照らされていた。かつては赤い布に金色の刺繍の入った豪華な絨毯が敷かれてあっだろうが、今となってはそれもぼろきれのように所々毛羽立ち、破れている。その上に灰のような石の粉と、壁か天井から崩れ落ちた石くずがあちこち転がっていた。
 見たところ、さほど他の遺跡と変わった様子はない。リズは松明を荷袋から出そうとしたが、それを手で制する。
「明かりなんかつけてたら向こうから狙ってくださいと言ってるようなもんだ。松明はやめてくれ」
 納得いかない様子だったが、リズは分かったように首を縦に振った。
 身を屈め、極力足音を出さないように気をつけながら俺はそろそろと進みはじめる。最初は粋がっていたリズだったが、やはり遺跡はなれないのか、俺の後方を着いてくる形に戻っていた。
「私達がオートマトンと遭遇したのはもう少し先の……少し開けた場所だった。なんか壁にいくつかパイプがあって……」
 まあ、入り口から襲ってくることはないだろう。しかし警戒はしておいたほうがいいな。
 そろそろと進んでいくと、石でできた壁を突き抜けて、金属で出来た太いパイプがいくつも連なっている場所に出た。がしゃんがしゃんとドゥーマーの機械──それらが何を動かしているかは分からないが──動く音と、それらの動作によって吐かれる排気音が音を立てている。息が出来ないわけではないが、排気はなるべくなら吸いたいものではない。
 通路の壁の一角に円状の、これまた金属製のシャッターがいくつも並んであった。壁の向こう側
がつながっている様子だが、これが何を示すか俺は知っていた。リズが先程言った場所はここだろうか?
「気をつけろ」
 後ろをついてくるリズに向かって俺は一言注意を発する。えっ、と彼女が声を出すのと──円状のシャッターから丸い物体が落ちてくるのはほぼ同時だった。
 がしゃん、と音を立ててシャッターから地面に落ちたその丸い物体は音を立てて形を変えた。金属で出来た人型のような形をしているものの、手の部分にはブレードが埋め込まれ、もう片方の手には手そのものがボウガンとなっており、近距離遠距離どちらでも攻撃ができるようになっている。
 ドワーフ・スフィア。
「ひっ!」
 後方でリズが情けない声を上げる。……さっきまでの威勢はどうした?
 俺は腰に下げた片手剣を二本瞬時に引き抜く。手首でくるり、と柄を半回転させて握りを決め、固定させる。切っ先をスフィアに向けた時、こちらの武装に相手は応じるべく、近づきながら片手に取り付けられた弓を向け矢を射掛けてきた。それを剣ではじく。
「リズ! 応戦しろ! 一体どころかどんどん出てくるぞ!」
 円状のシャッターから金属の球体が次々と現れ、同じ形を取りこちらに向かってくる。自分ひとりならまだしも、人を守れる程余裕はない。手近に迫ってきたスフィアに俺は剣を叩き込んだ。がしっ、と火花を立てて金属の唱和音が響く。
 さすがに硬い。けれどダメージは与えている。右手に剣を突き刺したまま、もう片方の剣を振り下ろすと同時に、俺めがけて突き出したスフィアのブレードとかち合う。一旦体勢を立て直すべく、武器を押し返して俺は後方へ飛び、間合いを取った。
 きゃっ、とリズの声が耳に飛び込んでくる。そちらに目を向けるとスフィアが数体彼女に向かって攻撃を仕掛けているではないか。
「ちっ!」
 地面を蹴ってスフィアに体当たりした。機械で出来てるため衝撃には弱いのか、地面に叩きつけられたスフィアはぴくりとも動かなくなった。しかし全部を倒せたわけではない。
「リズ! 横に飛べ!」
 横に飛べといわれてもどうしたらいいか分からないと言うかと思ったが、さすがにそんな口を叩く余裕が無いのか彼女は有無を言わさず横に飛び──俺は“叫んだ”──Fus Ro Dah.
 声が辺りの空気を圧力と変え、次の瞬間にはスフィアを一気に吹き飛ばし、壁にその身を叩きつけていた。リズはというと、目を丸くして驚いた様子。
 彼女は戦力にはなりそうもない。今のうちに畳み掛けるしかなさそうだ。
 と、先程間合いを取ったスフィアが近づいてきた。俺が後方を向いた途端。ぴっ、と切っ先が目前をかすめていく。その直後じわりと痛みが襲ってきた。顔を切られたか……
 しかしスフィアがこちらに向けて剣を突いてきた為、
「脇が甘いっ!」
 振り向きざまに左手に持った剣をスフィアの横っ面に突き刺す。ダメージで一瞬動きが固まったスフィアを足で蹴飛ばすと、それで力尽きたのかがしゃん、と音を立てて崩れ落ちた。
 リズの方を向くと、先程シャウトで吹っ飛ばしたスフィアをここぞとばかりに叩きのめしたらしく、はぁはぁ息を弾ませながら片手にダガーを握り締め何度も金属の体に突き刺していた。
「終わったようだな」
 顔に出来た傷を擦ると、皮製の手袋に血がべっとり着いていた。相当深く切られたようだ。
「ちょっと、大丈夫?」
 俺の顔が血だらけなせいか、リズが驚いた表情でこちらに近づく。しかし彼女も無傷という訳ではなかったようだ。腕や脇にあちこち切り傷が見え、血を滲ませている。深い傷ではないのが幸いか。
 彼女の問いには答えず、俺は右手のひらを傷口に翳し心の中で“力ある言葉”を唱える。……言葉に反応し、にわかに手のひらが光を帯び始める。
 ──よし。心の中で唱えていた言葉を俺は解き放った。手のひらから解き放たれた淡いクリーム色の光が糸のように絡まりながら俺の顔に出来た傷を囲み、傷口を塞いでいく。
「驚いた……貴方、魔法使えるのね」
「まぁ、素人程度のものならな。……あんたも疲れてるだろう、ちょっと待ってろよ」
 顔の傷が完全に塞がってから、俺は他者治癒の呪文を唱え、リズに手を翳す。言葉を解き放つと同時に先程同様、クリーム色の光が糸状になってリズの体を囲むようにまとわり、体力と傷を癒していく。
 リズは驚いた様子だったが、体の疲れと傷の痛みが癒えたのを見て肩をすくめ、
「……魔法使いは痩せこけてローブを纏った人しか居ないって思ってたけど、貴方は違うみたいね。それにさっきの叫び声も」
 関心したような、けど若干怯えたようなそんな態度が見え隠れしている。
 まあ、誰でも初めは驚きこそすれ、その力を畏怖しない者は居ない。彼女は俺をドラゴンボーンだと認識していたとしても、シャウトの力をまざまざと見せ付けられたら恐怖を覚えても致し方ないだろう。最も、俺が使ったシャウト──揺ぎ無き力──は風を圧力と変えて吹き飛ばすだけのものだから地味だ。派手なシャウトを使っていたらどう思う事やら。
「驚かせてすまないな」
 殊勝な言い方をしてみせると、そういう事じゃないのよと、慌てた様子で手を左右に動かすリズ。
「……確かにここじゃ貴方一人でも行けそうね。スフィアだって剣で倒したみたいだし。並大抵の戦士じゃ歯が立たないし」
 最初は俺一人で行かせてたまるかって態度だったのがころりと変わっている。ようやく俺の能力が凄いという事に気づいたらしい。
 勿論その力の大元は、俺の体を流れる竜の血に因るものだ。生命力もスタミナもマジカも、そして剣や弓を扱う能力も、全ては竜の血によって高められている。ドラゴンソウルを“喰”い、その力を拠り代とし、自らの体を流れる血に活力を与えるドラゴンボーンは、ドラゴンにとっては恐るべき相手だ、勿論、ヒトにとっても──
 シャウトを使うノルドは多くは無い。けど、シャウトを使い更にドラゴンの魂を喰らうドラゴンボーンは世界でも数える程度しか居ない。一度はこの力を忌み嫌う事だってあった。けど以前起きた一件で俺は考えを改めた──ヒトのために、この力を使うと。
 ドラゴンボーン。大きな力はその力に見合った代償を払わなければならない。それが──尊敬と、畏怖の対象。
「怖気づいたってのか? まだまだ先は長いんだぜ?」
 先程蹴っ飛ばしたスフィアの死骸──機械に死骸という言い方も変だが──から突き刺さったままの剣を抜き取り、鞘に収める。馬鹿にされたと思ったのか、リズの顔が再びむすっとしたそれに戻った。
「違うわよ。ちょっと……昔を思い出しただけ。さあ行きましょ」
 再び先陣を切って歩き出すリズ。まったく、笑ってればそこそこ美人なのにむすっとしやがって、台無しだぜ。

 扉を開け、中を覗き込む。──敵は居ないようだ。がらんどうとしたその室内は石で出来たテーブルと、椅子と、金属で出来た棚が並べられているだけだ。
 身をかがめて隠密状態を解き、室内に入る。薄暗い室内に照明がひとつしかないため、何があるのかは近づいて見なければ分からない。
 先程から同じような事を何度か繰り返して進んでいるため、遺跡の大体半分位は進んだもののまだまだ先が長い。通路は基本一本道なので迷う事はないのだが、その通路に面した壁にあちこち部屋が併設されているため、調べるのに手間がかかっている状況だ。
「んー……何もねぇな。次行こう」
 ざっと室内を調べたが何もおかしな点は見つからない。踵を返して扉に戻ろうとした時、リズが音を上げた。
「ジュ、ジュリアン、ちょっとまって……少し休まない? もうこの遺跡に入って数時間はたってるわよ」
 疲れた様子で石で出来た椅子にもたれかかり、息を整えている。走ったりはしていないが、何度か戦闘になった為疲労度も蓄積されていたのだろう。
「それもそうだな。……ほらよ」
 椅子はひとつしかないため、俺はテーブルに腰を掛け──行儀が悪いとか言うなよ──荷袋からハチミツ酒を取り出し、ひょいと投げて寄越すと彼女は嬉しそうに飲み始めた。
 しばしお互い黙ったまま、ハチミツ酒を傾けていたが──
「一つ聞いてもいいか?」
 俺からその沈黙を破った。リズは黙ったままだったが、先を促している様子にも見えたので話を続ける。
「あんたは……その、リーダーとは恋人同士? もしくは結婚してるのか?」
 気になってた事を聞いてみると、意外なことに彼女は首をゆっくりと横に振った。
「結婚もしてないし、恋人同士でもない。ただ彼には恩義があるだけ」
「恩義?」
 鸚鵡返しに聞いてみると、彼女は握っているハチミツ酒の瓶を見つめ、ぽつりぽつりと話し始めた。
「私は生まれてからずっと山賊として生きてきた訳じゃない。両親は代々受け継いできた農場を経営してた。その農場に山賊が襲撃して、両親は殺され、私は山賊に拉致された。
 その後の事なんて想像できるから言わないけど、あちこちに回された。けど、私を哀れんで助け出したのがリーダーだった」
 元々彼はその山賊のやり口が気に入らなかったらしい。だから彼女と、同じく経営を気に入らない仲間を集めて逃げ出し、新たに山賊集団を作り上げたそうだ。
「私はリーダーの傍から片時も離れなかったから、仲間も私に手を出す奴はいなかった。──だから彼の傍から離れて貴方と行動を共にするなんて初めての事」
 なるほどね……だから彼を助けて欲しいと言ったのか。自分を助けてくれた彼を今度は私が助ける番、って事なのかね。
 でも──
「あんたが彼を助けて欲しい理由は分かったが、こっちは冤罪なんだ。あんた達にはいずれにしても、牢屋にぶち込まれてもらわなきゃ気がすまないってこと、忘れんなよ。
 俺は慈善事業であんたに手を貸してる訳じゃあないって事をな」
「分かってる。……貴方には迷惑をかけてるのも。でも…てもね! 貴方だってあちこちの山賊一味を片っ端から斬ったり衛兵に突き出したりするからいけないのよ? そんな事さえしなけりゃこんな事……」
 負けん気の強さが再び戻ってきたようだ。口だけは達者な女だな。しょうがない……こんな事はしたくないが、少しお灸を据えてやるか。
 俺は彼女の胸倉をぐっと掴んで引き寄せた。いきなりだったためか、リズは成す術なく掴まれて顔を俺の目前に突き出す。威勢のいい表情が一転して怯えに変わった。
「いいか? 山賊なんてのは昨晩も言ったけど、百害あって一利なしなんだよ。あんた達が市民に対して金品巻上げさえしなけりゃ俺は山賊なんか相手にしてないんだ。
 あんた、自分が本当に正しい事をしてると言い切れるのか? 金目のものを力ずくで奪う行為が? 盗賊ギルドだって盗みはしても殺しはしないんだぜ? あんた達がやってるのは彼らより更に低俗の行為だ。それでさえ今は人手が足りないってのによ。だから俺が手を汚す仕事を買って出てるんだ。分かったか?」
 すごんだ態度を見せると、ぞくっと彼女は身を震わせた。俺の言う事は至極当然の事だ。だからこそ反論すら出ないのだろう。
 掴んでた鎧をぱっと離す。思わず身を引いたリズだったが、自分が悪いと思い至ったのか、渋々といった様子で謝った。
「分かればいい。──そろそろ行くぞ」
 腰掛けていたテーブルから降りる。差しておいた剣を引き抜いてから扉を開け、再び通路に戻った。壁伝いにそろりそろりと歩いて進む。
 やがて通路が二手に分かれた。薄暗い通路の先はどちらも見通すことが出来ない。さて、どうしたものか。
「リズ、自分がどっちに向かって走ったか覚えてるか?」
 満足いく答えが出るとは期待してはいなかったが、一応聞いてみる。彼女は首を傾げながら記憶を呼び覚まそうとしていたが、
「多分、まっすぐ走っていった可能性が高い……あの時はなりふり構わず走ってたから記憶も曖昧だけど、曲がったりした覚えが無い」
「オーケー。じゃあ曲がってみよう……間違えたら引き返せばいい」
 自分に言い聞かせるように声を出し、俺は二手に別れた通路の片方を選び、進み始めた。
 暗い通路には照明が少ないため、自然と暗闇の中に飛び込む形になる。その先に何が待ち受けているかは分からない……慎重に進まなければ。
 壁伝いに、足音をなるべく立てないようゆっくり歩いていくと、その先にぽつん、と照明が視界に入った。薄暗い中目を凝らすと、照明が突き当たった壁に取り付けられてある。
 行き止まりか……? とりあえず明かりが照らす場所まで歩いてみようと壁までゆっくりと近づく。
 行き着いて初めて、そこが袋小路ではなく曲がり角だというのに気がついた。夜目が利くカジートでもない限りこれを判別するのは難しいだろう。
 直角に折れた通路を再び進むと、さほど歩かない距離で扉ににぶち当たった。入り口の扉同様、金属で出来た重厚な扉だ。
「私こんな扉を開けた覚えが無い……」
 後ろ手から着いてきているリズが、扉を目にしてぽつりと声に出した。──即ちそれは、扉の向こうに何かがある可能性が高い。
 剣を握りなおしてから、観音扉の片側のみに当ててそのままぐっと力を込め押し開けた。ずずず、と音を立てて開くため室内に何かが居れば気づかれてしまうが、不可抗力だ。
 大人一人が通れる程度に開けてから、俺は首を突き出して室内を見ようとしたが──真っ暗だった。何も見えやしない。
「リズ、松明を貸してくれ」
 彼女は黙って松明に火をつけ、俺に手渡してくれた。勿論それを持って室内に入るわけじゃない。
 手にした松明を扉の隙間からひょいと投げ入れた。そう、松明を照明代わりにするためだ。万が一何かが居ても、暗闇で攻撃されるよりましだからな。
 かたん、と音を立てて松明が転がっていく。目を凝らしてみると──ん? 
 部屋の中央にテーブルのような長方形の形をしたものが見える。暗いため輪郭がぼんやり映る程度だったが、問題はそのテーブルの上だった。
 ややくすんだ金色に光るものが、松明の明かりに反射されきらめいている。それもなにか、テーブルの端から端まで覆いつくせるような、巨大なものが。
 だが動く様子は無かった。組み立て途中のものか、がらくたか何かだろうか?
 テーブルの上に無造作にオートマトンの残骸が置かれてある光景は、ドゥーマーの遺跡ではあちこち見受けられる。そういう動かない物体をこれ幸いとばかりに漁ったり金属を削って持ち出す輩も居るのだが。
 中に入っても大丈夫のようだ。そう判断し俺は僅かに開けた扉の隙間から身を滑り込ませた。地面に転がした松明を音を立てずに取り、先程から光を反射させていた物に近づける。
 それは全身金属で覆われ、歯車や内部構造がむき出しの状態で無造作にテーブルに置かれてあった。自由に動かせる手と足が付いており、その手には突き刺せるような鋭く巨大な針と連射できる弓が埋め込むように取り付けられてあった。完成品と違う点は、鎧のようにその体を覆う金属プレートと、中央部に埋め込まれてある筈のダイナモ・コアが無い点だけ。
「……ドワーフ・センチュリオンか」
 未完成なのか、はたまた作り方を間違えたのか、一目見れば完成に近い形をしているのに、それはテーブルの上に置かれたまま横たわっていた。
 手で触れてみるが、ぴくりとも動かない。長年放置されて積もり積もったホコリや石灰の粉が、触れて指にくっついてきただけだった。
「ど、どう?」
 部屋に入らず、扉から顔を突き出してこちらを見るリズ。他の部屋より更に暗いせいだろうか。
「いや、特にこれといったものはなさそうだ。部屋の真ん中にドワーフ・センチュリオンの残骸があるだけだ」
 松明をかざしながら室内を物色したが、これといった発見は無かった。ここもどうやらはずれらしい。
 次行きましょうよ、とリズが扉の向こう側から促してくる。それがよさそうだ……俺は手にした松明に付いている火を消そうとした時、何かが目に飛び込んできた。
「ん?」
 何だ? 思わず手にした松明をそちらにかざすと、在る物が在るべき所に収まってない事に気が付いた。
「リズ! ちょっと来てくれ!」
 呼ばれてびくっとした様子だったが、リズはおずおずと足を室内に踏み入れ、俺の傍まで来ると、
「な、何……?」
 何も出やしないのに、妙にびくついた態度で聞いてくる。
「ここ、見てみろよ」
 指でその部分を指し示す。リズは俺の指を辿って視線をテーブルに置かれた残骸に向けると、俺が思っている事と同じ事を口に出した。
 ぽっかりと空いた不自然な穴。
「な、何これ? 空洞じゃない……」
 その通り。本来在るべき所──ドワーフ・センチュリオンの顔として取り付けてある箇所──に顔が無く空洞になっている。
 首から上が無い訳ではない。顔本来が埋まるべき部分はしっかりとくっついているのに、顔が描かれた金属プレートだけが無く、その部分に穴が開いた状態になっているのだ。
 空洞になった部分を覗き込むと、ぽっかり開いた部分にはホコリが溜まっていたものの、先程俺が触れた時指に付いたそれよりも薄く積もっているのみだった。
 これはもしや……? 空洞……顔……仮面、金色──
 俺の中でいくつもの断片的な思考が一つに組み合わさり──確信を得るためには、やはりある人物に会いに行かなければならないと思い至った。長い旅になるな。と心の中でごちってから、
「リズ、ここから出てマルカルスへ行く。あんたも一緒に来るか?」
 俺の口からついて出た言葉に想像もつかなかったのか──つかないのが当然だが──、彼女は目を何度かしばたたかせ、
「え? どういうこと?」
 それだけ言うのが精一杯のようだった。無理も無い──俺だってこの仮説が正しいかといわれると疑問だ。だからこそ確かめに行かなければならない。
 マルカルスはドゥーマー研究の第一人者である、カルセルモに話を聞かなければ。

相当長いですね~~~;; 次で終わりになるかな?

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07.04.22:40

選択肢などない!

※スカイリム二次創作小説チャプター05です。
その手のものが苦手な方はブラウザバックでお戻りください。
・これは第五章です。最初から読みたい方は「オープニング・ムーブ(第一手)」からお読みくださいませ。


 風がざぁっ、と凪ぐ。
 自分と、リズ──目の前に突っ立っている女性はそう名乗った──の間をすり抜けて。
 話を聞いてくれますよね、と相手が言った為もあって、俺は剣を相手の喉下に突きつけたまま口を開こうとせず黙っていた。
 しばし妙な沈黙が流れたが、喋ろうとしない俺に痺れを切らしたのか、彼女は俺の方には顔を向けずややうつむいていたが、視線だけ時折俺の顔より上の方を見上げる格好で、
「……私が名乗ったんだから、あなただって名乗るべきじゃない?」
 不満そうに言ってきた。
 言っておくが俺はあんたが話を聞いてくれるよねって言ったから黙ってただけに過ぎないんだぜ? それを名乗るべきだとか後からつけたすのは如何なものかな?
 と言い返したい気持ちをぐっとこらえ、しかし皮肉たっぷりに応酬を返す。
「話を聞けと言うから黙っていただけだ」
 言われた事は確かにその通りなんだけど、納得できない様子の彼女は言い返す代わりにむすっと不貞腐れた表情を取った。──随分感情をオモテに出す性格のようだ。ノルドの女性としては異質か。
 わかったわかった、というふうに両手を上げて参ったとポーズを取りながら俺は剣をひとまず鞘に収めることにした。彼女からは殺気は感じられないし、相手は俺の知りたい事を教えてくれると言っている。殺すわけにはいかない──今はそう判断してのことだった。
「──ジュリアンだ。あんたの言うとおり、ドラゴンボーンという立場の者だ。職業的に言えば傭兵をやってるが」
 簡単な自己紹介を述べてやると、それでも納得した様子でふんふんと頷く。内容はともかく、自己紹介をしてもらいたいだけのようだった。確認の意味も込めてだろうか。
「お互いの名前が分かったところで。……貴方が知りたい事、私は知ってます。貴方に話してそれを聞いてもらったうえで、お願いがあるの」
 真剣な表情で言うリズは先ほどとは違っていた。どうやら本当に俺の知りたい事──俺の顔を真似た狐のことだ──を知っているらしい。しかし最後のお願いというのが引っかかる。無理難題を押し付けようってんじゃねぇだろうな。
「お願いっていうのは何だ? 話を聞いちまったら断れなくなるから今のうちに聞いておきたい」
「そんなに難しい事じゃないわ。さっき、彼を止めてもらいたいと言いましたよね。彼がやろうとしていることを阻止してくれたら、それで十分です。……それは貴方にとっても重要な事だけど」
 その説明だけじゃ訳が分からない。
「彼とは何者なんだ?」
 煮え切らない返事を繰り返すリズに俺はストレートにぶつけてみた。
 しかし……彼女は照れたように頬を赤く染めたので、何事かと思ったら突然首をぶんぶんと振ってああもうと我慢できずに感情を言葉に出し、
「話が長くなるから、貴方は服を着るか再び温泉に浸かったほうがいいんじゃないかしら? ……ったく、女性の前でいつまでもそんな格好をさらけ出してんじゃないわよ」
 最後に付け足した言葉は本音だろうか? 
 そういや俺は……、と思い出した途端にくしゃみが口から飛び出す。よく出来てる体だ、まったく。
 突然くしゃみの音にびっくりして再びこちらを向いたリズだったが、俺が鼻をすすりながら照れ笑いを浮かべてみせるとこらえきれずにぷっと噴出した。
「ほらごらんなさい。イスミールにかけて、早く着替えたほうがいいわ。凍傷になる前にね」
「そのようだ」
 ばつが悪い顔をすると、彼女はくすくす笑いながら俺の着替える姿が見えないように突っ立っている馬の反対側に歩いていった。

「……彼とは、貴方の顔を被った人です。貴方の変わりにホワイトランで騒ぎを起こした張本人」
 すっかり日は陰りを見せ、夕刻の頃を示している。先程と同じ場所で薪を継ぎ足した焚き火が、新しい燃料を炭に変えながら勢いよく爆ぜていた。
 その音だけがしばし俺とリズの間に漂っていたが、彼女が意を決したように口を開いて出てきた言葉は最も俺の知りたい真実の一つ。どうやら彼女はその彼と知り合い? 仲間? いずれにしても関係者に間違いなさそうだ。
「俺の顔を被った人……俺と瓜二つの顔を持った双子の兄弟みたいなものってことか?」
 彼女の言った事実に耳を疑いつつも聞いてみたが、彼女は頭を横に数回振ってそれを否定した。
「いいえ、彼の顔は貴方と瓜二つなんかでもないし、勿論双子の兄弟というものでもない。──けどそれを可能に出来る物を彼が持っています。望んだ顔を持つ事ができる……ものが」
「望んだ顔? つまり俺の顔になれるものか?」
 何なんだそれは? と聞き返そうとしたが彼女は俺の質問を遮るように手を上げた。
「話を聞いてくれると言ったのだから、黙って聞いて。順を追って話します、彼が──彼と私を含めた仲間が、あるとき偶然手に居いれてしまった物の話から──」

 リズは逃げていた。何から? ドゥーマーの遺産──と言うべきだろうか、それを守るガーディアンたる存在、オートマトンの攻撃から。
 足がもつれる。リーダーや仲間の姿も何処に行ったのか人影ひとつ視界に入ってこなかった。自分だけ取り残されたのだろうか。
 オートマトンに刃向ってみたものの、全く歯が立たなかった。鋼鉄のダガーが貫通すらしないのだ。切り刻む事は愚か突き刺すことすら出来ない。しかしオートマトンの持つ刃は自分達の持つ武器よりも鋭利でよく研がれており、人間の体なぞ紙を切るかのように、いとも簡単に切り刻んでは鮮血をあたり一面に飛び散らした。
 その様子を思い出すだけでぞっとする。切りかかった仲間があっさり返り討ちにされたあの瞬間。
 私はああはなりたくない。だから逃げる。
 恐怖が体に鞭を打つように、彼女の足はバランスを失って転んだりする事無く走り続けることができた。息が切れようとも汗が流れ落ちようとも。
 はぁはぁと息を喘がせながら無我夢中で走る。いつ何処からオートマトンがやってくるか分からない。精神も肉体もぼろぼろになりながらも尚も走って──薄暗い広間に出た。
 しまった、と彼女は足を止め辺りを見回す。相当広いホールのようだ。調度品などが床に散らばっており、薄暗い室内は明かりが一つ照らすのみ。四方は壁。
 通路が見つからなかった。行き止まりだ。
 一瞬絶望が彼女を襲ったが、諦めずに壁に沿って歩いてみた。この先がもし空洞状態なら壁をぶちぬいて向こう側に行くことが出来ると踏んだためだ。松明を落としてしまったせいで手探りで探すしかない。
 そろそろと近づきながら壁を確認していくと、四方のうち一つが金色に輝く柵状の扉である事に気がついた。近づいてみるとその先には薄暗くてわからないが、中央にレバーが設置されているのが見て取れた。昇降機のようだ。
「ここから逃げられるかも……!」
 扉を開けようとしたが、取っ手もなければ鍵を押し込める鍵穴すらない。押しても引いても扉は開きそうになかった。
 ここまできて──! 地団太を踏んでしまいそうになるが押しとどめた。何か細工が仕掛けてあるのかもしれない。彼女は辺りをきょろきょろと見回し、変わった点がないか探そうとした。
 その時、
「リズか? 無事だったのか?」
 突如掛けられた声にひゃっと飛び上がりそうになる。何事かと後方を見やると、自分が走ってきた方向からゆらり、と人影が現れた。
 片手に剣、もう片方には盾を持ち、あちこちで戦闘をしながらここまで辿り着いたようで鎧に刀傷がいくつか刻まれてある。広間が薄暗い為顔は見えないが、鋼鉄製の鎧を身に着けている姿を見てリズは仲間の一人、屈強なオークの戦士だろうと推測した。
 常に重苦しい鎧を着込んでいるのはリーダーである山賊長と彼しか居なかったし、仲間の殆どが素早く移動できるため好んで軽装であるにも関わらず、オークは生まれながらにして戦士だから鎧を好むのだとか常日頃言っていた。フルプレートに身を包んでいたリーダーよりオークは鎧の中でも若干身軽に動ける鋼鉄製の鎧を身に着けていた。恐らくは彼だろう。
 びっくりした胸をなでおろしつつ、驚かされたのもあって彼女は悪態をついてみせる。
「生きてたのね。びっくりさせないでよ。──ここ、恐らくは地上に通じてると思うんだけど鍵もなければ開け方も分からなくて困ってたのよ。手を貸してくれない?」
 しかし彼女の声に彼は応対しなかった。どうしたの、と思って再び後方に顔を向けると──すぐ傍に彼は突っ立ってこちらを見ていた。……いや、彼は彼でもリズが想像したオークの戦士ではなく。
「え? リーダー……?」
 兜を脱いだ状態で突っ立っていたのは、彼女が推測したオークの戦士ではなく──山賊長であるリーダーだった。確かに彼の顔なのに、身につけた装備がオーク戦士のそれと同じなため、リズは面食らってしまう。
「ああ、そうだ」
 男がそう答える。しかし……奇妙な事に何かが違う、そんな気がした。
 最初に話しかけてきた時だって、身につけた鎧と声でオークの戦士だと判断したのに、近づいてみたらリーダーだったなんて。
「いつの間に鎧を変えたんです? この遺跡に入る時は板金鎧で武装していたのに」
 当然の疑問を口にするリズ。しかしリーダーは「鎧が壊れたからそこらで落ちてた鎧を身に着けただけだ」と言ってのけた。その答えもまた奇妙だ、と彼女は訝しむ。
 確かに、鎧が壊れたから手近にあった装備に着替えるというのはあってもおかしくはないだろう。しかし……何かがおかしい、何かが。
 けど疑問に思っている時間はあまり残されてない。いつオートマトンがやってくるか分からない。ここから逃げる事が先決だ。頭から疑問を振り払うように彼女は何回か頭を振って、
「と……とにかく、ここから出ましょう。どうやらここに出口に向かう昇降機があるようで、扉の鍵──」
 扉を指差しながら言ったものの、リーダーは何も答えず……腕を動かしたかと思うと、手に持った剣をすっとリズに突きつけてきた。
 え?
 リズは目を丸くする。何故剣を突きつけられなければならないのか? 頭の中で理解しようとしたが……答えは出てこない。
 剣を突きつけているリーダーの顔は薄笑いを浮かべている。その笑顔は嬉しい時楽しいとき浮かぶものではなく、狂気を帯びたそれだった。
「な、何をするんです? ここから脱出しなければ──」
 当然の疑問を口にしたが、目の前で武器を突きつけている彼はその答えを返さず、
「一人だけ逃げようったって、そうはいかない」
 剣を向けたまま無表情で言うリーダー。感情すら表してないその顔は不気味で何かにとりつかれているんじゃないか、と疑問が沸く。
「……何を言ってるんです? 私は一人で逃げようとしてた訳じゃありません!」
 苛立ちを含めたリズの声は自然と高くなり、諭すよりも怒鳴りつけるような口調になっていた。
 しかし彼は剣を収めず、自分の喉元に押し当ててくる。思わずリズは後ずさるが、そうするにも距離はなくわずかに後退しただけで体ががたん、と音を立てて扉に当たった。
「誰も逃しはしない。……お前も仲間と同じように俺を裏切ろうとするのだろう? 俺を差し置いて逃げようとするんだろう? そうはさせるものか」
 ちくり、と剣の切っ先が彼女の喉元に押し当てられた。
 本気だ。本気で自分を殺そうとしている──けど何故殺されなければならないのか訳がわからない。裏切ろうだの、差し置いてだの……皆が散り散りになって逃げたせい? けどそれは──私だけのせいじゃない……!
「や……やめ……」
 恐怖で涙が溢れる。彼に自分の言い分が通らないせいか、それとも死にたくないと希う為か──
 その時、再び自分や彼が来た方向からばたばたとこちらに向かって走ってくる音が聞こえてきた。数人居るようだ。ばらばらに走る音からして、二、三人。
 剣を突きつけているリーダーの耳にもそれは入ってきただろう。リズに剣を向けたまま、彼は後方に視線を向けた。その隙を見計らってリズは大声で叫んだ。
「助けて!」
 その声に反応したのだろう、誰かいるのか、と声を上げながら走ってくる音が近づいてくる。人影が数人、薄暗い広間に入ってきた時──リズは目を疑った。
 先頭の男は松明を片手に、もう片方の手に剣を握っていた。残りの男は二人居るようでどちらも軽装。松明を持っている者の姿は──板金で作られてあるフルプレートを身に着けていた。その姿は間違いなく、この遺跡に入る前に見た彼と同じ装備。同じ容貌。同じ──顔。
「リーダー……?」
 間違いなく山賊長であるリーダーその人だった。じゃあ、じゃあ……私に剣を突きつけている人は……? リズの頭は混乱した。
 分が悪いと感じたのか、リズに突きつけていた剣を下げると、走ってきた三人の男の方に向かってもう一人のリーダーがくるりと振り向く。振り向いた男の顔を見た途端、走ってきた三人の男は驚愕の表情を浮かべた。
 ことさら驚いたのはリーダーだろう。自分の顔が目の前に突っ立っているのだ。悪夢か何かかと思ったに違いない。何度か目をしばたたかせ、凝視しているが、見紛う方なく山賊長であるリーダーとと瓜二つだった。唯一違っていたのは、身につけた装備のみ……。
 しかしもう一人の──リズに剣を突きつけて殺そうとしかけていた──リーダーは驚きもせず、可笑しそうににたにたと気味が悪い笑みを浮かべ、リズに向けていた剣を今度はリーダーと仲間の方に向かって突きつけ、
「来たな。リーダー。あんたは生きてると思っていた。どちらがリーダーに相応しいか決着をつけようじゃないか」
 言い放ち、姿勢を低くして構えたると──彼は一気に間合いを詰め、斬りかかっていった。
 三人の男──本物の山賊長であるリーダー、そして生き残った仲間、ゴブとオドに向かって。

 話を一旦切り、リズは喉を潤すために焚き火で暖めておいたハチミツ酒の瓶を開け、口に流し込む。
 俺は今彼女の口から出てきた話を頭の中で反芻させていた。仲間と共に向かったドゥーマー遺跡で瓜二つの姿をしたリーダー。しかしその後の展開が分からないため考えは結局そこで停止してしまう。
 彼女にとってはつらい出来事だったのだろう、時折話しながら胸を掴むような仕草を見せていた。思い出しては出てくる痛みに耐えるかのように。
「……で、それからどうなったんだ?」
 しばし時間を空けてから、彼女に質問する。
 ハチミツ酒で喉を潤していたリズだったが、俺の質問に答えようと飲むのを止め、一回、息をすぅっと吸って──意を決したような表情を浮かべ口を開いた。これから話す事が重要性を含んでいるのは明らかだった。
「……本物のリーダーと残った仲間、ゴブとオド、そして私──が偽のリーダーに切りつけられ、傷ついていきました。偽のリーダーは強く、私達には歯が立たなかった。そりゃそうですよね、その偽のリーダーは我々の仲間で一番強いとされていた、オークの戦士だったのですから」
「つまり……偽のリーダーはあんたが最初に勘違いした男で間違いなかったと?」
 こくりと頷く。逡巡しながらも彼女は再び口を開いた。
「そうです。それに気づいたのは本物のリーダーでした。……格好とか戦い方とか、装備した武器とかも手伝っての事でしょうけど。けど私達の目の前に居る人物の顔は間違いなくリーダーの顔そのもの。そこで私達は一斉に飛びかかり、彼の顔に何かがついているのかもと推測し掴みかかったんです」
 勿論彼は抵抗した。しかし私達は怯まず、オドとゴブは彼の体を、リズとリーダーで偽者の顔を掴んだ、その時。
「顔が輝いたと思うと、目が眩む金色の光が放たれて……その直後すさまじい衝撃に吹っ飛ばされ、次の瞬間には壁に叩きつけられてました。打ち所がよかったのか、私は意識を失う事なく起き上がったのですが、リーダーと仲間二人はばらばらに倒れていたのを覚えてます。……そして、偽のリーダーは……」
 彼女が見たものは目を疑うような光景だった。
 突っ立っている男の顔部分が先程瞬時に放たれた金色の光と同様に輝いていた。……いや、何かが違う。よく見るとリーダーの顔ではなく、仲間の一人であるオーク戦士自身の顔があった。元に戻ったのだろうか? それなのに何故顔が輝いているのだろう?
 つやつやとした光沢が薄暗い広間に僅かに照らす明かりに反射され不気味な位に輝いていたが、表情は苦しそうに目をかっと見開き、手は虚空を彷徨っていた。何かを求めているかのように。
 彼の名前を呼ぶリズ。しかし彼は反応しない。口をあけてはいるものの何かを喋ろうとはしなかった。
 ……いや、出来なかった。
「彼は苦しそうに手をもがき続けていましたが……それも僅かのことでした。やがて彼の顔が口を開いたまま、瞼を閉じることすらしなくなった時、もがいていた手もぴたりと動きを止めたんです。──死んでました。
 恐る恐る近づいてみてみたら──彼の顔はあたかもドゥーマーの金属と同じ材質で出来た彫刻のように固くなっていたんです。苦悶の表情を浮かべたまま──」
 その光景を思い出したのだろう、ぶるっと彼女は身を震わせ、両手を交差して自分の体を抱え込むようにして抱きしめる格好を取る。自らを守るように。
「……大丈夫か?」
 気遣う声をかけると、彼女は大丈夫です、と気丈に振舞い、話を続けた。
「……でもその衝撃のおかげで、扉が開いていたのは幸いでした。意識があるのは私だけだったので、大の男三人を引きずるような形で昇降機まで連れていき、脱出したんです。地上に出れた時はほっとしました。……リーダーの手に金色に輝く仮面が握られているのを見るまでは」
 それがオークの戦士を別の顔に変貌させることのできた物だと、仮面という形も相俟って彼女にもすぐ察しがついた。奪って捨てようとしたもののがっちり掴まれて抜き取る事すら出来ない。いくら山賊として多少訓練を積んだところで、大柄の男がしっかり握っているものを簡単に奪い取ろうなぞ簡単に出来る事じゃなかった。
 だから彼女は口を閉ざすしかなかったのだ。──幸い、リーダーと仲間はあの広間で起きた一連の出来事を吹っ飛ばされた衝撃の影響を受けたのか、記憶を失っていた。仮面について言及する者は誰一人なく、遺跡で唯一つ拾ってこれた価値のある物程度の扱いしかしていなかったのだが……
「つまりその仮面が、俺の顔を写し取った狐の正体って訳か。……とすると、仮面をつけて俺の顔を真似た奴はあんたら山賊のリーダーだな?」
 その先の展開は読めた。彼女は黙ってこくり、と頷く。
「そうです。止めて欲しいと言った彼こそ貴方が仰るとおり、リーダーです。彼が今貴方の顔を写し取り、貴方に代わって悪事を働いています。仲間二人、オドとゴブも……」
 よりによって山賊が俺の正体とはね……呆れると同時に道理で、と納得する部分もある。ホワイトランで見かけた姿、俺は仲間数人を引き連れて、と衛兵は言っていた。
 それに金品を奪ったり女性を襲ったり……定職を持たず、女に縁がない山賊ならやりかねない事だ。
 ひとえに山賊といっても女性が居る場合だってある。リズだって自ら山賊の仲間の一人だと言い切った。山賊と名乗る以上、彼女は仲間の慰み者という立場ではない筈。だから仲間という立場を保ち、他の仲間も彼女を襲ったりはしない。
 俺が思案しているのだと勘違いしたのだろうか、リズは窺うような視線を向け、
「……貴方の知りたいこと全部話しました。私の願いを聞いてくれますよね」
 対価を支払ったのだからお前も支払えと言わんばかりの言い方だった。分かったと言う前に俺は右手の指を二本立て、
「その前に。二つほど確認しておきたい事がある」
 すんなり引き受けなかった事に苛立ったのか、リズは一瞬むっとした表情を浮かべたものの──渋々といった様子で小刻みに頭を数回振った。
「じゃあまず一つ目。何故俺の顔を写し取った? リーダーとやらは俺と面識があるのか」
 突き立てていた中指を折る。
 余程言いづらい事なのか、なんと言えばいいのかと頭の中で言葉を探すリズ。彼女の慌てようが手に取るように分かった。しょうがない、助け舟を出してやるか。
「……何も言い訳を探さなくてもいい。俺が知りたいのは何故俺なのか、それだけだ」
 機嫌を損ねやしないかと不安なのだろう。しかし俺の助け舟に押されて彼女は申し訳なさそうに薄笑いを浮かべながら口を開いた。
「……貴方が山賊をたった一人なのにも関わらず片っ端から潰しているって聞いて、それで一泡吹かせてやろう、と話になって……、貴方の人となりを情報屋から買って、モンタージュを描いてもらって……」
 聞いて苛々するような事を敢えて聞かなければならないとか酷い話だ。──でも確かに俺は山賊を片っ端から潰してる。それは勿論、山賊なぞ百害あって一利なしの存在だから。……彼らから金品巻き上げるのも嫌いじゃないしな。というのが本音。今は言わない方がよさそうだ。
「それに貴方が伝説のドラゴンボーンで、その血で常識外れの力と体力を兼ね備えているというのも聞いてます。だからこそリーダーと仲間うちで貴方を極悪人に仕立て上げようとしたんです。良い噂よりも悪い噂はあっという間に広がりますしね」
「そりゃどうも。と言った方がいいか?」
 引き攣らせた笑みを浮かべながら言い返す。心の中ではいずれこの一件が落ち着いたらリーダーに目に物見せてやると決めながら。
 邪な考えが顔に出たのか、はたまた俺の顔が不気味に思えたのか、リズは怯えた顔でぶんぶんと頭を横に振ってごめんなさいと懇願し始めた。……やれやれ。俺もまだまだ人間出来ちゃいねぇな。
「わかったわかった。……じゃあ、二つ目の質問」
 最初の質問はするべきじゃなかったな……と心の中でごちる。聞く事はこちらの方が本命だったから。 
「あんた達が向かったドゥーマーの遺跡が何処にあるか教えてくれ」
 

 彼女の話を聞いてるうちに、疑問は確信へと変わった。
 リズが言う、彼が今現在身につけている仮面を奪うだけなら造作もないだろう。しかし話してくれた事はそれだけでは済まされないものを孕んでいる。身につけた仲間から仮面を剥がす際に起きた衝撃、そして剥がされた仲間の不気味な死に方。
 その仮面が何処にあり、どうやって手に入れたのか、その手がかりを見つけなければ──
 面倒な事になったが、自分の身の潔白を証明させるためにも仮面について知らなければならないのは確実のようだ。
 陽が完全に沈み、辺りが闇と同時に静寂を纏いながら訪れる様は、これから起こる危険を暗に知らせようとしているかのようだった。
 

 今回も長い・・・
 長々とお読みいただきありがとうございましたm(__)m
 まだまだ続いてすいません;;

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06.24.15:18

さて、どうしたものか……?

※スカイリム二次創作小説チャプター04です。
その手のものが苦手な方はブラウザバックでお戻りください。
・これは第四章です。最初から読みたい方は「オープニング・ムーブ(第一手)」からお読みくださいませ。


「おい、聴いたか? あいつがホワイトランに戻ってきたって話だぜ!!」
 薄暗いごつごつとした岩肌がむき出しになっている洞窟に入ってくるや、バリトンの効いた低音の声が洞窟中にこだました。
 男の手には粗末なずた袋が握られており、中には何処から拾ってきたのか分からないようないわゆる「がらくた」が入っていた。山賊は盗賊と違って目立たず行動するという行為はしない。そのため昼夜問わず人を傷つけては金品を漁ったり、街道で落ちているものを探したりなど乞食まがいの行動など何でもお構いなしだ。
 そんながらくた拾いから帰ってくるしな男が叫んだものだから、何事かと武器を構えて仲間の一人が出てきた。擦り切れた鎧を纏った男だ。
「……なんだ、ゴブか。驚かすなよ。いきなり叫んだもんだからベッドから転げ落ちちまったじゃねぇか、うとうとしてきた頃に敵襲かと思ったぜ」
 どうやら夜の見張りを終えて眠りについたばかりだったらしい。ゴブと呼ばれた低音の声を洞窟中に響かせた男はすまんと頭を軽く下げる。が、すぐに思い出したように、
「そうじゃなくって……寝てる場合かよ、オド! そうだよ! あいつがホワイトランに戻ってきたんだって! どうやら衛兵は捕まえ損ねたって話らしいぜ」
 まくしたてるゴブの言葉に気圧されつつも、あいつ、ホワイトラン、という単語にぴんときたのか、眠そうに目を擦っていた男──オドという名前のようだ──は思い出したのか、はっと目がさめた様子で、
「あいつって……“ドラゴンボーン”か? 俺らが情報屋に容姿だのなんだの教えてもらった、あの……」
「“ジュリアン”か?」
 洞窟内にしつらえた、瑣末な扉を開けて奥から男が出てきた。ゴブとオドからは兄貴と呼ばれてる山賊長だ。ゴブの声を聞いて彼もまた眠りから覚めた様子だったが、寝込みを襲われても即死しないよう板金鎧を着込んだまま寝ていたのだろう、体を時折ほぐすように動かしている。
「そう、そうですぜ兄貴。あいつがホワイトランに戻ってきたそうで。衛兵は探し回ってるみたいで。どうやら捕らえ損ねたみたいでさ」
 なんだ捕らえ損ねたのか、とオドは肩をすくめた。「さすがホワイトラン。警備状態は最悪だという噂は本当のようでさァ、兄貴」
 兄貴は軽く首肯すると、口元を歪ませにやりと不気味な笑みを浮かべた。
「まだ始まったばかりだ。捕まってもらっては困る。……ドラゴンボーンを、ジュリアンを、スカイリム中の指名手配者に仕立て上げるのが目的だからな。奴は逃げ場を失い、いずれ捕らえられるだろう。そして英雄という姿とは似ても似つかない極悪人として歴史に刻み込んでやる」
 そう言うと、山賊長は腰につけた荷袋から金色に輝くものを取り出した。一見兜のようにも見えたが頭を覆うように出来ておらず、仮面のように顔を覆うだけの防具のようだ。金色に輝く金属で作られているあたり、詳しいものならすぐにそれがドワーフが残した防具の一つだと気づくだろう。
 しかしそれはドワーフ製のものにしては異質だった。仮面をとりまくようにぼんやりと薄い光が青黒く光沢を放っているのもおかしいし、仮面という形もまた妙だ。ドワーフ製の兜とおなじように彫刻等が施されてあるが、仮面、というあたり防具のために使うものではなさそうだ。
「しかし兄貴、それをドワーフの遺跡で見つけたおかげで計画大成功でさァ。拾ってきた時はどうやって使うか分からなかったですけどねぇ」
 ゴブがご機嫌取りのような猫なで声でそう言ってきた。山賊長は頷きながらその当時の事を思い返す。
 ──あの時は山賊長を含め、仲間数人が生きるか死ぬかの瀬戸際だった。
 お宝が眠っているだろう、という仲間達の声に逆らえず、数年前……当時も山賊をまとめていた兄貴と呼ばれる山賊長、ゴブとオド、そしてもう一人──あと数人居た仲間は死んでしまった──で、当時ねぐらとしていたドワーフの遺跡に潜ってみよう、という話になってしまったのだ。
 数人でドワーフの遺跡に入り、最初は色々ドワーフの金属物やらがらくたやらを集めているだけで楽しかったのだ、だが進んでいくうちに、突如よくわからないモノ──後から知ったのだが、それらはオートマトンと呼ばれている、ドワーフの遺跡を今も守るガーディアン──が現れた後は最悪になった。
 次々と現れるオートマトン。彼らはドワーフの遺跡を守るように仕組まれ、だから我々に攻撃を仕掛けてきたのだ。その攻撃は強く、そして防御は金属で作られたもの故に固く、魔法ですら通しにくい。
 厄介な敵──相手からすれば我々のほうが遺跡荒らしにきた敵だろうが──に仲間は次々倒され、そして倒せないと見るや否や、散り散りになって逃げ出した。
 山賊長もまた、オートマトンの攻撃から逃れつつ必死で走り逃げ続けた。最早何処から来てどのように戻ればいいのかすら分からない。進むも地獄、戻るも地獄とはまさにこの事だった。
 来た道なのか遺跡の奥に進んでいるのか、それすらもわからない。しかし彼は必死に走った……生きるために。
 ……その時の事を思い出す度、山賊長である男は胸を痛め続けてきた。無駄死にさせた仲間の事、自分がしっかり統率していればと何度も悔やみ続けてきた。共に脱出した今の仲間──彼らだけは死なせやしまい。そう心に誓った。
 しかし、いつ、どこでこの仮面を手に入れたのか……それだけ覚えていなかった。ただ瀕死の状態で遺跡から脱出した際、手にしていたものはこれだけだった。
 ゴブやオドもそれを手にしていた時は覚えているのだが、その前の記憶がはっきりしない。もう一人の仲間は何かを知っている様子ではあるのだが──頑なに口を閉ざしたままであり、今現在も口を割ってくれそうにもなかった。
 別段知ったところで仲間が遺跡のガーディアンに倒された事は代わりはない。自分が唯一つ持っていたこの仮面を持ち続ける事が、亡くなった彼らを忘れない証だ──と、最初の頃はそう思っていた。とある日、ふざけて仮面を被ってみるまでは……。
「しかし兄貴、あの時本当本人と見紛う方なき姿でしたなぁ。おかげで俺達も自由に物盗りできるわ女を犯せるわで最高でしたぜ。で、次はいつやるんで?」
 オドがにやにやといやらしい笑みを顔に浮かべながら言った。女を久しぶりに抱いた──あれは抱いたというより犯したと言ったほうが正確だが──のが余程嬉しかったのか、はたまた抵抗する女を犯す事に快感を覚えたのか。ゴブもつられた様子でうんうんと傍らで頷いてみせる。
「そうそう。兄貴がジュリアンに化けてくれたおかげで、昼日中ホワイトランで物盗りが出来るなんて最高でさァ。誰も奴を疑っちゃいねぇのに俺らが襲撃した時の、あの市民の顔ったら! ありゃ最高だったでさァ」
 化ける──それこそがこの仮面の真なる姿。頭の中で思い起こす人物の顔に成りすます事ができる不思議な仮面。
 希少価値の高い物、総じて武器や防具、装飾品等をアーティファクトと呼ぶ。それらは得てして未知なる力を帯びており、持つものに力を与える。
 そしてこの仮面もその一つだった。一見ただのドワーフ製の兜と同じ形の仮面だが、顔につけ、頭の中で人物の容貌を強く思うだけ──その人物を目の前にして見ているだけでも──でその人物の顔そっくりそのまま自分に写し取る事が出来るのだ。
 ふざけて仮面をつけたりしなかったら、一生気づかなかったに違いない。
「──一週間後、再びホワイトランに襲撃に行く。ただし今度は衛兵も敏感になっている筈だ。最初は仮面をつけずに城壁から進入し、城下町に入ってからジュリアンになりすます。そして一暴れしてやろう。彼は二度とホワイトランに戻ることはできまい。そして他の地域も同じようにしてやる。一週間は大人しくしているんだ。いいな」
 山賊長がそう言うと、ゴブとオドは分かったようにへいと言って軽く会釈をした。が、その後すぐゴブが何かを思い出したように付け加えた。
「そうだ……リズにも言っておいたほうがいいでさァね。あいつ、この計画にはなんだか乗り気じゃなかったですけど」
 ゴブの言葉にその通りだといわんばかりにオドが頷いてみせる。
「そうだなぁ。あいつなんか仮面を使ってって事を話した時、顔を曇らせてたなぁ……この成りすまし襲撃にも今一つって感じだったしな」
 話し合うゴブとオドを残し、山賊長は踵を返して自室の方へと歩いていく。
「ゴブ。見張りをしておくんだぞ。いいな」
 そういい残して、彼は奥の部屋へと消えた。先程ゴブの叫びで眠りを妨げられたから再び寝るのだろう。彼が扉の奥に消えるのを見送ってから、
「じゃ、俺ももっかい寝るわ。ゴブお前、リズにさっきの事話しとけよ。……おやすみ」
 オドはベッドに再び潜り込み、数分後には寝息を立てていた。
 一人残されたゴブはとりあえずリズに話しておこうと洞窟中を探し回ったが、姿が見つからない。
「あいつ、何処行ったんだ……? まあいい、外に出てるなら見張りをしておけば戻ってきた時話せるだろう」
 ぶつぶつ言いながらゴブは洞窟の入り口に向かって歩いていく。
 彼が注意深く見ていればこの時気づいていたかもしれない。リズの武器と防具が無くなっていた事に……。

 夜風が体に沁みる。
 スカイリムの夜は寒い。元々寒いツンドラ地帯の場所なのだから寒くない訳が無い。まして夜は温かみを与えてくれる日の光がないから気温が上がるはずもなく、凍った風が体を突き抜けるたびに身を震わせた。
 馬を走らせ、ホワイトランの領土を抜け、イーストマーチ領──ウインドヘルムある領内だ──に入ると途端に夜風の冷たさが増した。ホワイトランよりやや北東に位置する場所な為、気温も気候も同じ地方なのに段違いだ。俺は外套を引っ掴み、体に巻いた。
 とりあえずどこかで野宿するしかない。幸いそういう時の為にテント等の野宿用装備は一式持っていた。疾走させていた馬を並足程度までに速度を落とし、寝床にする場所を定める。
 そういや、イーストマーチには温泉地帯があったな……あそこらへんでテントを作ろう。あの場所なら雪もそんなに積もってなかったし、何より温泉地帯で吹き出る硫黄が地面を暖めてくれる。床があたたかいならベッドロールを敷いても冷たくて眠れない、なんてことは無いだろう。
 鐙で馬の腹を蹴って再び走らせる。ダークウォーター川を越えて東へ進むと風に乗って硫黄の匂いぷん、と鼻をついだ。
 街道を外れ、ごつごつとした岩肌むき出しの大地を走らせていけばすぐ温泉が沸く一帯が目に飛び込んでくる。あちこちで噴出す源泉のせいで辺り一面硫黄のにおいで充満しているといった有様だ。寒いスカイリムの地方で源泉が湧き出る温泉地帯は俺が知る限りここだけしかないから、時折旅人が疲れを癒して温泉に浸かる姿を見るのは珍しくない光景だった。
 さすがに硫黄の中で眠るわけにもいかず、少し外れた場所に馬を止めてテントを張った。簡易テントだが雨風避けるにはありがたいものだ。小さいウッドチェアもついており、手近の木から枝などを拾えば焚き火もできるし焚き火でちょっとした調理も出来るように調理器具もそろえてある。野宿用としていつも所持しているものの、まさか今日使う事になるとは思ってもみなかったのだが……。
 焚き木となる枝や木材を拾い、炎の魔法で炙っただけですぐに火は燃え広がった。暖かさが心地よい。
 ほっと一息つく。思えばホワイトランを追われてからずっと緊張しっぱなしだった。別の領地内に入ったから追われる必要こそなくなったものの、これからどうすればいいんだと考えれば頭を抱えてしまう。
「……なんで俺が」
 常に頭にまとわりついていた疑問。
 ホワイトランの市民や衛兵の、俺を見る目が異質や汚らしいものを見るそれだった。俺の手を突いて切った衛兵。俺に向かってまた襲うんでしょ、と言ってきたイソルダ。
 手の傷よりも、詰られた言葉よりも、分からない事が多すぎてそれが逆に俺の心を余計混乱に陥れていた。
 ホワイトラン──囚人としての立場から自由の身になり、最初に世話になった都市。従士となってからは市民の手助けをしたりも、俺なりに尽力を尽くしてきた──つもりだった。
 それがまさか、自分が居ない間に濡れ衣を被せられるわ、衛兵は俺に間違いないと断言するわ……一体誰なんだ? 俺の顔を被った狐は? 
 衛兵だけでなく市民ですら俺に間違いないと思い込んでやがる。仮に百歩その考えを譲ってもだ、──どうやって俺に似せた顔を作る事が出来る? 姿格好は鎧を着込めばある程度誤魔化せても、顔を真似る事なんて不可能だ。
 ……いやまてよ、デイドラだったら? デイドラは本人の姿に化ける事も……けどデイドラが俺の姿を真似て何になる? 第一デイドラが数人──盗賊のような格好だったと言ってたな──引き連れてやってきたとして、人から金品純潔(?)奪ったとして何になる?
 確かにそういう人を貶めるデイドラも居るっちゃ居るが、俺が居ない間にそんな事をする、という点でおかしい。大概デイドラは害を加えたい本人に直接か、もしくは本人の目の前で行動を起こすのが基本であって、本人の居ないところで害を加えるというのは聞いた事がない。前例を聞いてないだけかもしれないが。
 辻褄が合わない。そう、合わないのだ。俺に似た人間が居る確率は若干高くても、それが俺の名前を騙り、ホワイトランを襲撃する確率は格段に低くなる──もしかして俺がドラゴンボーンだから? 
「あ~~~~、分からねぇ」
 思考を切って俺はベッドロールに横たわった。食欲すら沸かない。食べておかなければ体温を維持できず凍傷ないし最悪には凍死する可能性だってなくはなかった。けど心から拭えない不安がそれを押しとどめる。
 これからどうする……? ホワイトランを追われた以上、領地内を歩くのは捕まえてくださいと言ってるようなもんだ。
 二度とホワイトランに戻れない。捕らえられて無実の罪を服役という形で──しかしもしホワイトラン以外でも同じように俺の姿を騙った奴が襲撃したとしたら──
 背筋を冷たいものが走る。それこそヘルゲンで首を切られるのと同様の罪を被せられかねない。あの時も無実だった。そして今も……。
 それだけは阻止しなくては。黙って指くわえて見てる訳にはいかない。俺の信用を一瞬で陥れた奴を探し出さなくては。なんとしても。
 そう思い至った所で心が落ち着いたのか、ふっと力が抜けるように俺は眠りに落ちていった。
 その眠りは決して心地いいものではなかったが。

「……と、…じょうぶ……?」
「寝……みたいだ。………しないと……」
 ……声?
 微かに声が聞こえる。そして体が微かに揺れた。誰かが俺の肩を掴んで揺さぶっている。
「ん……誰、だ?」
 薄目を開けると、男がテントの中で寝ている俺の肩を掴み起こそうとしていた。テントの外に女の姿も見える。
「起きたか? あんた大丈夫か? 随分体が冷えていたから死んでるのかと思ったぞ」
 え?
 思わずがばっと体を起こす。途端に腕がじん、と麻痺したように痺れ、力が入らず再びベッドに倒れこんでしまった。
「おいおい、大丈夫かよ。俺達が見つけなかったらあんた死んでたぞ、焚き火もとっくに消えてたし」
 見たところ狩人のようだった。弓と矢を背中に背負い、軽装で毛皮を身につけている所からしてそう推測した。
「ああ……ありがとう。おかげで助かった」
 腕を引っ張ってもらい、なんとか上体を起こす。よろよろとテントから這い出ると、外に居た女のほうが木製の器をすっと差し出した。
「体が冷えてるなら内側から暖めないと。あったまったら温泉に浸かったほうがいいわね。いきなり温泉に入ると心臓がびっくりするわよ」
 はい、とやはり木製のスプーンを寄越してくれる。わざわざ作ってくれたのだろう。器の中身はどうやらシチューのようだった。鹿肉と羊肉を煮込んだもので、いい匂いが鼻腔をくすぐる。
 口に入れると熱さに舌がびっくりしたが、飲み込んでみると体にやっと栄養がしみこんでいくようでほっとする。思っていた以上に腹が減っていたようだった。
「おいしいかい?」
 気さくに女が話しかけてくる。思った通りの事を伝えてやると嬉しそうににかっと笑ってくれた。
「しかしあんた、見かけない顔だな。冒険者かい? 温泉地帯とはいえこんなとこで野宿とは頂けないな」
 傍らで女性からシチューを受け取りつつ、男の方が話しかけてきた。さてどう答えたものか。どうやら俺の素性は知らないようだ。
「……ああ、見ての通り冒険者だ。旅の途中だったんだが馬がくたびれちまってな。ここで休むしかなかったんだよ」
 荷物が少ないため、商人だとは誤魔化せない。彼らの言うとおり冒険者として言っておいた方が賢明と判断しそう答えた。
「そうかい、ここらも夜になれば冷え込むからな。テントだけじゃ夜風はしのげても凍える寒さから身を守る事はできないし。あんた命拾いしたな。あと1時間もすれば凍死してたぜ」
 特に詮索はしてこないのが有難い。
「全くだ。お二人には感謝だよ。命の恩人だ」
 大げさに言ってみると、二人はおかしそうに笑った。つられて俺も笑ってしまう。その時だけは嫌な事を忘れさせてくれた。
 シチューを数杯戴いたところでようやく体が落ち着いた。しばし談笑をしてから、彼らは荷物をたたんで狩りにいく準備をし、
「しばらく温泉に浸かってったほうがいい。俺達はここら一帯で狩りをしている。縁が合ったらまた会おう」
「ああ、達者でな」
 お互い挨拶を交わし、彼らは獲物を求めて何処かへ走っていった。去っていくのを見送った後、俺も荷物をまとめて馬の背中につける。太陽は正午を表すようにてっぺんまで上っていた。
 彼らの言うとおり温泉に浸かってから行くか。行動する時間はいくらでもある。今は体を休めたほうがいいと判断してのことだった。
 ブーツを脱ぎ、上から順に軽装鎧を地面に落とす。チュニックも脱ぐとさすがに日中でも気温が上がらないため鳥肌が立つ。慌てて温泉に入ると、じんとした熱さが体を突き抜けた。
 肩まで浸かるとそのじりじりとした熱さと硫黄のむせ返る匂いにうっとくるものの、体の冷えていた節々が弛緩されていくようで心地よかった。思わずああ、と声が漏れる。
 このままうとうと眠ってもいい……なんて思った矢先だった。
 誰かがこちらに向かって走ってくる。盗賊の星の守護を得ているため、姿を捉えなくても遠くから足音は耳に入ってくるのだ。
 足音はまっすぐこちらへ向かっているようだった。先程の狩人達ではない。足音は一人分だし、靴が立てる足音が微妙に違う。俺は温泉に座って浸かっている為、俺からも向こうからも互いの姿は見えない。こちらに向かって走ってくるのは馬がすぐ傍に立っているせいだろうか?
 俺は片手剣を引き抜き、そっと馬の影に隠れた。
 外にいる以上何が降ってくるか分かったもんじゃない。ドラゴンが襲ってくる事だってある。丸腰にならないよう、武器だけは帯びたままだった。
 馬の裏に隠れていれば、一瞬相手は俺が何処にいるか気づくのが遅れる。その隙に相手よりも有利な立場になるようにするしかない。
 ──こちらに向かって走ってきた足音は歩く音に変わった。しゅうしゅうと硫黄が吹き上げる音に掻き消されそうだったが、足音はもうすぐ傍までやってきていた。
 馬を狙っていた訳じゃないのか、足音が馬の横を通り、走ってきた者の影が見えた時──俺は瞬時に剣を相手の喉元に突きつけた。
「俺の命を戴こうって奴か? だとしたら甘かったな。両手を上げて武器を捨てろ。そうすれば命を奪う事は──」
 威圧するようにどす声で叫んだつもりだったが──相手を見て意外なことに思わず声が途切れてしまった。
 見た事のある者ではなかった。しかし意外だと思った理由は──女性だったからだ。
 相手は俺にいきなり剣を突きつけられたせいで思わず両手を上げていたが、俺の格好が裸同然だったせいか、視線をあちらこちらに動かしてはどこを見たらいいのか困っていた様子だった。その姿を見て妙だな、と思う。
 姿格好は一般女性が着るような衣服を着ているのではなく、鋲のついた軽装鎧を着込んでいたし、腰には短剣を装備している。顔はまあ、美人と言ってもいい程度の顔つきだった。金髪に青い瞳。ノルドのようだ──いやいや、姿格好の事が妙なのではないのだ。問題なのは一人で女性が何故俺の居る場所に向かって走ってきたのか、だ。
「あんた、誰だ? 何故ここに来た?」
 剣を突きつけたまま、再びどす声で威圧するように言ってみる。女は変わらず視線を彷徨わせていたが、俺の顔を見て何かを得たと思ったのか、やや怯えた感を残しながらも、
「……ジュリアン、さんですよね?」
 体が強張る。こいつは俺の事を知っている。……何者だ?
 ここでいいやと言っても何も変わらない。彼女が何をしに来たのか──探らなければならないからだ。
「そうだ」
 認めると、彼女は何かを納得するように数回頷いて見せた。
「やっぱり。私、貴方を追ってきたんです。貴方がイーストマーチ方面に逃げたと衛兵から聞いて。あちこち探し回って」
 ほう。
「……てことはわざわざ俺を衛兵に差し出そうって事か? そうする前にお前の首が胴体から切り離されて泣き別れする羽目になるぜ?」
 再び威圧するように吐き捨てると、彼女はそうじゃないというように首を縦にぶんぶんと振った。
「違います! 貴方に──私の仲間を助けて欲しいんです。このままじゃ彼は──」
「何のことを言ってるのかさっぱりわからねぇな。悪いが今の俺は誰かを助ける余裕はないんだ。他を当たってくれ」
 剣を向けたままでも怖気づかず、必死に話しかける姿勢は立派だったが──彼女の言っている意味はわからないし、今は自分で手一杯だ。どうやったら俺の瓜二つの奴を見つける事が出来るか──
「分かってます。貴方と同じ顔をした者が現れて、貴方は今濡れ衣を着せられてる。そうですよね? その同じ顔の正体を知っているとしたら、どうですか?」
 彼女が言った事はまさしく今俺が考えていた事と同じだった──そして彼女は“正体を知っている”? 瓜二つの顔を持つ奴の正体を?
 俺のはっとした顔を見て、こちらの興味を引いたと彼女は分かったのだろう、にっこり笑ってこういった。
「私、リズと言います。ジュリアン──いえ、英雄ドラゴンボーン。貴方に彼を止めてもらいたくてやってきました。話を聞いてくれますよね?」

※作中に出てくるキャンピングキットはPCスカイリムのMODの一つ「Camping Lite」http://skyrim.nexusmods.com/mods/11526
から取ってます。

ということでまだまだつづきますねー
だいぶなぞは解明できたものの・・・・

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06.10.12:22

What the fuck?!

※スカイリム二次創作小説チャプター03です。
その手のものが苦手な方はブラウザバックでお戻りください。
・これは第三章です。最初から読みたい方は前作「オープニング・ムーブ(第一手)」からお読みくださいませ。


「大人しく投降するなら攻撃はしない。しかし刃向うようなら容赦しないぞ。たとえホワイトランの従士だとしても今回の行為は目に余る。命が惜しいなら両手を上げろ」
 俺の目前に突っ立っている衛兵がこちらに刃を向けたまま言った。分厚い鋼鉄で出来た兜をかぶった衛兵は一様にして同じ姿をしているため、兜の中では衛兵がどのような表情をしているかまでは汲み取ることが出来ない。恐怖で強張った顔をしているのか、はたまた人を小馬鹿にしたような嘲笑を浮かべているのか。
「……ちょっと待てって言ってるだろう? 俺は今までウインターホールドで大学関連の仕事を引き受けてやってたんだ、その間ホワイトランには戻ってないし、何なら大学に問い合わせたっていい。俺が居たと証明してくれるだろう」
 やっと言い返せた。
 周りの視線に気圧されてるばかりでは本当に俺が罪人に仕立て上げられちまう。冤罪はお断りだ。
 しかし俺の言い分なんて聞く耳持たず、といった様子で衛兵はこう言った。
「はん、大学の奴らなんて信用おけるものか。お前がたとえ大学にいたとしても、大学の連中から話を聞く奴なぞ居る訳ないだろうが」
 しまった、と思わず舌打ちをする。
 何故ならノルドは魔法が嫌いだから──魔法そのものを毛嫌いしてる傾向がノルドには強いのだ。だからノルド出で大学に在籍している者は数少なく、居たとしても大体は家族から反対されても大学にやってきた、という者達ばかりだ。
 第4紀の122年に起きた大崩壊でウインターホールドの町の殆どが壊滅した。突如ウインターホールド一体の大地が崩れ落ち、海の底に沈んでしまったのだ。
 町は殆どが無くなったのにも関わらず、大学はほぼ無傷だった……それはたまたま偶然だったのかもしれない。しかしそれがウインターホールド市民や、スカイリムのノルドには気に食わなかった。
 大崩壊は大学の連中が引き起こしたと根拠も無くに決めつけ、ノルドの魔法嫌いが一層加速した──だから大学とウインターホールドには未だに軋轢があり、お互いが干渉し合うことは無い。
 そしてそんな事実はスカイリムに住むノルドにとっても同様であった。ウインターホールドに住んでないハーフィンガル、リーチ、ハイヤルマーチ、イーストマーチ、リフト、ファルクリース、そしてホワイトラン地方に住むノルドに大学の話をすれば皆一様に顔をしかめ、大学の連中は信用なら無い、と同じ返事をするに決まっている。
 しかし当の大学はそのような態度にも眉を顰めたりせず、寛大といえば寛大な態度を取っているのだが──それだけ互いを認めようとしない溝が深いのだろう。
 だから衛兵が言ったことは至極当然の態度であって、そしてそれが俺を更に不利な立場にする要因の一つになってしまっていた。
 思わず言い返す言葉を失う。どう言おうと聞く耳を持ってもらえそうにない。
 ならば──
「……“数人の男を引き連れて”、とさっき言ったよな?」
 反論をしてこない俺の言い方に納得したのかと勘違いしたのか、俺の目前に突っ立っている衛兵はふん、と鼻を鳴らした。彼しか喋らない辺り、衛兵長なのだろうか。
「ああそうさ。後々その連中の素性と居場所も吐いてもらうからな」
「その男達は何人だった? 身なりはどういう格好だった?」
 間髪入れずに問いかける。衛兵は一瞬面食らったようだったがすぐに気を取り直し、
「……お前入れて三人だった、だから連れていた男は二人だ。……格好だと? あまりいい格好じゃあなかったな。擦り切れた鎧や傷がついた衣服などを身に着けてた。あれじゃ山賊や盗賊と間違えられてもおかしくない姿だった」
 山賊……確かに。山賊は皆擦り切れたり刀傷のついた鎧などを身につけている。その理由は勿論、殺した相手から奪ったものだからだ。
 ならば山賊が俺に扮して襲ってきたのだろうか? しかしどうやって? 俺の顔に似た奴でも居るのだろうか? 
 仮にその考えを100歩譲ったとしよう、俺に似た奴がこの世界に居たとして──そいつが山賊だという確率は? そうとう低くなると言わざるを得ない。
 しかし衛兵のこの態度。見間違い程度だったらこうまで言及し捕らえようとする筈はない。……だとしたら……
「もう一つ聞いていいか?」
 諦めたのかとますます勘違いしたのか、衛兵は促すように首肯した。
「本当に俺だったのか? その二人以外に居た奴ってのは?」
 俺の質問に何を今更、といったように呆れた態度をとった衛兵だったが、そうだと言わんばかりに何度も首を縦に振って見せた。
「間違いない。市民も目撃している。お前に間違いない」
「髪型も髪の色も瞳の色も顔つきも肌の色も身長も体躯も声も、全て俺だったというのか?」
 根掘り葉掘り聞いてくる俺の態度にかちんときたのか、次の瞬間握っている剣を鼻先に突きつけ、
「いい加減にしろ。お前に相違ないと言ってるだろう。市民の殆どがお前の姿を見ているのだ、我々と市民が証人になってやる。分かったら両手を上げろ!」
 激昂した様子でまくしたててくる衛兵だったが、俺を脅すには若干覇気が足りない。しかし俺を囲む衛兵も同じように両手を上げろと言い放ってきた。
 両手を上げて投降した様子を出せば一斉に飛び掛って押さえつけられてしまうだろう。そうなったら一気に冷たい牢獄にぶち込まれちまう。
 自分で犯した罪でもないのに牢獄で獄中生活なんて御免だ。だとしたら今俺が取るべき行動は──一つしかない。
「……分かった。手を上げるから剣を少し引いてくれ」
 顔辺りまで両手を上げるポーズを取る。その態度に囲んでいた衛兵は少しだけ剣を引いた。──今だ!
 両手を上げつつ俺は片手に力を込め、心の中で“力ある言葉”を唱えた。詠唱に反応して手がぼんやり光り出す。
 力を解き放つまで俺は片手を握り締め、衛兵に悟られないようにし──
「このくらいでいいか?」
 両腕をいっぱい伸ばしたところで、握り締めていた手を開き……呪文を解き放った。
 手から発せられた光が地面に落ちた直後──かっとまばゆい閃光が辺り一面を白く塗りつぶす。不意打ち同然だった衛兵はその光に抵抗する術も無く視界を奪われ、痛みに呻く声が周囲から響いた。
 相当光るように呪文を唱えておいたせいで、衛兵の後ろでこちらを見ていた市民にもその影響は出ていた。その場に居た全員が目を手や腕で覆い、俺の姿を見つけようとする行為さえままならないといった様子だ。
 今しかない。俺はその場から走った。とりあえず一旦どこかで身を潜めなければ。ホワイトランを出てもよかったのだが、いかんせん情報が少なすぎた。このままホワイトランを出たら俺は二度とここに立ち寄ることは出来なくなる──そんな気がしたのだ。
 そのまま一直線に走り出店が立ち並ぶ広場まで出る。ここまでくるとさすがに俺が放った閃光の影響は無いものの、町を歩く人の姿が無いことからここらで商売したり買い物をする市民の殆どは俺を遠巻きから見ていた者達だったのだろう。
 建物内に逃げ込めば逃げ場が無くなる。衛兵が俺を追ってくる可能性も高い。広場を外れ、一階建ての建物がひしめく庶民の家が立ち並ぶ一角でとりあえず身を屈め、辺りに気を配りながら身を隠した。
 何でこんな目に俺が遭わなくちゃならないんだ? 本当だったら今頃ブリーズ・ホームでハチミツ酒を飲みつつ晩酌をしていたのに──
 などと思っていると慌てた様子の衛兵が数人広場のほうに走っていく姿が見えた。俺がホワイトランを出たとは思ってないらしい。まあ正門の大扉を開けた音とか聞こえなかったからかもだが。
「居たか?」「いや、しかし町から出てないはずだ、探せ!」
 明らかに俺を探している様子で声を掛け合っている。虱潰しに探されたら間違いなく見つかってしまうだろう──しかし既に陽は沈み、辺りは徐々にだが闇に包まれている。隠密だけは得意なため、夜になればこちらの勝ちだ。見つかる筈は無い──と思った矢先。
「きゃああっ!」
 背後から甲高い声、悲鳴──まさか、と振り向くと片手を口に当てて驚いた様子の──
「……イソルダ」
 ノルドにしては珍しく髪を短くショートカットに切り整え、あちこち継ぎ接ぎがあたったワンピースを着たホワイトラン市民の一人、イソルダが俺の姿を見て驚愕の表情を浮かべたまま突っ立っていた。細身の体に似合わない大きな手籠を持っているあたり、買い物帰りか途中なのか。
 思わず悲鳴を上げた口を隠そうとしたみたいだが、指の間からはわなわなと唇が震えているのが見て取れる。また悲鳴を上げるかもしれない。そうなったら俺の居場所がばれてしまう。
 しばらくお互いの間に妙な緊張感が漂った──後。
 耐えられなくなったのか、イソルダが口を開き、
「きゃ……!」
「待て待て! 叫ぶんじゃない!!」
 悲鳴を上げようとしたものの、身を屈め隠密行動をしていた状態を解いた俺が飛び上がってその口を手で塞いだため、悲鳴は辺りに響かずに済んだ。最初の悲鳴は衛兵や他の市民には聞き届かなかったようで誰もこちらに向かってくる気配がない。
 手で口を押さえつけ、肩を力を入れすぎないようにやんわりと掴んで近くにあった家の壁に身を潜める。壁に身を寄せておけば闇と同化して見つかりにくい。……しかしイソルダは体を振り切って逃げようとする。
「俺の話を聞いてくれ、イソルダ。俺は衛兵や市民が言ったような事なんかしちゃいない。だから悲鳴を上げるのはやめてくれないか。誤解なんだ」
 小声で諭すように話しかけたものの彼女は聞く耳を持つどころか、先程と変わらず必死で俺の掴んでいる肩を振り切って逃げようとする姿勢を崩さなかった。思わず肩を掴む手に力が入ってしまう。
 痛い、と手で押さえたままのイソルダの口から声が漏れる。その声に掴んでいた手の力を緩めようとした時だった。
 形振り構わずといった様子で押さえていた俺の手の指を、イソルダが思いっきり噛んできたのだ。
「てっ……!」
 激痛が走り集中が切れた途端、彼女は俺の束縛から脱出していた。不安と恐怖を綯い交ぜにした瞳でこちらを見据え、
「よくも……よくもそんな事が言えるわね。沢山物を奪ったり沢山人を傷つけたり! 私や他の人だって見たわ、あんたが襲ってきたって! 皆を!!」
「だからそれは俺じゃない……」
 とりあえず落ち着いてくれと、内心はらはらしながら言うものの彼女には全く伝わってない。俺から逃れようとじりじりと後ずさりしながら、
「それは俺じゃない、ですって?! 今だって私を襲おうとしたんでしょ!! 暗がりに私を引きずり込んでこないだしたみたく、無理やり……」
 言った彼女の言葉に、俺は今日二度目のしまった、に気がついた。──確か衛兵が俺の罪状を言った時………。
 そして今の状況。闇、隠密、建物の裏、口を押さえて肩を掴み、拘束してくると思われてもおかしくない行動。
 誤解されても仕方がない事を俺はしでかしてしまったのか? 頭の中でぐるぐると考えがめぐる。その隙を突いてイソルダは声を高らかに叫んでいた。
「衛兵! こっちよ!!」
 三度目のしまった、だ。──今度は声を聞きつけたらしく、背後から人が数人走ってくる音が聞こえてくる。
 ここはひとまず逃げなければ。聴力を総動員し足音が近づいてこない方角を定め、俺は走り出した。その間数秒。
 背後でイソルダが何か叫ぶ声が聞こえたが、今こそ俺は彼女の話を聞いている暇はなかった。捕まればドラゴンズリーチのダンジョンに放り込まれるのは確実。やってもない事で牢屋にぶちこまれるのは御免だ。
 ホワイトランを出るしかない。仕方がないが今ここに居るのは危険だ。とりあえず別の領土に入って追っ手を撒いてから、対策を練るしかないようだった。
 正門には恐らく衛兵がうじゃうじゃ待ち構えているだろう。──なら城壁を飛び越えるしかない。
 城壁の高さが若干低い場所を選び、よじ登って外側に降り立つ。既に辺りは闇に塗りつぶされ、双子の月が新月のためか辺りを照らしていないのも助かって、誰にも気づかれないまま俺はホワイトランから脱出するのに成功した。
 辺りに衛兵が徘徊している姿も見受けられるが、それらは全て松明を持っているため分かりやすく、その光の届く範囲から外れれば安心だ。
 灯りを避けてホワイトランの馬屋まで辿り着く。先程繋いだ時と変わらず馬はそこで身を休めていた。俺が近づいてきたのに反応してどうしたのか、と目をこちらに向けてくる。
「すまない。今日は休んでられる暇がないんだ……逃げなきゃならない。お前の足が頼みの綱だ」
 馬は何も言わず──勿論喋れる筈はないのだが──分かったといった様子で鼻を鳴らした。
 
 闇に包まれた静かな夜を、切り裂くように一頭の馬が逃げるように街道の彼方へと去っていく。
 再びこの地に足を着くことが出来るのか──そして自分の名と姿を騙った者は誰なのか。
 数々の疑問を残したまま。


ちみっと長かったかなーw
感想その他いつでも大歓迎です(読んでくれてる人がいるかどうか謎だが・・

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