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SkyrimとFallout4・76の二次創作メインブログです。 たまにMODの紹介も。
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05.05.12:20

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  • 05/05/12:20

04.29.17:28

守りたい者──一つの道、二つの意見

 ……ひた、ひた、と、何かが落ちる音。
 何だろう……何も感じない。
 暗闇に包まれた静寂の中でただその音のみが、規則正しく奏でては辺りに響き渡っている。
 ──ここは何処だ? 自分はどうなったんだ?
 随分長い間気を失っていたように感じる。──そして気づいたら静寂が包み込む暗闇……暗闇なのは俺が気を失っているせいか? 
 ともかく今の状況を確認しないと。俺が今何処にいるのか。
 仰向けで倒れている四肢に力を入れてみる。……大丈夫だ、何も問題はない。ちゃんと指が動くし、指で地面を擦る感覚が伝わってくる。
 そして俺は閉じていた瞼をゆっくりと開けてみた。
 
 ──しかし、開けても尚、そこにあるのは暗闇。
 ひた、ひた、と落ちる何か──その正体すら掴むことのできない、闇だけが辺りを支配している。
「……ここは、何処だ……?」
 首を振って辺りを見回してみるが、入ってくるのはやはり黒く塗りつぶされた闇のみ。
 仰向けに倒れていた体を起こし、さっきまで横たわっていた地面に足をついて立ってみても、何も変わらない。
 何故こんなところにいるのだろう? ここに来る前に記憶を呼び起こしてみる。
 気を失う前に俺は……アルドゥインと話し合おうとしていたんだった。苦労してドラゴンの背中にまでたどりついて、話しかけたんだった。
 それでアルドゥインの叫びによってもたらされた雷に直撃して、そして──
 落ちたんだった。飛んでいるアルドゥインの背中から。
 アルドゥインの姿が遠のいていくのを最後に見た。あれは自らの体が引力によって地面にまっさかさまの最中に見た光景だったわけだ。
 そして気を失い──気づいたら闇の中。非現実的すぎる。つまりそれは……
「俺は、死んだ、のか……?」
 言葉に出してみる。まるで実感が沸かない。とはいえ、あの高さから落ちて無事でいる訳がない……飛んでいるドラゴンの背中から落ちたのだ、普通なら体を強打して死ぬのがおちだ。
 しかし、地面に強打している筈なのに、体は自由に動く。思考だって──ここが何処なのかを除けば──しっかりしている。
 生きている……筈だ。ならここは何処だ? 結局最初の疑問の振り出しに戻っちまった。
 もし死んでいるとしたら、ここが楽園ソブンガルデなのだろうか? この暗闇が? いずれ暗闇が晴れるとでもいうのだろうか?
 暗闇……? 
 おや、と思った。まてよ、こんなのを前に、何処かで──
 その時。
「……ドヴァーキン……」
 闇の中で規則正しく落ちていた音をかき消すほどの、闇を切り裂くようなしわがれた声が突然耳に入ってきた。
 その声は間違いなく、あの時背中の上で聞いた声と同じ──
「アルドゥイン……アルドゥインか! 俺はここにいるぞ!」
 何故ここであいつの声が聞こえるんだ、と疑問が一瞬沸いたが、ここが何処なのか分からない以上、その呼びかけに応じた方が賢明だ。
 俺の声が闇の中に響き渡る。……すると目の前の闇が反応するかのようにゆらり、と蠢いた。
 何かが近くにいる。俺はさっと身構え、状況に応じれるように体勢を作った。アルドゥインか? 目を凝らして闇の先を見ようとしてもどだい無理な話だ。しかし何故か闇が蠢いているのは分かった。
 ……そうだ、先程思い出した。あの時見た“夢”と同じ。
 身構えていると、再び闇の向こう側から声が響いた。 
「……ドヴァーキン……汝は何を求める?」
 ──え? 俺が何を求める……だって? 
 身構えただけにその問いは意外すぎて、俺は思わず前のめりに倒れそうになった。
 背中に乗って話を聞いてくれと言った時、アルドゥインは明らかに激昂していた。俺の話なぞ聞く耳持たないといった様子で。
 腰抜けのドヴァーキン、とまで言ったのに、今の態度は明らかに違う。しかし、声の主は間違いなくアルドゥインだった。一度聞いたら聞き間違えようが無い特殊な声。ヒトとは違う器官から発せられる声は、おいそれと真似できるものではない。
「……話を聞いてくれるというのか?」
 闇に向かって話すのも傍から見たら滑稽だが──俺はその声に応えてみた。理解してくれるのか一瞬不安がよぎったが、アルドゥインは何も言うことなく、黙っている。
 黙っている態度になんとなく、俺の話を聞こうじゃないかといったような促しているような態度が感じられ、俺は警戒を解いた。身構えていた姿勢をすっと元にもどす。
 息をすぅっ、と吸い込み──闇の中でもしっかり声が届くように、ややトーンを高くして俺は声を出した。
「ドラゴンボーンとして言う。ドラゴンとヒトとが共存できる世を作りたい。スカイリムでこれ以上多くの血を流させない為に、あんた達ドラゴンと共栄できる世界にしたい。だから協力して欲しい」
 ゆっくりとその言葉を吐き出した。
 
 ……しばし、静寂が辺りを包む。
 言ってすぐ、馬鹿にされるか、罵倒されるかを予想していたのだが──闇の向こうにいるであろう、アルドゥインは黙ったままだった。
 闇が時折、ゆらりと蠢く。変わらぬ暗闇に既に目は慣れていたのだが、それでもアルドゥインの巨体は目に入ってこない。そしてここが何処かも未ださっぱり掴めないままだった。
「……ドヴァーキン」
 闇の中に再びアルドゥインの声が響く。こちらが応じようとする前に再びアルドゥインの声が続いた。
「我々がかつて、ヒトを支配していたのをお前も知っているだろう。我々はかつてここスカイリムでヒトを支配していた。その頃のヒトは言葉も知らず、我々に隷属するのみが全ての愚かな種族だった。
 しかしヒトは幾度と無く我々に戦いを挑んだ。我々からの支配を逃れる為。自由の身になる為。
 しかしヒトはその時声を持ってはいなかった。声無き者が声ある我々に敵う筈も無く、彼らは何度と無く戦いを挑み、悉くその命を無駄に散らしていった」
 淡々と話すアルドゥインの声は変わらぬものの、その落ち着いた様子に俺は驚いていた。最初に俺が交渉したときと明らかに違うその態度はまるで別人──いや、ドラゴンに別人という言い方はおかしいだろうが──
「そんなヒトを手助けしたのがカイネとパーサーナックス……その辺の下りはノルドの古い文献にも残っているはずだ。ヒトに“声”を与えた。声秘術と呼ばれる我々ドラゴンの言葉を。扱える者は限られていたが、彼らはその力で我々から自由を得ることは出来た。……しかし、それと同時に彼らはその道を生きるしか術は無くなった」
 その道──?
 最後の部分が引っかかる。あまり横入れはしたくなかったのだが、そう思う前に言葉が自然と口から漏れていた。
 そんな俺に気を悪くした様子も無く、アルドゥインは淡々と声を出す。
「──共存も和解もできず、どちらかが最後まで生き残るかを賭けた、血塗られた道だ」
 え? 共存……できない? 血塗られた道? 
 俺の表情を見て取ったのかはわからないが、アルドゥインは続けてこういった。
「お前も分かっているだろう。我々の“声”は発しただけで相手を傷つけてしまう。それと同じ物をヒトは与えられた。叫びはヒトの一部に語り継がれ、そして我々と同じ血を分かち合う者まで現れた。我々を倒す者としての宿命を背負って。
 ……ドヴァーキン、いや、ドラゴンボーン。汝はヒトでもなく、またドラゴンでもない。しかし汝はヒトと我々の間に干渉できる唯一の者。我々に刃向う事もできれば、我々にも与する力をも持っている。……だからこそ我に提案を申し出てきたのであろう。共存できやしないか、と。
 しかし、共存は我々にとっても、ヒトにとっても、共倒れとなる道を進むことになってしまうのだ……ヒトが“声”を受け取り、我々に刃向う手段を得た時から、我々とヒト、殺るか殺られるか……ただそれだけしかなくなった。それ以上でも以下でもない」
 何だって……しばし、言葉が出なかった。
 神から声を受け取った事によって、人間とドラゴンの共存する道は無くなったとは……自由を得る手段を貰えた代償がこれか。カイネもパーサーナックスも神とはいえ、対価としては重すぎやしないか? それとも何か、ドラゴンとヒトは一生分かり合えないとでも決め付けていたのかもしれない。共存は無理だ、と。
 当時生きていた訳じゃないから憶測に過ぎないが、よくよく考えたらその頃のヒトがドラゴンと共存なんて道は間違っても取ろうとしないだろう。今まで支配していた奴と共存して下さいなんて言われても御免だ。俺だってそうする。
 だからこそ神は手段を選ばず、俺の祖先に声を与えたのだろう、けれど……、俺は表情を強張らせたまま声を絞り出す。
「しかし、アルドゥイン……今のスカイリムの情勢は分かるだろう? 内戦が勃発してる時に、あんたたちのことで人々は絶望してる。これ以上スカイリムに無駄な血を流すことは……」
「“無駄な血”? ヒトはヒト同士でも争うのだから我々が支配していた頃より貪欲になったようだな? はっ! ヒト同士が争っても我々には関係ない事だ!」
 こちらが言い終わる前に、闇が激しくうねり、その先からアルドゥインの怒声がびりびりと空気を震わせて襲ってくる。思わず耳を塞ぎたくなる位の激しく大きな叫びだった。
「ヒト同士が殺しあう関係に成り下がろうと我々には関係ない。スカイリムが、タムリエルがどうなろうと、我々の望みは唯一つ。……ヒトを再び我々の隷属下に置く。それだけの事。
 ──ドヴァーキン、止められるなら止めてみよ。我々は再びこの世界を支配してみせようぞ」
 闇が大きくゆらめく。その時自分の足を着いていた地面がにわかに揺れだした。
「何をするつもりだ、アルドゥイン!」
 背負った両手剣を引き抜き、身構えた。しかし揺れはどんどん大きくなっていく。構えていた体勢が揺れによって崩れ、立っていられず俺は地面に膝を着いてしまった。
 それでも剣はゆらぐ闇に向けていた。何をするつもりか分からない。殺気は感じないがそれでもこの揺れはただの地震じゃなさそうだ。
「……ドヴァーキン。再び相見える時が来る。その時は今以上に言葉を操れるようになっているのを期待しているぞ。汝の意思、我は忘れまい」
 剣を突きつけていた闇の先、揺らいでいた闇の動きが固まった──その時俺は暗闇の中でもはっきりと見えた。その先にいる者の姿が。
 人のような姿をしている。しかし背中に翼が生え、首には二つの頭があった……ドラゴンの頭と、人の頭。
 その姿に俺ははっとする。まさか、俺が今まで話していた相手は──
「……アカトシュ?」
 俺が名前を口にするのとほぼ同時だった。
 雷が一筋、天空から大地へ──びしっ、と黒い闇に白い亀裂が上下に作った。──闇に亀裂が走った、というのもおかしな表現だが。その亀裂はそれでは終わらず、びしびしと音を立てながら枝を広げ、闇に囲まれた俺の周囲をだんだんと白い枝葉で塗りつぶしていく。
 大地は揺れ続け、世界は黒から白へ変貌していく様を俺は変えることすらできず、かといって揺れでまともに立ってもいられない。
 このまま死んでしまうのか──俺は覚悟を決めた。といっても自分は既にソブンガルデにいるのかもしれない。さっきから分からないことだらけだったが、今更どうこうできるものでもない。 
 そして──白に支配され耐え切れなくなった闇は、ガラスを叩いて割ったようにぱりん、と音を立てて壊れた。途端に白い世界は強烈にまぶしい光を放ち、今までずっと闇の中にいて慣れていた俺の目を焼いた。
「ぐぁっ……!」
 何も見えない。真っ白く輝く光だけが視界に飛び込んでくるだけで、他には何も見当たらない。しかしそれと同時に、ずっと揺れていた大地が耐え切れなくなったのか、がらがらと音を立てて崩れ落ちていく。逃げようにも辺りが白く塗りつぶされているため、どちらの方向に行けばいいかもわからない。
 このまま落ちていくより他はないのかと諦めかけた時──凄まじい音を立て、崩れて陥没したた地面の中から何かが噴出してきた。突き上げるような強烈な風と、その風に伴って舞い上がる砂埃を纏って。
 何だ──? 俺が目を凝らそうとした時、ふっ……と俺の意識がそこで途切れた。
 意識が失せる直前、俺の目はその姿をしっかり捉えていた。その姿はまるで──墓から蘇ったばかりのドラゴンのようだった。

 大地に埋め込まれたサークルを一気に破って、それは姿を現した。
 砂埃と土煙をぶわっと巻き上げ、現れたのは──骨だけのドラゴン。
 煙は上空を旋回し飛び回っているアルドゥインのもとにまで届く。それはまるで、間欠泉が一気に大地から吹き出た位の勢いだった。
 土埃にまみれた骨だけのドラゴンが勢いよく墓から出てきたのと同時に、人影だろうか、小さい影が骨だけのドラゴンと同じく土煙を舞い上げ上空に飛び出してきたではないか。
 その影は空中で体勢を整えつつ、叩きつけられもせず風に守られているかのようにふわっと大地に降り立つ。するとアルドゥインが復活したドラゴンに力を与えようと叫び始めた。叫びは力となってドラゴンに降り注ぎ、ドラゴンの体に肉体と鱗が宿る。
 降り立った人物は握っていたままの両手剣を両手で握りしめ、流れるような動作で身構える。その目は躊躇いもなく、ドラゴンを倒す闘志に燃えていた。
 その時、復活したドラゴンを倒そうと走ってきたデルフィンが人影に気づき、目を丸くしながら片手を口に、片方の手を人影に向かって指し、
「……ジュリアン?」
 それに気づき、名前を呼ばれた人影が、挨拶代わりに片手を上げた。
「よっ、デルフィン。ただいま」

 視界がぐるん、と180度回転する。
 何が……何がおきたんだ? 
 気を失う前は確かに白い光の中にいた。瞬間意識を失って──取り戻したと思ったら、見下げる格好で見れば青い空が映って……つまり俺は頭を地面に向けて落ちてるっていうのか?
 何がなんだか分からなかったが、このままだと頭から突っ込んで死ぬことになりかねない。両手両足をばたつかせ、どうにか足を地面に向けることができた。が──普通だったらとっくに地面に叩きつけられていてもいいはずなのに、俺の体は重力に反して、羽毛のようにゆっくり落ちている。
 両手両足に枷ではないがなにかがまとわりついてる感じがする。何だこれは、と手を目前にかざそうとした時、視界に入ってきたのは目を疑う光景。
 目の前の世界がゆるやかに動いていたのだ。──スローモーションで動いている。アルドゥインの翼がゆっくりとはためき、地面から突き出ている土煙さえその粒子がはっきり見て取れるほど。
 死ぬ直前に人間は視界がスローモーションになるとかそういうものじゃないか、とふと思い出してひやりとしたが──どうやら違うようだ。自分の体は普通に動くし、動きも減速していない。減速しているのは俺以外の世界。つまり──何らかの力が俺にかけられている。それをかけたのは、恐らく……。
 俺は顔を上げ、上空で旋回を続けているアルドゥインを見た。その姿からは何も汲み取ることは出来ない。けれど──アルドゥインは俺の意思を聞き、答えを出してくれた。
 共存は共倒れの道──アルドゥインはドラゴンをこれからも復活させ、再び世界を支配せんとしてくるだろう。それが目的であり、彼らの生きる道。
 しかしヒトとて、一度は自由を得た身。おいそれと再びドラゴンの支配下に置かれるわけにはいかないのだ。だからこそ声を操り、ドラゴンを“喰う”が如く魂を力として得ることが出来る──ドラゴンボーン、すなわち俺自身──が居る限り。
 両者が手を取り合う事は未来永劫、成し得る事は不可能──二手に別れた道は一つに合流することは出来ないのだ。あるとすれば、支配する者とと支配下に置かれた者──かつてあったその関係に戻るしか無い。しかしそれは出来ない。両者共に。
 アルドゥインがドラゴンを復活させ続ける限り、自分の立ち位置は決まっている。俺がやることは──
 秒針が緩慢な働きをしてくれたおかげで、大地に叩きつけられることなく両足を着くことができた。その直後──きん、と甲高い耳鳴りが響き──時が通常の動きへと戻った。重力が一気に体にのしかかり、空中を漂っていたせいで力を抜いていた自分の体ががくっ、とよろめく。が、すぐに体勢を起こし、俺は先程、闇の中で抜いたまま持っていた両手剣を両手で握り締め、構えた。
 アルドゥインは空中に漂いながら、復活したばかりで骨だけのドラゴンに命と力を与えるべく──“叫ぶ”。叫びに応じ、骨だけの姿だった体全体が徐々に光を放ち──その光が肉体、鱗へと変貌していく。
 肉体を得る事が出来たドラゴンは嬉しいのか、甲高い声で鳴いた。そして間近で突っ立っている俺にギロリ、と鋭い眼光を向けてくる。敵意むき出しの視線は襲う気満々で、こちらも応じるように睨み返してやった。
 俺は剣の切っ先を、今度はアルドゥインではなく──復活したドラゴンに向けた。自分がやることは──一つ。アルドゥインがドラゴンに与し続ける限り、俺は仇名す者でいなければならない。人として。人を守る者として。
 その時、後方からざっざっ、と草を掻き分けて走ってくる音が聞こえた。
「やっぱり復活してしまった、ドラゴンボーンは居なくなってしまうしどうすればいいの!」とか一人でごちる声も聞こえてくる。
 が……その足音が突如として止まった。俺の姿に気づいたのだろう。その人物は振り向かなくても分かる。
「……ジュリアン?」
 俺は顔だけ振り向かせ、片手をひらりとあげて見せた。
「よっ、デルフィン。ただいま」
 彼女の表情は文字通り、目を丸くして口に手を当てて、いかにも驚いてます、といった様子。無理もないだろうな。
「なんで……一体、どうし……」
「話は後々。今はこいつを倒すのが先決だろう?」
 聞きたそうなデルフィンを制し、俺は顔を再び正面に向ける。ドラゴンは叫び、ぶわっと土埃を舞い上げて得たばかりの翼をはためかせ、上空へ一気に飛び出した。そのまま上空からブレスでも吐いてくるのかと思ったが、急降下してこちらに突っ込んでくる。
 躊躇いもせず俺は“叫んだ”──Liz Slen Nus.
 声が大気と混じり、瞬時に凍てつく刃となり一斉に襲い掛かる。突っ込んできたドラゴンその攻撃を避けようと首を持ち上げ、再び上空高く舞い上がろうとした。だが──翼が動かない。
 ドラゴンが異変に気づいた時、片方の翼は既に凍っていた。そう……俺はドラゴンが飛べないように翼を凍らせたのだ。逃さない為に。
 一旦ドラゴンが上空に飛び出すと、翼を持たないこちらは一方的に攻撃され不利になる。氷晶のスゥームは相手を凍らせることが出来るが、ドラゴンはそれ自体が巨大な為体全体がが凍らない。……しかし一部分のみ凍らすことは可能だとしたら? 
 その目論見は間違いなかった。翼を動かせないドラゴンは体勢を崩し、ずしん、と叩きつけられるような音を立てて地面に落ちた。大地が揺れたため、こちらも体がよろめく。
 ドラゴンが落ちた衝撃で再び土埃が舞い上がっていたが、そんなのはお構いなしに俺は体勢を立て直すと剣を構え突っ込んでいた。
「人間を、なめるな──!」
 走りながら両手剣を大きく振りかぶり、次の瞬間一気にそれを振り下ろす。がきっ、と鱗に剣が食い込む音と共に刺さった肉感の手応えが感じられる。切っ先から鮮血が噴出し、鱗を赤く染めていく。
 傍らを見ると、デルフィンも片手剣をドラゴンに深々と突き刺していた。しかしドラゴンもやられっぱなしではいられない。長い首をこちらに向け、口から炎のブレスを放ってきた。思わず両手剣で防御姿勢をとるも、炎の攻撃では避けようもなく真正面からブレスを浴びてしまう。
「あちちちち! 熱いじゃねぇかよ!」
 さすがにこれを浴びされ続けたらこちらも焼死体になりかねず、俺は腰のベルトにさしてある生体賦活剤の入った試験管を一つ手に取り、一気に口に流し込んだ。痛み止めも入っているポーションの影響はすぐに現れ、傷ついた体を瞬時に癒す。
 俺はなおもブレスを吐いてこようとするドラゴンの正面に剣を突き刺した。がっ、と鈍い音を響かせてドラゴンの口に剣が食い込む。そのまま力任せに剣を突き刺していくとばきばきとドラゴンの歯を割るいやな音が耳に入ってきた。
 明らかに今の攻撃で疲弊したドラゴンだったが、変わらず殺気立った瞳をこちらに向けたまま──剣が刺さったまま口を開き、かっとブレスを吐き出す。しまった、と思った時デルフィンが盾を構えて俺とドラゴンの間に割り込み、そのブレスを盾で防いでくれた。
「盾くらい持ち歩いたほうが賢明ね、ドラゴンボーン」
 言ってくれる。軽口が叩けるくらいだから恐らく炎耐性のついた盾なのだろう。ダメージは飛んでくるどころか熱ささえ感じられない。
「……借りておくぜ、一気に畳み掛ける!」
 ドラゴンがブレスを止めた瞬間を見計らい、俺はデルフィンの背後から突き刺さったままの両手剣に向かって飛んだ。
 刺さった剣を足場代わりにして更に飛び、ドラゴンの鼻筋に足を着く。ベルトにさしてあった片手剣を瞬時に抜き、そのまま一気に突き刺した。
 致命傷を与えたのか弱点だったのかは分からないが、ドラゴンはよじるようにして痛がり、声を上げた。突き刺したままの剣をぎゅっと握り締めて俺は振り落とされまいと耐える。動く度にに剣が食い込み、だらだらと血が流れた。それでもドラゴンはよじり、俺を振り落とそうとしてくる。
 明らかにドラゴンは弱ってきていた。あと一撃攻撃を叩き込めば倒れるはずだ──そう確信し、俺は突き刺さったままの剣から手を離し、ドラゴンの鱗を蹴って飛び上がった。ふわっと一瞬体が浮き、重力に逆らうことなく落ちた足が地面に着く。
 俺が落ちたことに気づいたのか、ドラゴンはよじっていた体の動きを止めた。首を動かして俺が何処にいるか目で追おうとした時──ドラゴンの口に突き刺さったままの両手剣を俺は一気に引き抜いた。鮮血が流れ落ちる。ぼたぼたと大地に赤い染みを作った。
 痛みにドラゴンが低く呻きながら、俺の姿を見つけ、口を開けてブレスを吐く前に俺は“叫んだ”──Fus Ro Dah.
 ぶわっ、と大気は圧力となりドラゴンに襲い掛かる。攻撃の手を緩めず、俺は先程引き抜いた両手剣を再び鱗に深々と突き刺す。
 ドラゴン長い首を空に向け、甲高い呻き声をあげた──直後、力を失ったかのように首がだらりと地面に落ちる。それがドラゴンの最後だった。
 そして、ドラゴンの体を纏っていた肉体が開放されたかのように剥がれ落ち……それらは無数の光の糸となり、俺の体に向かって一本残らず吸収されていく。ずきん、と胸と体に痛みが走った。……いつものことだが。
 光が収まると、残ったのは生き返った時同様、骨だけのドラゴンの姿。変わったのは命があるかないか、位か……
 突き刺したままだった片手剣が地面に落ちていたので、それを拾って鞘に収める。辺りは静寂を取り戻していた。
 デルフィンがほっとした様子でこちらに走ってきたが、次の瞬間顔を強張らせた。どうしたんだ? と聞く前に、
「アルドゥイン!?」
 えっ、と俺はデルフィンの向いている方向に体を向ける。
 アルドゥインは確かに居た。空中で翼を動かしながら旋回や飛び回ることなく、こちらをじっと見据え──俺を見ていた。いつもは復活させたら飛び去ってしまうのにも関わらず。
 戦いが終わるまで見ていた……? もしかして、俺がどう答えを出すのかを見届けたかったのか? アルドゥイン。
 勿論、こちらの疑問に答える筈もなく、骨だけになったドラゴンに一瞥をし、翼を動かしてぐるんと旋回をし、アルドゥインは静かに飛び去っていった。
「おかしなことね。アルドゥインは他のドラゴンが復活を遂げたらすぐどっかに飛んでいっちゃうのに、今日は見届けていただなんて」
 デルフィンも同じ疑問を口にする。
「そうだな……」
 納得した返事じゃなかったのか、デルフィンは眉間に皺を寄せた表情を浮かべ、骨だけになったドラゴンの死骸を調べようとそちらへ歩いていく。
 姿が見えなくなってもアルドゥインが去っていった方向を、俺はただずっと見ていた。

 次の日。
 俺はマルカルスに居た。正確にはマルカルスの死者の間だが。
 ずっと躊躇っていた事。俺の心の中で燻っていた事を消し去るために。
「先日のドラゴンが襲ってきたことで被害に会われた人々の遺骨は何処にある……ですか? ええ、それでしたらまだこちらに。まだ日も浅いので、納骨堂に納めず供養している最中ですので……」
 死者の間に入り、そこの管理を行っているヴェルラス修道士に話をして、俺は彼らと向き合った。
 アーケイの祠が祭られている場所に、遺骨が納められている壷が数個、無造作にテーブルに置かれてあった。死体はすぐに腐ってしまう為、焼いて骨だけにしたのだろう。あれから一週間以上は経っているし無理もない。
 その場で俺は跪き、胸に手を当てて祈った。あの時どうしても出来なかったこと……俺が守りきることが出来なかったことを謝った。
 けど、俺は成すべき事がある。──貴方方の命、無駄にはしない。どうかソブンガルデで見ていてほしい。
 心の中でそう呟き、立ち上がった。何も変わりはしない。けど──心の中で燻っていたものはいつしか消えていた。
 修道士に別れを告げ、死者の間を出る。石だらけの町に暖かい日差しがまぶしく降り注ぐ。
 軽やかに階段を降りて正門まで走った。扉を開けてマルカルスを出ると、厩に繋いでいた馬に飛び乗った。
 巡回していたマルカルスの衛兵に軽く会釈をし、俺は手綱を引く。馬が嬉しそうにいななき、ゆっくり歩き始めた。
「さて、次は何処に行こうかね…そういや、山賊の手配書が回ってたっけな。それから済ますとするか……」
 鐙で馬の腹を軽くこづくと、勢いよく馬は走り出した。街道を軽やかに駆けていく。
 当て所なく終わりもない、いつもと変わらぬ旅が今日も始まろうとしていた。

 あとがきは別で書いておきますorz
 つ、、、つかれた、、、

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