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スカイリムの攻略とかあまり役に立たない日々のプレイ日記をだらだらかいていくつもりです。

雪と氷とドラゴンと。

   
カテゴリー「Fallout4 二次創作」の記事一覧

Euphoric night

※Fallout4二次創作小説チャプター4です。その手の部類が苦手な方はブラウザバックでお帰りを。
 これは第四章です。一章から読みたい方は「Chain of reprisal」からお読みください。



「アマリ。話を聞いて飛んできたよ。……ったく、外は大騒ぎだな。これも、今回の原因あってのことか?」
 地下室の扉を開いて入ってきたのは、定期的にここを訪れてくれるレイルロードのエージェント・グローリーと、本部でしかお目にかかる事の出来ないドクター・キャリントンだった。突然の来訪ではない。アマリがグローリーを介してキャリントンを連れてやってきただけのこと。グローリーは定期的にDr.アマリの居るこのメモリー・デンに足繁く通っているのは誰しも知っていたし、連絡手段を密に行っている事もあって、グローリーはジュリアンと、その連れであるマクレディの窮状をアマリから聞いて大急ぎでキャリントンを連れ戻ってきただけの事である。
「ああ、Dr.キャリントン。待ってたわ。私一人じゃ医療の心得がないから心配で。……って外が大騒ぎって、どういう事?」
 機器の画面の前から離れず、顔だけを扉に向けてアマリは出迎えただけだったが、キャリントンの言葉に引っかかりを覚えたのか聞いてくるので、
「例の……そこにいる男が殺した奴が一般人さながらの格好だったせいか、ジュリアンとこの男を自警団が探し回ってる。ここには居ない、と上に居るオーナーのイルマが対処しているおかげでここはひとまず安全だろう。……けど何度もちらちら見られながらここに入るのはいささか気分がいいものではないな」
 そこは自分の番だといわんばかりにグローリーが引き取って喋ってくれた。顎でしゃくるようにマクレディを指しながら。
「……まぁ、外の事はひとまず安心だろう。薬を盛られたのはこの男だね? ……マクレディ君だとか」
 言いながらキャリントンはシミュレーターの一台に近づき、手にした鞄を地面に落として聴診器を取り出すと耳にかけ、その先をマクレディの心臓付近に当てた。
「……特に変化はないな」とぶつぶつ言いながらあちこち当てて音を確かめている。
「見たところ、命に別状をはなさそう。薬の影響は脳内でしか起こってないみたい。それでも何かあるか分からないからあなたを呼んだのだけど……」
 アマリが自信なさげに言う。彼女の得意分野は機械工学故に人間の身体についての知識は僅かしかない。薬の影響が脳以外に影響を及ぼさないとも限らないため、キャリントンを呼んだのだ。万一、薬の影響を止められなかった場合と、今も単身、彼の脳内に入っているジュリアンの身を案じての事だった。
 キャリントンは聴診器を外しながらこちらを見て頷き、
「分かった。とりあえず私に出来る事をやろう。我々の大切なエージェントを一人失う訳にもいかないからな。君はエージェントのサポートをしているのだろう?」
 アマリは画面を見ながら頷く。「ええ、薬の影響が人体にどういうものを及ぼすかはまだ分かってないけど、少なくとも止めるにはその人物の脳内に入るしかないと思ったの。ジュリアンにそう提案したら即答で行くと言って……何があるか分からないのに」
「奴は猪突猛進だからな」グローリーがぽつりと言う。
「ええ、……けどまた連絡が途絶えたの。何処に飛ばされたのか……何かしらマクレディの頭の中に反応があればいいんだけど……」
 カタカタと記憶シミュレーターに繋がっているターミナルのキーボードを叩きながらアマリは毒づいた。人の脳なんて戦前の科学を持っても解明されてないものだ。その中に飛び込んだジュリアンをサポートしなければどうなるか分かったものではない。
 アマリはマクレディの頭につながれている電極の僅かな信号を見逃すまいと、装置を食い入るように見つめていた。

「……地下鉄か」
 見かけない地下鉄の駅だった。地下鉄の構内に繋がるエスカレーターと、雨風から防ぐためプラスティック製の巨大なドーム型の屋根に覆われている。エスカレーター脇に立てかけられている看板は僅かに地下鉄と判別できたもののそれ以上は読めず、行き先がどこかは皆目見当がつかない。
 それ以外何か建物は、と見回すも、建物だった残骸があちこちにあるだけで、殆どが荒れた大地が続くだけ。まさか荒野の真ん中に地下鉄の駅がある筈ないだろうから、かつてはここも栄えた町の一角だったのだろう。……今では見る影も無いが。
 となると、人影が入っていったのはここしかないという訳だ。かつては電気で動いていたであろう、今ではぴくりとも動かないエスカレーターをかん、かんと音を立てながら一段ずつ降りていく。近づくにつれ、下にはフェンスで囲まれた入り口らしきものが見えてきた。そこから先は立ち入り禁止とまでに、フェンスで頑丈に仕切られている。……その一箇所、フェンスの扉が僅かに動いているのが視界に入ってくる。間違いなく誰かがここに入っていったのだ。
 エスカレーターを降りると、僅かな踊り場と、その先の侵入を阻むためのフェンスの先には通路が見えた。隠密状態になると暗いところでは暗視能力がつく力を持っているせいで、目を凝らさなくともその先が地下鉄のプラットフォームに続いているのは分かる。手前には改札機があり、人を通す僅かな間には仕切るように横から板が降りていた。無人の駅でも切符ないし定期券を持たない者を阻んでいるように見えて、それが酷く物悲しく感じる。
 先程誰かが入ったであろう、フェンスの扉をくぐって地下鉄構内に侵入すると、ひんやりとした空気と、黴と長年人の手の入っていないなんともいえない匂いが肌と鼻にまとわりつく。嫌な匂いだ。俺がVault111で目覚めた時を思い出させる、あのなんともいえない──皆死んでしまい、生きているのは俺一人──そんな絶望と心細さを思い出させてくれた。時の概念が無い世界。そう、まさにこの地下鉄は長年ほったらかしにされた、人の目にも手にも触れない、孤独に打ち捨てられた世界そのものだ。……こんな所に一体、誰が入っていったのだろう。
 身を屈め、夜目が利く状態を常に維持しながら、そろりそろりと構内を歩く。途中、ヌカ・コーラの自販機が目に付いて思わず中身を確かめようとしたが、俺の知っている自販機と形状が違っていた。
 ここがもしキャピタル・ウェイストランドだとしたら、外にいる時点でマクレディは16歳以上なのは間違いない。けど……今のところ彼の姿が見えないのは確かだ。追っている人影がマクレディであればいいのだが。
 自販機から離れ、仕切り板が降りっ放しの改札機をジャンプして抜ける。そこから先はあちこち土砂が崩れて通路が塞がれてあったものの、一箇所、プラットフォームに通じる階段があるのを発見した。他に行く先はない。となると──人影もここを降りていった筈だ。
 音を立てずにゆっくりと階段を降りていくと、……何かが耳に入ってくる。微かではあるが、誰かともう一人が話し合っている。会話のようだった。
 やはり一人ではなかったようだ──マクレディだとしたらもう一人は誰だ? 
 気になりながらも、俺は努めてゆっくりと近づいていく。……と、かしっ、かしっ、と何かと何かが擦り合う音が数回立ち、ぼぅ……と光が僅かに辺りを照らす。どうやら火打石か何かで火を熾したのだろう。
 その光で、俺はその人物を見ることが出来た。……一人は女性。暗がりでよく見えないが、薄茶色の長い髪、僅かにカールしてる辺り天然だろうか。目鼻立ちの整った、美人といえる女性だった。隣にいる、火を熾した奴に何か話しかけている。小声のせいか、その声は全く聞き取れない。
 そして隣に座っている──火打石をポケットに入れながら、女性の方に顔を向けて返事を返した時、その顔がはっきりと見えた。帽子は被っておらず、茶色い髪が短く切り揃えられている。口髭はまだそれほど伸びておらず、僅かに生えているのみ。──見紛う事などなかった。マクレディだ。
 隣の女性と何か話して微かに笑っている。その表情は楽しげで、こんな無人の地下鉄のプラットフォームでは酷く場違いに思えた。……となると、あの女性は、まえに話で聞いた……
『ジュリアン! やっと見つけたわ』
 突然脳裏に響いてきたDr.アマリの声に再びびくっとしてしまう。……やれやれ。人が少しだけ感傷に浸っているのに。
『……アマリか』
 心なしか、不機嫌に聞こえてしまったかもしれないがそう答えると、彼女は当然のようにそうだと付け加え、
『Dr.キャリントンが来てくれてるのよ。そこであなたの脳波の信号を追えば見つけやすいって聞いて試したら間違いなかったわ。……さっきの場所からは大分飛ばされたみたいね』
『ああ、そうらしい。……俺は今何処のセクターにいるんだ?』
 聞くと、現在第18セクターに居るとの事。つまり18歳。……16歳でリトル・ランプライトから追い出されると前に言ってたな。やはりこの先に居るのはマクレディで間違いないのだ。
『マクレディは見つかった?』
『ああ、今俺の目前……といってもかなり離れてるけどな。で奥さんと一緒に居るよ。何か話してるみたいだ。──ここらに薬の影響は?』
 彼女は何かを操作しているのか僅かな間の後、『……このセクターも殆ど侵食されてる。今居る場所も影響はすぐそこまで来ているのは確かよ。ただまだ実体化や悪化させるほどではないみたい、いずれ変化を起こすとも限らないから気をつけて』
 わかった、と言って一度会話を切る。薬の影響は思った以上に早いみたいだ。マクレディの近くに居たほうがいいのは間違いなさそうだった。
 相手に気取られないように、そこらに散乱している木の板や壁だった残骸に身を隠しながら近づいていくと、マクレディと彼の妻──確か、ルーシーと言ったか──の会話が耳に飛び込んできた。
「……今夜一晩中ここでやり過ごすの?」
「ああ。そのほうがいいだろう。上は危険だ……といってもここが危険じゃない保証は何処にもないけど」
「うん、でも、火をつけても何も襲ってこないみたいだし、大丈夫じゃないかしら」
 ぱちぱちと爆ぜる音と共に、彼らの会話を嫌でも聞いてしまう形になる。とはいえ──俺の姿をここで晒すのも分が悪い気がした。
 マクレディと妻のルーシーはプラットフォームに続く階段のすぐ下、開けた場所に出てすぐの所の壁に寄りかかるようにして座っていた。俺はというと、改札のある階とホームに続く階段の踊り場の反対側の壁によりかかってマクレディとその妻を見ている。……と、先程まで気がつかなかったが、彼女の両手には抱えるようにして何かを持っているのに気がついた。彼女は時折、それを見ながら撫でるような仕草を見せている。……まさか。
「はは、こんな時でもこいつは無邪気に眠ってるな」
 マクレディが笑いながら、彼女の手に抱かれているものにそっと触れる。その表情は俺が見たことがない程、穏やかでやさしそうなそれだった。──あんな顔をするのか。
「ふふっ、そうね。この子は恐らくパパ以上に強い子になるに違いないわ。こんな時でも泣き言言わずにしっかり眠ってくれてるんだもの」
「そうだな。……ダンカンお前、ひょっとして俺より強い奴になるんじゃないか? パパより強い奴になって、大きくなったら母さんを守ってやるんだぞ」
「ちょっと、駄目よ。あなたも入ってないと駄目じゃないの」くすくす笑いながらマクレディの肩を叩くルーシー。
 産着に入っているであろう、小さな命は何も言わず母親の腕の中で寝ているようだった。……あれがダンカンか。1歳前後といったところか。その姿に思わず、俺は自分の息子、ショーンの姿とダブらせてしまう。そして……妻、ノーラ。
 頭を数回振り払って思い出そうとする行為を追い出した。今はそんな記憶に思いを馳せている場合じゃない。……彼らはどうして夜にこんな地下鉄の跡地にやってきたのだろう? 何かに追われてるのだろうか。
 その時、記憶の中で何かが引っかかるような気がした。……地下鉄、駅、夜……この話、何処かで……
「もう夜も遅い。お前も休んでていいよ、ルーシー」
 マクレディの声に考えを中断し、思わず耳を欹ててしまう自分が居た。その返事に対して彼女──ルーシーは、大丈夫と言いながら手をひらひらと振って見せる。
「あなた一人で寝ずの番をさせるわけにはいかないもの。私も手伝う」
「大丈夫さ。ここは長い間誰も入ってないみたいだ。レイダー共の気配も無い、俺が守ってるから安心して寝ていいから」
 マクレディはそう言うものの、彼女は食い下がろうとはせず、起きているの一点張りだった。随分気が強い女性だな、と内心ぼやくと、マクレディがふっと笑ってみせながら、彼女の方へと身を近づけていく。
 キスでもするのか、と思ったがそうではなかった。彼は彼女の──ルーシーの肩に身を凭れかけたのだ。その動作は自然で甘えるように、そして彼女もまた彼の身体を受け止めながら背中に手を回す。
「……ルーシー、俺はそんなに頼りないように見えるか?」
「まさか。私にとって、あなたは最高の兵士よ。……人々を守ってくれる、正義の兵士さん」
 その刹那記憶が脳裏によみがえった。
 そうだ、マクレディはあの時そう話していた──ある夜の事を。

『どれだけ状況が悪化しようと、いつも傍に居て、肩に寄りかからせてくれた。
 それが…その、強く前進するために必要な勇気をくれた……決して諦めないための』

『けど……もうどうでもいい事だ。彼女は数年前に死んだんだ。
 ある夜、地下鉄の駅に身を隠したが、それが間違いだった──』

 まさか、まさか、まさか。
 思わず俺は背中に背負ったコンバットライフルを手にしていた。その直後、
『ジュリアン? どうしたの? 心拍数が上がってる。脳波に乱れがあるわ。Dr.キャリントンが何かあったんじゃないかって言ってる。どうしたの?』
 Dr.アマリの声が脳に直接響いてきた。が、俺はそんな呼びかけに正直、応じたくなかった。いつ自分の目の前で──彼の愛した最愛の妻が殺されてしまうのかが不安で、恐怖で、それを見たくなくて。
『……アマリ。俺はこの記憶の行く末を知ってる』
『え?』
 銃弾の装填を確かめながら応じると、何のことだか分からないといった様子の返答。
『知ってるんだ。この記憶の中でマクレディの大切な──奥さんが殺されるっていう結末を。だから俺が──』
『どういう事? 今あなたが見ている彼の記憶の世界をあなたは知ってるというの?』
 ああ。知っているんだ。俺があの時──Vault111で冷却ポッドの中で、成す術無くむざむざとノーラが殺され、ショーンを奪われていく様を見せ付けられたようにな。
『せめて記憶の中だけでも、助けてあげないと──』
 そう返事を返ししな、突然Dr.アマリは強い口調で『だめ!』と言ってきたので思わず身をびくっと竦ませてしまった。しまった、ばれてないだろうか?
 ちらりとマクレディの方を見ると、彼はまだルーシーの肩に凭れかかっていたので、ほっとする。……駄目って何が駄目なんだよ。
『何で駄目なんだよ、アマリ』
『彼の頭をおかしくさせたいの? 実際あった記憶を捻じ曲げてはいけない。そんな事をすれば彼の記憶に齟齬が生じてしまい、記憶障害を引き起こすきっかけになりかねないわ。目覚めた時、彼は妻を生きているものと信じて探し回るかもしれない。記憶の先と今の現状に差異があることに気付きながら、どうしてそうなったか分からず混乱してしまうかもしれない。──そうなれば、彼は連邦で生きられない身体になるかもしれないのよ』
 まさか、と思ったが──マクレディの脳内で記憶を捻じ曲げれる事が彼にどういうった後遺症を残すのかなんて、俺にわかる筈もなければ──そんな事をしていい理由にもならないのは間違いなかった。けど……頭でそれが分かっていても、感情はそれを許さなかった。
『……Dr.アマリ、俺には辛すぎる! こんなの俺は見たくてここに来たんじゃないのに!』
 自分に出来ることは何もないのか。俺と同じ事を──そうだ、俺とマクレディは似ていた。互いに結婚し、互いに相手が居たのに、互いにどちらも妻に先立たれてしまう事実──それを彼の分まで見なければならないなんて。
『ジュリアン。──見届けてあげて。正しい記憶に手を出す事は許されない。記憶がここにあなたを飛ばしたのなら、ここにはアンハッピーターンがいて、あなたはそれを倒すためだけにそこに飛ばされただけ。
 自分が記憶を是正できると思ってはいけないわ。正しい記憶ならともかく、ありのまま起きた事を捻じ曲げるのは彼にとっても辛い事よ。現実に目を背けてしまう事と同じだもの。
 見届けて、そして悪夢の存在を見つけ出して倒す──それだけがあなたがそこにいる理由。忘れないで』
 忘れないさ。忘れる訳がないだろう。自分がノーラを殺された瞬間を。ケロッグの手で銃に打たれ、力なく倒れていく彼女を。
 もし自分が今のマクレディの立場だとしたら、その記憶が勝手に捻じ曲げられる事だ。けど現実にはノーラはもう居ない。それを認めることが出来ない人間になっちまう。
 それを第三者が勝手に捻じ曲げたとしたらどう思う? ……許さないだろう。それがあなたの為によかったと思うからやったんだって言われても、俺はちっとも嬉しくなんか無い。
 だから──俺は黙って銃をホルダーに戻した。
 アマリは何も言ってこなかった。分かっているんだろうと思い、こちらからは敢えて何も言わず、身を屈めたままじっと階下の先に居るマクレディを見る。
「最高の兵士、か」
 マクレディはルーシーの肩に寄りかかったまま、力なく笑った。ルーシーはうんうんと頷きながら、彼の背中をぽんぽんと叩く。
「そう。だから私はあなたの傍に居ると安心するの。……でもここはなんだか嫌な予感がする。だからどうしても眠れなくて」
 神経を研ぎ澄まして辺りに気を配るが、特に何の気配も感じない。が、最初にこの駅構内に入った時の、ひんやりとした空気と黴臭い匂いは慣れそうになかった。リトル・ランプライトに居た時みたいな、あたたかさを全く感じないのだ。
「大丈夫だよ。……ダンカンは俺が抱いてるから、少し眠っておけって」
 凭れていた身体を上げ、マクレディはルーシーの膝に抱いていたダンカンを受け取った。彼女は渋々といった様子で分かったわ、というと、焚き火に近づいて身を横たえた。
 すぐに寝息を立てて眠ってしまう彼女を見て、マクレディはほっと一息をつくと、暗い辺りに目を配らせ始める。片手にはダンカンを抱き、もう片手にはアサルト・ライフルを持っている。リトル・ランプライトで持っていたものと同じものだった。
 すると、突然むくりとルーシーが起き上がったので、マクレディはびっくりした様子で、
「どうした? 寝てなきゃ駄目じゃないか」
 そう言うも、彼女は従うどころか首を横に振って、「……何か聞こえない?」と言ってくる。
 何か聞こえない、だって……?
 階段の途中で身を隠しているのもあって、俺には何も聞こえてはこない。が──ルーシーはしきりに辺りに目をやっている、何も見つからない様子だったが。
「何か聞こえないかって、何がだ?」とマクレディ。
「こう……何かを引きずるような音。寝てて気付いたんだけど、床を通して何かが音を立ててるのは間違いないわ。……ねぇマクレディ、私怖い」
 そう言われて気になったのか、マクレディは立ち上がり、アサルト・ライフルの銃口を向けながら辺りにしきりに目を配らせ始めた。
 何か近づいているのか、と思った矢先──俺にはそれが目に入った。
 隠密状態だと夜目が利くようになっているせいで、マクレディよりも先にそれを見つけることが出来たのだ──フェラル・グールの群れを。
 彼らは線路の上をよたよたとした足取りで、光──即ち、焚き火の明りに向かって歩いてきている。焚き火をしてから随分たっているから、プラットフォームから僅かに遠い場所で寝転がってでも居たのだろうか、焚き火の明りに集まるようにまっすぐ向かってきていた。
 マクレディはまだ気付いておらず、その場を動かずせわしなく辺りに目をやっているばかり。……歯痒かった。これが見届けるというものなのか? いまだアンハッピーターンの影響が近づいているという知らせがないのも腹立つ。今だったらその影響さえ、彼の辛い記憶を見せ付けられるより幾分かマシに思えるというのに──!
「……何の気配も感じないけどな」
 マクレディがそう言って、再び座りなおした時。──ふっ、と、にわかに焚き火の火がゆらいだかと思うと、その炎が瞬時に消えたのだ。
 瞬時にあたりが暗闇に包まれる。きゃっと短い悲鳴を上げながらルーシーがマクレディに飛びついた。
「くそ、なんで消えちまうんだよ、もう一回つけなきゃならないじゃないか……」
 慌ててマクレディが再度火打石を取り出して火を熾そうとするも、ショーンを抱えていてはそれも出来ない。仕方なく、怯えながらマクレディに寄り添っていたルーシーに、
「すまない、ダンカンを抱いててくれ」
 と彼が言ったのと──フェラルが数体襲い掛かってきたのはほぼ、同時だった。

「きゃぁっ!」
 闇から伸びる幾数の手。抵抗する事も叶わずルーシーはその手に掴みかかられ、身体ごとマクレディから引き剥がされる。
「?! ルーシー!」
 アサルト・ライフルを持っていた手を銃から離し彼女のほうへ手を伸ばす。伸ばした先に掴んだのは──彼女の髪の毛。豊かな髪がなびくように動きながら彼とダンカンの傍から離れていく。
 離すまいとしっかり握って引っ張ると──いともそれは簡単に、ぶちぶちと音を立てて引き剥がされた。
「え、っ……」
 手にした毛を持ちながら呆然と立ち尽くすマクレディに、
「助けて! 助けてマクレディ!」
 叫ぶルーシーの声。……その声は後半、彼の名前を呼ぶ頃には喉を食いちぎられていたのか、ひゅうひゅうと息の通る音しか聞き取れなかったのだが。
 フェラルが数体、ルーシーの身体を囲み、柔肌を引き裂き、眼球を抉り取っては口に含み、そのほか言葉に言い表せないほど残酷な“食事”を行っていた。マクレディはその場でがたがたと震えている。逃げるという行為を忘れたかのようだった。
 くそっ──これ以上見届けるなんて俺には、俺には出来ない!
「マクレディ!!」
 声を張り上げる。名を呼ばれて反射的に彼はこちらを仰ぎ見──目を丸くした。何であんたがここにいるんだ、といわんばかりの表情だった。
 俺は一気に階段を下りると彼の手を握り締め、
「お前も食われたくなかったら逃げるんだ! いくぞ!!」
 空いている片方の手を握り締め、一気に階段を駆け上がる。その音に反応して数体、フェラルが階段を上がってこようとしたが追ってこれないと判断したのか、改札機を出る頃には誰も追ってはこなかった。
 そのまま一気にフェンスを開けて外に出て、エスカレーターを駆け上がり月が出る荒野に出てから、俺達はようやく走るのを止めた。マクレディから手を離し、はぁはぁと息を切らして手を膝についてしまう。
 あの時分かっていた。火が消えた事も。フェラルの群れが歩く音は殆ど聞き取れないが、彼らは獲物に飛び掛る時、一気に走って間合いをつめて飛び掛ってくる。その風で焚き火の火が消えたのだ。それを見ていても、俺は手を出す事を許されなかった。けど、……けど、辛すぎるぜ、これは。
「あ、あんた……」
 ふと見ると、マクレディがこちらを凝視していた。……しまった。俺の事なんてまだこの時代には知る由もないのに。
 今も若いが、月の光に照らされて改めてマクレディを見ると、口髭は先程言ったとおりだが、まだそんなに薄汚れた感じがしない。手も汚れてはおらず比較的きれいなほうで、服装は俺が知ってるダスターコートを着た彼ではなく、合成皮革の黒いジャンパーの上にこれまた皮製の硬くした肩当てがついている井出達だった。
「はぁ、はぁ……よう、マクレディ」
 思わずいつもどおりの返答をしてしまった。走り続けていたせいで考える事を放棄していたのだ。
「……ジュリアン、だよな? Vault101の?」
 えっ? と思わず耳を疑った。まさかさっきの12歳の記憶が反映されてるんじゃないだろうな、と思ったがそれもおかしな話だ。……しょうがない、また演じてやるか。
「……そうだよ、立派な大人になったじゃねぇか、マクレディ」
 話をあわせてみると、やっぱり、と言いながら彼は何処か身体を震わせていた。文字通り、ぶるぶると。
「あんたを……探してたんだ。ずっと、リトル・ランプライトを出てからずっとあんたの事を探していたのに、まさ……まさか、こんな所で会うなんて。
 ルーシー、彼がジュリアンだ。俺が探してたVault101のジュリアン。覚えているだろ? 彼の話を何度もしてやっただろ?」
 言いながら彼は傍らを見る。……勿論そこにルーシーは居ない。
「あれ……おかしいな。ルーシー? 何処に言ったんだ?」
 片手にダンカンを抱きつつ、身体を震わせながら彼はきょろきょろと周りを見やる。……居たたまれなかった。かつての自分を見ているようだった。
「ルーシー? ……そうだ、俺さっき、彼女の髪を──」
 言いながら、ずっと握り締めていた──右手に握られていたものを見る。髪の毛の束が数十本、その手中にあった。毛先には毛根だけではなく、剥がれ落ちた皮膚がいくつも見受けられる。……見ていられず、俺は目を背けた。
「そうだ、さっき……奪わせやしない、って……掴んだのが、これだけで……ルーシーは……ルーシーは……」
 身体を震わせながら、マクレディの目から涙が溢れた。とめどなく溢れるそれを止める事など俺には出来ず、黙って目を閉じた。
「ルーシー……嘘だろ、嘘だって……違うんだよな、ルーシー……ルーシー……!」
 嗚咽を漏らしながら、彼は月夜に吼えるようにして泣き崩れた。ダンカンをその手に抱きしめながら、助けられなかった妻を思い、助ける事が出来なかった自分を恨み。
「どうして、どうして……どうして彼女が死ななければ……どうして俺じゃなくて、ルーシーなんだよ……!」
 くそっ! 俺は思わず地べたに膝をつき、涙を流すマクレディの両肩を掴んだ。
「マクレディ! 馬鹿な事を言うな!」
 それだけ言うのが精一杯だった。ちくしょう。情けない事に、俺も涙を流していた。もらい泣きかもしれないが、あまりにも見ているのが辛く、そしてそれ以上に彼を──マクレディを放っておくことなど出来ないからだった。
「お前の腕に居る子はどうする? ダンカンのためにも、あんたは生きなければ駄目だろう! この子の為にも、あんたは生きろ。どんな事をしてでも生き延びるんだ。それが、ルーシーへの手向けになるだろう? そうだろう?」
 腕に居る、と聞いて彼は一瞬我に返ったのか、ダンカンを見た。こんな状況でも静かに寝ているのは……所詮は記憶の中の世界だからだろう。普通なら目を覚まして泣きじゃくってもおかしくないからな。
「ダンカン……ルーシー……!」
 僅か数分前に生きていた人が、次の瞬間には死んで居なくなっている──認めるまでに時間はかかるだろう。けどマクレディ、お前は一人じゃない。腕に抱いているあんたとルーシーの間に出来た子なんだ。その子のために、お前は生きなきゃならないんだ。
 うわあああ、と叫びながら再び顔をくしゃくしゃにして慟哭するマクレディ。掴んでいた肩から俺は腕を背中に回し、ぎゅっと抱きしめた。ふわっと暖かさが全身に伝わる。ああ、そうだ。この暖かさ。躍動する彼の命の息吹が伝わってくるようで、ほっとする。
「大丈夫だ、俺がついてるから」
 不思議とそんな言葉が口から出たのに自分でも驚いた。女性でもないマクレディは男性なのに。……そう思いながらも、頭の中では何となく分かっていた。マクレディは俺と同じ境遇を体験しているからこそ、放っておけないのだ。俺より数年も若く、それなのに俺より辛い事を何度も経験している、放って置けない──だから彼をつれて旅をしているのだ。
「……ジュリアン」
 ぐすぐすと洟を啜っていたマクレディがぽつりと俺の名前を呼んだ。
「ん、大丈夫か?」
 腕をほどくと、彼は名残惜しそうな表情を浮かべつつ、黙って頷いてみせたので俺は彼から離れた。表情は落ち着いていたが、泣き腫らした目は腫れぼったく、重そうに見える。
「あんたが……来てくれなかったら、俺もどうなっていたか」
 言葉を選んで言ってる様子だった。
「さっき、俺を探してたっていってたよな」
「……ああ」言いながら彼は伏目がちに頷いてみせた。「あんたの噂は聞いていたし、外に出たらあんたを探して、出来たら傘下に入れてもらえないか、って言うつもりだった。けど何処を探してもあんたは見つからなかった。メガトン、リベット・シティ、カンタベリー・コモンズまで行ったけど、あんたの話は沢山聞くのに、全然見つけられなかった。……だから俺は探すのを諦めて、一人で生きようとした。そんな矢先にルーシーと会ったんだ。……あんたの話も沢山したんだぜ。彼女もあんたの名前は知ってたんだけどさ」
「……そうか」生きているうちにルーシーと会話をしたかった──と言おうとした矢先だった。
『ジュリアン! ジュリアン、聞こえる?』アマリの声が脳裏に響く。相変わらず甲高い声に俺は意味もなく耳を塞いでしまう。……もう少し音量調整できないものか。
『どうしたアマリ、俺は今──』
『そっちにアンハッピーターンの影響が向かってるのよ! 何がくるかは分からないけど用心して!』
 一方的にまくしたてたアマリの声は緊迫感そのものが出ており、否応にもこちらもあたりを警戒せざるを得なくなる。
 背中に背負ったコンバットライフルを手にして、身構える俺を見てマクレディが怪訝そうに「どうした? まさかさっきのフェラルが来てるのか?」聞いてくる。
「……そうだ。お前は俺から離れるな。今戦闘できる状況じゃないだろ?」
 何が来るか分かってないがそう伝えておいたほうが話が早いだろうと判断しての事だった。マクレディはダンカンを両手で抱え、俺の背後に立った。──と、何処からか微かに声が聞こえてきた。
「……ィ……マク……ディ」
 辺りは月光に照らされ、夜だというのに見通しはいい。……そんな中、声が聞こえてきたのだ。方角は恐らく、俺達が逃げてきた地下鉄のほうから。徐々に大きく、はっきりと聞こえてくる。……マクレディを呼ぶ声だった。
「ん? この声……どこかで」
 銃を向けながら、耳に入る声は聞いたことのあるそれだった。……女性の声。ルーシーの。
「ルーシー? 居るのか?」
 彼が一歩踏み出そうとするのを俺が手で制する。
「やめろ。あんな状況を見て、彼女が生きてる訳ないって分かってるだろう?」
「け、けど……」
 逡巡するマクレディを他所に、俺は内心焦っていた。畜生、嫌なものに寄生していたって訳か。道理で……彼女の姿がはっきり見えた訳だ。フェラルの群れも。
 つまりそれらは、アンハッピーターンが寄生して出来た悪夢の具現化した姿だったのか。ルーシーが最初から薬に寄生された存在だったかは分からないが、彼を苦しみ、打ちのめすには最高の材料だっただろう。
 雲ひとつない月夜が、徐々に黒い霞に覆われて光が届かなくなっていく。近づいてきているのは自明の理だった。──と、駅の方から歩いてくる人影。それらに蠢くようにして纏わりつく黒い霞。
「……ルーシーだ! ルーシー!」
 マクレディが手を振った。ああ、くそっ。黙っていろと口に物でも詰め込みたい気分だった。あれがルーシーだと?
「マクレディ、こんなところにいたのね」
 にっこり笑いながら近づいてくる、かつて“ルーシー”だった者。マクレディは近づこうにも俺の手で制されているため彼女に駆け寄る事が出来ない。
「ああ、本当にすまない。俺とダンカンだけ逃げてしまっ──」
 謝るマクレディを見て、霞をまとったルーシーはにやり、と笑みを浮かべた。生前の笑顔とは似ても似つかない、醜く得体の知れない笑顔──思わずぞくり、と背筋が凍る。
「何当たり前のこと言ってるの? 私を襲ったフェラルを倒そうともせず、あんただけ一人で勝手に逃げちゃってさ、おかげで私がどうなったか見てみる?」
 言いながら、彼女はけたけたと笑い──その“身体”を動かしてこちらに見せた。歩いているときは普通に五体満足の身体だったルーシーのそれが、みるみるうちに血にまみれ、あちこちが欠損し、食いちぎられた跡がいくつも見受けられる“躯”そのものへと変化していったのだ。
「う、うあああああ!」
 マクレディが悲鳴を上げる。見るも無残、とはよく言ったもので──いやいや、彼女の身体はそれを超えていた。眼球は両目とも抉られ、美人だった顔立ちは歯形と血でまみれているのだ。悪夢そのものだった。
「あんたが逃げたせいで、私はこうなったんだ!」
 霞が蠢いたと思ったかみなかで、俺とマクレディ両方に襲い掛かってきた。それが彼の首に纏わりつき、ぐっと首を絞める。俺はというと……相変わらず黒い霞はこちらの身体を通り抜けていくだけだった。
「ぐ、ぐぁ……」
 マクレディが呻く。相手を倒すより彼を解放しないと命が危ない。……しかし銃だけではちょっとな。……切り刻むモノが必要だ。
 念じると、ぱぁぁ、とまばゆい光と同時にそれが現れた。──炎を纏った刃シシケバブ。念じるとは慣れると便利なものだな。と内心感心した。
「マクレディ、目を伏せてろ!」
 言うと彼は目を閉じ──俺は手にしたシシケバブを振りかぶって、炎を纏った刃を彼の首を絞める霞に当てた。じゃっ、という燃えるような音を立ててそれは消えていく。開放されたマクレディは地面に手をつき、げほげほと咳き込んだ。
《貴様、我の邪魔をするのか!》
 かつてルーシーだった、今ではただの肉塊となったモノがその独特の声を発してきた──リトル・ランプライトでも聞いた。アンハッピーターンの声。
「マクレディをあんたに殺させる訳にはいかねぇんだ!」
 こちらが言ってる間にも霧が何度も襲ってくる。マクレディを再度捕まらせまいと、俺は彼の目前に立ち、その霞からの攻撃をたたっ斬っていた。霞は何度も何度も襲ってくるため、きりがない。
「マクレディ、俺の肩に手を掛けていてくれ」
 咳き込みながら立ち上がったマクレディに、相手のほうを向いたままそう言うと、彼はえっ、と言いながらも俺の左肩に手を載せた。……温かみが感じられる。彼と俺の繋がりが温度となって伝わってくる。
《くそっ! 貴様、この者の記憶にある存在ではないな!》
「ああ、俺はマクレディをあんたから助けるために外から来たんだ」シシケバブを脇に収め、俺は背中に背負ったコンバットライフルを手にし、照準を定める。「マクレディから出て行け、彼をこれ以上苦しめるんじゃねぇ!」
 照準器で狙いを定め、躊躇いもせずそのまま引き金を引いた。弾奏から送り出された銃弾が勢いをつけ一気に狙った相手──かつてルーシーだったもの──の頭頂部に見事にヒットした。
《ぐあぁぁぁぁあああ!》
 叫ぶ。が、しかしまだ倒れない。──しぶといな。薬の影響がマクレディの体を蝕んでいるせいだろうか。
『アマリ、こいつ一発じゃ倒れそうにない。前回と違うのはどうしてだ?』
 頭の中で呼びかけると、彼女はすぐに応じてみせた。
『……前回より規模が大きいのは確かよ。薬はいくつも分裂し、幾重にも姿を変えて記憶を侵食しているけど、どうやらこいつは十代後半から二十代初頭の記憶を侵食していたせいか、力をつけているのは間違いないわね。でも倒せば薬の影響の殆どを開放出来る筈よ。負けないで、ジュリアン』
 どうやって分析しているのか気になるが、それは帰ってからの方がいいだろう。……と、黒い霞が再びこちらに襲い掛かってきた。
「マクレディ! 飛ぶぞ!」
「あ、ああ!」
 助走もつけず、その場から瞬時に右へ飛んだ。不思議な事に──マクレディも殆ど俺と変わらず速さで同じ方向へ飛んでいる。息がぴったり、というより、彼が俺に合わせているような気さえした。気のせいだろうか。
「いいぞ、マクレディ」
 僅かに顔を後ろに向けてそう言って見せる。彼は照れくさそうに顔を俯かせた。
《ええい、ちょこまかと!》
 再び霞が襲ってくるがこれをシシケバブで応戦すると、相手は一瞬怯んで見せた。……どうやら炎に弱いらしい。なら接近戦で一気に片をつけるか。
「マクレディ、一気に突っ込んで片をつけてやる。俺と一緒に走るんだ。……いいな」
「りょ、了解」
 その言い方がいつもの彼とそっくりで、不思議と胸が高鳴った。……ああ、そうだよな。
 どんな事があろうと、俺はこいつと一緒に居たい。マクレディと一緒に居たい。
 ぐっとシシケバブを握り締め、一気に走り出した。間合いを詰めてくるこちらに対し、自ら飛び込んできたかと勘違いしたのか、アンハッピーターンは一四方に黒い霞の触手を伸ばしてきた。……このときを待っていた!
「飛ぶぞマクレディ!」
 同時にたん、と地面を蹴り、相手めがけていっきに飛び込む。霞の触手は僅差で俺とマクレディを掴み損ねていた。
「うおぉおおおおおお!」
 刃を垂直に持ち、重力に倣って相手の脳天めがけて一気に刃を突きたてる。肉を突き刺す感触と共に、切っ先から炎が溢れ、その全身を燃やしていく。
《ぎゃああああああああ!》
 突き刺した刃は真っ二つにその身を斬り落とし──霞の内側から光が溢れたかと思えば、やがてばんっ、と音を立てて四散した。それと同時に辺り一面に漂っていた黒い霞も消え、夜空には再び月が顔をのぞかせていた。
「ふぅ、……これでよし、と」
 シシケバブを腰に収め、俺はマクレディの方を振り向いた。彼は抱きしめているダンカンを見ていたが、こちらの視線に気付いて、ふっと笑顔を見せた。
「……よく分からないが、あんたのおかげで助かったのかな」
「ああ、そう思ってくれて構わない。……と、と」
 不意に足がぐらつき、こけそうになったのを留まる。何かに躓いたのかと思ったが──その時、俺は自分の目がおかしくなったのかと思った。俺の足が透けていたのだ。足元が透けて、その先の地面が見えている。
 おかしいな、と思って手を見ると、驚いた事に俺の両手の指先もうっすら透けていた。何だこれは?
「なぁ、ジュリアン」
 呼ばれたので、俺は考える事を止め「何だ?」と応じると、彼はもじもじとした態度──男がそういう態度をするのはあまり見てて気持ちのいいものではないが──の後、
「あ、あのさ。お、俺と、よかったら、」
「うん? よかったら?」
 鸚鵡返しに問い返すと、彼はがりがりと照れくさそうに頭髪をしごきつつ、
「俺と、よかったら……一緒に来て欲しい、んだ。
 ああ、いや、あんたがクソ忙しいのは分かってる。あんたは誰にでも必要とされてる存在だもんな。けど……ほんの僅かな間でもいい。俺と、ダンカンが、一緒にちゃんと生活できるようになるまで、その……見届けてほしい」
 何だ、そんな事か。──勿論俺ははっきりと頷いて見せた。「ああ、構わないよ。俺もあんたとこのまま別れたんじゃ、気になって仕方がないからな。俺でよければ力になる」
 返答を聞いて、マクレディは目を潤ませて喜んだ。……心なしか、胸が痛む。本来の俺はこの時まだ連邦で冷却ポッドに入れられて眠っているのに。
 このときの俺はまだ、お前を見届ける事は出来ない、けど──連邦に来たときは必ず、お前の事を──
 世界はうっすら東から白んできていた。夜明けが近いようだった。長い夜がようやく終わりを告げているようにも思えて、ほっとする。
「夜明けだ。……とりあえず、どっか居住地に向かおう。腹ぺこもいいところだ」
 そう言うマクレディは力なく笑っていた。彼はさっさと歩き始めている。何処へ向かうかは分からないが、恐らく知っている居住地があるのだろう。
 ああ、と返事を返しながら一歩、歩き出そうとした時──今度は足が落ちるのではなく、一瞬にして世界が切り取られた。
 切り取られた、というのは言葉では言い表せないが──一一枚の巨大なガラスの板で仕切られてしまった、と言った方がいいかもしれない。えっ、というまもなく、今までいた世界はガラスの向こう側に四角く切り取られ、ぴかっと光ったかと思うと何度も見ているあの、記憶の欠片となっていずこかへ消えていく。
 今度はどうやら落ちたりしないらしい。立っている感覚もある。自分の視界がぐるぐる回ったりもしない。しかし、辺りは真っ暗で、自分が立っている場所は果たしていいのだろうか……と不安になってきた。
「今度は何処に連れて行くんだ? 薬の影響があるなら、何処へでも行ってやる」
 と──頭上がにわかに輝き始めた。記憶の欠片は殆ど見かけないが、頭上の光はやがて大きくなり、俺を包み込むかのように降りてきた。──暖かい。
 その暖かさに、俺の両手両足は不思議と同化するように徐々に色、輪郭を奪っていくのに気づいたのはその後だった。

 いつの間にか閉じていたのだろうか、俺は目を開けた。
 ──見覚えのある場所だった。地下鉄のプラットフォームを改築した店内。あちこちにはテーブルがしつらえ、客がめいめい酒を口に運んでいる。中央奥にはカウンターがあり、そこには忙しそうに動いているであろうMr.ハンディ型のロボット、通称ホワイトチャペル・チャーリーが左右に動いている──筈だった。
 サード・レール。グッドネイバーの旧州議事堂の地下にある酒場。 
 その世界は何もかもが止まっていた。人の姿はあるのに、誰も動いていない。いつも見るマグノリアの姿をある立ち台に目をやると、彼女の輪郭だけが作られたモノが置かれてあるだけだった。
「サード・レール……22歳のマクレディが」
 そこにいるのか──俺の視線の先、彼と初めて出会ったVIPルームがあった。





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長い。今回はまた前回前々回以上に長い。
長いけど中の人これを7時間くらいで書いてしまいました。早いほうです。これが書きたいがために今回の話を作った、と前にも言いましたがその通りなので、ものすごく書いてて楽しかったです。

 一応次で最終ですが、最終は毎度の如くめたんこ長いとおもわれますのでご了承を。
 
 今回この話を出すのに随分間が開いてしまってすいません。中の人現在お仕事が酷いくらいに忙しくて;;
 とりあえず冬コミ合否前までには最終話も載せます。どうぞ宜しく。
 ではまた次のブログ更新日に。
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たまにはマトモにMOD紹介:Vault.2

※今回はホモホモしい画像は1枚しかありませんが、そういうのが見たい人だったら最後まで読むのがいいかもしれません


 どうも。二週連続MOD紹介とかお前小説どうしたんだって言われそうですけど。
 ただいま中の人のお仕事が多忙に多忙で毎日帰りが遅い上にヘロヘロ状態なので全然進まないという・・いやFO4やってるせいじゃないんだよ、ねんのため。
 なので今回もMOD紹介を。 ・・・でもあんまり対して役に立つもんでもなければ、導入したい! て言う人もいないだろうから完全に中の人の趣味。

今回紹介のMODは居住地追加のこちら。
Lake View Chapel
http://www.nexusmods.com/fallout4/mods/18053/?

 いや別にいたってフツーの教会なのですが、説明に「礼拝堂にはカップルでお越しを」
とあったので、「これはマクレディと行かなくちゃ駄目じゃないか」と勝手に決めて勝手に導入して以下略。
 まぁカップルって普通男女同士だろ・・というツッコミはなっしんぐで。


 で、その礼拝堂。ちょっと天気悪くて靄がかかってるな。
 まったくウェイストランドっぽくない。連邦ぽくない。違和感バリバリですが、周りは広いし色々作る事が出来そうです(一応居住地扱いなので)

 で、肝心の礼拝堂にいったらこれしかなかったという・・

 ベッドしか(笑)
 マクレディと一夜を共にした後ですが(爆死
 まぁベッドが戦前のもの扱いなのがいいですね。でも彼はこんな綺麗なベッドだと寝心地悪いだろうなあ。

 ウォールデン・ボンドの辺りの一角に作られた居住地なので、元々湖だけしかなかった場所がかなり変わってます。

 ファー・ハーバーで見る種類のAID系雑草(笑)とかが自生してたり、納屋がおかれてたりと手が加えられていますなー
 魚も養殖してる感じに作られてて、ここにいるとよくマクレディが魚を捌くモーションやってたりします 見てて楽しいw

 こんな感じ。
 お前カナヅチと釘は昔から得意じゃないんだったよね?w

 夜になると結構ロマンチックになるのがこれまた・・

 ルアー・ウィードが自生してます。FHだとMOBが隠れてたりするせいでおちおち近づけないもんですが、ここのはさすがにいないので安心してみていられるというw

 一部はテラスかバルコニーか、湖の上に見晴らしのいい場所が作られてて、なかなかにいいロケーション。マクレディは時々ここでよっかかったりする仕草を見せてます。
 昼と夜とではムードがかなり違いますな。

 ・・というよく分からん居住地MODのご紹介でした。
 時々マクレディが衣装変わってますけど、その衣装はこちらからDLできますよん。
 サイブレのキャラからインスパイアされたとか書いてありましたね。もともとは女性用だったのですが男性用も作られててマクレディが着てるとカッコイイです。

Evil Detective
http://www.nexusmods.com/fallout4/mods/14135/?

以上、今回のMOD紹介でした。
相変わらずマクレディとしか遊んでませんが、ヌカワールドの新しいコンパニオンはなかなかに評判いいらしいっすね。俺まだ買ってないけど。
 まぁ多分買って入れてもマクレディとヌカワールドデートして、デートでいちゃいちゃしまくってレイダーにどん引きされてるのがオチなうちのパパさんなので多分大丈夫かと思います・・・多分ね。







 で、最後にまたもあれですが、前回のモーションMODの紹介の最後に書いてた表情変えてキスさせて云々みたいなの、やってみました。

 とりあえず互いに目を閉じてさせてみたけど・・ちょっと露骨でアレだね。
 数枚一応撮ったけど恥ずかしいので今回はここまで。

 では次回のブログ・・は小説を上げたいところですね><
 それでは、また。


 PS:最近のパパの装備がエルダー・マクソンのコスプレ(笑)ですが、
BoSの衣装がレオタードすぎて、パパ(ジュリアン)が実にキモいです。お目汚し失礼w

たまにはマトモにMOD紹介

※今回は落書きを除いて二次創作はお休み。
  あと、やたらホモホモしい画像大量です。苦手な方はブラウザバック。

 えー、ども。
 思えばFO4をプレイ始めて半年以上、マトモにSS上げてSSだらけのプレイ日記的なものを一切書いてなかったですねぃ。
 なので今回は久々にMOD導入したのもあったのとマクレディばっかり撮ってきたので(笑)、そこらへんの撮りためたSSを載せるだけにとどめます。
 あと、後半ちょっとホモい画像が色々出てます。ご容赦を。

 今回SSに使ったモーションMOD「Dave's Poses」
http://www.nexusmods.com/fallout4/mods/16800/?
 は、FO4で数少ないモーションMODです。カップリング向けのモーションもあるのに導入がSkyrimみたくFNISを入れて~~、なんて必須MODがなくてもフツーに動くという素晴らしく導入しやすいMODです。
 モーションは銃、近接武器、ピンナップ系と幅広く、おまけにカップリング向けのもあるというなんとも豪華なもの。
 折角なのでPC版でのSSの撮り方(中の人の独自仕様もありますが)、などなど紹介しつつ。


 構えるポーズですな。


 決めポーズにしてはむかつくほどカッコイイ(マクレディがむかつく訳ではない・・)
 ここらは普通に突っ立っててもときたまマクレディがこっち(ジュリアンさん=パパ)をちらっと見る程度なので然程視線は気になりません。


 座ってるポーズを下からのアングルで撮る。
 こういう時に役に立つのがコンソールコマンド「tcl」。
 オブジェクトすりぬけが可能になるコマンド。スカイリムの頃からお世話になってます。
 これを第三者から観ると、

 こうなる(笑)
 完全に地面に埋まってるジュリアンさんです。
 この座りポーズだとマクレディが頭下げてるせいで視線が見えないんですよね。


 これとかもジュリアンパパの身体は地面に埋まった状態で撮ってますw
(おかげでマクレディの立ってるGL(地面)が消えてますが・・)


 片手剣ポーズはなんだかとっても決めポーズが多くて、見てて笑っちゃうほどでしたw
 とりあえずマクレディ足が長すぎて畜生うらやましい。

 とまぁ、沢山沢山いろんなのがありますが、女性向けのせくすぃーなモーションとかをマクレディにかけると最高にウケます。

 で、こっからがカップル用モーションですが、
 カップル用は自分と相手(この場合はマクレディ)にかけて位置を移動させなければいけないという(位置移動は人によってやり方がありますが、MODを使用してやるのが一般的らしいです。俺は入れるのが面倒なのでtclコマンドで大体の位置決めをしてからモーションかけて微調整をやってましたが)、ちょっとめんどうな仕様ですが、慣れるとまぁ、以下のよーなちょっと人によっては引く画像も作れます(笑)。

 抱き合うパパとマクレディ。
 肩! 肩がおかしいぞマクレディ!! と中の人大爆笑。

 もーちょっとキワドイと、

 これを撮ってた時はコーヒー噴いてたわ・・マクレディの上目遣いが怖い。

 で、これを更に(!)調整するとアラ不思議、キスができちゃうという(笑)

 狙った訳じゃないのにマクレディが目を瞑りやがった(笑)
 この時どうやったらパパに表情変えられるかなーとSKyrimでお世話になったmfgコマンド総アタックしてましたけど、どうやらFO4での表情変化は別のコマンドぽいです。
 Fallout情報局さんで知りました。今度笑った顔で互いにちゅーさせ・・ません。恥ずかしい。

 一連のSSはグッドネイバーのレクスフォード・ホテル内でした(笑)
 ここの大きい窓の光、すごい好きなんですよぅ。暗いと青い光になってすごい妖しい感じが醸し出されてよくここでうちのパパさんはマクレディといちゃいちゃしてます(笑)。


 はい。以上、モーションMODの紹介でした。
 お目汚し失礼的な落書きまで載せておきまするるる。
 マクレディはあんな上目遣いでパパを見つめるよりこういう照れまくる方が俺の中では確立してるんだよなぁ。

 
 こちらは先週末あたりにかいた落書き。ほんとお前マクレディしか描いてないんだなって(笑)
 だって彼を書くのが大好きなんですもの。文章も絵も。
 いやーマクレディって本当にかわいいですね(笑)

 ・・・以上が今回の更新内容です。お楽しみいただけましたか?w
 自分はSS撮っててめちゃくちゃ楽しかったですww
 え? 小説の方はどうしてるんだって? そちらも来週以降更新します。いやーだってほらなんというか、毎週定期的に更新してるとありがたみが薄れるかなーって(なんだそりゃ

 それではまた。
 次回更新日をお楽しみに。

Re:union

※Fallout4二次創作小説チャプター2です。その手の部類が苦手な方はブラウザバックでお帰りを。
 これは第三章です。一章から読みたい方は前回の記事「Chain of reprisal」からお読みください。


「お前……マクレディか?」
 言ってからしまった、と思ったが時既に遅し。バリケードの向こう側に居る彼の目はこちらを値踏みするようなそれをこちらに向け、
「……何故俺の名前を知ってる? 俺はお前なんか知らないぞ」
 至極当然の質問を返してきた。今のが誘導尋問だったら確実に彼は引っかかっていただろうな、まだまだ考えが幼い──などと思ってしまう。
 相手の口調からして、こちらを警戒しているのは間違いない。とりあえず何でも話してきっかけを作って、彼の居るバリケードの向こう側に行かないと──
「……まぁ、お前は知らないだろうがな、俺はお前を知ってるんだよ、マクレディ。とてもよく、と言った方がいいかな」
 言ってみて随分とまあ、相手の神経を逆撫でするような事を口走っちまったもんだ、と内心自嘲してしまう。只でさえ警戒されているというのに。
「ふん、どうせ大方、ビッグ・タウンに向かった連中の誰かが口を滑らせたんだろうな。俺の悪口か何かを。……あんたもそれにつられて来たって言うならお門違いもいいとこだし、少なくともムンゴに利いてやる口なんて持ち合わせちゃいない。俺の気が変わらないうちにさっさと失せな」
 にべもない言葉に少々顔がひきつる。……マクレディは確かに口が悪い。悪いのは今まで付き合ってきたし、そういう性格だってのは知っている……が! こんな幼い時代からこんな口の利き方してたなんて知らないぜ?
「ちょ、ちょっと待てよ、マクレディ」
「うるさい。……それ以上俺を引きとめようとしてみろ、あんたの額にデカイ穴開けても知らないぞ」
 言いながら、幼いマクレディは手にしたままのアサルト・ライフルの銃口をこちらに仕向けてくる。脅すつもりなのだろうが、こちらだって形振り構ってられない。彼自身の記憶を破壊している薬の影響を失くすまでは──けど、その影響って一体どこでどうやって見分ればいいのだろう? ……まさか、今向き合ってる幼いマクレディは既に薬にやられてるって事は……ないよな。
「待てよ。……そういや俺、まだ名乗ってなかったよな。……俺の名前はジュリアンだ。宜しくな、マクレディ」
 名乗りながら、にかっと笑ってみせた──やや顔が引きつっていたかもしれない──が、肝心のマクレディは何も言わず、黙ってこちらを凝視していた。時折眉間に皺を寄せて、こちらをじっと見つめている。どうしたんだ?
「……“ジュリアン”?」
 俺の名前を反芻しながら、何かを思い出している様子だった。記憶の中に俺の名前があるのだろうか? ……でも、本来この時間軸に俺は存在しない。この頃の俺は、まだ連邦のVault111で眠らされ続けていたのだから──
「ああ。……思い出してくれたか?」
 言ってる最中、思い出すも何も俺の名前を知らないだろうに……と内心ぼやいていたのだが、次の瞬間彼の口から出た言葉に俺は目を丸くした。
「……よく、思い出せない……何でだろう? 確か、Vault101に居たとか言ってた……」
 Vault101……!
 思わずあっ、と声を出してしまう。──そうだ。思い出した。俺が初めて、マクレディとサード・レールのVIPルームで出会った時。
マクレディは自分を雇えと言ってきて……そして俺はあいつと交渉して値切って200キャップで彼を雇ったんだった。
 前払いだとぬかすので200キャップが入った袋を差し出して、俺は自分の名前を名乗った後──

『俺の名前はジュリアンだ。宜しく』
『えっ……ジュリアン? あんた、ジュリアンなのか? 
 俺を覚えてないか? リトル・ランプライトで市長をやってた頃の俺に、一度会っているだろう?』

 あの時、マクレディは俺と同じ名前の別人と勘違いしていた。(※)
 彼が幼い頃、リトル・ランプライトの市長をやってて、その際俺と同じ名前のVault居住者が訪れたとかなんとか……
 その記憶の中のジュリアンと俺が混同しているのだろうか? ──けど、この混同は逆に使えるかもしれない。“Vault101のジュリアン”は、マクレディと会っていたという事実は聞いているのだから。
「……そうだ。俺は、Vault101から来た“ジュリアン”だ。俺を忘れちまったのか、マクレディ?」
 話を合わせようと言ってみたものの、彼の表情は優れない。時折頭を数回、横に振りながら目を細める仕草は、必死で何かを振り払おうとしているようにも見えた。……おかしなことに、その動きと重なって、世界がざざっ、とアンテナ受信がし難い古いテレビのように世界が僅かに砂嵐に変わったりする。──彼の記憶の中の世界が躍動している。揺らぎには不安も恐怖も感じない。不思議なことに、この得体の知れない世界の中で俺はそう感じていた。
「──どことなく変な気がするが……最初からそう言えばいいのに」
 落ち着きを取り戻したらしいマクレディがやれやれと言った様子でこちらに声を投げかけてくる。どうやら俺を記憶の中のジュリアンと俺を認識したみたいだった。
「そう言う前に手にした銃を向けてきたのはそっちだろ」
 言ってから、ああ、まるで俺はいつもの姿の彼に言う口調と変わってないじゃないかと毒づく。──その時、脳裏に言葉が飛び込んできた。
『ジュリアン! ようやく見つけた!』
 Dr.アマリの声だった。……どうやらマクレディの脳内から俺を見つけてくれたらしい。ほっとする。導き手である彼女が居るのと居ないのとでは大違いだ。
『よかった。……マクレディの記憶領域に一部反応があったから、それを辿ってみたらあなたに行き着いたのよ。ケロッグの時とは違って、破壊されて読み込めない箇所と、されてない箇所は半々といったところだから、見つけるのにかなり手間取ったけど──あなた何か彼の記憶に反応を示すような事をした?』
 反応? ──そういや、さっきこの世界が砂嵐のようになったりしたな。あれが反応というものなら、そうなのかもしれない。
『……とりあえず無事にマクレディの脳内に侵入は出来た。ちょっと離れた場所にマクレディも居る。この場所は何処だか分かるか? 
 俺の名前を名乗ったら……何か思い出すような事をしたな。どうも昔、俺と同じ名前のVault居住者と会った事があるみたいで──』
 アマリの声はこちらの脳裏に直接響いてくるため、バリケードの向こう側に居るマクレディには聞こえていない。……こちらの声が聞き取れるかは分からないが、とりあえず俺は返事を声に出さず、頭の中に思うようにして返答してみた。
『大丈夫。ちゃんと聞き取れてる。……今あなたが居る場所はマクレディの脳内でいうと第12セクターの領域内。現在22歳みたいだから、およそ10年前ね。私は年代別にセクター分けしているからこう呼んでるけど。
 アンハッピーターンの影響が少なからず及ぼし始めている領域よ。既にいくつかのセクターからは反応が無くなってるのもある。思った以上に薬の影響が強いみたい。急いだほうがいいわ』
『急いだほうがいいっていうけど……俺は実際この世界、いやマクレディの頭の中で何をすればいいんだ?』
 当たり前だが大切な質問をしてみる。彼女は返答に窮しているのか、しばし間が空いた後──
『正直なところ、分からない。どうすれば薬の影響を消し去る事が出来るかは私にも分からないの。ただ……記憶を破壊するものは確実に居る。それは彼の記憶の中で実体化をしているのは間違いない……筈よ。終わりの無い悪夢を延々と見せられると思ってもらったほうがいいかしら。
 彼の記憶には居ない、もしくは居ても何かしら記憶と違う存在が必ず現れる。それを何とかして打ち破れば、薬の影響は徐々に威力を失い、無効化されていく筈。……科学者のくせして、仮定ばかりの話でごめんなさいね。けど……こんな事私も初めてだから』
 元々第三者の記憶領域に入れるようになった事だって驚きなのに、それ以上のことを聞いてもそりゃ、知らない事に返事を窮するのは当たり前だ。要するに、倒せばいい。
 俺の無い頭を絞ってもいい知恵なぞアマリ以上に出てくる筈がなかろう。元軍人として、マクレディの相棒として、やるべき事は悪夢の存在を倒せばいいという事だけだ。
『Dr.アマリ、その悪夢……アンハッピーターンの存在が分かるか? もし検知出来るようなら教えてほしい。あとはこっちで何とかしてみる』
『わ、分かったわ。何とかやってみる。とりあえずマクレディの近くに居れば、必ず影響が現れるはずよ。気をつけて』
 よし、と──思った直後、ごぅん、と音を立てて目の前のバリケードとして成っていた巨大な一枚板が装置か何かによって持ち上げられた。いきなり大きな音が立った為か、先程の話の事もあって薬の影響が現れたのかとびくっとしてしまう。……が、そうではなかった。
 バリケードの向こう側、明りの灯された岩肌むきだしの広間の真ん中に、マクレディがぽつんと突っ立っている。どうやら彼が開けてくれたらしい。気が変わらないうちに走ってバリケードをくぐり、マクレディの目前に立った。
 ……思った以上にマクレディは小さかった。頭一つ分大きいヘルメットにゴーグルをつけたものを被り、あまりに大きいそれがずり落ちないように工夫しているのか、頭とヘルメットの間には白いスカーフを首元まで伸ばし、マフラーのように結んで垂らしてある。その代わり、ヘルメットと首を固定するベルトは結わずに耳元で垂れ下がっていた。
 帽子と同じ色の深緑の分厚いジャケットを羽織り、サスペンダーのように両肩に引っ掛けたベルトで固定してある。先程まで手にしていたアサルト・ライフルは背中に背負っていた。……どうやら彼の攻撃対象から外れたようだな。
「入れてくれてありがとう、マクレディ」
 にこやかに挨拶をきめてみたが、当の本人はじろり、とこちらを見据え、
「俺を呼び捨てにするな。いくらあんたでも呼び捨てにしていいなんて言った覚えはないぞ。もう忘れたのか? 俺の事は“マクレディ市長”と呼べ、って」
 つっけんどんな物言いに顔が再び引きつる。……しかしここで怒っても仕方が無い。だけどこういったあしらいをされてきたであろう、Vault101のジュリアンは内心どう思って対処してきたんだろうな……と心の中で不安になった。
「あ、ああ、すまないなマクレディ市長。俺の言い方が悪かった」
 素直に謝ると、彼はふん、と鼻を鳴らしてすたすたと歩いていってしまう。慌てて俺は彼の後を追ってみたものの、「着いてくるな」の一点張り。
「そうは言っても……ここはリトル・ランプライトなんだろ?」
「当たり前な事をもっともらしく言わないでもらおうか。市長は忙しいんだ」言いながら奥へとどんどん歩いていくので、俺は彼の行く先を封じるかのように走って目の前に立ってみる。
「……どういうつもりだ?」と、苛立ちを隠せない表情でマクレディが呟いた。ガキの癖に凄みだけは一級品だな、──けどそんなの俺には通用しないぜ、マクレディ。
「ここの中を案内してくれよ。市長なんだからこの洞窟内の事なんて知り尽くしてるだろ?」
 変わらずにこやかに言う俺と対照的に、これまた変わらずマクレディは上背が彼の頭一つ半高い俺を睨み付けながら、「断る」ときっぱり言ってくる。……かわいくねー奴。
「ああ、そうかい。……じゃあそれでもいいさ。俺はお前の傍から離れないからな」
 と言ってのけるとさすがに変だと感じたのか、
「は? 何寝ぼけた事を言ってるんだ、あんた? 俺の腰巾着にでもなろうって魂胆か?」
 腰巾着? ガキに──といっても12歳だが──似合わない言葉が出たと思うとおかしくて、思わずぷっと噴出してしまった。そんな俺をマクレディは憮然とした表情で見上げてくる。
「はは、おかしなことを言う奴だな、……そうじゃないよ。言うなれば、俺はお前の護衛を務めるみたいなもんさ。俺の事は気にしないでリトル・ランプライトを見回ればいい。ただし俺はお前の後ろをついて離れないからな。……ん? という事はやっぱり俺はお前の腰巾着みたいなもんか?」
 にやにやしている俺を他所に、マクレディは俺の脇を通ってさっさと先に歩いていってしまう。ついていけない、といった態度に、不思議と親しみを覚えた。ショーンが大きくなったらあんな姿になるのかな──でもあいつみたいな酷い口答えをするような少年には育って欲しくない。
「待てよ、マクレディ」
 踵を返し、彼の歩く方向に声をかける。黙って歩いて行ってしまうかと思いきや──つ、と彼の足が僅かな間、歩みを止めてくれた。こちらには顔を向けず、けど背後から近づいてくるであろう俺の足音を確認した後に再び歩き出す。
 何だ、素直じゃない奴だな──にやにやしてしまう。思えば彼はこういう性格だったよな。ガンナー連中と手を切るために手を貸した時だって、こちらから言わなければ彼は水を向けてはこなかった。
 苦しんでる時、助けが欲しい時、手を差し伸べてくれる人がいればどれだけ有り難いかをこの時の彼はまだ知らなかったのだろうか。

 リトル・ランプライトの中を歩いていくうち、辺り一面岩肌だらけの世界の中で居住施設や商品を売るお土産屋などの建物が点在するのには驚いた。時折記憶がテレビに映る砂嵐のようにぶれ続けたりするものの、マクレディの記憶の中に存在するリトル・ランプライトの世界に俺は感心していた。……どうやらここは観光地だったようだ。しかしどうして子供だけの世界を作る事になったのかは分からないままだが──
 その岩肌ひしめく広大な洞窟の中で、見かけた人物は一人も居なかった。……いや、俺だけが見えていないと言った方がいいかもしれない。
 先頭を歩くマクレディは時折、顔を動かしてはその方向に居るであろう誰かに話している仕草を見せるのだが、俺が見てもそちらには誰の姿も見えなかった。……何故だ?
『Dr.アマリ、どうして俺には見えないんだろう? 記憶が侵食されているせいか?』
 問いかけると、彼女はすぐに応じてくれる。傍にいるという証が心強い。 
『……まだその辺りにおかしな変化は見られないわ。恐らく、単に彼の記憶の中にインプットされて無いだけじゃないかしらね。それを忘却と云うけど』
 なるほど。そういう事も考えられるな。けど建物とか風景は記憶が鮮明に残っているらしい。戻れない故郷を鮮明に記憶に焼き付けようとしたのか、そういう経緯があったのかもしれないと思うと感慨深いものがあった。
「さっきから何をじろじろと見てるんだ?」
 辺りをきょろきょろしてたのが癇に障ったのか、こちらを振り向いてマクレディが声をかけてくる。俺の一挙一動が目につくのだろう。そりゃまぁ、記憶の中のVault101のジュリアンと俺は違うからな。どんなもんかと見てみたくなるのは当然さ。
「いやなに、ここがお前の故郷なのかと思うと、見ておきたくなってさ」
「……? 何訳が分からない事をぬかす? ここが俺の故郷だとしても、それがあんたに何の関係がある?」
 言われてみればその通りだ。でも……
「知っておきたいんだ。……お前はまだ、この場所でどういう事があって、どういう生き方をしてきたのか、俺に話してないからな」
 こんな事言ったらますます混乱するだけだろう──けど実際、マクレディはこの場所の事をあまり話してくれないのは事実だった。話したくない理由も分かっている。
 本来、俺がやっている事は彼にとっては決して有り難い事ではないのかもしれない。自分の記憶を第三者に曝け出しているも同然なのだ。知られたくない事があったら尚更隠すものだろう。──けど俺はマクレディを助けたいから来た。その行為が結果として彼にとっては身を切るような出来事だったとしても、俺は彼の辿ってきた歴史というには短すぎる生涯を、決して馬鹿にしたり卑下したりはしない。
「俺がそう言う事をぺらぺらと話すような奴に見えるのか、お前には?」
 鼻で笑いながらマクレディは言った。嘲笑に近いものだったが。
「ははっ、……まさか」手をひらひらさせながら言いつつ、「──だから自分なりに記憶に留めておくんだ。“頭上に岩だらけの天井があった方が居心地がいい”とか、ここに住んでた住人の話とか、言うだけ言っておいてお前はその背景を一切話しちゃくれないしな」
「……俺じゃない誰かの話をしているんじゃないか? それとも俺をからかってるのか?」怪訝な表情でマクレディが呟く。俺は小さいマクレディに近づき、彼の肩にぽんと手を置いた。……心なしか、あたたかみを感じる。
「マクレディ……市長、あんたにとって、ここは居心地のいい場所だったか?」
 手を振り払われるかな、と思ったが、マクレディはそんな事をせず、相変わらずこちらをじろりと睨み付け、「だから、なんでそんな事を聞いてくる? さっきも言ったが、お前に何の関係がある?」
 それは俺が、お前の事を知りたいからだ──と、返事を返そうとした時だった。
『ジュリアン!』頭の中に響くDr.アマリの声。
 突然金切り声のように響いてきたもんだから思わずびくっとしてしまい、それが肩に手を置いているマクレディにも伝わったらしく「おい、どうした?」と顔を上げて疑問を口にしてくる。
『おい、どうしたってんだ? 今マクレディと話を──』
 しかし、こちらの返事を最後まで聞くつもりはないのか、再びDr.アマリの声が脳裏に飛び込んできた。
『近づいてきてる。アンハッピーターンの影響がすぐ近くまで。……ああもう、さすがに何処からとは分からないけど、あなたの傍に居るマクレディを狙っているのは間違いない。用心して!』
 くそっ、と思わず声に漏らしたのをマクレディが耳ざとく聞きつけ、
「は? 誰がクソだって?」勘違いしたような事をぬかしてくる。……今はそんな事で言い合ってる暇はない。俺は辺りを見渡しつつ、
「マクレディ、俺の傍を離れるな」
 肩においていた手をずらし、彼の手を握る。突然手を握られて何をしでかすのかと彼は一抹の不安でも覚えたのか、
「おい、なんだこの手は! 離せ!」彼は言いながらぶんぶん手を振ってくる振り払おうとしてくるではないか。
「静かにしろ!」と──マクレディに一喝したと同時に世界が一段階、暗くなったような気がした。……先程まで煌々と照らしていた豆電球の明りが奇妙な事に明滅し始めている。……近づいてきているのだ。薬の効果が。
 と──辺りが暗くなった事で気をとられていた隙を狙ったのか、マクレディが力いっぱい振り払ったせいで思わず握っていた彼の手を離してしまった。──まずい!
「こちらの気が緩んだ隙に、俺をパラダイス・フォールズにでも連れて行くつもりだったのか? そうやって俺達を攫っては奴隷商人に叩き売るムンゴを何人も見てきたからな!」
 叫びながらマクレディは俺から距離を取ろうと小走りで向こう側──どんどん暗くなっている方向へと走っていってしまう。くそっ、彼の手を離しちゃまずかったのに!
「マクレディ、誤解だ! ……というかそっちに行くな!」
 こちらも走って彼の後を追いかける。
 パラダイス・フォールズという地名は知らなかったが、奴隷商人という言葉でなんとなく察しはつく。キャピタル・ウェイストランドにはあるんだな……そういった奴隷を扱う商人の町が。
 走っていくと、マクレディがかなり先で突っ立っている。辺りの電球は明滅を繰り返しており、暗がりのほうが分配が強くなってきている。早く行かないと彼の姿が闇に飲まれてしまいそうで──はぁはぁと息を荒がせながら走った。狭い洞窟内で走るのは危険だったが、形振りなぞ構っていられない。
「……マクレディ、そこから、動く、な」
 息も絶え絶えで彼の傍まで走っていくものの、先程のように走って逃げようともしない彼の態度に違和感を覚え──視線の先に目を向けてみると、最初俺が入ってきたものとは別のバリケードが作られてあった。それはいいのだが──そのバリケードのこちら側に人が立っている。──背の小さい、膝丈まであるピンク色のワンピースを着た少女だった。
 髪は短く、ヘアバンドをしており、こんな洞窟の中で住んでいる割には小奇麗な感じに見えただろう……彼女の周りを覆うようにして蠢いている黒い霧のようなものさえなかったら、だが。
「な……なんだ」
 俺の声に反応したのか、マクレディが仰ぎ見ながら「くそ、お前、まだ俺の事を──」と言ってくるが、おかしなことにマクレディはその場から動けない様子……動けない?
 ばっと彼の足元を見ると、黒い霧状のものがマクレディの両足を覆っているではないか。……まさか、あれが──
《マクレディ、あんた、何やってる訳?》
 異質な声が響いてくる。どうみても人間の声じゃない──ノイズ混じりの、抑揚のない機械音声のような声が、少女の口から発せられたものだと気付くまでに僅かばかり時間を要した。
「なにをやってるか、だと……」マクレディは足を動かそうとするも、黒い霧がまとわりついているせいか、その場に立ち尽くすしかない格好になっている。辺りの電球は激しく明滅を繰り返し、闇と光を交互に繰り返しながら、明りが灯る度に少女が音も無く近づいてきている事に俺は若干戦慄した。
 今まで実体している他人を見ていない。マクレディはこの記憶の保持者、俺はそこに入り込んだ異質な存在。そしてそれ以外の存在といったら……アンハッピーターンの影響しか考えられない。彼女はマクレディの記憶の中に居る人物を借りた悪夢そのものだ──
 音も無く近づいてきた少女はマクレディの目前でひたりと止まると、ぎろりと俺を睨み付けてびっ、と左手の人差し指を突きつけ、
《やってるじゃない。ムンゴをこの中に入れるなんて、あんた頭どうかしてるの? 市長として自覚ある?》
「自覚だと? 少なくとも俺はプリンセス、お前みたいな無茶な提案を市民に要求したりはしていない。お前のほうが余程──」
 プリンセスと呼ばれた少女──恐らくあだ名だろうが──は、俺に向けた指下ろすとにたりと君の悪い笑みを浮かべ、マクレディの胸倉を突然ぐっと掴んだ。マクレディが息を詰まらせる音を立てる。
「おい! 何やってるんだ──」
 マクレディを掴む彼女の手を掴もうとした自分の手だったが──すっ、と、彼女の腕を貫通し空を切った。えっ、と考える余裕も与えず、何の手ごたえも与えず、空を切ったのだ。……どうして?
「プリンセス、俺に掴みかかるとはいい度胸してるな、もう一度殴られたいのか? 5分で政権交代させたあの時と同じように?」
 変わらない口調でマクレディがプリンセスと対峙している最中も、俺はなんとか彼女の腕を引き剥がそうと躍起していた。が、虚空を切るだけで何もつかめない。黒い霧がどんどん強くなってきているのに。
《ああ、そうだったねぇ、あんた、私を殴ったんだったっけねぇ。
 じゃあ何倍にも返してやるよ。そうすれば、皆目が覚めるでしょ。……あんたがどんだけ軟弱者か、ってね!》
 言うが否や──プリンセスは空いていたもう片方の右手で、次の瞬間にはマクレディの左頬にグーパンチをめり込ませていた。
 止める余裕もなかった。マクレディは成す術なく吹っ飛ばされ、岩肌に背中を叩きつけられて倒れてしまう。──明らかに少女の力ではない。悪夢そのものとDr.アマリが言ったのはあながち間違いじゃないのかもしれない。
「マクレディ!」
 慌てて駆け寄り、身を起こしながら彼の頬を叩く。うぅ、とうめき声をあげながらも彼は何とか意識は保っていたが朦朧としているらしく頭がくらくらしている様子だった。
『Dr.アマリ! どうすればいい? 俺じゃ彼女──違う、アンハッピーターンの影響を止められない! 俺はその影響に触れるどころか、攻撃すら出来ないんだ!』
 呼びかけると、これまた慌てた様子のDr.アマリの声が響いてくる。
『そうだったわね……その可能性を捨ててたわ。彼の脳内にとって、彼と、現在影響を及ぼしている薬の効果以外触れられるものはないって……あら? でも、ジュリアンはマクレディに触れたのよね?』
『触れるも何も、今も彼の身体を抱えているが?』呼びかけに応えつつ、俺は彼の身体を抱えこみ、プリンセスの居るほうを向く。彼女はにたにた笑いながら、音も無くこちらに近づいてきていた。
『……ああそうか、ジュリアンは今マクレディと一時的とはいえ“道”が繋がっているからなのね。なら、影響に攻撃を与える事も出来るようになる筈よ。
 繋がりを強く認識するの。彼に触れていたほうがいいかもしれないわ。そうすれば多分──』
 強く認識ったってな──けど、このままじゃマクレディがやられるのを黙って見てるだけになっちまう。手段はあるんだ。彼を助ける希望の光は。
 手探り状態の俺を他所に、音も無く近づいてきたプリンセス──いや、すでに黒い霧と同化しており見分けがつかない──が、赤い口を開いてにやりと笑ってこちらを見据え、
《そいつを寄越せ》
「断る」
 言い切ると同時に、黒い霧がぶわっ、と自分に襲い掛かった。マクレディの足についたもの同様、四肢にまとわりつこうとするも霧は俺の足を通り過ぎてしまう。
《何故だ! 何故お前は影響を受けない!》
 蠢く霧が、相変わらずノイズ混じりの機械音声で叫ぶ。そりゃ俺は彼の記憶の中の存在じゃないから、薬の影響は一切受けないだろう。
「あんたの影響なんかこれっぽっちも受けないさ。俺はマクレディを助けに外からやってきたんだ! 彼の記憶を是正するためにな!」
 叫びながらそうだ、と確信した。俺はマクレディを助けに来た。それだけに意識を集中すればいいんだ。何を難しく考えていたんだ? 俺。
 黒い霧からマクレディを遮りながら一つだけ願った──この黒い霧から彼を守るために俺は来た。──そのための力を俺に与えてくれ。
 思うと同時に、右手に何かが具現化しはじめた。すぐにそれが俺がいつも愛用しているコンバットライフルだと気付く。重さを感じないそれは、小さなマクレディを抱える俺の手でも扱えるものだった。
「う、っ……」マクレディが呻きながら朦朧とした意識から回復した様子で、頭を振りしな、薄ら目を開けてくる。
「よぅ市長、立てるか?」彼の顔を覗き込みながら言うと、瞬間びくっと身体を震わせたマクレディが、次には自分が相手に抱えられているものだと悟り、
「なっ……何を馬鹿な事をしてるんだ、さっさと下ろせ!」変わらず悪態を吐いてくる。やれやれ、威勢だけは一丁前だな。
「下ろすのはいいが、決して俺から離れるなよ。いいな?」念を押しつつ、俺は彼を開放してやった。立ち上がった彼は辺りを覆う黒い霧の先を見て、再び身体を震わせた。
「あれは……プリンセス?」
 既に霧で覆いつくされた黒い物体を凝視している。まだプリンセスの実体を得ているのだろうか? 俺には黒い霧の塊にしか見えないのだが──
 彼にとっては、彼女もまたリトル・ランプライトの市民だ、本来ならば彼の眼前で彼女を撃つのは気が退ける──またも誤解を受けるかもしれない。けど、倒さなくては彼の記憶はいずれ蝕まれてしまうのは間違いない。──誤解なぞ、後で幾らでも弁明できるさ。
 身を屈めて片膝で立ちながら、俺は照準を彼女──もとい、アンハッピーターンに合わせた。マクレディは黒い塊を見て畏怖したのか、俺の背後に後じさりしていく。
 彼の爪先が、俺のブーツの踵に触れているのが唯一、彼と触れている箇所ではあった。そこだけ不思議と温かみを感じるのだ。
 俺は躊躇わずに引き金を引いた──ぱしゅっ、とサイレンサーつきの影響もあって、僅かな空気音のみで発射した弾は照準から違うことなく霧にぶちあたった直後、ぎゃっ、とうめき声と同時に銃弾を受けた場所からまばゆい光が一筋零れ出てきた。
 それがきっかけとなり、黒い霧を貫くようにいくつも光の筋が溢れていき──やがてばんっ、と四散するような音を立てて……霧は消えた。
 明滅を繰り返してた電球は何も変わらず、岩肌だけのリトル・ランプライトを煌々と照らしている。──不思議と辺りの温度があったかくなった感じに思えた。
「な……なんだったんだ、今のは?」
 マクレディがぽつりと漏らす。俺は立ち上がり、コンバット・ライフルを背中に背負ったホルダーに掛けると、振り向いて再度腰を屈め、彼の目をじっと見た。
 脳裏でDr.アマリが『やったのね? 薬の影響が消えてるわ!』などと叫んでいたが俺は返事を返さず、マクレディの双肩に両手を置いた。
「もう大丈夫だ。脅威は居なくなった」
「脅威って……さっきまであった黒い何かか?」
 そうだと答える。俺はそれからお前を救いにここに来たのだ、ともくっつけて。
「よく分からないが……あのプリンセスのパンチはきつかった。腫れたら暫く口が開きにくくなるかもしれないな」
 またしても噴出してしまう。やれやれ、お前は随分とタフガイなんだな。まぁ、だからここでも、キャピタル・ウェイストランドでも、そして連邦でも生き残ってこれたのだろう。
「マクレディ、……さっきは誤解させるような事を言ったりして悪かったな。
 でもこれで分かっただろ? お前の傍を離れないって言った意味が」
 にやりと笑ってみせると、気持ち悪いとでも思ったのだろうか、彼は俺の手を丁寧に肩から下ろすと、「……離れたくないなら好きにすればいい」とだけ言い捨ててさっさと広間の方へと戻っていってしまう。やれやれ、全く素直じゃないな。
 俺も立ち上がり、彼の歩いて行った方向に足を一歩踏み出そうとした瞬間──突如その足元が消えた。ぱっ、と、何の前触れもなく。
 えっ、と思う余裕すらなく、引力に逆らえず俺の身体が落ちていった。自らの制御が利かないまま落ちていくと、やがてぼぅ……とにわかに周りが明るくなったと同時に、再びあの記憶の欠片がまとわりついてきた。
「またこれかよぉぉ?!」
 叫びながら上を見上げると、先程まで自分が立って居た世界がぴかっと輝き、同時に一枚の記憶の欠片となって辺りを漂い始める。やがてそれは集まり旋風のように、俺の身体をもみくちゃにしていく。
 今度は何処だ? 何処に飛ばされるんだ──!
 纏わりついてきた記憶の欠片が、最初に見た時同様ふっ……と消えたかと同時に、再びあの衝撃が顔全体に広がった。ばん! と叩きつけられるようにして顔を地面にめり込ませている自分。……だから、何でこうなる?
「いっ、いて、ててて……」
 めり込んだ顔を持ち上げ、腰を上げて辺りを見渡すと──外の世界だった。とはいえ、あたりは真っ暗で、明り一つ見えない。荒野の真ん中で地面に叩きつけられるとは、なんとも情けない話だが、生憎誰の姿も気配も感じなかった。
「道理で土臭い訳だ……」
 顔についたものを手で払うと、簡単にそれが落ちる。長い間雨が降っていないのか、ぱさぱさで水分を含んでいなかった。落ちやすくてありがたいが、とても不安になるものだな。──けど、ここは何処だろう?
 Pip-boyの明かりはリトル・ランプライトに居た時からつけっぱなしだったが、何故か見てみたら消えていた。明りをつけつつ、今居る場所が何処なのか分かるかと操作して地図を表示させようにも、画面は何の反応も示してはくれない。
 所詮意識で作っているだけあって、本物と変わらぬ動きなどする訳ないか──やれやれと漏らしながら、何処に行こうかと辺りを見渡した瞬間、遠くの方でちらっ、と人影が動いたような気がした。
「……誰だ?」
 アマリに呼びかけてもまた俺を見失ったのか、反応がない。どうやらあの人影を頼って行くしかなさそうだった。一人ではなかった気がしたが。
 人影は建物の一角に消えたようだった。その中に入ったのだろう。月の無い夜の荒野を走っていくと、やがてその建物が見えてきた。エスカレーターが4台位並列してあり、その下、踊り場を経て扉、というかフェンスで作られたそれが一つあるだけ。勿論エスカレーターはどれも動いておらず、辺りは静まり返っている。
 入り口脇につけられてある看板を見ると──どうやらここは、地下鉄の駅のようだった。


※当ブログ記事内「Quirk of fate」参照。
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 長すぎるぅぅ!
 という意見が出てきそうだな。ってくらい長い。長い上に中の人も打ってて大変。
 でも頭の中で考えている事を全部詰め込んでるので結構楽しいです。読んでる人も楽しんでくれるとうれしいなあ。

 さて、次の話ですが・・分かる人はもう分かりますよね。
 次の話の為に今回の話を作ったといっても過言じゃないくらい、この話をど~~~~~~~~~~~~~~しても書きたかったんです。いずれ漫画でも挿絵でも描けたらいいのだけど。(もしくは誰かが描いてもいいです笑

 多分あと2回で終わると思いたいです。この長さがまだまだ続く訳ですな。
 読んでくれている人がいるかどうかいるか分からんですが、どうぞお楽しみに。

 ここ数週間マメに更新できててえらいぞ自分。
 この調子で続けていけたらいいですね。 ではまた。

れっつ・りたーん

※Fallout4二次創作小説チャプター2です。その手の部類が苦手な方はブラウザバックでお帰りを。
 これは第二章です。一章から読みたい方は前回の記事「Chain of reprisal」からお読みください。

 今回第二章にも関わらずめたくそ長いです(解説部分が多いため)
 休憩をとりつつ読み進めてくださいませ。



 連邦の、一番光が当たっているところといえば、誰もが同じ事を言い、誰もが同じ場所を指差すだろう。
 ダイヤモンド・シティ。又の名をグリーン・ジュエルとも云う。連邦に住む者達はそのスポットライトの如く照らされる安寧の場所を求め、一時は誰もがその地に足を踏み入れる。他の居住地とは違う、ありとあらゆる物を扱う店や食べ物に困らない環境に羨望し、憧れを抱き、その地に骨を埋めたいと思う者は少なくない。が──その輝く場所は何もかもがスポットライトに浴びせられてしまう。美しいもの、富める者も──醜い者も、貧しい者も。
 やがてこういう声があちこちで出てくる──同じスポットライトに当たる場所に、貧しい者や醜い者が居るのは許せない、と。
 そうして格差が生まれ、やがてそれは人々の心にふつふつと広がり始め──いつしかそれを払拭出来る事すら出来なくなった頃、ダイヤモンド・シティの中からフェラル・グールや、持たざる者達の姿は徐々に消えていった。現市長のマクドナウが率先して排除を行ったともいうが、それ以前から球状の輝くライトに照らされて生きるのが適わない者達はひっそりとその輝きの陰に姿を眩ましていくしかなかったのだ。
 向かう場所も、安住の場所も見つからない者達は、散り散りになったかと思いきや、やがて一つ所に向かうようになった。
 日の当たる場所を追い出された者、輝く場所を忌み嫌う者、そういう者達が各々自活できるように力を貸してくれる、一人の市長の元を頼って──グッドネイバーという街へ。

 グッドネイバーにはいくつか店もあれば酒場もあり、ハンコック市長の執務室兼住居となっている旧州議事堂や、かつては明光風靡を語ったであろうレクスフォード・ホテルなど、ダイヤモンド・シティでは見られない施設もあったりと、一見観光で赴く人が居てもなんらおかしくないだろう──物々しい自警団が辺りを徘徊し、皮膚を放射能で焼かれ、フェラルとなった者達が生活する場所に足を踏み入れる覚悟があるなら、だが。
 しかしそんなグッドネイバーの数ある施設の中でも、とりわけ異彩を放っている建物があるのを、初めて訪れる者なら気付かない筈がない。
 紅い照明に入り口を照らされ、その入り口の扉もまた、赤いペンキで塗りたくられている。その上に、その建物の名前らしき看板が掲げられていた。誰もがそれを目にし、その中に何があるのか想像するだろう──メモリー・デン。
 それは、人々の脳内にある記憶を写し、それを自身に見せる事が出来る“記憶シミュレーター”がある唯一の場所。
 自身の懐かしい記憶に浸り、生きる糧を再び得る為、もしくは懐かしい誰かと記憶の中で出会う為──人は大量のキャップを握り締め、その場所に向かう。現実に直面する力を失ったものは、そこで再び活力を得られるのか──その結果は自分にしか分からない。
 結果でどうあろうが、人が途絶えることは無かった──それほど“現実”は厳しいのだ。目を覆いたくなるような世界に背中を向けてしまう事もあるだろう……俺にはわからないけれど。
 そしてその施設の中でシミュレーターを扱うことに出来る唯一の人物がDr.アマリだった。
 彼女はその日も忙しそうに機器の点検を行っていた。メモリー・デンには複数の記憶シミュレーターがあったが、一般客に使われるシミュレーターは主に一階、オーナーのイルマが座っている場所に数台置かれている。全てのメンテナンスはDr.アマリ一人だけで行っているため、不具合が起きると全て彼女にその始末を任される有様だった。オーナーであるイルマはただのんびり座って、客がシミュレーターの中で時折見せる表情をぼんやり見ているだけである。
 しかしDr.アマリはそれに対して反論するつもりは無かった。シミュレーターを設置して資金を得、残った分は自分に返ってくるから決して悪い事ではない。それにここの施設の地下まで借りて、記憶シミュレーターを向上させるための実験をしていても文句の一つも言ってこないのだから、研究者としてはこんな場所を提供してもらえるだけでも御の字だった。
 だから普段どおり、彼女は一般客用のメンテナンスをしつつ、自身の研究に勤しんでいたのだった。ばん、と荒々しく扉が開く音の直後、床を鳴らしながら歩いてくる者が目の前に現れるまでは。

 旧州議事堂の建物の地下にあるサード・レールへ続く扉を開いた頃には、外はしんと静まりかえっていた。逃げていった客の姿は既に見えず、奇妙なことに、辺りを徘徊している自警団の姿も無い。
 何処に行ったのか、と思うと同時にぴんときた。サード・レールから一斉に客が出てきた事に訝しまない奴などいない。恐らく客の誰かをとっ捕まえるか何かして、中で何が起きたか聞いている可能性が高い。
 だとすると、ここに居るのは相当まずい可能性があるな。
 俺は肩に担いでいるマクレディを再度担ぎなおし、辺りを気にしながら小走りでメモリー・デンに向かった。時刻は既に夕闇に包まれた19時過ぎ。グッドネイバーはダイヤモンド・シティと違って球場のライトに照らされている訳でもないから、通りも薄暗く人に気付かれにくいのが幸いだった。
 スニークスキルが高いおかげもあって、小走りながらも辺りに居る居住者には気付かれる様子もなく、突っ込むように扉をばん、と大きく開くと同時に身を滑り込ませ、そのまま背中を押し付けるようにして扉を閉める。ほんの数メートル走っただけなのに、息が上がっている自分に驚く。
 マクレディが重い訳ではない。緊張しているせいだ。何故緊張しているかって──その理由は分からない。ただ、ものすごく不安だった。自分が見ていない間、マクレディに何が起きたのか分からない事、彼が無防備の人を撃った事、そして撃たれて死んだ相手の素性が分からない事──ああ、くそ。分からない事だらけだ。
 俺の肩に担がれたまま、マクレディはぜぃぜぃと息を喘がせ苦悶の表情を浮かべていた。顔は蒼白で、見る限り危険な状態だと窺わせる。
 急がなくてはいけない。俺は彼の腕をぎゅっと握り、担いだままメモリー・デンの広間に向かった。二人分の加重のせいで、床がみしみしと軋む音を立てる。
 広間にはいつもどおり、数台の記憶シミュレーターと、囲むようにして置かれているそれの中心に建屋のオーナーであるイルマが鎮座していた。鎮座しているといったほうがいいだろう。いつも彼女はそうしている。二人は座れるソファーに腰をくねらせるように大胆に座り、気だるげな表情で、ねっとりとした視線を俺に送ってくるので、俺は極力その視線から逃げるようにしていた。が、今はそんな事を言ってる暇はない。
「あらあら、いらっしゃい。たしかミスター・バレンタインのお目に適った探偵さんだったわよね?」
 ニックの名前を久しぶりに聞いた気がした。
「あぁ。……Dr.アマリは何処に?」
「いつも同じところ。地下室にいるわ。そこでいつも同じ事してる。……研究してる時は機嫌悪いときもあるから、気をつけてね。……ところで担いでいる人はどうしたのかしら? 気分が悪いようだけど」
 あまり無駄話をしている暇はないのと、自分自身も良く分かっていないせいもあって、俺は適当に挨拶を述べてから逃げるようにして階下へ向かう階段がある廊下へと出た。
 動かされて気分が悪いのか、うぅ、とマクレディが苦しそうに呻く。果たしてアマリはマクレディがこうなった原因が分かるだろうか。
 階段を降りてすぐ青い扉が視界に入る。その向こう側に彼女は居る筈だ。俺はドアノブに手を掛け、一気に開いた。
 彼女は試験・実験用におかれてある二台の記憶シミュレーターを行ったり来たりしていたが、扉の開いた音と同時に立ち止まり、ふっとこっちに振り向いて──
「ジュリアン? ……どうしたの? その人は?」
 俺と、俺の腕に抱えられているマクレディを交互に一瞥しながら、彼女は当然の質問を発した。
「その事で来たんだ。──マクレディを助けてくれないか。頼む」

 横にする場所もないため、ひとまずマクレディを記憶シミュレーターの座椅子に座らせた後、俺は今までの経緯を語った。サード・レールで飲んでいた事。俺がマグノリアに目を奪われていた最中、マクレディが見知らぬ男に注射を打たれ、今のような状況に陥った事。
「その注射を打った男はどうなったの?」
「マクレディが撃って殺しちまった。……おかげでサード・レールは大混乱だ。客が全員逃げちまったからな。ホワイトチャペル・チャーリーが俺達を出入り禁止にしなきゃいいんだが」
 軽くあしらうつもりで言ったのだが、アマリは表情を曇らせた。
「……てことは、いずれここにあんた達を探しに自警団がやってくるかもしれないわね。一応、グッドネイバーはハンコック市長を筆頭に、自警団を組織してこの街を守っているのは知っているでしょう? 彼らはギャングの抗争みたいなものなら知らん振りだけど、一般人のいる場所で発砲事件となると黙っちゃおかないと思うわ。厄介な事にならなきゃいいんだけど」
 それに対してこちらが何か言うより前に、Dr.アマリがひらひらと手を振って見せ、「大丈夫よ、あなたにはいくつも貸しがあるから、二人は居ないって誤魔化しておく。……それよりも彼の方よね。マクレディ、だったわね」
 やや面食らいながらもああ、と短く答えると、アマリは彼を撃った相手の男の素性を詳しく教えてくれと言ってきた。
「身なりは普通の……そこら中に居る居住者と同じ。擦り切れたジーンズと、……やたら身体に合わないシャツを羽織ってたな。身体はやや屈強。マクレディより腕力は強かったのかもしれない。抵抗も出来ないまま腕に注射針を刺されている辺り。
 所持していたのは38口径のパイプピストルと──これだ」と、俺は大事に腰のポーチに入れておいた注射器を彼女に手渡した。アマリはその注射針の中に残されていた液体にすぐ気付いた様子で、手袋を嵌めてあちこち慎重に検分し始める、かと思うと今度はマクレディの右腕をしげしげと見つめていた。針の太さと刺した部位を見ているのだろう。
「……相当抵抗したみたいね。彼の腕に相手の腕の跡がはっきり残っているわ。掴んだ形からして、どうやら背後から襲われたみたい」
 背後──そうだ。マクレディは俺の居る方と逆、背を向けて相手に10mmピストルを向け発砲していた事に今更ながら気付かされる。その後相手は──心なしか、にやついていた気がするのだが──鮮血を胸から溢れさせて絶命したんだった。
「……けど、これ以上は手を貸せそうにないわ。知ってるでしょ、私が専門としているのは医学じゃないって事を」
 突然そんな事を言ってきたので、思わずこちらも反射的に「そ……そんな事言わないでくれ、あんたしかここでは頼れないってのに」と弱音を吐いてしまった。
「分かってる。けど……私は機械工学と人造人間関連の僅かな知識しかないのよ。インスティチュートが何を企んでるかまでは知らないけど。医学の方は殆どと言っていいほど専門外。彼が何を打たれたまで特定するのは──」
「そうは言っても、マクレディがこのままで良い訳ないだろう? 彼を助けるにはあんたの力が」必要だ、と言い続けようとした俺をDr.アマリがすっと手のひらをこちらに向けた。黙っていろ、という合図だろうか? 言い続けてもよかったが、彼女を怒らせればますますこちらの分が悪くなるだけなので、ぐっと言葉を堪え、押し黙ることにする。
 Dr.アマリは注射針に残っていた僅かな液体をじっと見ていた。先程から何度か見ていたのだが、何か変わった点でも見つけたのだろうか。……僅かな沈黙の後、
「……さっき、これを所持していたのは身なりからして普通の居住者風じゃない男、って言ってたわよね」
 神妙な顔つきで言ってくるので、こちらもつい「……ああ」と神妙に応じてしまう。しかし次に彼女が発した言葉には耳を疑った。
「もしかして、その男──ガンナーじゃないかしら。いや、ガンナーじゃないとおかしいの。そんな感じしなかった?」
 ガンナーだって? 
 なんでその事を──と思うと同時に胸にすとんと落ちるものがあった──サード・レールでホワイトチャペル・チャーリーが発した言葉──
“そういやここ数ヶ月の間、数日おきにお前を探してるって奴がここに何回も顔を見せてるんだが、お前知らないか、マクレディ”──
 その探していた人物が──殺した奴だとしたら。
 着てる服は窮屈そうだった──身なりを隠す程度の変装だったのかもしれない。
 所持していたのは38口径のパイプピストルのみ──これまた居住者を装う程度の僅かな武装をしただけかもしれない。
 けど解せないのは三つある、──何故Dr.アマリはガンナーと判別できたのだ? マクレディがかつてガンナーと手を組んでいた事を知っている筈は無い。彼女の口ぶりからして、マクレディを見るのは今回が初めての態度だったからだ。
 もう一つ。防具を装備をしていなかったこと。背後からマクレディを掴むという、振り切られれば至近距離から撃たれる可能性を持ちながら、敢えて武装をしなかった理由。
 そして、マクレディに刺した注射器。……ここからDr.アマリはガンナーの言葉を口にした。注射器に別段、変なところは無かった。となると、中に入っている液体の原因が分かったのか?
「何故、彼らだと……?」
 呻くようにに声を出す俺を無視して、彼女は一度奥の部屋に引っ込んでからすぐ戻ってきた。手に何かの瓶を持って。
「これ。何か分かる?」手にした瓶を俺に差し出す。──蓋がしっかりと閉じられ、中には透明の液体が入っていた。瓶には何か書かれたシールが貼られているが、何と書いてあるかは判別できない。
「……水、じゃないよな」
「恐らく、注射針に入っていたものと同じ薬剤よ。今からそれを証明してみるけど……出来ればこれじゃ無い事を願いたいわね」
 何だって? と言いたかったが、Dr.アマリは黙って瓶の蓋を開け、スポイトでそれを幾らか抽出してから、試験管に注ぎ入れた。……黙って見ていた方がいいだろう。しかしさっきまで自分は助けにならないとか言っておきながら、次の瞬間にはマクレディが打たれた薬を特定するとか、科学者ってのは掴み所が無い奴ばかりだな、と内心ぼやくに留めておいた。
 一つの試験管に液体を入れると、今度は俺が手渡した注射器のピストン部分を引き抜いてから、残っていた液体を別の試験管に全部注ぎこむ。その後、別のスポイトで何らかの薬を両方の試験管に入れ、コルクで出来た蓋を閉めると両方の試験管を一つずつ持ちながら両手で管を振り始めた。
 何をしているのか──と黙ったまま見ていると、両手に持った試験管の中の液体がにわかににごり始めた。透明だった液体がみるみるうちに白濁のそれに変わっていく。片方ではない、両方共、だ。
「Dr.アマリ、それは──」
 ぽつりと言葉を漏らしてしまった。無視されるかと思ったが、彼女は答えてくれた──酷く疲れた口調で。
「まさかと思ったけど……間違いない。でも、これで何を打たれたかは分かったわ」
 試験管を振るのを止めて、ケースに両方とも置いてから。彼女は俺と、俺の横でシミュレーターに座ったまま時々呻いているマクレディを見ながら口を開いた。
「何を打たれたかは分かった。──人造人間用の薬剤を打たれたの。それを開発したのはガンナー一派の何処かの組織、としか分かってない。私はそれを──あなたも知ってるでしょう、レイルロードの一員であるグローリーから受け取ったの。こういう薬を開発している連中がいる、って」

 人造人間用の薬剤……
 得体の知れない薬をマクレディは打たれたというのか。先程、この薬じゃない事を願いたいと言ったDr.アマリの言い方からして、相当危険な部類の薬なのは間違いない。
「……経緯を話してくれ。その薬を手にした経緯と、治療法を」
 促すと、アマリは黙って首肯してから、重そうな口を開いた。
「あなたも知ってるでしょう、インスティチュートのコーサーに、逃げた人造人間を戻す仕事を引き受けているガンナー連中が居るって。前にそういう人造人間を助けた事があったわよね。……そこで、ガンナー連中の中に居る頭の切れる奴が、人造人間に効く薬を開発したらしいの。
 それは人造人間の記憶中枢を瞬時に破壊し、何の役にも立たなくさせる劇薬──連中はそれを『アンハッピーターン』と呼び、コーサーとの交渉が決裂しそうな時それを使って脅すらしいのよ。最もそれに応じるコーサーが居るかどうかは分からないけど……。
 グローリーに話を聞いたとき、この薬の一部を手に入れたから持っていて欲しい、って言われて受け取ったのよ。レイルロードのDr.キャリントンも持っていて、この薬の治療薬を作るために四苦八苦してるみたいだけど──芳しくないみたい」
「ちょっと待て、人造人間に薬剤が効くのか?」当然の質問をしてみたが、彼女はこれまた黙って首肯して見せてから、「第三世代の人造人間はほぼヒトと変わらない構造をしているから、人間と同じ薬を飲んでも同様に効果を発揮するわ。ニック・バレンタインや戦闘兵として街中で見かける人造人間には効かないでしょうけど。
 そして勿論、それはヒトにも効くのは……言わずとも分かるわね」言いながらちらりと苦しい表情で息を弾ませるマクレディを見る。苦しい表情で息も絶え絶えの彼を。
「つまり……つまり、マクレディは、助からない……と?」
 絶望の淵に落とされた気分だった。──薬は判別できたのに。信じたくなくて、俺は目前に座っている彼女の顔をじっと見てしまう。
 Dr.アマリは俺の視線を受け止められず、すっと視線を落とす。……無理なのか、マクレディを助けることは、もう──
 けど、彼女の答えは違った。
 ふぅ、とため息を一つついたのち──「……あまりあなたに希望を持たせたくはないのだけど──」
 え。「何か方法があるなら言ってくれ。俺に手伝えることがあるなら──」
 おかしなことに、この時俺は相当狼狽していた。何故狼狽していたのかは分からない。分からない事だらけの中で、マクレディを失うことだけは嫌だという強い意志だけが自分を突き動かしていた。
 Dr.アマリは俺の剣幕にやや圧倒されながら、落ち着いてと何度もこちらをなだめつつ、
「……さっき言ったわよね、“人造人間がこの薬を打たれると、記憶中枢を瞬時に破壊され、何の役にも立たなくさせる”って」
「ああ」間髪を入れずに相槌を入れる。
「薬を打たれてから、1時間は経ってるでしょう。それなのにマクレディはまだ死んでないわよね。……私はそこにヒントがあると思う。
 何故人造人間の記憶が瞬時に破壊されるかって、それは恐らく、人造人間が持たされた“かつての生前の人物”の記憶の一部しか持っていないからと思うわ。
 人造人間は所詮彼らのコピーであって、彼らの記憶を全て受け継いでいる訳じゃない。だからすぐ記憶を破壊できる。……でも、ヒトは違う。
 ヒトは生きてきてからの経験、記憶、出来事を脳の海馬という部分に記憶している。それは人造人間のそれとは比較にならないほど膨大なもの──だから瞬時に記憶を破壊する事なんて出来ない。即ち、まだ猶予があるってことよ」
 猶予がある……その言葉に一瞬救われかけたが、結局のところ、治療薬がない以上どうやって?
「ジュリアン、前以上に厳しい事になるかもしれない。……それでも行くなら、私はあなたに“道”を授けることが出来ると思う。
 マクレディを助けるのには、彼の記憶を破壊するもの──アンハッピーターンの影響を除去できれば、彼を救うことが出来るかもしれない。その影響がどういうものかはわからないけど──それでも彼の脳の中に行くというなら、道を授けることが出来る。どうする?」
 この時ばかりは、Dr.アマリが神の如く後光を放つ者に見えた──というのは誇大広告すぎるが、実際彼女の差し出した手を受け取るしかマクレディを救う方法は見つからないのだ。……つまり、かつてケロッグの記憶チップを辿って彼の脳の中に入ったのと同じ事を再びするという事。
 すぅ、と息を吸い、俺ははっきりと答えた。
「勿論、行くさ。行くに決まってるだろ」

 実験用の記憶シミュレーターを二台起動すると、Dr.アマリはあわただしく動き始めた。
 マクレディの帽子を取って「失礼するわね」といいながら、彼の頭に脳波検査で使うような電極をぺたぺたと貼り付け始める。
「そんな装置で彼の脳内に入れるのか?」
 頼りないと思った訳ではないが、ニックの時と違って今回は生きている人間の脳内に侵入するという事だけに、頭に電極をつけただけで大丈夫なのかと不安になる。
「あなたがニックの身体を使って、ケロッグの記憶中枢に入った後から私が何もしてないと思ってるんじゃないでしょうね? 色々研究して開発してきたのよ。ヒトの記憶の中にも侵入することが可能かどうか、って──でも、これはまだ実験段階で、試験もしてないから成功確率は五分、ってところね。上手く行く事を願うしかない」
 話ながら、ぺたぺたとマクレディの頭を敷き詰めるようにして電極を貼り付けると、「ああ、あれを渡さないと」とアマリはぱたぱた走って一旦奥まで引っ込み──すぐさま戻ってくると、はいと言いながら手を伸ばしてくるので、つられてこちらも伸ばすと、手のひらに二つ、輪っかのようなものが落ちた。──指輪か?
「何だ、これ」
「それを、あなたとマクレディの左手の薬指に嵌めて」とDr.アマリは平然と言ってくるので俺は目を丸くしてしまう。──左手の、薬、指。
「おい、それって──」
「言いたいことは分かる。戦前の人間は結婚するとした者同士で指輪を左手の薬指に嵌めるという話。私も知らない訳じゃないの。
 けど、それにはちゃんとした理由があるのを知っているでしょう? 左手の薬指に指輪を嵌める意味が何か。そしてこれからあなたはマクレディの脳内に入る、その為に道を作らなくてはいけない。その為に必要なものなの。
 その指輪には微弱な静電気を発する装置が組み込まれてあるわ。その静電気があなたとマクレディに一時的な“道”を作る標になる。ジュリアンはマクレディと血縁関係でもなければ婚姻してる訳でもない。その為マクレディの記憶があなたを拒否する可能性も出てくる。それを防ぐものだと思っていればいいわ」
 ……よく分からないが、必要なものだといわれれば仕方がない。俺は立ち上がり、シミュレーターの椅子にほぼ横たわる形で伏せているマクレディの左手を取り、すっと指輪を嵌めてやった。
 なんだかとてもおかしな気分だな、と自嘲してしまう。普通男が男に指輪を嵌める行為なぞやるか? 意識がある時にマクレディにしてやったらどういう反応をするのか見てみたい気もするが。
「嵌めておいた。他にやることは?」
 自分の指にも同じものを嵌めてから質問を投げかけると、「無いわ。こっちも準備できてる。……ああ、でもちょっと待って」と言ってから、Dr.あまりは記憶シミュレーターを扱う機器から離れてこちらに近づいてきた。
「どうした?」
「いえ、……一応聴いておかなきゃって思って」と言いながら、Dr.アマリはもじもじとしていた。──言いたい事はわかっている。
「……なぁ。もし俺が、マクレディの頭の中から戻らなかったら──」
 こちらから水を向けてやると、彼女ははっとした表情を浮かべ、次にはぶんぶんと首を横に振っていた。
「そんな事はさせないわ。ケロッグの時と同様、私があなたを最大限サポートする。あなたがマクレディの記憶の中の何処にいるかちゃんと突き止めて──」
「分かっているよ。あんたには感謝している。いつも無茶なお願いばかりして、申し訳ないと思う位だ。サポートを宜しく頼むよ。
 ……でももし、万が一、マクレディが目覚めても俺が戻らなかったりしたら──彼に一言、伝えて欲しい事があるんだ。さっき申し訳ないと言ったばかりで失礼とは思うんだが、頼まれてくれないか」
 Dr.アマリは渋々ながら応じてくれた。自分が必ず助けるというつもりでやってくれているからこそ、万一なぞ考えたくないのだろう。
 けど、最悪の事態を想定しないつもりで俺も危険な道に向かうつもりは無い。だからこそ──俺は彼女に、その言葉を伝えた。
 それを聞いたDr.アマリは目を丸くして、「……本当にそれだけでいいの?」と問い返してくる。
「ああ。あんたならそんな事しないだろうと踏んでの事だ。信用しているからこそ伝えたんだからな。宜しく頼んだぜ」
 にやりと笑みを浮かべてみせると、当惑したようにアマリは目を伏せて、うんうんと何度も頷いて見せた。
 シミュレーターに向かう前に、俺はマクレディをじっと見つめた。時折苦しそうに呻き声を上げている。彼の手をぎゅっと握ると、いつもと変わらぬ体温で、熱もないのに彼の頭の中では破壊が繰り広げられているのかと思うと、胸にこみ上げてくるものがあった。
 ──疑ってかかるべきだった。彼を探しているという奴がどういう素性の奴ぐらい分かりそうなものなのに、俺は既にガンナー連中からのマクレディに対する報復は終わったとばかりに高を括っていたのだ。そのせいでこんな事になるなんて誰が予想しただろうか。俺がマグノリアの歌に夢中になっていたばかりに。
 ──けど、今からお前を助けに行くよ。待ってろ、マクレディ。
「急いでジュリアン、打たれた時間から逆算しても、数時間しか残されてない筈」
 Dr.アマリの声にああ、と応じながら俺は彼の手から自分のそれを離した。次その手を握るときは必ず来ると信じて。
 シミュレーターに入り、背もたれを倒したような格好で座ると、ゆっくりとした動作でカプセル型の蓋が閉まった。透明の蓋には中型のスクリーンがくっついており、その映像を覗き込む形で、人は自らの記憶と対面するという仕組みになっているのだが、今回は前回同様、他人の記憶の世界を歩くという事だから出だしからどうなるか想像もつかない。
「カウントダウンが始まるわ。──ジュリアン、気をつけてね」
「ああ」
 ケース越しではあるがはっきりとした声でそう答え、俺はスクリーンのほうをじっと見た。やがて映し出されている映像が僅かに動き始めると、10.9.……とカウントダウンを始めていく。
 色んな事が頭に浮かび、消えていった。マクレディと出会った時の事、彼と話したありとあらゆる事──
 彼の記憶の中が今どうなっているのかは想像もつかなかった。けど俺のやることは一つだけ。打たれた薬の影響を止めさせる。それだけ。
 3.2.1──0。
 カウントダウンが0になったと同時に、画面がぱあぁ、とまばゆいばかりの白い光に覆われた。
「ぐぁっ……!」
 目が焼かれる感覚に思わず瞼を閉じる──と同時に、身体と意識が分離する感覚に襲われた。強く白い輝きが俺を引っ張り出そうとしている。肉体から──
「意識を強く持ってジュリアン! ここで気を失っちゃだめよ──」
 Dr.アマリの声が耳元でした──ような気がしたが、その時俺の意識は肉体を離れ、輝く白い光に吸い込まれていた。
 なんだこれ……ケロッグの時とは違う。違いすぎる。
 それでもやがて目が光に慣れてきて恐る恐る目を開くと、とんでもない光景が視界に飛び込んできた。
 記憶の渦、といったほうがいいだろうか。白く輝く光を遮るように、時折ふっと何かがよぎる。全く知らない人物の姿、見たことの無い場所、あらゆる事象が写真のような四角く切り取られている断片となって、渦を作り出していた。
 渦に逆らうことなど出来ず、俺は断片にもみくちゃにされながら身を投じる形で落ちていく。
「うわあぁぁああああぁ?!」
 情けない声を上げてしまう。──と同時に、突然渦の中から身を脱したかのように記憶の断片が消えたかと思うかみなかで、どかっ、と顔に鋭い痛みと、衝撃で目に火花が走った。意識の中にいるせいで、上下の感覚が全く分からないせいでしばし、頭の中が混乱する。
「いったぁ~~……ったく、何だってんだ……」
 頭を振りながら、立ち上がる。──辺りを見回してみると、岩盤に囲まれた殺風景な場所だった。薄暗く、しかし完全な闇ではない。ごつごつとした岩肌に、いくつか天井や壁に打ち付けるようにして照明が点々と灯されてある。
 自分が叩きつけられるようにして落ちてきたのはどうやら通路の一角のようだった。……洞窟の中だろうか。
 とりあえず俺はマクレディの記憶の中に侵入は出来たらしい。……らしいのだが、Dr.アマリの声はまだこちらには届いていない。俺が何処に落とされたのか判別できていないのだろう。
 とりあえず進んでみるしかないだろう。自分の記憶には、こんな岩だらけの場所なんて見た覚えがない。即ちここは彼の記憶の中──なら、マクレディがどこかに居る筈だ。
 薄暗いため、Pip-boyの明りをつけてみると、意識の中でもちゃんと装置は光を灯してくれた。今は俺の意識でしか動いていない筈なのに、身なりも、腕につけているPip-boyもちゃんとそこにある。無意識に認識しているせいだろうか。
 進んでいくと、やがて開けた場所に出た。いくつも連なった電球が天井にぶら下がっており、その先に、大きな板と、間仕切りのようにいくつかトタン板や木材を無造作に打ちつけて出来たバリケードがあった。大きな板には何か文字が書かれてあるが、所々煤けているせいで判別が出来ない。
 何処からか拾ってきたのか、STOPの看板が丁度バリケードと通路の間に置かれている。何で止まらなきゃいけないんだと思いながらも、俺は無視してバリケードの方へ歩いていく。──と、頭上──バリケードの上部辺りからか、突然けたたましい声が耳に飛び込んできた。
「それ以上近づくな、ムンゴ! ここはお前のような大人が来るような場所じゃない」
 誰だ? と──辺りを伺ってみるが、薄暗いせいで人の姿は見えない。……というか、ムンゴって何だ?
 止まれと言われても埒があかないので、無視して近づこうとすると再び、
「それ以上近づくなと言ってるだろうが! これは警告だぞ、聞こえないのかムンゴ!」と罵声──にしては甲高い声だが──が飛んでくるので、ついこちらも言い返してやる。
「俺はムンゴなんて名前じゃない。さっきから人のことをそう呼ばわりする奴は誰だ? 姿を現してみろ!」
 大人気ないと思いながらも内心苛立ちながら叫ぶと、バリケードの上部の僅かな間から、顔を覗かせたのは一人の──子供だった。頭には兵士が被るような深緑色の円形ヘルメットを被り、手にはアサルト・ライフルを手にして、睨むようにじっとこちらを見据えているのは──二つの青い瞳。
 その目を見た瞬間、全てを悟った。相手が名乗らなくても分かった。この場所が何処で、俺を見る子供は誰なのか。

“小さかった頃、リトル・ランプライトって所に住んでいたんだ。そこで長を勤めてた事だってあるんだぜ。
 そこは岩だらけの場所で──時々恋しくなるよ。岩だらけの天井がある場所を。16までその場所にいたせいかな、もう戻れない場所だとしても、時々ふと、そう思う事があるんだ”──

「……お前、マクレディか?」
 それは間違いなく、彼の記憶の中にいる“マクレディ”そのものだった。
 記憶の中の世界しか会う事の出来ない、交わらない時間軸を埋め合わせるかのような出会いと共に──その記憶を蝕みつつある黒い影が近づいてきているのを、俺はまだ知らなかった。






-------------------------------------

長い。長すぎる。
相変わらず回りくどい文章が得意な中のヒトです。どうもこんにちわ。
終わらない話のまま、とりあえず今回は予定通りのステージまでチャプターを進めようとしてここまで長くなりました。ごめん。

 
記憶シミュレーターはですね、メインクエストでたった一度しか出てこないのに、あんな素晴らしい機械を何度も出さないなんてベセスダなんてもったいない! って思って考えたネタなんですね。これ。
 ただ、ヒトの記憶にどうやったら入れるのかとか、そこまでいく経緯とか考えに考え抜いて作ったわけでして、人造人間の薬とか、あれほとんどつい最近になって思いついた部分です。ニックさんスティムパックは使えるけど。
 薬の部分とか、そういう細かいところは結構想像とご都合主義的な所で書いてるので突っ込まないでちょうだい(笑)

 で、次からいよいよ記憶の中で旅をする訳ですが。まぁ長くてもダレるだけなので
どうしても描いてみたい描写だけにとどめるつもりです。ここら辺は前々から考えていた通りかな。

 というどうでもいい解説でした。
 次回更新をお楽しみに。(している人が居ると嬉しいです)
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傭兵
自己紹介:
スカイリムはホワイトラン在住のドヴァキン。
現在のところ引越しする予定はなし。
中の人はヘタレですが一応同人誌作家。マイナーゲームの絵を描いてたり。
文章も多いですが一応絵の方専門。
スカイリムの絵とか描いたりフォトショでSSをレタッチしたりするのが好き。
スカイリムに影響されて2012年から英語の勉強を始め現在進行形で勉強中。
ラジオ英語を聴いているのだが、英会話教室に通いたいのに時間と金が無くて嘆いているとかいないとか。

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