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SkyrimとFallout4・76の二次創作メインブログです。 たまにMODの紹介も。
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05.13.05:58

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  • 05/13/05:58

10.31.00:55

誘う者、誘われる者(承前)



「……ふぅ、いい湯だった」
 既に夜半を過ぎている。そろそろ寝ないと明日がきついのは分かっていたが、ちびちび酒の入ったジョッキを口に向けていたせいで、気づけば夜も更けていた、という訳だ。
 いつものレッチング・ネッチで飲んでた訳だが、その日はちょっと違っていた。場所は変わらない。しかし──つと、俺はベッドサイドに置いてあるナイトテーブルの上に無造作に置かれた箱に目を移した。
 ──ほら! お前に相応しいと思ってな、船から来た商人にそれらしいのがあったら仕入れてくれって頼んでおいたんだ、どうだジュリアン、買わないか……っていうか買ってくれよな、結婚申し込む際には必要だろ?
 カウンターでちびちび飲んでいる俺の隣に座りしな、レイブンロックで雑貨店を営むファシス・アロールが声を掛けてきたのは、俺にとある物を買ってくれと言う、相談──こっちの意思を無視して勝手に仕入れたんだ、相談といってもいいだろう──だった。
 無造作な小箱の中に押し込められていたのは、細工を施された青い石を光らせる金色の指輪だった。勿論只の指輪ではない。婚約用のそれであるのは見て一発で分かった。普通、身を守る用途としての魔力を込めた石を嵌め込んだ指輪より細やかな細工がされていたためだ。
 余計なお世話だと内心毒づいたが、ファシスの話術は巧みだった。交渉術に関しては俺より長けているかもしれない。結局それを、何とか値切って二千セプティム金貨で支払い、半ば強引に押し付けられた──そしてその二千枚の金貨の対価として受け取った指輪は、箱から出さずにナイトテーブルの上に鎮座している。
 ……まだどう言ったらいいのかすら考えあぐねているというのに、周りだけが囃し立てているのは正直苛々させられたが、彼らはからかってる訳ではないのは分かっていたから、尚更苛立ちをどこにぶつけたらいいのか分からず途方にくれていた。セラーナには極力普段どおりに接してはいるのだが、苛立ちに気づいていてもおかしくはない筈だ。
 雫が垂れる髪を無造作に布で拭いつつ、どうやったらこれを渡すきっかけが得られるかと思案していた時だった。
「あら、そんな格好で湯冷めしますわよ?」
 ノックもせずいきなり扉を開けて入ってきたセラーナが、開口一番突いて出た言葉はそれだった。思わずびくっと身を震わせながら背後を見ると、セラーナが訝しげにこちらを凝視しながら突っ立っていた。
「なっ、なんでノックしないんだ。いきなり入ってくるなよ」
 後ずさりしながら、俺は半裸の格好で立ったままの自分が恥ずかしくなった。以前まではセラーナが寝室に入ってくるのは別段、気にもしなかったのに今こうして彼女が目前に居るとどきどきしている自分が居る。上半身裸のまま、下はやや擦り切れた皮製のズボンを穿いてはいるが、こんな格好を第三者に見られたら確実に変な想像をするに違いない。
「……今までもこうしていたじゃありませんの。今更じゃありませんでして?」
「そうかもしれないが……」後ずさりしながら、ナイトテーブルの上に置いたままの箱を素早く手に取り、背後に隠す。「で? 何の用だ」
 彼女は肩をすくめて見せ、「ジュリアンが居なくならないように見張っているだけですわ。どうぞおやすみなさいませ」
「は? 俺が居なくならないように……?」
 一瞬、何の事を言ってるのか分からなかった。俺が居なくなる訳ないじゃないか……セラーナにあんな大々的に告白したのに?
「ええ。……またミラークの影響でジュリアンが何処か勝手にフラフラと出て行かないように見張っているんですわ。出て行こうとでもしたらどんな手段を使っても阻止してみせますわよ」
 ぽかんとしてしまったが、次の瞬間には笑いに変わっていた。あははと声を上げて笑うと、セラーナは何がおかしいのかと目を細めてこちらをにらみつけてくる。
「……何がおかしいんですの?」聞いてくるセラーナの声のトーンがやや低い。
「いや、だってさ……岩は全て浄化したんだし、あれからミラークの悪夢も見ないし大丈夫さ。気にしすぎだぜセラーナ」
 気遣ってくれるのは嬉しいけどな、と心の中で付け足す。セラーナは鼻白むような表情を見せながら、「……どうだか。まだ岩が一つ残っているのをお忘れじゃありませんですわよね? 聖堂にある岩を。だから聖堂でまだミラークによって操られている人が居るんですのよ? 聖堂だけでもと思ってまた人を操らないとも限りませんわ」
「そうかもしれないが、俺は大丈夫さ……って、毎晩それを続けてたのか? 今晩は何故俺の寝室まで来たんだ?」
「当たり前じゃありませんの。別に今夜が初めてって訳じゃありませんわよ。毎晩ここでジュリアンを見てましたわ。急に起きたりしないか、と」
 耳を疑うような言葉がセラーナの口から突いて出た事に俺は驚きよりも先立って恥ずかしくなった。何だって? 毎晩ここで俺を見ていただって?
 寝言で変な事言ってやしないか不安になった。セラーナの名前を呼んでやしないだろうか……と思うと気が気でない。
「俺の部屋で監視しなくてもいいから、セラーナも身体休ませておけよ。仮にも女性なんだから」
「ご心配には及びませんわ。……私に気にせず寝てもよろしくてよ」
 目の前に異性が居るのにベッドで寝ろと言われても簡単に眠れるわけないじゃないか……
 内心どきどきしながら心の中でごちた時だった。
「……ん?」
 あらぬ方向を見た俺に「何かありましたの?」とセラーナがすかさず声を出す。ミラークの気配でも感じたとでも思っているのだろうか。
「いや、何か今聞こえたような……岸の方から……」
 言ってからしまった、と気づく。ここはセヴェリン邸の地下、ソルスセイムの家屋は殆どが地下に穴倉のような構造で作られているため、俺が今居る室内は地上ではなく地下だ。それなのに何かが聞こえた、なんて言えばセラーナがますます訝しむに違いないと思ったのだ。
「……私は何も聞こえませんでしたわ。やはりミラークがまた何か……」
「いやいや、それはないぜセラーナ。ミラークの声じゃなかったし」と、そこまで言った時また再び何かが耳に入ってきた。
 か細い、呻くような……音。でもその音は何かを訴えるように、同じ音を繰り返しだしている。
「まただ……何か聞こえないか? セラーナ」
 振ってみるも、セラーナは黙って首を横に振った。俺だけしか聞こえないってことか? やはりミラークかなにか……?
 風が地上を滑らせて灰を振り散らす音か何かだろうか、そう思えば合点がいく。セラーナの耳に届かないのは……気のせいだ、きっと。
 そう思い込もうとした矢先だった。

“たすけて”

  ──さっきから同じ音が微かに聞こえていたのが、はっきりと言葉となって伝わった。微かに途切れ途切れだったため聞き取りにくかったのかもしれない。
 たすけて? 何かが助けを求めているようだった。それが何なのかは分からないが──勿論聞いてしまった以上、見逃すわけにはいかない。
 俺はベッドの脇に置いといたチュニックを素早く被り、腕部分を紐で括る。鎧等は身に着けなくても大丈夫だろう。何かあれば逃げてくればいい。
 素早く身支度を整え、最後に両手剣が括りつけられているベルトごと背負ったところで、何をしでかすのかと黙ってみていたセラーナに言った。
「寝るのはお預けだ。……誰かが助けを求めてる。行くぞ」




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 承前とうたってますが、実を言うと次で終わるかどうかはなぞw
 こんばんわ。先週はブログをオヤスミしてすいませんでした。なぜかというと、当ブログの通算20,000Hitアクセス記念のリクエスト絵を描いていたためですw
 それがなんとか昨日無事に完成できたので今日なんとかブログを書いてます(文章的には結構ひどいものですいませんorz)
 完成したリク絵がこちら。

 リクエストして下さった方が
「ジェイ・ザルゴが沢山いて仲良くご飯を食べてる図を」とのご希望だったので、それに沿った感じで(?)描いてみました。
 ちなみにリクエストいただいた(つまり2万ヒットした)のは7月辺りだったのに、完成したのは三ヵ月後とか申し訳ございませんでしたorz
 しかも明日(今日)は冬コミ当落発表日だし!!

 まぁそんななので、一生懸命コミケ当落前まで頑張って完成させた次第でありました。
 リク下さった方も気に入って頂けたようでほっとしております。変じゃないかと内心あせっておりました(ぉ
 とても楽しく描かせていただきました。
 で、勿論次もやりますよ。3万ヒット記念リク絵。
 まだまだ3万は遠いですが、もし次は私(俺)がリクしたい!! という奇特な方がいらっしゃいましたら、毎日ご覧になっていってくださいませ。

 で、さっきも言ったように明日(今日)コミケ当落発表日。
 受かれば勿論Skyrimの新刊は出します。今回はシセロとどばきん(ジュリアン)+ちょろっと最初だけセラーナが出てくるかな? な1枚ネタのみの本。
 冬コミは着手から当日まで短いので今回も相当うっすぅぅい本になりますが、受かる事を願っていて下さい。受かればこの場でまた発表いたします。

 それではまた、定期更新日に。

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10.16.23:58

久々のプレイ日記はネタ写が多い。

久々にプレイ日記カテでブログを書きます。
 こんばんわ。一気に寒くなってハチミツ酒をちびちび飲んでいる俺ですw
 思えばスカイリムブログを作って二年半、あまりマトモにSSどどーんと撮った日記を書いたこともなかったので今回久々に近況のプレイ日記+アルファ(相変わらずのアレとか)を。
(今回載せるSSは全てフォトショップで加工してあります。実際のゲーム画面とは違うのでこのEMB何?! とか問い合わせないでやってください)


 最近のジュリアンさん。弓プレイしてると前に書いたのですが、相変わらず両手剣プレイもやってますw
 やっぱセラーナたんを前衛に置くのはちょっとね・・全体を通して騎士プレイをしている俺のポリシーにあわないというか何と言うか。
 まぁスカイリムは色んなプレイがいつでもどこでも変えられる(自分の中でスイッチが変わるといったほうがいいか)のがいいところの一つなので、臨機応変にやってます。それこそが傭兵らしいかなぁと(笑)何でも扱える的な。(但し魔法はからっきしダメ)


 最近のセラーナたん。ドレスを着せてみました。
 ドレスっつっても勿論MOD(Witcher2の衣装MOD)だけど。防御力0だけど(笑)
 防御力ないと着てくれないんですが、無理やり初期装備をひっぺがして(汗)
 この服の襟部分のレースに惹かれて着せてみましたw お姫様っぽい服・・というより黒いからどちらかいうと魔女っぽい(-_-;)

 ↑のちょっと前は

 コレを着せてました(笑)TERA防具セットの一つですな。
 色はピンクでかわいいんですよー しかもミニスカだし!!w
 上のドレスと比べると若々しく見えますな。やっぱセラーナたんはミニの方がかわいいのかなー
 ・・と色々サイトを漁ったりしていい服を探し回ってます。
 TERA装備はどれも肌露出が多くていい感じですw


 男性で肌色多い装備の最終形といったらコレしかない(笑)
 セラーナたんが平然とこっちみてますが(さらに笑)、どうみてもいくらどばきんさんでもこんな格好で迫ってきたら確実に平然とした表情で吸血攻撃仕掛けてくると思います(-_-;)
 だってどう見たって変t……(以下略
 でも時々中の人はこれでプレイしてたり←ぇ


 セラーナたんがちょっといい服着てるのでジュリさんも着替えてみたw
 ・・といっても遠くてよく見えないけど。確か「エスカ&ロジーのアトリエ」の衣装じゃなかったかな?w
 近場で見るとちょっと粗っぽいので遠くから撮ったほうが色々とごまかせてますw
 しかしセラーナたん、衣装によって胸の大きさが変わる(それを前回の夏コミで出した本でもネタにしましたが)けど・・一体何カップなんだろう・・Bくらい?(適当)

 などとあまり楽しくもないSS集を並べてみました(笑)
 この衣装気になる! ていう方は是非俺が書いた検索ワードでNexus辺りを探してみて下さい。すぐ見つかりますw

 え? 相変わらずのアレが載ってない?
 まぁアレは相変わらずのエロっぷりというかなんというか(-_-;)
 前にも載せたけど、ちょっと色々足したものを。



 事後、だな(笑)
 色々隠して(&加工して)ちょっと怪しい雰囲気にしてみましたw
 実際は室内明るい場所です。なのでこうやって暗めに加工すると色々隠せるしごまかせる氏でまぁいいかなと。
 こういうの載せていいのかなぁ、、と相変わらず思ったけどまあ前にももっときわどいの載せたしいいか、と(開き直り)

 サービス足りないのでセラーナたん側から。
 これまた少し加工してます。頬紅とかおっぱいのテカりとか口紅のつやつや感とか他にも色々。
 俺のPC環境じゃフツーに撮ってもつまらんので、こうやって後から補修と加工をするのが一番楽しいですね。
 事後な雰囲気が出てるんじゃないでしょうか?w 本当は汗とか入れたかったけど面倒だからやめた(ぉぃ
 第一そこまでリアリティにしてどうする!w と天の声が聞こえたため(嘘付け

 え? ゲーム内ではこんなことやってるのに二次創作のジュリさんはなんであんなに野郎の癖にウブなのかって?
 あれは5割中の人の影響と、残りの半分は傭兵稼業ばかりやってるせいで女に慣れてない(女性経験は一応有るけど本気で人を好きになった事がないせいからきてるというか。ここら辺はHPにも載せてる18禁小説の人物紹介にも記されてるので気になる方はそちらもどうぞ)という設定を元にしてます。話を作る以上、キャラクターの設定はある程度作ってますが、女性経験云々とかは後付ですな。
 このブログの記事内でも何回か出てますが、元々は傭兵という立場でこの世界にきたら冤罪でとっ捕まった、という設定からスカイリムが始まったという感じで書いてるので、スカイリム来る前はシロディール辺りにいた感じです。ノルドだけどね。
 ゲームのどばきんさんと二次創作のどばきんさんはどちらもジュリアンですがw


 とりあえず今回の久々プレイ日記(?)はこの辺にて。
 お見苦しいSSばかりで大変失礼いたしました。次はこないだの続きを書いていけたらいいなぁと思ってますが・・まぁ気長にお待ち下さいませ。
 ではまた。次回の定期更新日にて^^ノシ

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10.13.00:40

One day Stranger.(ソルスセイム風に)

※「Taken.」から「Concord.」まで読んでると分かる所も多いので推奨。


 その日の夕方。
 いつものように常連客が、晩酌を兼ねて訪れるレイブンロック唯一の酒場、「レッチング・ネッチ・コーナークラブ」。
 しかしその殆ど常連客しか居ない酒場が、その日は定員以上に人が入り、大盛況となっていた。
 人々はにこやかに談笑し、和気藹々としていた──唯一つ、彼らが同じ話題をしている事を除けば、だが。

「いらっしゃい……おや、ジュリアン」
 レッチング・ネッチのオーナー、ゲルディス・サドリがカウンター越しではあったが、メインホールから地下に通じる階段を下りてきたのを見て、いつものようにいつものような常套句を述べてきた。
「よっ、……って、今晩なんか人多くねぇか?」
 ざっと見ても、空いているテーブルもなければカウンターも人だらけだ、珍しい事に常連客以外の住民まで混じっている。今日会合でもやる日とか言ってたかな? という記憶は無いが……ここ数週間満足に眠れてなかったせいもあって覚えていないだけかもしれない。
 俺の傍らにはセラーナが、やはり同じように周りの客の多さにやや驚いている様子。今日は出直した方がよさそうだな。
「サドリ、今日は人が一杯みたいだからで直してくるよ。また今度……」
 と俺が踵を返そうとした時だった。
 辺りの客──といっても全員見知った顔ではあるから変に思うところはない──がいっせいにこちらに顔を向けたのだ。全員ほぼ同時に。
 なんだ? と思うより先に声がその中から飛んできた。
「おお、ジュリアンじゃねぇか! 待ってたんだよ、さあこっち来いよ!」
 一番乗りに声を掛けて来たのは、レイブンロック鉱山関連の依頼で世話になったクレシウス・カエレリウスだった。依頼が終わった後に話しかけられる事はなかったため、あまりの気さくっぷりに少々引いてしまう。
 彼の声につられて、他にも数人の男連中が俺の周りを囲むようにして近づいてきたため、一瞬喧嘩腰にでもなるのかと身構えてしまう。……が、殺気も感じられないし戦おうとする姿勢でもない。表情がやや下卑た感じをのぞけば、だが。
「いや、……席、無いみたいだし。今日は帰らせてもら……」
 再度踵を返そうとした矢先、
「硬い事言うなって。一緒に飲もうや、さ」
 と俺の腕をむんずと掴んで引っ張ったのは、レイブンロック唯一の鍛冶屋であるグローヴァー・マロリーだった。盗賊ギルドに在籍するデルビン・マロリーの兄。
 グローヴァーが俺の腕を掴むやいなや、他の男共が俺を囲んでカウンターまでぞろぞろと連れて行かれる様はまるで怪しい連中にしょっぴかれていく感じそのままだった。なんだなんだ?!
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、セラーナ……、」
 首だけ動かして背後を見やると、一人取り残されたセラーナに、カエレリウスの妻(?)であるエイフィアと、俺を囲んでいる連中の一人であるフェシスの娘、ドレイラが話しかけて少し離れたテーブルへと促しているようだった。こちらは引きずられてはいないが、やはり半ば強引に進めている様子ではある。
 何だこの計画的犯行は? 俺とセラーナを別々に引き離そうと……?
「彼女は大丈夫さ、たまにはジュリアンも男同士で飲みたいだろ?」
 誰もそんな事頼んでないのに、無理くり俺をカウンターに座らせた数人の男連中──グローヴァー、カエレリウス、フェシスにエイドリルまで──は、俺がカウンター席に座ったのを見計らって手近にあった椅子をわざわざカウンターまで運び、各自座り始める。
「サドリ、スジャンマを5つ頼むぜ」
 グローヴァーがバリトンの良く響く声で注文すると、カウンター越しで今までの顛末を黙ってみていたサドリが、待ってましたとばかりにスジャンマの瓶を棚から下ろし、全員に手渡した。不精ながら俺もそれを受け取る。酔わせようったってそうは問屋がおろさねぇぜ。
 ぼそぼそと各自で乾杯を言い、瓶を口に運ぶ。久しぶりに味わうスジャンマは空きっ腹には強すぎて、一気にじりじりと胸が焼ける感じがした。
「……で? 俺をこんな風にしたのには理由があるんだろ」
 酒を飲んだところで切り出す。何を企んでいるかは大体は分かっているが相手の出方を待つより先手を打っておいたほうがいい。
 いきなり切り込んできたかと思ったのか、五人のダンマーやノルドは互いの顔を見合わせていた。誰が返すか思案しているようだったが、それを取り成すようにグローヴァーが意見を申し立てるように片手を上げてみせると、
「昼間から見せ付けてくれたようじゃないか、ジュリアン。セラーナと桟橋で痴話喧嘩の果てに抱き合ったって話、漁師連中や定期船の船員に聞いたぞ」
 淡々と話してくれた事実に俺は然程驚きはしなかった。やっぱりか……ある程度覚悟はしていたとはいえ、噂の伝達の早さに辟易せざるを得ない。
「……だから何だってんだ? そんな事別に……別にたいしたことないだろ」
 いかん、ちょっと言い淀んでしまった。変に思われなければいいのだが。
「大有りじゃないか。我々はジュリアンに数多く助けられた者達だぞ、あんたが目出度い事になれば俺達だって喜ぶものだ。そうだろう?」
 そうだそうだと納得しながら数人がうんうんと頷く。……ってちょっと待て。
「目出度い事って何の事だ?」
 俺がミラークの服従から解放された事か……ってそれを知っているのはセラーナとフリア、そしてストルンしか居ない。だとしたら何だ?
「結婚するんだろう? 桟橋でプロポーズしたそうじゃないか? 今更照れなくったっていいじゃないか」
 へ? プロポーズ?
 あんぐり口を開けかけたが、慌てて閉まいこんだ。どうにも話が尾ひれをつけまくっているようだった。
「……それ、誰から聞いた?」
 窺うように聞いてみると、先程と同じ「漁師と船員から」ときやがった。恐らく彼らが、俺の行動に少しばかり尾ひれをつけて町の誰かに話したのだろう、それがどんどん大きくなって……半日足らずで町全体に知れ渡ってしまったようだ、スコール村同様ここでも、俺とセラーナの行動は逐一見られているような気がして落ち着かない。
 五人の野郎は望む答えを待っている様子だったが、あいにく俺の答えは彼らの望むそれを持ち合わせてはいない。
「噂がでっかい尾ひれをつけちまったようだな。……悪いが俺はプロポーズなんてしてねぇよ。ただ、セラーナに行かないでくれと言っただけだ。痴話喧嘩でもない」
「行かないでくれなんて言った日には、誰にだって痴話喧嘩だと思うではないか? まして男と女が向き合って話しているんだし」
 正論をついてきたのはエイドリルだった。さすが評議員の下で働いてるだけはある、頭の回転は酒を飲んでも正常らしい。そうだそうだと他の四人も一斉に頷く。何故かカウンター越しでサドリまでもが頷いていた。
「そうじゃねぇって、俺は……」
「まぁまぁジュリアン、少し冷静になろうや」と言って来たのはそのサドリだった。カウンターに置いた俺のスジャンマの瓶を新しいものと取り替えてくれる。
「冷静になれって? 誤解を受けたままじゃ俺は嫌なだけだ、俺は──」
「だから冷静になれって言ってるんだ、ジュリアン。俺達はな、別にあんたをからかおうとして集まったわけじゃない。皆あんたとセラーナの事を知りたいだけなんだ。分かるか?」
 知りたいだって? ──サドリの言ったことが何のことかさっぱり分からないままだったが、それまでずっと黙っていたフェシスが口を開いた。
「考えてもみろよ、あんたがソルスセイムに来たのは数ヶ月前だ、島に来てから何度かスカイリムに帰った事もあったが、その都度戻ってくる際、一緒に行動してるのはあのセラーナって娘だけだ。
 ここまで言えば全て言わなくても分かりそうなものだろ? 普通、好きでもない異性とそこまで長期間行動を共に出来るか? あんたに何か特別な理由でもある訳があるなら別だが……いや、特別な理由があろうがなかろうが、長きにわたって一緒にいるってのはそれだけで目を引くもんだ、ましてや男女となるとな。
 ……で、今回の一件が町中に知れ渡ってから、俺達は思ったのさ、『あの堅物男はやっぱり彼女とデキてたんだ』ってさ」
「わしは最初からこいつらはデキてると思ってたぞい、鉱山開放の一件でわしと行動してくれた時からな。おまえさん達の息のぴったり合った行動で敵を倒す姿を見て感動したぞ、そして思ったんじゃ、二人は結婚してるのか? っての。まさかしてないとは思いもよらなかったがな」
 フェシスの後にカエレリウスが話を補強しつつ、グローヴァーが後を引き取る。
「……そういうことだ。俺達はジュリアン、あんたをからかったりするために集まった訳じゃないって事が分かっただろう?」
 どうだか。と内心ごちる。彼らは結局のところ、浮いた話一つ浮かばないこの小さな町で、楽しみを見出した子供のようにはしゃいでいるだけに見えるのは俺がひねくれているせいか。
 ──でもあながち彼らの洞察は間違っちゃいなかった。言われればああ、と納得できる事もある。自分自身では気づかなかった点が第三者に指摘されてはっと気づく欠点のように。
「そうだな……まぁ、あんた達の言いたい事は分かった。
 けど、俺はプロポーズはしていない。こればかりは嘘でもなんでもない。本当の事だ。」
 嘘ではないと、五人とカウンター越しのサドリの顔をまっすぐ見据えて言う。
 しかし彼らは落胆する様子すら見せず、
「じゃあ聞くが、好きでもない女に『何処にも行かないでくれ』とか言う男がいるか? ……ああ分かってる。諸事情があってそう言ったんだろう? でもそれを差し引いたとしてもあんたの行動は理に適ってないんだが」
 痛いところを突いてきたのはサドリだった。酒場の主人はこういう切り返しがうまい。交渉術に長けているのだろう。
 彼らはこう言っているのだ、お前の行動の裏に何の感情が働いているのかを──と。
 勿論俺はその答えを知っている。ミラークに囚われたアポクリファの世界の中でようやく気づいたからこそ、俺はあの時足を踏み出す事が出来たのだ。
「そうだな………こっからは、酔った男の戯言だと思ってくれ。誓えるなら話してやってもいい」
 勿論、とその場にいる男全員が頷いて見せた。念のためちらりと背後を見ると、やや離れたテーブルでセラーナとエイフィア達が話しているのが見て取れた。こちらの声は聞こえないだろう。
 ふぅ、とため息を一つつき──サドリが渡してくれた二瓶目のスジャンマを一気に口に流し込み、言った。
「セラーナが好きだ。いずれ結婚したい……と思っている」
 おお、と言う者、にやにや笑いを浮かべる者、それぞれ態度は違ったが、全員がはからずともやっぱりな、と言いたげなのは分かった。畜生、俺自身それに気づいたのはつい半日前だってのに。
「で?」サドリが問いかけてくる。
「で……って?」こちらは俺。
「バカだな、いつ彼女に言うんだって聞いてんだよ。俺達に言って当の本人に言わない訳あるまい?」
 そんな事考えるだけで顔が赤くなりそうだった。畜生、何で俺はこういうのに弱いんだ。傭兵稼業やってて長いのに、未だに女性経験が少ないせいなのと本気で好意を持った異性なんて居なかったせいで、どう言ったらいいのか想像もつかない。
「……そりゃ、言うさ」
 いつかは、と心の中で言う。今はまだ心の中が整理しきれてなくて、俺自身どうこれからセラーナと向き合っていけばいいのか不安になる事もある。
 ──自分の気持ちに嘘をつきたくはないから近いうちに言うだろう。その時どういう答えが来るかで俺の行く先が変わるかもしれない。また一人で行動する事になるかもしれない──そう思うだけで心が不安になる。人を好きになるというのは、こうも自分が脆くなるものなのか。こんな不安は初めてだった。
「話は以上でいいか? ──酔ったせいで眠くなった、悪いが先に帰らせてもらうぜ」
 不安を振り払うように、そう言い捨ててひょいとスツールから降りて立ち上がる。突然話を終わらせた事で気を悪くしやしないかと思ったが、意外にも彼らは引きとめようとはしてこなかった。カウンターに数枚のセプティム金貨を放り投げると、サドリは器用にそれを受け取って見せる。
「セラーナ、帰ろうぜ」
 彼らの前で彼女を呼ぶのは気が引けたが、セラーナを置いていくわけにもいかなかったため呼ぶ。彼女はふ、とこちらを向いた後エイフィアとドレイラに二言三言挨拶を交わし、小走りでこちらに近づいてきた。
「話は終わりまして?」
「ああ、……飲みすぎて眠くなった。行こうか」
 と、扉の方へ足を向けた時、
「ジュリアン! 頑張れよ!!」
 と、いきなりカウンター付近に座っているグローヴァー達が声をかけてきた。何を頑張るのかと聞かれると返答に窮するため、ああ、と短く答えてから俺とセラーナはレッチング・ネッチを後にした。

「なんの話をしてたんですの? ずいぶん込み入ったようでしたけど?」
 酒場を出ると、レイブンロックの広場にあちこち置かれてある街灯のぼんやりしたオレンジ色の光が辺りを照らすだけで、人気は全く感じられない。時折風が吹いては、地面に落ちた細かい灰を舞い散らしていく。
「……まぁ、色々な。ちょっとした世間話ってやつだ」
 そう言っただけで彼女は深く詮索してこなかった、代わりに自分の方を聞いてもらいたいと思ったのか、
「あら、そうでしたの? 私はあの二人──エイフィアとドレイラに何故かあなたと私の事をしつこく聞かれましたわ。どういう関係なのか、と」
「へぇ。……そりゃまた、何でそんな事聞いてきたんだろうな?」
 彼女の方へゆっくり振り向きながら、とぼけた風に言ってみる。……エイフィア達もグローヴァー達とぐるだった訳か。計画を練って、酒場に俺たち二人が来たら引き離して各々に聞いてみようとしたのだろう。
「さあ? おおかた何処からか変な噂でも聞きつけたんじゃありませんの?
 私に忠誠を誓った者ですわよ、と答えたのですが何故か不満そうでしたわ。どうも納得してない様子で何度も同じ事を聞いてきましたけど」
 ははっ、と口から自然に笑い声が漏れた。セラーナは何がおかしいのか、という風に疑問符を顔に浮かべている。……そうだった、忘れてたぜ。
「何がおかしいんですの? 私の言った事何かおかしくて?」
「いや、何もおかしくねぇよ。その通りさ、セラーナ。……ところで、突然で悪いんだが、右手をこちらに出してくれないか」
 首を傾げながらも彼女は俺に手を差し出してきた。その手をゆっくり左手で掴み、流れるような動作で俺は彼女の手の甲に口をつけた。
 つけた途端に彼女の手がびくっと震える。ちらりと彼女の方を見ると、セラーナが左手を胸に当てて当惑した様子でこちらを凝視していた。頬がうっすら赤く染まっている。
「一度別れてしまったからな、再度誓わせてくれ。……俺の剣と命をもって貴方を守ると」
 人気もない広場の真ん中で突然行われた事にセラーナはどうしたらいいのか困った様子で、
「何も今やらなくてもいいんじゃ……わ、分かりましたから、手、もうよろしいかしら?」
 半ば払うようにして彼女は手を戻すと、ぷいとセラーナは顔を背けた。顔を見られたくない様子だった。
 そんな態度が可愛いなと内心思いつつ、セヴェリン邸へとゆっくり歩き出す。こちらを見てないと確認してセラーナも数歩送れてついてくる。その足音を耳に感じながら、いつか──近いうち、忠誠ではなく結婚を申し込んでみようと俺は心で決めていた。

 同時刻。レイブンロックからやや離れた海辺で。
 ザシュッ、と剣で斬られる音と、僅か後にどさっ、と重い何かが地面に叩きつけられる音が響いた。
 その後、誰かの足音が遠ざかっていく。あとはただひたすら、波が砂地に打ち付けられるざざ、ざざ、という音のみ。
 その中で何かが必死に“声”をあげていた。助けてくれと願っていた。

 「それ」に気づく者が現れるのは、およそあと、数日の後──


------------------------------

 前回の話のアフターと次の話の伏線をちょろっと混ぜてみました(笑)
 何回かこのブログで載せてる「ある日のどばきん」シリーズのソルスセイム版です(笑)


 結婚に重きを置いてるように見えてるかもですが、実を言うと全然そんな事ないですwただスカイリムでは結婚が楽に出来る(離婚は出来ないけど)ので、段階的にセラーナと絆を深めていく感じで書いてはいますが。
 一年前に書いた二次創作と比べるとずいぶんと関係が明白化してきてますが、これもまた絆の表れですかね。

 よくこういう話が思いつくもんだと思う方もいるかもですが、基本話を考えたり作ったりするのは中の人が好きな作業の一つです。ただ、完全オリジナルとなると世界観から作らなくてはいけないため、そうなると若干難易度が高くなるのであまり作ってません(作れないわけではないのだが)
 なのでスカイリムみたいに、ある程度世界観が決まっててその地でどういう人が生きていて生活してて、っていう舞台を予め与えてくれるとその舞台でキャラクターをどう演じさせようかという部分のみにスポットを当てればいいため、ものすごく楽です。勿論世界観を大事にしなければ何の意味も成さないため。まずはその舞台を知らなければいけないわけですけど。

 なのでゲームプレイ中はしょっちゅうNPCの会話をSS撮って何かに役に立たないかなー位でプレイしてます(笑)気になる会話が出ると創作に使えやしないかとかそんなプレイの仕方してるの多分俺だけです(-_-;)
 勿論作ってる話は数多のスカイリムという世界の中の一つの時間軸の話みたいな形なので、各々のプレイするスカイリムとはまた違った感じで
「こんなんスカイリムちゃう!」
 みたいに思われたらごめんなさい。まだまだ勉強不足の点もありますので至らないこともあるかもです<(_ _)>

 最近そんなのばっかりでこれまたごめんなさい。近々マトモにプレイ日記載せたいです。
 ではまた定期更新日(最近日曜にUPしてばっかでこれまたごめんなさい(-_-;))


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10.05.17:41

あとがきに変わるあれこれどれそれ



 はい。長々とお疲れ様でございました。
 賞味一ヵ月半ってところか。第七章構成とはいえ短いチャプターもあったりしたので賞味5~6チャプターあたりだろうか。
 後半につれてどんどんどんどん文章量が過多になっていったため、相当読んでる人は苦労をかけたと思います。ご迷惑をおかけし・・といっても読む気がないならそれでもOKなので最後まで読んでくださった方のみ、ありがとうございました<(_ _)>

 いやーでもほんとここまで長くなるか? と思いましたよ、ええ。かなり後悔しました。なんでここまで話が広がっちゃったかなぁ・・と。
 でもまぁ、スカイリムというゲーム上では恋愛感情もクソもないままケコーンできるというシステムなので、長きにわたり旅を一緒に続けてるセラーナたんに意味を持たせたかったのかもあったので良かったのかなぁ、と思います。

 しかし第七だけで2週間ちょいかかってしまったorz
 でもやっと終わったのでほっとしてます。とりあえずコンセプトとか色々書いて見ましょうかね。

第一章を書いたとき、「これはミラークのミエナイチカラの話だ」と言ったのを覚えてますでしょうか。まさしく見えない力──夢のなかで襲われるドヴァーキンには抵抗するすべもなく、考えついた挙句行動にうつしたのは岩を浄化すれば彼の力も半減するだろう、という点。
 ミラークさん、実体がなくてハルメアス・モラのオブリビオン領域にいるだけの存在だけど人には見えない力で操ったりしてるのを見て、単に聖堂や岩を復興や改造(?)したりするだけの力じゃもったいないな、と思ったのがきっかけですな。時々自分もその改造チームに入っちゃったりしますけど、同じドヴァーキンなのにこれだけしか(自分に対して)攻撃を仕掛けてこないミラークさんにもう少し意味を持たせたくて、じゃあどばきんさんに攻撃を仕掛けるようにしよう、だけどどうやって? と話が膨らんでいってこうなりましたとさ(笑)

同じ道云々は完全にその伏線で、岩にルーカーが憑いているだけじゃつまらんからそれによってジュリアンさんに憑依みたいなことさせちゃえば岩を段階的に開放していくうちに繋がりが強固になるかもね、みたいなこじつけです(笑)。ほら、岩に服従のシャウトを当てると出てきたのと同じように、ミラークさんは服従のシャウトを使うと同時にそういうのを入れてるんだよ、みたいな・・うまく説明が出来んorz
最もしっかり伏線回収できたかどうか分かってるようで分かってないかもです。もしフラグ回収してなかったらこっそり指摘してやって下さいorz

あと、全創造主の力ってよく分かってません(笑)
ただストルンとフリアにはセラーナの援助をしてもらうため、スコール村で見せていたような力でジュリアンを探しにいってもらいたかった感じですかね。
この話は完全にセラーナとストルンとフリア(フリアはちょっとしかないかな)にスポットが当たっている話ですな、あとミラークさんも。
ジュリアンさんは悪夢にうなされてうぉぉ状態にしたのはそういう意味もあったりなかったり。

で、最後のあのハズカシイ話は何だというご指摘(笑)
あれは元々のプロットにはなかったんですが(セラーナが船に乗るお金がないというのはプロットに入れてはあった)、それだけじゃなんか物足りない、ドヴァー×セラが好きな俺としては実においしくない(笑)、という感じで考えていたら、ならセラーナがソルスセイム出て行くフリをさせれば面白い絵が描けるんじゃないか、と頭の中で考えて追加した話です。完全に某アニメを意識してますけど、でもまぁこういう感じで終わってよかった話じゃないかなと思います。うん、きっとそうだ。

全章あわせると一冊の薄い本ができそーなくらいの話になっちゃいましたね。こういうめためた長い話はずいぶん久しぶりだったので大変でした(-_-;)暫くはお休みしますが、短い話はちょろちょろ書くつもりです(コミケに受かればそれもまた休みますが)。
次はネッチとかリークリングが出てくるのを書きたいなー。。とぼんやり考えてます。まぁどうなるかはご愛嬌。

ああそうだ、手前に載せてある落書き、第七チャプター最終部分で出てくるシーンを描いてみました。挿絵に使おうかと思いましたが挿絵を入れるのが嫌だったのでここに載せておきます(笑)

それでは長々書くのもあれなのでこれにて失礼。
読んで頂きありがとうございました。感想叱咤激励その他コメントなりメールなりどうぞ。涙流してフスロダします(笑)

参考にしたサイト一覧
スカイリム攻略情報様
http://skyrim360.blog.fc2.com/
クエスト関連で色々参考になりました~ありがとうございます。

楽曲作品一覧(中の人が執筆中に聞いてた音源の作品名一覧)

ギャルゲー「CLANNAD」オリジナルサウンドトラック
TVアニメ「宇宙船サジタリウス」オリジナルサウンドトラック
OVA「覇王大系リューナイト アデューレジェンド」オリジナルサウンドトラック
MMORPG「The Elder Scrolls Online」オリジナルゲームサウンドトラック
PC専用カードRPG「Card Wirth」よりシナリオ内サウンド(MP3、MIDI音源)
TVゲーム「The Elder ScrollsV:Skyrim」よりアドオン「Dragonborn」内音源(曲名不明)
その他(忘れたorz)

かなり幅広いって? まぁ中の人の年齢がアレなのでそうなりますね(笑)

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10.05.17:03

Concord.(2/2)

※Skyrim二次創作小説第7チャプター(の2/2)です。その手のモノが苦手な方はブラウザバックでお帰りを。

※2:後半ですがめっちゃくっちゃくそ長いですorz
    なので読む方は途中休みながら読む事をオススメします。長くてごめんなさい<(_ _)>

これは第7話(の後半)です。1話から読みたい方は「Taken.」からお読み下さい。(二次創作カテゴリから楽に飛べます)




「何故、それが岩の浄化と関係あるんですの?」
 長い時を黙って話を聞いていただけだったセラーナが問いかけた。
 ……何時間が経っただろうか、窓に目を移すとすっかり夜を迎えているらしく、黒く塗りつぶされたその先には雪景色も映っていない。
 室内に居るストルンとフリアは、互いの精神力をすり減らしながら詠唱を続けていたが、数時間後にはその詠唱は止まっており、彼らと談話などが出来る状態になっていた。
「全創造主に力をお借りさえ出来れば、あとはある程度精神集中を維持するだけで
いい」らしい。いわゆる神に力を借りる状態だ。祈りを神に届け、それを神が奇跡と呼ばれる叡智を具現化させたものを“借りる”事が出来る者。
 それが私が呪術師と呼ばれる所以なのだとストルンは誇らしげに言っていた。……そして会話が出来るようになった彼にセラーナは問いただしたのだ。今回の原因は何なのかと。
「……ジュリアンが悪夢を見始めたのはミラークが攻撃手段を変えたから、と先刻話したな? 民を操ってきた見えない力をジュリアンに刃向かわせたのだろう、と。
 それが岩を浄化する作業を始めた頃から、というのをセラーナから聞いて私はおや、と思ったのだ。ミラークの妨害かと思いきや、悪夢は毎晩続き、逆にそれがジュリアンを岩へと駆り立てる材料になった。セラーナと別れる道を選んでもなお、浄化を続けるように仕向けたのだとしたら、何故そのようなわざと泳がせるように仕向けたのだろうか、と。
 村を出るときにはもしかしたら、と思うことはあった。セラーナとフリアにも話さなかったのは、あくまで憶測の域を出なかった為だ。もしかしたらジュリアンの身体を、ミラークは何かに利用しようとしているのかもしれない……程度にしか思っていなかったからな」
 コォォ……と、静かな音を立てながら、ストルンの翳している両手から放たれる白い光は、開かれっぱなしの黒い本の中へと吸い込まれている。だが本の身から漏れる毒々しい緑色の光と、ジュリアンの身体を覆うドラゴン・アスペクトの光──以前ジュリアンが見せてくれたそれとは似ても似つかないほど禍々しく色を変えて光っている──は、ジュリアンが倒れた直後よりも一層輝きを増していき、それが彼を苦しめているのはセラーナにも分かった。
 渦巻く光の内側に、守られるようにしてあるジュリアンは表情がじわじわと苦痛で歪んでいき、光によって装備品すら外せない。……心なしか、顔色がどす黒く変化し始めている気がする。
「……その憶測は間違ってなかったんですのね」
 ストルンは無言で頷く。
「あの時──血に“触れた”事ですべてが分かった。この本の力が血に残っていたからな。
 岩を浄化する際、ジュリアンは服従のシャウトを放つ。それによってミラークの呪縛は解け、浄化は完了する──それはつまり、ミラークの服従の力がジュリアンのシャウトによって相殺された、というわけだ。浄化と言ったが、結局のところミラークの力をジュリアンの力によって上書きされたに過ぎない。シャウトは相殺され、人々はミラークの呪縛から解放される。岩も勿論だ。
 しかしジュリアンはドヴァーキンだ。ミラークに最も近い者。この世界で唯一、ミラークと道が繋がった者なのだ。
黒い本──アポクリファで、ドラゴン・アスペクトのシャウトを見つけたと聞いた時から疑ってかかるべきだった。ミラークはジュリアンが自らの辿った道を辿れる者と認識したとき、その道を通じてジュリアンに接触できる事を知ったのだろう。そして彼の肉体を、魂を使って自らをこの世に復活できる力に変えられるのではと考えた。……だから毎晩悪夢を見させ、岩を浄化させようとした──相殺させる事によって、ジュリアンのシャウトの力をミラーク自身に取り込むことにしたのだろう」
 え、とセラーナは口から声が漏れた。話についていけないのだ。「取り込む? 取り込むとはどういうことですの?」
 ストルンはそれに答えず、視線でそれを差した──黒い本を。
「道は繋がったと……言ったが、それはかくも脆いモノだ。ミラーク自身もこの本の──デイドラの王子の領域に守られている身であるのと、しかも岩を浄化されることによってこの世界に影響を持てるのは、無防備になる眠りの中へ落ちた時のみとなってしまう。
 だからこそミラークは賭けに出たのかもしれん。自らの手をもぎ取られるのと引き換えに、ジュリアンのシャウトを相殺させ、相殺した力の反動を彼の身体を通して本に吸収させ、それをミラーク自身が取り込んだ。勿論一つの岩だけでは何の意味もなさないだろう。しかし……五つ全ての岩を浄化し終えれば、その力は幾重にも増す筈」
 想像を超えた状況に、ぎゅっと唇を強く噛み、何かに耐える仕草をするセラーナに変わってフリアが父親に問いかけた。「つまり、岩を浄化されてもジュリアンの身体を使えば復活は遂げられるんじゃないかと考えたって事なの? 父さん」
「そうだ。力と力の反動は凄まじいものがあるだろう。我々には想像も出来ない力が、岩を浄化する際に起きても不思議はない。現世で力を発揮できない代わりに、反動で得たジュリアンのシャウトの力を辿れば、ミラークはこの黒い本を通じてジュリアンの肉体を乗っ取る事は出来る筈だ。──“服従”のシャウトを使えば。
 だからこそ、ジュリアンを衰弱させ、且つ、岩を浄化させないとと駆り出させる必要があった。ミラークはその賭けに勝った訳だ……忌々しい事にな」
 悔しそうに顔を歪ませるストルン。その表情は自分が岩を浄化しろとジュリアンに言った事を後悔してのことだろうか? それともソルスセイムを守ろうとして尽力してきた者へ対する哀悼か? そのどちらも、セラーナは認めたくなかった。認めたら負ける気さえした。だから、
「なら今、あなたがやってるのは何ですの? ジュリアンを助けようとしての事でしょう?」
 気丈に振舞おうとしても、声が震える。唇をさらにぎゅっと噛み、押し寄せてくる感情に流されまいと必死で耐える。
 そんなセラーナに気圧されたのか、ストルンは何度か頭を縦に振って、
「……ああ、そうだ。ジュリアンの魂は恐らく本の中に取り込まれた筈だ、ミラークによって。それを探しているのだが……時間はそう残されてはいない。彼の体力が尽きてしまえば、このドラゴン・アスペクトの光──いや、ミラークの服従のシャウトと言ったほうがいいか、によって魂が燃え尽き、身体ごと消えうせてしまうだろう。
 後は彼自身の生命力、ドヴァーキンとしての器に頼る他、無い。…・・・たとえ私が彼を見つけ、助けようとしても彼自身の力が無ければミラークに取り込まれるのは必至だろうからな……そして、セラーナ?」
 ふいに呼ばれ、セラーナは思わず顔を上げた先には、真剣な表情のストルンが彼女をじっと見つめていた。
「ジュリアンを助けたいんだろう? 彼を救いたいなら祈れ。祈ることは魔法の詠唱や祈祷とは違う概念を持つものだ。しかしその祈りが真に強く願うものなら、神は願う者に奇跡という名の御手をかけてくださる。どの神だとか選ぶ必要はない、ただ“祈る”だけだ」
 じっとセラーナの目を見据えて言ったストルンだったが、その瞳に映ったものは戸惑い、躊躇、困惑が交互に浮かんでいた。まっすぐ見つめるストルンの視線に耐え切れず、セラーナはそれから逃れるようにジュリアンの方へ向け、伏目がちに顔を俯かせてしまう。
「……それは、出来ませんわ」
「出来ない?」なぜだ。「あんたはジュリアンを助けたい一心で私のところにやって来たのだろう? さっきの威勢はどうした? 彼を助けたいんじゃなかったのか?」
 唇をぎゅっと強く噛むセラーナ。その後ろで結界を張っているフリアが父と彼女の話に割って入る雰囲気すら持てず二人を交互に見ながらただ黙っていた。
 しばし、沈黙の時が流れた──後、
「……分からないんですの。何故あの時ジュリアンは私が駄目と何度も言ったのにも関わらず、服従のシャウトを岩に向かって放ってしまったのかが。
 振り返って、私の方をしっかり見たのに、それなのに──彼は私の言う事を振り切ってシャウトを放った。その時は動転して気がつきませんでしたけど、後になって考えれば合点がつきましたわ。……最早私の言う事なぞ彼の耳には届いていなかったんですのよ。だから結果こうなってしまった。
 私に対してなんて所詮そんな扱いなんですもの、私が祈った所でジュリアンが助かっても、彼はきっと嬉しくないですわ」
 淡々と話すセラーナだったが、ぽん、とストルンが彼女の肩に手を乗せてきた。それでも顔を合わせまいと俯いたままだった彼女に、諭すような口調で、
「……私はその場面を見てないのでな。ジュリアンがセラーナの静止を振り切ってシャウトを放ったのがどういう状況だったかは分からん。
 しかし一つだけはっきりしている事がある。それは彼が、君を守ろうとしての事だということだ。
 思い出せ、ジュリアンが毎晩見せられていた悪夢の中で、見ていたのはセラーナが見るも耐えない状況に陥れられるものだったというのを。彼は眠らない君に対してミラークの魔手が及ぶ事に考えが及ばなかった、と言ったな? 冷静に考えれば分かりそうな事が、満足に眠れず頭が働かなくなったジュリアンにはそれが思いつかなかった、と。
 本当のことは彼にしか分からん。だが確実なのはセラーナ、彼が別れを告げたのも岩の前で君の制止を振り切ってシャウトを放った事も、全ては君を守るため唯一つの思いの元、行われた事だということだけは理解して欲しい。彼はミラークの事を聞こうと度々ここを訪れてくれていたが、その時君の事も知った。君と一緒に旅をしている理由も聞いた。だからこそ分かる。彼は最後まで君を守ろうとしていたんだという事を。
 ここで死なれては困るんだ。彼は我々ソルスセイムの民にとっても、そしてタムリエルに生きる者達にとっても必要なんだ。セラーナ、彼は君を必要としてきたからこそ長い間共に行動をしてきたんだ、セラーナだってそうだろう?」
 閃光のように煌く記憶が瞼の裏に映し出された。──港の前で、スカイリム行きの船に乗ろうとした刹那、思い出したこと。
 ──母ヴァレリカの傍に居たときもそうだった。いつも母の隣に居た。それは私が──自分の居場所だと思ったから。母の隣が常に私の居場所だった。ずっとそうしてきた。──遺跡に眠らされる前までは。
 そして数紀後、ジュリアンよって目覚めさせられた後──いつしか彼の隣が、私の居場所になっていった。ヴォルキハル城でもドーンガードの砦でもない、ヴァレリカの隣でもない。唯一人の男の隣が──私の居場所だと思っていた。だから別れを告げられた時、自分を否定された気さえしたのだ。
 ジュリアンを見る。ぎらぎらと緑や青、赤色に色を変えては渦巻くように光続けるミラークの“服従”の光の内側に、苦痛に顔をゆがめ、どんどん顔色が黒く変色している彼が居る。時間はもうあまり残されていないようだった。ジュリアンの魂が完全にミラークに乗っ取られてしまえば、彼はこの世界から影響を何一つ及ぼす事の出来ない存在になってしまう。それはつまり──また、一人ぼっちになってしまう。遺跡で長い長い時を一人で眠り続けた時のように。
 光か、闇か──どちらでもよかった。手を伸ばして私を目覚めさせた彼は居場所を作ってくれた。守ると誓ってくれた。ずっと傍に居た。吸血鬼にしてはヒトの一生なぞ取るに足らない時間枠の中で、彼は私を変えたのだ。母の傍から離れ、一人で歩けるように──
 セラーナは頷いた。無言のまま、俯いたままではあったがしっかりと首を縦に振ってくれた。それを見てストルンはほっとした表情を浮かべ、
「よし! フリア、お前は私の援護をするんだ。何としてもジュリアンの魂を見つけてみせる。ミラークに奪わせてたまるか」
 彼の意気に反応したのか、全創造主の与えし白く輝く光がふわっと煌いた。ストルンはセラーナの肩から手を離し、再び詠唱を続けながら緑色に輝く黒い本に向けて手を翳した。フリアも続けて詠唱を始める。
 セラーナはジュリアンの右手を掴み、その手を自分の両手に重ねるようにして絡ませた。手袋越しでも彼の体温が伝わってくる。誰とはなしに彼女は祈っていた。吸血鬼が祈りをささげるなぞ滑稽ではあるかもしれない。しかしそれ以上に突き動かす感情があった。彼が居なくなればまた居場所は無くなる。あの時ヴォルキハル城の窓から、去っていくジュリアンを見た時感じた胸の痛みが永遠に残り続ける。
 二度とあんな思いはしたくなかった。居場所を失われるのは二度とごめんだった──だからお願い、“ジュリアン、起きて。”

 ふ、と何かが耳に入ってきた気がして、首だけを動かして背後を見やるも勿論誰の姿もない。……気のせいか。振り向けばいつも傍に居た彼女は、もう俺の手の届かない所に居るのが分かっているのに……
“貴様、恐怖を感じてないのか? 我の力によってじわじわと消え逝く事が恐ろしくはないのか?”
 既に俺の四肢は輪郭のみぼんやり映る程度で、今なおじわじわと目に見えない何かが俺の身体を浸食し、無き者にしようとしていた。消えていくのは俺の実体も同様で、意識が全て消えれば実体も消えてしまう──と、ミラークは嬉々とした様子で、さっきまで俺に概要を話してくれていた。
 一通り自分に起きた事は理解できた。情けない事に俺はミラークの手の中で踊らされてきたのだ。……それには苦笑せざるを得なかったが、俺は最早生きる事をこの時点で放棄していた。毎晩、セラーナが蹂躙されたり自分の身体が消えたりする悪夢を見せられ続けていたせいか、どこか他人事みたいに思えてしまい恐怖すら感じられない。
 だからミラークが何度も恐怖がないのか、怖がれ! 怯えろ! とはやし立てていても、感覚が麻痺しているのか全然恐怖は感じなかった。毎晩夢を見ていた時はあんなに怯えていたのに……
 ──でもたった一つだけ後悔しているんだ。こんな、死ぬ間際の土壇場でようやく自分の気持ちに気づくなんてさ。……もっと早く気づいておくべきだったな。
“怖くはないさ。ただ──後悔してるよ。ソルスセイムの人たちを守れなかった事を”
 嘘つけ。心の中で自分に突っ込みを入れる。
“ふん、今更嘆いても仕方あるまい。貴様と我は何度も言ってきたが、出来が違うのだ。同じドラゴンボーンとしてもな。力の差も技量も全てにおいて我のが上……”
 と、不意にミラークの声が変なところで途切れたが、考える事すら煩わしくなってきた俺にとっては然程気にする事ではなかった。
 消えるならじわじわ消えるよりさっさと消してくれとでも言おうか……と思った時だった。
“………ン、…………ァン!”
 声だ。ミラークではない。ミラークの声は肉体から発せられる肉声ではないのは何度も聞いて分かっていたが、今俺の耳に届いたのは、紛れも無く誰かの肉声だった。男の野太い声……
“よもやここまで……嗅ぎ付けるとはな、ストルンめ”
 ミラークが毒づくように声を吐き出した。……ストルン? ……ストルンって誰だ? 聞いた事がある筈なのに、俺の頭は既に考える事も放棄していたせいで名前を聞いてもいまひとつぴんとこなかった。
“ドヴァーキン……ジュリアン、貴様を助けに来たようだな。あやつは全創造主の力の恩恵を借りることが出来るソルスセイムの呪術師だが、……黒い本に触れたりでもしたのか? あやつは黒い本に触れられぬと言っていた。だから岩の浄化を敢えて許してこの手を使ったというのに……”
 ミラークの独白におや、と思った。俺の脳は考える事を放棄しているのにおや、と思ったのだ。今ミラークが言った事、聞いた事がある気がしたのだ。
 誰だったか……確か、どこかの小屋で……
“……ュリアン! ジュリアン! 何処にいる!!”
 先程よりもはっきりとした“声”が俺の耳に届いた。ミラークも同様だろう。ちっと舌打ちをしている。
“あと少しで貴様の思念も我に取り込まれるというのに……”
 なんだ、ミラークだって早く取り込みたいんじゃないか、
“ならさっさと終わらせてくれよ。俺だってこんなじわじわ消えていくやり方されたくないんだ、一瞬で……”
 言い終わるより先に、考える事を放棄した頭に直接声が響いてきたせいで俺は不意に口をつぐんだ。
『ジュリアン!』
 ──瞬間、俺は思い出した。声の主はストルンで──ストルンが誰だったかということも。

「見つけたぞ!」
 歓喜を含ませた声を発したストルンに、目を瞑りながらジュリアンの右手を握り締めていたセラーナはすっと目を開けて彼を見やる。
 ストルンはしっかりと首を縦に振ってみせるが、それ以上言葉は出さず、再び精神を集中し始める。
 ジュリアンの肌はドラゴン・アスペクト──いや、ミラークの服従のシャウトのせいか更にどす黒くなり、表情は相変わらず苦悶に満ちたままだった。セラーナは再び目を瞑り、誰とはなしに祈りを捧げ続けた。彼の目が醒める事をただひたすら、願いながら。

“……ストルン?”
 頭に直接響いてくるため、目の前に居るミラークには、俺がストルンに話しかけていると気づかれていないようだ。頭の中で呼びかけると、そうだと答えが返ってきた。
“やっと見つけた。黒い本の中を探し回って、お前の声が聞こえた気がしたから呼びかけたんだ。やっと見つけたぞジュリアン。お前を助けにきたんだ”
 助けに来た、だって? その言葉は助けを求めていた者にとってはさぞかし甘美な響きに聞こえるだろう。だが今の俺にとってはどうでもよかった。助けて欲しいなぞ思いもよらなかった。
“……俺を助けに来たって? おあいにくさまだったな、俺はもうすぐ消えるんだ、今更助けてもらいたいなんて思っちゃいねぇよ”
 と心で言うと、予想外だったらしく──まぁ当たり前だろうが──何故だと問い返してきた。その理由を話す事すら面倒くさい。
“どうしてって……諦めたんだ。生きる事を。……っていうか、どちらかいうと事なかれ主義なスコールの民の代表であるあんたが、俺を助けにわざわざアポクリファまで意識飛ばしてやってくるってのが既に予想外なんだけど?
 ……誰に事の概要を聞いたのかは知らないけどさ、無駄足させて悪かったな。あんたに頼んだ誰かに代わって謝るよ”
 投げやりに言ってやったが、内心少し言い過ぎたかなと思っていた。けどもう俺の意識はミラークの中に取り込まれるんだ、後のことなんて知ったこっちゃない……
“ジュリアン、右手を見るんだ”
 と、ストルンから返ってきた返事は予想外の範疇を超えていた。右手? だらんと垂れ下がっている俺の右手を見ろ、って?
 力なく垂れ下がった自分の手を見て何になるんだ? と思いながらも、俺は頭を少し下げ、右手を見てみた。が、特に何も起きていない。相変わらず半透明で輪郭がうっすら見えているだけだ。
“……何もないじゃないか”
“何か見えてきやしないか? ……何かが”
 何かって……と思いながらじっ、と見ていると、あれ、と思える点が見えてきた。右手は力なく垂れ下がったままだったが、その右手が何か白い光に包まれているように思えたのだ。
 その光はやがて人の手の形になり、そこから光はすっと伸び、腕、身体を形成していき──輪郭、顔が映し出されたところで俺は目を丸くした。ありえない人物が俺の手を握り締めていた。
“……え、セラーナ……?”
 なんで彼女が、と口にする前にストルンの声が頭の中に響く。
“おまえが今さっき言った、頼んだ誰か、が彼女だ。……それでもジュリアン、お前は生きるのを放棄するのか? いや……放棄できるのか?!”
 俺の手を握り締めていたセラーナの光がふわっと四散し、消えていく。
 既に心というのがある場所は消えていた。胴体すら輪郭だけになってしまっているのに、今見た光景が俺の胸に突き刺さり、痛かった。胸が締め付けられるくらいに痛かった。痛くて、悲しくて、涙が溢れた。ミラークが目の前に居るのにそんな事関係なく涙がとめどなく溢れ出てきてしまった。
 分かっていた。自分だって分かっていたんだ。彼女に別れを告げることが自分にとっても首を絞めることと同然の事だと。別れを告げてもなお、彼女はソルスセイムに留まり続けた。俺を救おうと、俺を止めようと走ってきてくれた。俺はそれを幻覚だの守るためだの自分勝手な理屈を通して服従のシャウトを放ってしまって、こうなっちまって──全ては俺の独りよがりだった。守るために別れを告げるだって? 馬鹿じゃないか。自分から手放したんだ。自分で自分の居場所を手放したんだ。
 人は最後まで気づかない愚かな生き物だとよく謳われるが、この時ほど自分の愚かさに気づいた事は無かった。こんなにも自分を思っている人を置いて生きる事を放棄しようとしていたなんて。涙は頬をつたい、ぼろぼろとしずくとなって落ちていく。それがまた悲しくて、涙はどんどん溢れ続けた。嗚咽も時々漏らしていたかもしれない。
“今更になって命が惜しくなったか? 情けないほど泣くとは、さすが腰抜けのドヴァーキンだな”
 呆れた様子でミラークが声をかけてきたが、彼の声なぞ俺の耳に入ってはいなかった。ただひたすら心の中で思っていた。ごめん、セラーナ、ごめん、と。
“……ジュリアン、お前を必要としている人は沢山居る。セラーナだけではない、私も、フリアも、ソルスセイムの民も──いや、このタムリエル全体が、お前の力を必要としている。ミラークではなくお前のを、だ。
 生きたいなら願え。ドヴァーキンとしての力はミラークなぞ凌駕する力をお前は持っている事を忘れるな。お前は肉体がある。だがミラークには無い。
 肉体を持ちえるという事はそれだけで世界に影響を及ぼす事が出来るのだぞ? ミラークはどうだ、アポクリファでお前を操る程度しか能力が無いんだ。そんな奴を怖がる必要が何処にある?
 お前の肉体をミラークなんぞにくれてやる必要ぞ無い。強く願って──服従から逃れろ!”
 ストルンの叱咤に目が醒める感覚だった。そうだ。俺は──生きなくては。生きて再び、今度は俺の方から彼女の手を握り締めたい。
 手足が消えてるから、動かないからダメだ? そんな事ないじゃないか。だって俺にはまだ、“声”が残っている。叫ぶ力が残っている──!
“ミラーク。……気が変わった。俺は生きる道を選ぶ。お前なんぞに俺の身体を奪われてたまるか!”
 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、ぎらぎらとした目で睨み付けてやると、さすがにミラークの態度が急変した。……そりゃそうだ、さっきまで生きるのを放棄していたのに、泣き止んだ途端手のひら返すように様子が変わったのだから。
“何? まさか貴様──そうか、ストルンか!”
 ミラークが気づいたときには遅かった。俺は息を深く吸い込み、そのシャウトを声に出していた──Gol.
 放った瞬間、世界に何の変化も現れなかったが、その刹那、俺の身体に変化が現れた。
 どくん、と身体の中が脈を打つ。……身体から何かが引っ張り出されようとしている。あの時──意識を失う前に全身を食い破られるような痛みを発したモノだろうか?
“そうはさせぬわ! 我の服従は絶対っ……!”
 ミラークが俺に向かってシャウトを叫ぼうとした瞬間、ぼんやり輝く緑色の空を裂いて閃光が一筋、どん、と音を立ててミラークの全身に直撃した。あの光は──
“ぐぉぉおおおっ! 禍々しい全創造主の力か!! ストルンめ……岩を浄化させたのが仇となったか!!”
 閃光に貫かれ、ミラークは身動きが取れない様子だ。シャウトを打てる様子ではない。
 と、突然身体の中から──とはいえ、既に顔から下は輪郭のみで透き通っているのだが──緑色の煙が立ち上ってきた。何が出てくるんだと思うと、しゅうしゅうと瘴気を噴出しながら出てきたのは──幾重にも重なった触手が全身を覆っている、異形のイキモノ。……俺はこれを知っている。ミラークの手下なのか、はたまたハルメアス・モラのそれなのかは分からないが、この世界でもタムリエルでも具現化したのを何度も見て戦ってきた──シーカーだ。こんなものが俺の身体に入っていたのか?
 体から出てきた瞬間、ふわっと何かがまとわりつくような感覚がしたかみなかで、輪郭のみだった全身が元に戻り──といっても意識のみが飛んでる為何も身に着けてはいないのだが──身体が動かせるようになった。
“それを殺せ、ジュリアン!”
 頭の中でストルンが声をあげる。そうだった、ここで殺さないと俺の肉体はまだ呪縛で動けないはず。瘴気を出しながらふよふよ浮いている、俺の身体から出てきたシーカーをむんずと捕まえて、
“よくも俺を散々苦しめてくれたよなぁ……だが、これも最後だっ!”
 両手で触手のようなそれを掴み、引き裂くようにして腕を引っ張ると、ぶちぶちと音を立ててそれが左右に引き裂かれていった。ちっ、と光によって動けないミラークが舌打ちをする。
 完全にまっぷたつになったそれをぽい、と地面に落とすと、瘴気につつまれてふっと亡骸は消えた。それを見て、ミラークは再度舌打ちをする。
“……今回は逃れても、次また同じ事をするぞ、ジュリアン。我の服従から抜け出したとしても、貴様と我の道は繋がっているのだ”
“そうかもな。”でも、あんたは確実な事を分かっちゃいない。
“……一つだけ言っておいてやる。俺とあんたは確かに道が繋がっているんだろう、だけど俺はあんたじゃないし、あんたも俺じゃない。俺は俺の生き方があるし、あんたとは違う。たとえ道が繋がっていても、俺はあんたと同じ出口に辿り着かない。”
“ふん、貴様のような腰抜けのドヴァーキンに我と同じ道を辿り着く事が出来ると思うな。人に弱く、助けが無いと生きていけない腰抜けなぞに……”
“何とでも言えばいい。竜教団を裏切ったあんたにゃ絶対分からないさ。人を愛し、人を守ろうとする気持ちがどこから来ているのか”
 言いながら自然と右手を見た。彼女が居るからこそ、俺は生きる道を選んだ。もう二度と逃したりしないさ。大事なものを。大切な人を。
 閃光がふっと消え、ミラークは開放された。俺もそろそろ自分の身体の中に戻らなきゃいけないな。
 俺は再度“叫んだ”──お前と同じだよ、ミラーク。同じだけど似て非なる力だ。──Mul Quh Diiv.
 シャウトは輝き、全身に光の奔流をほとばしらせながら具現化した。ミラークのものとは違う、太陽のように輝くそれはミラークの目を焼き付けたようで、彼は思わず手で目を覆った。
“な、言っただろ? あんたと俺の辿り着く道は違うんだってな。……二度と俺の身体を手に入れようと思うなよ。最も、もうこんな事は起きないと思うがな”
 ドラゴンアスペクトの力は一層輝きを増しながら、光は翼と形を変えた。その翼はドラゴンのそれに似ていた。
 ばさっと羽を広げ、俺は地面を蹴って当たり一面緑色の空中へ飛び出す。閃光を追っていくうちに、いつしか白く輝く光が俺の全身を包み込んでいた。そのまま何か大きな手で持ち上げられるようにしていくうちに、安心しきったかのように俺は意識を失った。

「フリア、剣で斬れ!」
 ジュリアンの身体から、緑色の瘴気を纏って出てきたものをフリアが短剣を握りしめて一刀で仕留めた瞬間、それは煙のように消え、四散した。
 それと同時に黒い本の輝きは消え、ばさりと音を立てて本は閉じられた。ストルンがそれを掴み、本を開こうとしても開く事が出来ない。本の光が消えたと同時に、ジュリアンの身体を覆っていたミラークの“服従”のシャウトである光もまたふっと消えうせた。
「大丈夫だ。……ジュリアンの意識は戻った。成功だ」
 はぁはぁと肩で息をしながらではあったが、ストルンはにやりと笑って安心させるように何度も首を縦に振った。セラーナが見てみると、ジュリアンのどす黒く変色していた顔が、普通のそれに戻っている。血色も良くなって、表情も苦痛で歪ませておらず、穏やかに寝息を立てていた。
「……今の、フリアが斬ったのは何だったんですの?」
 ぽつりとセラーナが問いかける。斬った筈なのに霧のように消えてしまった事が解せないらしい。
「……恐らく、ジュリアンとミラークを繋げていたモノだな。
 ジュリアンとミラークの道は繋がっているのは確かな事だが、あれはその繋がりを強固にしていた原因だろう。恐らく、五つの岩に封印していたルーカーの一部をジュリアンに植え付けていたに違いない。攻撃を食らわせていた時とかにな。
 まぁ、あれが無くなった以上、今後ミラークがジュリアンに手を出す事はできんだろう。悪夢にうなされる日々ももうあるまい」
 そう聞いて、セラーナはようやく安心したようだった。ずっと握り締めていたせいで硬直状態になっていた両手を引き剥がすようにして離すと、彼の手にセラーナの手の痕が手袋で覆われていてもしっかり残っていた。汗をかいていたらしく、その部分だけじっとり濡れている気さえする。気を悪くしなければいいのだけど、とセラーナは思った。
 気づけば朝になっていた。鳥の鳴く声がようやく耳に入ってくる。フリアもストルンも疲れが顔にべっとりついていたが、二人とも嬉しそうだった。彼らを信じて頼みに来て本当に良かった、とセラーナは心から感謝した。

 それから三日後の──昼前。
 俺は灰交じりの雪原を無我夢中で走っていた。
 目覚めてすぐだったため、身体に力が入らず灰に足を取られて何度も転んでしまう。けど、それでも走るのを止めなかった。もう二度と失いたくないから。

 ことは数時間ほど前に遡る。
 数週間、満足に眠れなかった俺はまる三日眠り込み、目覚めた時、自分が一瞬何処に居るのか全く見当がつかなかった。
 見慣れない天井。薄暗い室内は心なしか冷えており、何処からか隙間風が入ってきているようにさえ感じられる。
 上体だけ起こして自分が居る場所を確かめようとしたが、起きてすぐ自分が何処に居るか見当がついた。ここはストルンの小屋だ。何度も訪ねていたから、部屋の構造は分かっていたのだ。さほど広い家でもないしな。
 ベッドから起き上がったところで、扉を開いて入ってきたのはストルンとフリアだった。二人とも俺の姿を見て目を丸くしている。
「ジュリアン、目が覚めたのか!」
 言いながら部屋をずんずん進み、俺の目前で止まるストルン。じっと全身を舐め回すように見てくるので、少し気恥ずかしい。
「何処もおかしくはないようだな? あれから悪夢も見る事はあるまい」
「ああ……あんたには大変世話になった。フリアも、ありがとう」
 ぺこりと頭を下げると、ははと笑いながら彼は手近の椅子に座った。フリアもうんうんと頷いている。
「わしらに礼は及ばん。スコールの民を助けてくれた者を見捨てる訳にはいかなかったからの事だ。礼ならセラーナに言うといい。彼女がジュリアンの事を話してくれなければ、今頃おまえは消えてなくなっていたかもしれぬのだからな」
「ああ、……で、セラーナは何処にいるんだ?」間髪入れずに聞き返すと、ストルンとフリアの表情が曇った。──何かあったのか?
 二人はどちらが言うのか、と互いに牽制しあってる様子ではあったがさすがに黙っておくわけにはいかないと判断したのか、ストルンが申し訳なさそうに口を開いた。
「止めたんだがな……その、わしらは、な。だが……言う事を聞かなくってな」
 言葉少なすぎて言いたい事が全く伝わってこない。止めた? この場合で言うと、セラーナを止めたということなのだろうが、何を止めたんだかが分からない。
「はっきり言ってくれ。セラーナを止めたって、どういうことだ?」
 少し強い口調で述べると、分かったといった様子でストルンが再び口を開き、出した言葉は信じられないことだった。
「セラーナは出て行った。自分のやる事は終わったと言ってな。
 これからどうするのかと聞いたら、先のことは分からないが、とりあえずソルスセイムを発つと言っていた。今日は確か定期舟航便が出てる日だ、と言ってたな」
 頭に金ダライを打ち付けられた位、衝撃があった。衝撃の後、俺は自分の装備品と荷袋を背負い、十数分後にはストルンの小屋を出ていた。
 そのまま走ってスコール村を出て、急勾配の山道を懸命に下った。三日も寝ていたせいで、何も補給をしていない俺の身体は体力が格段に落ち、何度も足を雪か灰に取られてみっともない格好で転げ落ちたりもしたが、それでも走る事を止めなかった。

 はぁはぁと肩で息をしながらも、走り続けて三時間弱、ようやくレイブンロックの港町が見えてきた。
 レイブンロックの港は町を守る外壁の向こう側にあるため、港に船があるかは街道からは確認できない。急がなければとただ心は急いていた。もうあんな気持ちになるのは二度とごめんだった。
 足取りはふらふらになりながらも、レイブンロックの門をくぐるとすぐ、ブルワークと呼ばれるレドラン家の衛兵が詰め所として使っている建物がある、その先を左手に曲がれば桟橋が見えてくるのだ。
「はぁ、はぁ、……船はまだ出てないのか……」
 走る事すら覚束ず、よたよた片足をひきずるような格好で歩いているため、周りを歩く衛兵が訝しげにこちらを見ているが、そんな事はどうでもよかった。
 桟橋入り口までやってくると船に積荷を入れている船員が何人か見える。漁師が使う小さな小船も港に係留してあり、スカイリム行きの船が係留されている場所とは別の桟橋で忙しそうに積荷を下ろしているのが見て取れた。
 セラーナは、と辺りに目を配ると──いた! スカイリム行きの船が留めてある桟橋で海をぼんやり眺めていた。少し離れた場所には船員が突っ立っていて乗る客から船賃を戴いている様子が見える。
 よろよろと歩いて、セラーナが立つ桟橋に近づき、俺は彼女の名前を何日ぶりかに呼んだ。
「セラーナ」
 びくっとして、こちらを見る。驚くかと思いきや、彼女の表情はにこりともせず無表情のままだった。
「セラーナ、帰ろうぜ」
「何処へ?」間髪入れずに聞き返してくる。
 俺は桟橋の入り口付近、彼女は先端よりすこし手前に居るため、互いに距離がある。そのため声が自然と大きくなってしまう。
「何処へって……俺と」
 一緒に、と言おうとした時彼女の声が重なった。
「私はあなたに暇を告げられた者でしてよ。あなたと帰る場所なんてありませんわ。……だからこの島を出るんですの。ここを出たらどうするかはまだ決まってませんけど」
「いや、だから、それは俺が悪かったんだ。突然あんな事を言ってしまった事、申し訳ないと思ってる。だから、また俺と──」
「今回の事だって、ストルンに教えてもらってようやく分かったんですのよ、あなたは何一つ私に話さなかった。それでようやく分かりましたわ、私は必要とされていないんだ、と」
 違う。「そんな事思っちゃ居ない。俺はただ、……夢の事だって知ってるんだろう? だからあんな事に君がなりやしないかと気が気でなくて──」
 互いに口調が熱くなり声高に話すようになっていくため、港で荷降ろし作業をしていた漁師や船員達がおや、といった様子で俺とセラーナを交互に見ているのが分かったが、今は形振り構っていられなかった。
「……もういいんですの、言い訳なんて見苦しい。聞きたくありませんわ。私のことは忘れて別の方を連れて旅をすればよろしいんじゃなくて?」
 と、セラーナが言い終わったとほぼ同時に桟橋の端で乗客から金を受け取っていた船員の一人が、かん、かんと短剣を、何処から持ってきたのか金属製のお椀の底に打ち付けていた。
「え~~……スカイリム行きの船、まもなく出港ー、出港ー! お乗りの方はお急ぎくだせぇー!」
 その声を聞いて、セラーナはずっと同じ場所に突っ立っていた足を一歩、船の方へと歩き出した。
「じゃ、私は行きますわ。見送りは要りませんわよ。……さようなら」
 かつっ、とブーツの音を立ててセラーナが船賃を渡す船員の方へと歩いていく。
 一瞬、ほんの一瞬だけだったが──彼女がこのまま俺と別れればそれはそれでいいのかもしれない、と思った。今回のような事が本当に起こらないとは限らない。彼女の為にも母親の元で生きていくのはある意味、幸せなんじゃないか──と。
 ──けど。あんな思いは二度としたくない。居場所を二度も失うなんて俺は嫌だ、嫌なんだ!
「行かないでくれ、セラーナ!!」
 あんなにふらふらだった足が、気づけばまっすぐ彼女の元へ走り出していた。そのままぶつかるようにしてセラーナの小柄な身体を後ろから抱きしめる。
「俺の傍に居てくれ。お願いだ、俺には君が必要なんだ……」
 走ってぶつかるようにして抱きしめたため、彼女は数歩前のめりに歩く格好になったが、支えるようにして抱きしめたため、倒れる事はなかった……が、お椀を短剣で叩いて出港の合図を促していた船員の目前で止まる形になってしまった。
 船員が、半開きになった口を開けたままセラーナと俺を交互に見ている。あっけにとられているらしく、剣でお椀を叩く事すらどこかへ吹っ飛んだ様子だった。
「……ジュ、ジュリアン、苦しいですわ……」苦しいというより照れくさいといった感じでセラーナが訴えてきたが、俺は腕を緩める気は毛頭無かった。
「……離さない。もう二度と君に別れるなんて言わないさ。一緒に居たいんだ、セラーナ。何処にも行かないでくれ」
 抱きしめていると、セラーナの体温がほんのり感じられる。こうやって体温を感じられるようにまた、戻れたのも彼女が俺を救ってくれたからだった。
 生きるのを諦めかけた時、俺の右手を両手で握り締めていた彼女の姿を見た時、いかに自分が愚かだったかを知った。もう二度と後悔したくないんだ。こんなにも俺を思ってくれる人を離したくないんだ。
「……ジュリアン、分かりましたから腕を離していただけませんこと? 苦しくて息ができませんわ」
 さすがに窒息させるわけにもいかないので、大人しく手を離し彼女を解放すると、セラーナはくるりとこちらを向いて上目遣いでこちらを睨んできた。心なしか頬がピンク色に染まっている。
 しばらく互いに黙っていたが、セラーナがはぁ、と深くため息をついた所で沈黙が破られた。
「……ああもう、ストルンがあんな事言うからやってみただけですのに、こんなにまでされるなんて思ってもみなかったですわ」
 いきなりストルンの名前が出たため、何を言ってるのか理解に苦しむ。勿論それを知っての事でセラーナは口に出したのだろうが。俺の顔に疑問符が張り付いた状態なのを見て、再度ため息をひとつ吐いてから、セラーナはぽつりぽつりと話し出した。
「出て行けるわけないじゃありませんの。……分かりませんの? 私はあなたと旅をしている間、あなたに金銭を渡された事は一度もないんですのよ? 私が欲しいと言わずとも、あなたは私に数多のものを与えてきましたわ。だから私から金銭を要求する事も受け取った事もないんですの。つまり私は一文無し。船賃なんて持ってる筈ありませんわ。
 一人でここまで来たのは、ストルンが言ったからですわ。ジュリアンを試してみろって。何の事だかさっぱりでしたけど、あなたが私を追い出した事に対して後悔を感じるようなら追いかけてくるだろう、と。その……まさか、あんな事言われるなんて予想外でしたけど……」
 最後まで言葉が続かず、ぼそぼそとした口調で締めくくるセラーナ。
 ──図ったな、ストルン。
 内心舌打ちせざるを得なかった。アポクリファの中で自分が情けなくも嗚咽を漏らして泣いていた事を知っててこんな一芝居打つようにセラーナに言った訳か。余計な事しやがって。
 そんな事を言われたせいで、俺はどういう顔をしていいのか分からず、セラーナもまた、顔を俯かせて視線をわざと逸らしている。妙な雰囲気が俺たちを包んでいた時だった。
「おい、そこの兄ちゃん! 喧嘩もほどほどにしろよな、嬢ちゃんのこと泣かせるんじゃねぇよ!!」
「昼っぱらからお熱いの見せ付けてくれるじゃねぇか、お似合いだよ、お二人さん! 幸せになるんだぜ!!」
 などと港のそこかしこから、荷降ろしをしていた漁師や船員達から拍手と共に大量の野次が飛んできた。どうやら痴話喧嘩か何かをして彼氏がおっかけてきたもんだと勘違いしたらしい。
「ちょ、いや、これは、だな……」
 慌てて取り付こうとしたものの、気さくなダンマーの漁師や、ノルドの船員達、そして俺達の目前で突っ立っている船賃を戴いていた船員なんかは気を取り直した様子でかん、かんと短剣でお椀を叩いて鳴らしているせいで俺の反論なぞ聞こえやしない。勿論それは出港の合図ではなく、拍手の代わりだというのはすぐ分かった。
 元々こういう雰囲気に慣れてないせいで、顔がみるみる赤くなっていくのが自分でも分かった。耳まで真っ赤になっている気がする。この場は大人しく立ち去った方がよさそうだ。
 くるりと踵でターンし、町の方へ身体を向けたが、ふと思い立って、俺は右手をセラーナに差し出した。
「……行こうぜ、セラーナ」
 ずっと視線をずらしたまま彼女ではあったが、差し出された右手と、俺の顔を交互に見て、ふわりと穏やかな笑みを浮かべた。
「よ……、よろしくてよ」
 差し出した手を、セラーナは左手で握り返す。顔は相変わらず赤面したままではあったが、この瞬間だけは照れも気恥ずかしさもなかった。
 にかっと笑ってから、姿勢を戻して町の方へ歩く。歩きながら耳をすませば、セラーナの足音が規則正しく聞こえてくる。
 口笛や野良ったい声が響く港に、うみねこがミャア、ミャアとけたたましく鳴く。その声とほぼ同時に、久方振りに雲が消え、日差しが島を照らし出した。灰交じりの雪の大地が、日差しによってキラキラとまばゆく輝く。
 久しぶりの晴れ間に喜ぶ町の人々の喧騒に、俺は空を仰ぎ見た。手で庇を作ってみても太陽の光が透ける事は無い。
 生きているんだ。そしてこれからも。

 それは一つの事象が起こした、ほんの数週間の出来事。
 しかしそれはたった一つの言葉で締めくくられてしまうだろう。
 生きる者と、それを願う者──二つの奇跡が重なったからだよ、と。


 あとがきは次の記事で書きますorz 長々とお読みいただき、お疲れ様でした。

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