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スカイリムの攻略とかあまり役に立たない日々のプレイ日記をだらだらかいていくつもりです。

雪と氷とドラゴンと。

   

Concord.(2/2)

※Skyrim二次創作小説第7チャプター(の2/2)です。その手のモノが苦手な方はブラウザバックでお帰りを。

※2:後半ですがめっちゃくっちゃくそ長いですorz
    なので読む方は途中休みながら読む事をオススメします。長くてごめんなさい<(_ _)>

これは第7話(の後半)です。1話から読みたい方は「Taken.」からお読み下さい。(二次創作カテゴリから楽に飛べます)




「何故、それが岩の浄化と関係あるんですの?」
 長い時を黙って話を聞いていただけだったセラーナが問いかけた。
 ……何時間が経っただろうか、窓に目を移すとすっかり夜を迎えているらしく、黒く塗りつぶされたその先には雪景色も映っていない。
 室内に居るストルンとフリアは、互いの精神力をすり減らしながら詠唱を続けていたが、数時間後にはその詠唱は止まっており、彼らと談話などが出来る状態になっていた。
「全創造主に力をお借りさえ出来れば、あとはある程度精神集中を維持するだけで
いい」らしい。いわゆる神に力を借りる状態だ。祈りを神に届け、それを神が奇跡と呼ばれる叡智を具現化させたものを“借りる”事が出来る者。
 それが私が呪術師と呼ばれる所以なのだとストルンは誇らしげに言っていた。……そして会話が出来るようになった彼にセラーナは問いただしたのだ。今回の原因は何なのかと。
「……ジュリアンが悪夢を見始めたのはミラークが攻撃手段を変えたから、と先刻話したな? 民を操ってきた見えない力をジュリアンに刃向かわせたのだろう、と。
 それが岩を浄化する作業を始めた頃から、というのをセラーナから聞いて私はおや、と思ったのだ。ミラークの妨害かと思いきや、悪夢は毎晩続き、逆にそれがジュリアンを岩へと駆り立てる材料になった。セラーナと別れる道を選んでもなお、浄化を続けるように仕向けたのだとしたら、何故そのようなわざと泳がせるように仕向けたのだろうか、と。
 村を出るときにはもしかしたら、と思うことはあった。セラーナとフリアにも話さなかったのは、あくまで憶測の域を出なかった為だ。もしかしたらジュリアンの身体を、ミラークは何かに利用しようとしているのかもしれない……程度にしか思っていなかったからな」
 コォォ……と、静かな音を立てながら、ストルンの翳している両手から放たれる白い光は、開かれっぱなしの黒い本の中へと吸い込まれている。だが本の身から漏れる毒々しい緑色の光と、ジュリアンの身体を覆うドラゴン・アスペクトの光──以前ジュリアンが見せてくれたそれとは似ても似つかないほど禍々しく色を変えて光っている──は、ジュリアンが倒れた直後よりも一層輝きを増していき、それが彼を苦しめているのはセラーナにも分かった。
 渦巻く光の内側に、守られるようにしてあるジュリアンは表情がじわじわと苦痛で歪んでいき、光によって装備品すら外せない。……心なしか、顔色がどす黒く変化し始めている気がする。
「……その憶測は間違ってなかったんですのね」
 ストルンは無言で頷く。
「あの時──血に“触れた”事ですべてが分かった。この本の力が血に残っていたからな。
 岩を浄化する際、ジュリアンは服従のシャウトを放つ。それによってミラークの呪縛は解け、浄化は完了する──それはつまり、ミラークの服従の力がジュリアンのシャウトによって相殺された、というわけだ。浄化と言ったが、結局のところミラークの力をジュリアンの力によって上書きされたに過ぎない。シャウトは相殺され、人々はミラークの呪縛から解放される。岩も勿論だ。
 しかしジュリアンはドヴァーキンだ。ミラークに最も近い者。この世界で唯一、ミラークと道が繋がった者なのだ。
黒い本──アポクリファで、ドラゴン・アスペクトのシャウトを見つけたと聞いた時から疑ってかかるべきだった。ミラークはジュリアンが自らの辿った道を辿れる者と認識したとき、その道を通じてジュリアンに接触できる事を知ったのだろう。そして彼の肉体を、魂を使って自らをこの世に復活できる力に変えられるのではと考えた。……だから毎晩悪夢を見させ、岩を浄化させようとした──相殺させる事によって、ジュリアンのシャウトの力をミラーク自身に取り込むことにしたのだろう」
 え、とセラーナは口から声が漏れた。話についていけないのだ。「取り込む? 取り込むとはどういうことですの?」
 ストルンはそれに答えず、視線でそれを差した──黒い本を。
「道は繋がったと……言ったが、それはかくも脆いモノだ。ミラーク自身もこの本の──デイドラの王子の領域に守られている身であるのと、しかも岩を浄化されることによってこの世界に影響を持てるのは、無防備になる眠りの中へ落ちた時のみとなってしまう。
 だからこそミラークは賭けに出たのかもしれん。自らの手をもぎ取られるのと引き換えに、ジュリアンのシャウトを相殺させ、相殺した力の反動を彼の身体を通して本に吸収させ、それをミラーク自身が取り込んだ。勿論一つの岩だけでは何の意味もなさないだろう。しかし……五つ全ての岩を浄化し終えれば、その力は幾重にも増す筈」
 想像を超えた状況に、ぎゅっと唇を強く噛み、何かに耐える仕草をするセラーナに変わってフリアが父親に問いかけた。「つまり、岩を浄化されてもジュリアンの身体を使えば復活は遂げられるんじゃないかと考えたって事なの? 父さん」
「そうだ。力と力の反動は凄まじいものがあるだろう。我々には想像も出来ない力が、岩を浄化する際に起きても不思議はない。現世で力を発揮できない代わりに、反動で得たジュリアンのシャウトの力を辿れば、ミラークはこの黒い本を通じてジュリアンの肉体を乗っ取る事は出来る筈だ。──“服従”のシャウトを使えば。
 だからこそ、ジュリアンを衰弱させ、且つ、岩を浄化させないとと駆り出させる必要があった。ミラークはその賭けに勝った訳だ……忌々しい事にな」
 悔しそうに顔を歪ませるストルン。その表情は自分が岩を浄化しろとジュリアンに言った事を後悔してのことだろうか? それともソルスセイムを守ろうとして尽力してきた者へ対する哀悼か? そのどちらも、セラーナは認めたくなかった。認めたら負ける気さえした。だから、
「なら今、あなたがやってるのは何ですの? ジュリアンを助けようとしての事でしょう?」
 気丈に振舞おうとしても、声が震える。唇をさらにぎゅっと噛み、押し寄せてくる感情に流されまいと必死で耐える。
 そんなセラーナに気圧されたのか、ストルンは何度か頭を縦に振って、
「……ああ、そうだ。ジュリアンの魂は恐らく本の中に取り込まれた筈だ、ミラークによって。それを探しているのだが……時間はそう残されてはいない。彼の体力が尽きてしまえば、このドラゴン・アスペクトの光──いや、ミラークの服従のシャウトと言ったほうがいいか、によって魂が燃え尽き、身体ごと消えうせてしまうだろう。
 後は彼自身の生命力、ドヴァーキンとしての器に頼る他、無い。…・・・たとえ私が彼を見つけ、助けようとしても彼自身の力が無ければミラークに取り込まれるのは必至だろうからな……そして、セラーナ?」
 ふいに呼ばれ、セラーナは思わず顔を上げた先には、真剣な表情のストルンが彼女をじっと見つめていた。
「ジュリアンを助けたいんだろう? 彼を救いたいなら祈れ。祈ることは魔法の詠唱や祈祷とは違う概念を持つものだ。しかしその祈りが真に強く願うものなら、神は願う者に奇跡という名の御手をかけてくださる。どの神だとか選ぶ必要はない、ただ“祈る”だけだ」
 じっとセラーナの目を見据えて言ったストルンだったが、その瞳に映ったものは戸惑い、躊躇、困惑が交互に浮かんでいた。まっすぐ見つめるストルンの視線に耐え切れず、セラーナはそれから逃れるようにジュリアンの方へ向け、伏目がちに顔を俯かせてしまう。
「……それは、出来ませんわ」
「出来ない?」なぜだ。「あんたはジュリアンを助けたい一心で私のところにやって来たのだろう? さっきの威勢はどうした? 彼を助けたいんじゃなかったのか?」
 唇をぎゅっと強く噛むセラーナ。その後ろで結界を張っているフリアが父と彼女の話に割って入る雰囲気すら持てず二人を交互に見ながらただ黙っていた。
 しばし、沈黙の時が流れた──後、
「……分からないんですの。何故あの時ジュリアンは私が駄目と何度も言ったのにも関わらず、服従のシャウトを岩に向かって放ってしまったのかが。
 振り返って、私の方をしっかり見たのに、それなのに──彼は私の言う事を振り切ってシャウトを放った。その時は動転して気がつきませんでしたけど、後になって考えれば合点がつきましたわ。……最早私の言う事なぞ彼の耳には届いていなかったんですのよ。だから結果こうなってしまった。
 私に対してなんて所詮そんな扱いなんですもの、私が祈った所でジュリアンが助かっても、彼はきっと嬉しくないですわ」
 淡々と話すセラーナだったが、ぽん、とストルンが彼女の肩に手を乗せてきた。それでも顔を合わせまいと俯いたままだった彼女に、諭すような口調で、
「……私はその場面を見てないのでな。ジュリアンがセラーナの静止を振り切ってシャウトを放ったのがどういう状況だったかは分からん。
 しかし一つだけはっきりしている事がある。それは彼が、君を守ろうとしての事だということだ。
 思い出せ、ジュリアンが毎晩見せられていた悪夢の中で、見ていたのはセラーナが見るも耐えない状況に陥れられるものだったというのを。彼は眠らない君に対してミラークの魔手が及ぶ事に考えが及ばなかった、と言ったな? 冷静に考えれば分かりそうな事が、満足に眠れず頭が働かなくなったジュリアンにはそれが思いつかなかった、と。
 本当のことは彼にしか分からん。だが確実なのはセラーナ、彼が別れを告げたのも岩の前で君の制止を振り切ってシャウトを放った事も、全ては君を守るため唯一つの思いの元、行われた事だということだけは理解して欲しい。彼はミラークの事を聞こうと度々ここを訪れてくれていたが、その時君の事も知った。君と一緒に旅をしている理由も聞いた。だからこそ分かる。彼は最後まで君を守ろうとしていたんだという事を。
 ここで死なれては困るんだ。彼は我々ソルスセイムの民にとっても、そしてタムリエルに生きる者達にとっても必要なんだ。セラーナ、彼は君を必要としてきたからこそ長い間共に行動をしてきたんだ、セラーナだってそうだろう?」
 閃光のように煌く記憶が瞼の裏に映し出された。──港の前で、スカイリム行きの船に乗ろうとした刹那、思い出したこと。
 ──母ヴァレリカの傍に居たときもそうだった。いつも母の隣に居た。それは私が──自分の居場所だと思ったから。母の隣が常に私の居場所だった。ずっとそうしてきた。──遺跡に眠らされる前までは。
 そして数紀後、ジュリアンよって目覚めさせられた後──いつしか彼の隣が、私の居場所になっていった。ヴォルキハル城でもドーンガードの砦でもない、ヴァレリカの隣でもない。唯一人の男の隣が──私の居場所だと思っていた。だから別れを告げられた時、自分を否定された気さえしたのだ。
 ジュリアンを見る。ぎらぎらと緑や青、赤色に色を変えては渦巻くように光続けるミラークの“服従”の光の内側に、苦痛に顔をゆがめ、どんどん顔色が黒く変色している彼が居る。時間はもうあまり残されていないようだった。ジュリアンの魂が完全にミラークに乗っ取られてしまえば、彼はこの世界から影響を何一つ及ぼす事の出来ない存在になってしまう。それはつまり──また、一人ぼっちになってしまう。遺跡で長い長い時を一人で眠り続けた時のように。
 光か、闇か──どちらでもよかった。手を伸ばして私を目覚めさせた彼は居場所を作ってくれた。守ると誓ってくれた。ずっと傍に居た。吸血鬼にしてはヒトの一生なぞ取るに足らない時間枠の中で、彼は私を変えたのだ。母の傍から離れ、一人で歩けるように──
 セラーナは頷いた。無言のまま、俯いたままではあったがしっかりと首を縦に振ってくれた。それを見てストルンはほっとした表情を浮かべ、
「よし! フリア、お前は私の援護をするんだ。何としてもジュリアンの魂を見つけてみせる。ミラークに奪わせてたまるか」
 彼の意気に反応したのか、全創造主の与えし白く輝く光がふわっと煌いた。ストルンはセラーナの肩から手を離し、再び詠唱を続けながら緑色に輝く黒い本に向けて手を翳した。フリアも続けて詠唱を始める。
 セラーナはジュリアンの右手を掴み、その手を自分の両手に重ねるようにして絡ませた。手袋越しでも彼の体温が伝わってくる。誰とはなしに彼女は祈っていた。吸血鬼が祈りをささげるなぞ滑稽ではあるかもしれない。しかしそれ以上に突き動かす感情があった。彼が居なくなればまた居場所は無くなる。あの時ヴォルキハル城の窓から、去っていくジュリアンを見た時感じた胸の痛みが永遠に残り続ける。
 二度とあんな思いはしたくなかった。居場所を失われるのは二度とごめんだった──だからお願い、“ジュリアン、起きて。”

 ふ、と何かが耳に入ってきた気がして、首だけを動かして背後を見やるも勿論誰の姿もない。……気のせいか。振り向けばいつも傍に居た彼女は、もう俺の手の届かない所に居るのが分かっているのに……
“貴様、恐怖を感じてないのか? 我の力によってじわじわと消え逝く事が恐ろしくはないのか?”
 既に俺の四肢は輪郭のみぼんやり映る程度で、今なおじわじわと目に見えない何かが俺の身体を浸食し、無き者にしようとしていた。消えていくのは俺の実体も同様で、意識が全て消えれば実体も消えてしまう──と、ミラークは嬉々とした様子で、さっきまで俺に概要を話してくれていた。
 一通り自分に起きた事は理解できた。情けない事に俺はミラークの手の中で踊らされてきたのだ。……それには苦笑せざるを得なかったが、俺は最早生きる事をこの時点で放棄していた。毎晩、セラーナが蹂躙されたり自分の身体が消えたりする悪夢を見せられ続けていたせいか、どこか他人事みたいに思えてしまい恐怖すら感じられない。
 だからミラークが何度も恐怖がないのか、怖がれ! 怯えろ! とはやし立てていても、感覚が麻痺しているのか全然恐怖は感じなかった。毎晩夢を見ていた時はあんなに怯えていたのに……
 ──でもたった一つだけ後悔しているんだ。こんな、死ぬ間際の土壇場でようやく自分の気持ちに気づくなんてさ。……もっと早く気づいておくべきだったな。
“怖くはないさ。ただ──後悔してるよ。ソルスセイムの人たちを守れなかった事を”
 嘘つけ。心の中で自分に突っ込みを入れる。
“ふん、今更嘆いても仕方あるまい。貴様と我は何度も言ってきたが、出来が違うのだ。同じドラゴンボーンとしてもな。力の差も技量も全てにおいて我のが上……”
 と、不意にミラークの声が変なところで途切れたが、考える事すら煩わしくなってきた俺にとっては然程気にする事ではなかった。
 消えるならじわじわ消えるよりさっさと消してくれとでも言おうか……と思った時だった。
“………ン、…………ァン!”
 声だ。ミラークではない。ミラークの声は肉体から発せられる肉声ではないのは何度も聞いて分かっていたが、今俺の耳に届いたのは、紛れも無く誰かの肉声だった。男の野太い声……
“よもやここまで……嗅ぎ付けるとはな、ストルンめ”
 ミラークが毒づくように声を吐き出した。……ストルン? ……ストルンって誰だ? 聞いた事がある筈なのに、俺の頭は既に考える事も放棄していたせいで名前を聞いてもいまひとつぴんとこなかった。
“ドヴァーキン……ジュリアン、貴様を助けに来たようだな。あやつは全創造主の力の恩恵を借りることが出来るソルスセイムの呪術師だが、……黒い本に触れたりでもしたのか? あやつは黒い本に触れられぬと言っていた。だから岩の浄化を敢えて許してこの手を使ったというのに……”
 ミラークの独白におや、と思った。俺の脳は考える事を放棄しているのにおや、と思ったのだ。今ミラークが言った事、聞いた事がある気がしたのだ。
 誰だったか……確か、どこかの小屋で……
“……ュリアン! ジュリアン! 何処にいる!!”
 先程よりもはっきりとした“声”が俺の耳に届いた。ミラークも同様だろう。ちっと舌打ちをしている。
“あと少しで貴様の思念も我に取り込まれるというのに……”
 なんだ、ミラークだって早く取り込みたいんじゃないか、
“ならさっさと終わらせてくれよ。俺だってこんなじわじわ消えていくやり方されたくないんだ、一瞬で……”
 言い終わるより先に、考える事を放棄した頭に直接声が響いてきたせいで俺は不意に口をつぐんだ。
『ジュリアン!』
 ──瞬間、俺は思い出した。声の主はストルンで──ストルンが誰だったかということも。

「見つけたぞ!」
 歓喜を含ませた声を発したストルンに、目を瞑りながらジュリアンの右手を握り締めていたセラーナはすっと目を開けて彼を見やる。
 ストルンはしっかりと首を縦に振ってみせるが、それ以上言葉は出さず、再び精神を集中し始める。
 ジュリアンの肌はドラゴン・アスペクト──いや、ミラークの服従のシャウトのせいか更にどす黒くなり、表情は相変わらず苦悶に満ちたままだった。セラーナは再び目を瞑り、誰とはなしに祈りを捧げ続けた。彼の目が醒める事をただひたすら、願いながら。

“……ストルン?”
 頭に直接響いてくるため、目の前に居るミラークには、俺がストルンに話しかけていると気づかれていないようだ。頭の中で呼びかけると、そうだと答えが返ってきた。
“やっと見つけた。黒い本の中を探し回って、お前の声が聞こえた気がしたから呼びかけたんだ。やっと見つけたぞジュリアン。お前を助けにきたんだ”
 助けに来た、だって? その言葉は助けを求めていた者にとってはさぞかし甘美な響きに聞こえるだろう。だが今の俺にとってはどうでもよかった。助けて欲しいなぞ思いもよらなかった。
“……俺を助けに来たって? おあいにくさまだったな、俺はもうすぐ消えるんだ、今更助けてもらいたいなんて思っちゃいねぇよ”
 と心で言うと、予想外だったらしく──まぁ当たり前だろうが──何故だと問い返してきた。その理由を話す事すら面倒くさい。
“どうしてって……諦めたんだ。生きる事を。……っていうか、どちらかいうと事なかれ主義なスコールの民の代表であるあんたが、俺を助けにわざわざアポクリファまで意識飛ばしてやってくるってのが既に予想外なんだけど?
 ……誰に事の概要を聞いたのかは知らないけどさ、無駄足させて悪かったな。あんたに頼んだ誰かに代わって謝るよ”
 投げやりに言ってやったが、内心少し言い過ぎたかなと思っていた。けどもう俺の意識はミラークの中に取り込まれるんだ、後のことなんて知ったこっちゃない……
“ジュリアン、右手を見るんだ”
 と、ストルンから返ってきた返事は予想外の範疇を超えていた。右手? だらんと垂れ下がっている俺の右手を見ろ、って?
 力なく垂れ下がった自分の手を見て何になるんだ? と思いながらも、俺は頭を少し下げ、右手を見てみた。が、特に何も起きていない。相変わらず半透明で輪郭がうっすら見えているだけだ。
“……何もないじゃないか”
“何か見えてきやしないか? ……何かが”
 何かって……と思いながらじっ、と見ていると、あれ、と思える点が見えてきた。右手は力なく垂れ下がったままだったが、その右手が何か白い光に包まれているように思えたのだ。
 その光はやがて人の手の形になり、そこから光はすっと伸び、腕、身体を形成していき──輪郭、顔が映し出されたところで俺は目を丸くした。ありえない人物が俺の手を握り締めていた。
“……え、セラーナ……?”
 なんで彼女が、と口にする前にストルンの声が頭の中に響く。
“おまえが今さっき言った、頼んだ誰か、が彼女だ。……それでもジュリアン、お前は生きるのを放棄するのか? いや……放棄できるのか?!”
 俺の手を握り締めていたセラーナの光がふわっと四散し、消えていく。
 既に心というのがある場所は消えていた。胴体すら輪郭だけになってしまっているのに、今見た光景が俺の胸に突き刺さり、痛かった。胸が締め付けられるくらいに痛かった。痛くて、悲しくて、涙が溢れた。ミラークが目の前に居るのにそんな事関係なく涙がとめどなく溢れ出てきてしまった。
 分かっていた。自分だって分かっていたんだ。彼女に別れを告げることが自分にとっても首を絞めることと同然の事だと。別れを告げてもなお、彼女はソルスセイムに留まり続けた。俺を救おうと、俺を止めようと走ってきてくれた。俺はそれを幻覚だの守るためだの自分勝手な理屈を通して服従のシャウトを放ってしまって、こうなっちまって──全ては俺の独りよがりだった。守るために別れを告げるだって? 馬鹿じゃないか。自分から手放したんだ。自分で自分の居場所を手放したんだ。
 人は最後まで気づかない愚かな生き物だとよく謳われるが、この時ほど自分の愚かさに気づいた事は無かった。こんなにも自分を思っている人を置いて生きる事を放棄しようとしていたなんて。涙は頬をつたい、ぼろぼろとしずくとなって落ちていく。それがまた悲しくて、涙はどんどん溢れ続けた。嗚咽も時々漏らしていたかもしれない。
“今更になって命が惜しくなったか? 情けないほど泣くとは、さすが腰抜けのドヴァーキンだな”
 呆れた様子でミラークが声をかけてきたが、彼の声なぞ俺の耳に入ってはいなかった。ただひたすら心の中で思っていた。ごめん、セラーナ、ごめん、と。
“……ジュリアン、お前を必要としている人は沢山居る。セラーナだけではない、私も、フリアも、ソルスセイムの民も──いや、このタムリエル全体が、お前の力を必要としている。ミラークではなくお前のを、だ。
 生きたいなら願え。ドヴァーキンとしての力はミラークなぞ凌駕する力をお前は持っている事を忘れるな。お前は肉体がある。だがミラークには無い。
 肉体を持ちえるという事はそれだけで世界に影響を及ぼす事が出来るのだぞ? ミラークはどうだ、アポクリファでお前を操る程度しか能力が無いんだ。そんな奴を怖がる必要が何処にある?
 お前の肉体をミラークなんぞにくれてやる必要ぞ無い。強く願って──服従から逃れろ!”
 ストルンの叱咤に目が醒める感覚だった。そうだ。俺は──生きなくては。生きて再び、今度は俺の方から彼女の手を握り締めたい。
 手足が消えてるから、動かないからダメだ? そんな事ないじゃないか。だって俺にはまだ、“声”が残っている。叫ぶ力が残っている──!
“ミラーク。……気が変わった。俺は生きる道を選ぶ。お前なんぞに俺の身体を奪われてたまるか!”
 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、ぎらぎらとした目で睨み付けてやると、さすがにミラークの態度が急変した。……そりゃそうだ、さっきまで生きるのを放棄していたのに、泣き止んだ途端手のひら返すように様子が変わったのだから。
“何? まさか貴様──そうか、ストルンか!”
 ミラークが気づいたときには遅かった。俺は息を深く吸い込み、そのシャウトを声に出していた──Gol.
 放った瞬間、世界に何の変化も現れなかったが、その刹那、俺の身体に変化が現れた。
 どくん、と身体の中が脈を打つ。……身体から何かが引っ張り出されようとしている。あの時──意識を失う前に全身を食い破られるような痛みを発したモノだろうか?
“そうはさせぬわ! 我の服従は絶対っ……!”
 ミラークが俺に向かってシャウトを叫ぼうとした瞬間、ぼんやり輝く緑色の空を裂いて閃光が一筋、どん、と音を立ててミラークの全身に直撃した。あの光は──
“ぐぉぉおおおっ! 禍々しい全創造主の力か!! ストルンめ……岩を浄化させたのが仇となったか!!”
 閃光に貫かれ、ミラークは身動きが取れない様子だ。シャウトを打てる様子ではない。
 と、突然身体の中から──とはいえ、既に顔から下は輪郭のみで透き通っているのだが──緑色の煙が立ち上ってきた。何が出てくるんだと思うと、しゅうしゅうと瘴気を噴出しながら出てきたのは──幾重にも重なった触手が全身を覆っている、異形のイキモノ。……俺はこれを知っている。ミラークの手下なのか、はたまたハルメアス・モラのそれなのかは分からないが、この世界でもタムリエルでも具現化したのを何度も見て戦ってきた──シーカーだ。こんなものが俺の身体に入っていたのか?
 体から出てきた瞬間、ふわっと何かがまとわりつくような感覚がしたかみなかで、輪郭のみだった全身が元に戻り──といっても意識のみが飛んでる為何も身に着けてはいないのだが──身体が動かせるようになった。
“それを殺せ、ジュリアン!”
 頭の中でストルンが声をあげる。そうだった、ここで殺さないと俺の肉体はまだ呪縛で動けないはず。瘴気を出しながらふよふよ浮いている、俺の身体から出てきたシーカーをむんずと捕まえて、
“よくも俺を散々苦しめてくれたよなぁ……だが、これも最後だっ!”
 両手で触手のようなそれを掴み、引き裂くようにして腕を引っ張ると、ぶちぶちと音を立ててそれが左右に引き裂かれていった。ちっ、と光によって動けないミラークが舌打ちをする。
 完全にまっぷたつになったそれをぽい、と地面に落とすと、瘴気につつまれてふっと亡骸は消えた。それを見て、ミラークは再度舌打ちをする。
“……今回は逃れても、次また同じ事をするぞ、ジュリアン。我の服従から抜け出したとしても、貴様と我の道は繋がっているのだ”
“そうかもな。”でも、あんたは確実な事を分かっちゃいない。
“……一つだけ言っておいてやる。俺とあんたは確かに道が繋がっているんだろう、だけど俺はあんたじゃないし、あんたも俺じゃない。俺は俺の生き方があるし、あんたとは違う。たとえ道が繋がっていても、俺はあんたと同じ出口に辿り着かない。”
“ふん、貴様のような腰抜けのドヴァーキンに我と同じ道を辿り着く事が出来ると思うな。人に弱く、助けが無いと生きていけない腰抜けなぞに……”
“何とでも言えばいい。竜教団を裏切ったあんたにゃ絶対分からないさ。人を愛し、人を守ろうとする気持ちがどこから来ているのか”
 言いながら自然と右手を見た。彼女が居るからこそ、俺は生きる道を選んだ。もう二度と逃したりしないさ。大事なものを。大切な人を。
 閃光がふっと消え、ミラークは開放された。俺もそろそろ自分の身体の中に戻らなきゃいけないな。
 俺は再度“叫んだ”──お前と同じだよ、ミラーク。同じだけど似て非なる力だ。──Mul Quh Diiv.
 シャウトは輝き、全身に光の奔流をほとばしらせながら具現化した。ミラークのものとは違う、太陽のように輝くそれはミラークの目を焼き付けたようで、彼は思わず手で目を覆った。
“な、言っただろ? あんたと俺の辿り着く道は違うんだってな。……二度と俺の身体を手に入れようと思うなよ。最も、もうこんな事は起きないと思うがな”
 ドラゴンアスペクトの力は一層輝きを増しながら、光は翼と形を変えた。その翼はドラゴンのそれに似ていた。
 ばさっと羽を広げ、俺は地面を蹴って当たり一面緑色の空中へ飛び出す。閃光を追っていくうちに、いつしか白く輝く光が俺の全身を包み込んでいた。そのまま何か大きな手で持ち上げられるようにしていくうちに、安心しきったかのように俺は意識を失った。

「フリア、剣で斬れ!」
 ジュリアンの身体から、緑色の瘴気を纏って出てきたものをフリアが短剣を握りしめて一刀で仕留めた瞬間、それは煙のように消え、四散した。
 それと同時に黒い本の輝きは消え、ばさりと音を立てて本は閉じられた。ストルンがそれを掴み、本を開こうとしても開く事が出来ない。本の光が消えたと同時に、ジュリアンの身体を覆っていたミラークの“服従”のシャウトである光もまたふっと消えうせた。
「大丈夫だ。……ジュリアンの意識は戻った。成功だ」
 はぁはぁと肩で息をしながらではあったが、ストルンはにやりと笑って安心させるように何度も首を縦に振った。セラーナが見てみると、ジュリアンのどす黒く変色していた顔が、普通のそれに戻っている。血色も良くなって、表情も苦痛で歪ませておらず、穏やかに寝息を立てていた。
「……今の、フリアが斬ったのは何だったんですの?」
 ぽつりとセラーナが問いかける。斬った筈なのに霧のように消えてしまった事が解せないらしい。
「……恐らく、ジュリアンとミラークを繋げていたモノだな。
 ジュリアンとミラークの道は繋がっているのは確かな事だが、あれはその繋がりを強固にしていた原因だろう。恐らく、五つの岩に封印していたルーカーの一部をジュリアンに植え付けていたに違いない。攻撃を食らわせていた時とかにな。
 まぁ、あれが無くなった以上、今後ミラークがジュリアンに手を出す事はできんだろう。悪夢にうなされる日々ももうあるまい」
 そう聞いて、セラーナはようやく安心したようだった。ずっと握り締めていたせいで硬直状態になっていた両手を引き剥がすようにして離すと、彼の手にセラーナの手の痕が手袋で覆われていてもしっかり残っていた。汗をかいていたらしく、その部分だけじっとり濡れている気さえする。気を悪くしなければいいのだけど、とセラーナは思った。
 気づけば朝になっていた。鳥の鳴く声がようやく耳に入ってくる。フリアもストルンも疲れが顔にべっとりついていたが、二人とも嬉しそうだった。彼らを信じて頼みに来て本当に良かった、とセラーナは心から感謝した。

 それから三日後の──昼前。
 俺は灰交じりの雪原を無我夢中で走っていた。
 目覚めてすぐだったため、身体に力が入らず灰に足を取られて何度も転んでしまう。けど、それでも走るのを止めなかった。もう二度と失いたくないから。

 ことは数時間ほど前に遡る。
 数週間、満足に眠れなかった俺はまる三日眠り込み、目覚めた時、自分が一瞬何処に居るのか全く見当がつかなかった。
 見慣れない天井。薄暗い室内は心なしか冷えており、何処からか隙間風が入ってきているようにさえ感じられる。
 上体だけ起こして自分が居る場所を確かめようとしたが、起きてすぐ自分が何処に居るか見当がついた。ここはストルンの小屋だ。何度も訪ねていたから、部屋の構造は分かっていたのだ。さほど広い家でもないしな。
 ベッドから起き上がったところで、扉を開いて入ってきたのはストルンとフリアだった。二人とも俺の姿を見て目を丸くしている。
「ジュリアン、目が覚めたのか!」
 言いながら部屋をずんずん進み、俺の目前で止まるストルン。じっと全身を舐め回すように見てくるので、少し気恥ずかしい。
「何処もおかしくはないようだな? あれから悪夢も見る事はあるまい」
「ああ……あんたには大変世話になった。フリアも、ありがとう」
 ぺこりと頭を下げると、ははと笑いながら彼は手近の椅子に座った。フリアもうんうんと頷いている。
「わしらに礼は及ばん。スコールの民を助けてくれた者を見捨てる訳にはいかなかったからの事だ。礼ならセラーナに言うといい。彼女がジュリアンの事を話してくれなければ、今頃おまえは消えてなくなっていたかもしれぬのだからな」
「ああ、……で、セラーナは何処にいるんだ?」間髪入れずに聞き返すと、ストルンとフリアの表情が曇った。──何かあったのか?
 二人はどちらが言うのか、と互いに牽制しあってる様子ではあったがさすがに黙っておくわけにはいかないと判断したのか、ストルンが申し訳なさそうに口を開いた。
「止めたんだがな……その、わしらは、な。だが……言う事を聞かなくってな」
 言葉少なすぎて言いたい事が全く伝わってこない。止めた? この場合で言うと、セラーナを止めたということなのだろうが、何を止めたんだかが分からない。
「はっきり言ってくれ。セラーナを止めたって、どういうことだ?」
 少し強い口調で述べると、分かったといった様子でストルンが再び口を開き、出した言葉は信じられないことだった。
「セラーナは出て行った。自分のやる事は終わったと言ってな。
 これからどうするのかと聞いたら、先のことは分からないが、とりあえずソルスセイムを発つと言っていた。今日は確か定期舟航便が出てる日だ、と言ってたな」
 頭に金ダライを打ち付けられた位、衝撃があった。衝撃の後、俺は自分の装備品と荷袋を背負い、十数分後にはストルンの小屋を出ていた。
 そのまま走ってスコール村を出て、急勾配の山道を懸命に下った。三日も寝ていたせいで、何も補給をしていない俺の身体は体力が格段に落ち、何度も足を雪か灰に取られてみっともない格好で転げ落ちたりもしたが、それでも走る事を止めなかった。

 はぁはぁと肩で息をしながらも、走り続けて三時間弱、ようやくレイブンロックの港町が見えてきた。
 レイブンロックの港は町を守る外壁の向こう側にあるため、港に船があるかは街道からは確認できない。急がなければとただ心は急いていた。もうあんな気持ちになるのは二度とごめんだった。
 足取りはふらふらになりながらも、レイブンロックの門をくぐるとすぐ、ブルワークと呼ばれるレドラン家の衛兵が詰め所として使っている建物がある、その先を左手に曲がれば桟橋が見えてくるのだ。
「はぁ、はぁ、……船はまだ出てないのか……」
 走る事すら覚束ず、よたよた片足をひきずるような格好で歩いているため、周りを歩く衛兵が訝しげにこちらを見ているが、そんな事はどうでもよかった。
 桟橋入り口までやってくると船に積荷を入れている船員が何人か見える。漁師が使う小さな小船も港に係留してあり、スカイリム行きの船が係留されている場所とは別の桟橋で忙しそうに積荷を下ろしているのが見て取れた。
 セラーナは、と辺りに目を配ると──いた! スカイリム行きの船が留めてある桟橋で海をぼんやり眺めていた。少し離れた場所には船員が突っ立っていて乗る客から船賃を戴いている様子が見える。
 よろよろと歩いて、セラーナが立つ桟橋に近づき、俺は彼女の名前を何日ぶりかに呼んだ。
「セラーナ」
 びくっとして、こちらを見る。驚くかと思いきや、彼女の表情はにこりともせず無表情のままだった。
「セラーナ、帰ろうぜ」
「何処へ?」間髪入れずに聞き返してくる。
 俺は桟橋の入り口付近、彼女は先端よりすこし手前に居るため、互いに距離がある。そのため声が自然と大きくなってしまう。
「何処へって……俺と」
 一緒に、と言おうとした時彼女の声が重なった。
「私はあなたに暇を告げられた者でしてよ。あなたと帰る場所なんてありませんわ。……だからこの島を出るんですの。ここを出たらどうするかはまだ決まってませんけど」
「いや、だから、それは俺が悪かったんだ。突然あんな事を言ってしまった事、申し訳ないと思ってる。だから、また俺と──」
「今回の事だって、ストルンに教えてもらってようやく分かったんですのよ、あなたは何一つ私に話さなかった。それでようやく分かりましたわ、私は必要とされていないんだ、と」
 違う。「そんな事思っちゃ居ない。俺はただ、……夢の事だって知ってるんだろう? だからあんな事に君がなりやしないかと気が気でなくて──」
 互いに口調が熱くなり声高に話すようになっていくため、港で荷降ろし作業をしていた漁師や船員達がおや、といった様子で俺とセラーナを交互に見ているのが分かったが、今は形振り構っていられなかった。
「……もういいんですの、言い訳なんて見苦しい。聞きたくありませんわ。私のことは忘れて別の方を連れて旅をすればよろしいんじゃなくて?」
 と、セラーナが言い終わったとほぼ同時に桟橋の端で乗客から金を受け取っていた船員の一人が、かん、かんと短剣を、何処から持ってきたのか金属製のお椀の底に打ち付けていた。
「え~~……スカイリム行きの船、まもなく出港ー、出港ー! お乗りの方はお急ぎくだせぇー!」
 その声を聞いて、セラーナはずっと同じ場所に突っ立っていた足を一歩、船の方へと歩き出した。
「じゃ、私は行きますわ。見送りは要りませんわよ。……さようなら」
 かつっ、とブーツの音を立ててセラーナが船賃を渡す船員の方へと歩いていく。
 一瞬、ほんの一瞬だけだったが──彼女がこのまま俺と別れればそれはそれでいいのかもしれない、と思った。今回のような事が本当に起こらないとは限らない。彼女の為にも母親の元で生きていくのはある意味、幸せなんじゃないか──と。
 ──けど。あんな思いは二度としたくない。居場所を二度も失うなんて俺は嫌だ、嫌なんだ!
「行かないでくれ、セラーナ!!」
 あんなにふらふらだった足が、気づけばまっすぐ彼女の元へ走り出していた。そのままぶつかるようにしてセラーナの小柄な身体を後ろから抱きしめる。
「俺の傍に居てくれ。お願いだ、俺には君が必要なんだ……」
 走ってぶつかるようにして抱きしめたため、彼女は数歩前のめりに歩く格好になったが、支えるようにして抱きしめたため、倒れる事はなかった……が、お椀を短剣で叩いて出港の合図を促していた船員の目前で止まる形になってしまった。
 船員が、半開きになった口を開けたままセラーナと俺を交互に見ている。あっけにとられているらしく、剣でお椀を叩く事すらどこかへ吹っ飛んだ様子だった。
「……ジュ、ジュリアン、苦しいですわ……」苦しいというより照れくさいといった感じでセラーナが訴えてきたが、俺は腕を緩める気は毛頭無かった。
「……離さない。もう二度と君に別れるなんて言わないさ。一緒に居たいんだ、セラーナ。何処にも行かないでくれ」
 抱きしめていると、セラーナの体温がほんのり感じられる。こうやって体温を感じられるようにまた、戻れたのも彼女が俺を救ってくれたからだった。
 生きるのを諦めかけた時、俺の右手を両手で握り締めていた彼女の姿を見た時、いかに自分が愚かだったかを知った。もう二度と後悔したくないんだ。こんなにも俺を思ってくれる人を離したくないんだ。
「……ジュリアン、分かりましたから腕を離していただけませんこと? 苦しくて息ができませんわ」
 さすがに窒息させるわけにもいかないので、大人しく手を離し彼女を解放すると、セラーナはくるりとこちらを向いて上目遣いでこちらを睨んできた。心なしか頬がピンク色に染まっている。
 しばらく互いに黙っていたが、セラーナがはぁ、と深くため息をついた所で沈黙が破られた。
「……ああもう、ストルンがあんな事言うからやってみただけですのに、こんなにまでされるなんて思ってもみなかったですわ」
 いきなりストルンの名前が出たため、何を言ってるのか理解に苦しむ。勿論それを知っての事でセラーナは口に出したのだろうが。俺の顔に疑問符が張り付いた状態なのを見て、再度ため息をひとつ吐いてから、セラーナはぽつりぽつりと話し出した。
「出て行けるわけないじゃありませんの。……分かりませんの? 私はあなたと旅をしている間、あなたに金銭を渡された事は一度もないんですのよ? 私が欲しいと言わずとも、あなたは私に数多のものを与えてきましたわ。だから私から金銭を要求する事も受け取った事もないんですの。つまり私は一文無し。船賃なんて持ってる筈ありませんわ。
 一人でここまで来たのは、ストルンが言ったからですわ。ジュリアンを試してみろって。何の事だかさっぱりでしたけど、あなたが私を追い出した事に対して後悔を感じるようなら追いかけてくるだろう、と。その……まさか、あんな事言われるなんて予想外でしたけど……」
 最後まで言葉が続かず、ぼそぼそとした口調で締めくくるセラーナ。
 ──図ったな、ストルン。
 内心舌打ちせざるを得なかった。アポクリファの中で自分が情けなくも嗚咽を漏らして泣いていた事を知っててこんな一芝居打つようにセラーナに言った訳か。余計な事しやがって。
 そんな事を言われたせいで、俺はどういう顔をしていいのか分からず、セラーナもまた、顔を俯かせて視線をわざと逸らしている。妙な雰囲気が俺たちを包んでいた時だった。
「おい、そこの兄ちゃん! 喧嘩もほどほどにしろよな、嬢ちゃんのこと泣かせるんじゃねぇよ!!」
「昼っぱらからお熱いの見せ付けてくれるじゃねぇか、お似合いだよ、お二人さん! 幸せになるんだぜ!!」
 などと港のそこかしこから、荷降ろしをしていた漁師や船員達から拍手と共に大量の野次が飛んできた。どうやら痴話喧嘩か何かをして彼氏がおっかけてきたもんだと勘違いしたらしい。
「ちょ、いや、これは、だな……」
 慌てて取り付こうとしたものの、気さくなダンマーの漁師や、ノルドの船員達、そして俺達の目前で突っ立っている船賃を戴いていた船員なんかは気を取り直した様子でかん、かんと短剣でお椀を叩いて鳴らしているせいで俺の反論なぞ聞こえやしない。勿論それは出港の合図ではなく、拍手の代わりだというのはすぐ分かった。
 元々こういう雰囲気に慣れてないせいで、顔がみるみる赤くなっていくのが自分でも分かった。耳まで真っ赤になっている気がする。この場は大人しく立ち去った方がよさそうだ。
 くるりと踵でターンし、町の方へ身体を向けたが、ふと思い立って、俺は右手をセラーナに差し出した。
「……行こうぜ、セラーナ」
 ずっと視線をずらしたまま彼女ではあったが、差し出された右手と、俺の顔を交互に見て、ふわりと穏やかな笑みを浮かべた。
「よ……、よろしくてよ」
 差し出した手を、セラーナは左手で握り返す。顔は相変わらず赤面したままではあったが、この瞬間だけは照れも気恥ずかしさもなかった。
 にかっと笑ってから、姿勢を戻して町の方へ歩く。歩きながら耳をすませば、セラーナの足音が規則正しく聞こえてくる。
 口笛や野良ったい声が響く港に、うみねこがミャア、ミャアとけたたましく鳴く。その声とほぼ同時に、久方振りに雲が消え、日差しが島を照らし出した。灰交じりの雪の大地が、日差しによってキラキラとまばゆく輝く。
 久しぶりの晴れ間に喜ぶ町の人々の喧騒に、俺は空を仰ぎ見た。手で庇を作ってみても太陽の光が透ける事は無い。
 生きているんだ。そしてこれからも。

 それは一つの事象が起こした、ほんの数週間の出来事。
 しかしそれはたった一つの言葉で締めくくられてしまうだろう。
 生きる者と、それを願う者──二つの奇跡が重なったからだよ、と。


 あとがきは次の記事で書きますorz 長々とお読みいただき、お疲れ様でした。
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自己紹介:
スカイリムはホワイトラン在住のドヴァキン。
現在のところ引越しする予定はなし。
中の人はヘタレですが一応同人誌作家。マイナーゲームの絵を描いてたり。
文章も多いですが一応絵の方専門。
スカイリムの絵とか描いたりフォトショでSSをレタッチしたりするのが好き。
スカイリムに影響されて2012年から英語の勉強を始め現在進行形で勉強中。
ラジオ英語を聴いているのだが、英会話教室に通いたいのに時間と金が無くて嘆いているとかいないとか。

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