04.21.14:08
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05.26.23:22
Retaliation
※Fallout4二次創作小説チャプター2です。その手の部類が苦手な方はブラウザバックでお帰りを。
これは第二章です。一章から読みたい方は前回の記事「Blood feud」からお読みください。
「嘘じゃねぇさ、覚えているだろ? まさか忘れたとは言わせねぇぜ」
これは第二章です。一章から読みたい方は前回の記事「Blood feud」からお読みください。
「嘘じゃねぇさ、覚えているだろ? まさか忘れたとは言わせねぇぜ」
パワーアーマーを着た男ははははと笑いながら突然、こちらにじゃきっ、と音を立てて銃口を向けてくる。……が、すぐに逸らしてみせた。
「どうやら隣のミニッツメンは知らないようだな、マクレディ。教えてやれよ、俺が誰なのかを」
再三名を呼ばれた彼は、びくりと肩を震わせながら……恐る恐る立ち上がり、視線を極力交わしたくなさそうにちらちらとこちらを見ながら、言った。
「……彼は、ブラフと言って、……ウィンロックと、バーンズの……居た、つまり、俺が居た……ガンナー一団の、ナンバー2だ」
やけに歯切れの悪い言い方をしている。──ウィンロックとバーンズの居たガンナー一団の……と言うことは、つまり。
「何ぼそぼそ言ってるんだマクレディ。こっちに聞こえるように声を張り上げてくれなきゃ分からんだろうが。……まぁいい。
ジュリアンだったか、ミニッツメンの将軍様らしいからな、こちらも改めて自己紹介しよう。……俺はブラフ。あんたの隣に居るマクレディと共に、ウィンロックとバーンズの下で働いてたガンナーだ。
悪いがあんた達をちょいと騙してここまで来てもらった。……あんたの隣に居るマクレディを赦す訳にはいかんのでね」
「ちょっといいか?」話に割り込む形で俺は声を張り上げた。ブラフと名乗ったパワーアーマーの男はどうぞ、と促すように手を動かして見せる。
「俺とマクレディがウィンロックやあんたらの仲間を倒したのは事実だ。けどそれはもう半年近く前の事なのに、それまであんたは今まで何やってたんだ?」
何だそんなことか、と男は呟いた──もちろん声は聞こえない。が、唇の動きからしてそう言ったのだろう。
「あんた達を探していたり、再びガンナーを纏め上げるのに時間を要していた、と言っておこう。……言っておくが、逃げられないぞ。姿は見えないだろうが、このホールだけで十数人あんた達に銃口を向けている奴らが居るからな」
十数人だと……? 努めて気取られないように辺りに気を配る。……物陰に隠れているのが数人見て取れたが、嘘やハッタリを言う理由も意味もないのは分かっている。
──つまり、俺達は包囲されていると言う訳か。背中を嫌な汗が流れ落ちるのを感じる。後ろにある出入り口は封鎖され、包囲されているとなるとこちらは黙って蜂の巣にされるしか無いとでも言うのか──
しかし、その隠れている相手がここから目視できない以上、危険な手を使う訳にはいかない。今はとにかく時間を稼ぐのだ。一瞬の隙を見計らえれば、勝機は見出せる筈──
「ブラフ! なんで今お前がここに居るんだ、お前は俺が抜けるちょっと前に連邦を離れて南へ向かっていた筈じゃないか!」
傍らに立っているマクレディが突然声を張り上げるので俺は思わず彼の方を見た。驚きと──心なしか、恐怖がない交ぜになった表情を浮かべている。……怯えているのか?
「ああ、お前の言うとおりだ。
俺と仲間は確かに南に向かった。お前は知ってるだろうが、ウィンロックとバーンズの、……つまりかつて俺達が居た一族の勢力を増やすためにな。
けど俺は向かわなかった。何で俺が行かなきゃいけないんだ、って後から思ってな。半月以上別の場所に隠れていて、その後何食わぬ顔で、ある事無い事言って仲間を見つけられなかったって報告をしようと一旦戻ったらどうだ、全員ぶっ殺されて、物資は殆ど蓋を開けられ盗まれている。──一目見てすぐお前だと察したぜ。お前、抜けたがってたし、何度かそれをウィンロック達二人に言ってただろ──それに」
それに? 俺とマクレディは次の言葉を待ったが、それはあっけない答えだった。
「お前の死体が転がってなかったしな。……後はもう、お前を探して殺すだけだった。仲間を集めてな。それと物資の調達に一番時間を取られちまった。おかげで随分間が空いちまったが、こうやって再びお目にかかれた、って訳さ、マクレディ」
「俺は会いたくなかったけどな」そう言うマクレディの声は若干、震えている──刹那、思い出した。
──俺が始めてマクレディを見た時だ。グッドネイバーのサードレールにある個室で、彼に詰め寄るウィンロックとバーンズの姿。それに対応する彼は威勢はいいものの、若干声が震えていた……あの時と同じだ。俺はそう確信した。
彼があの二人からの報復を畏れているのは分かっていた。けど彼らは俺達が共に殺したはずだ。まさかそのナンバー2が今頃になって現れるとは……しかも報復という形で。
「残念だなぁ、マクレディ。俺はお前の射撃の腕を買ってたんだぜ、お前と俺ならウィンロック達よりも上に行けるんじゃないかってな。……本当に残念だよ」
言いながら、再び銃口をこちらに向けた──と同時に、階上の廊下に隠れていたガンナーが一斉に立ち上がり、こちらに銃口を突きつける。……その数、ざっと十二人。
背中側の、Vaultを出る唯一の手段のエレベーターへ繋がる道は閉じられたままだ。つまり背中を向けて逃げても撃たれて即死と言うこと。……なら前に逃げるしかない!
「マクレディ! 逃げるぞ!!」
俺が言うのと、ブラフが「撃てーーーーーーーっ!!」と声を張り上げるのはほぼ同時だった。声に応じて、ブラフの仲間が階上から一斉に掃射を始めてくる。
だだだ、とフルオートに改造したパイプピストルの銃口から一斉に鉛の弾がこちらめがけて飛んできた。その弾道を肉眼で見ることは出来ない。──しかし、僅かながら俺がマクレディの腕をつかんで走り出した方が早かった。僅差で今まで身を隠していた、テーブルに鉛の玉が叩きつけられ変形していく。文字通り蜂の巣にされるところだった。
走りながらラウンジの向かって右側、レジスター等が置かれてある食堂のカウンターに彼と自らを押し込むようにして身を隠す。カウンターは階上の右側通路の下に位置するため、少なくともこれで四方八方から掃射される心配はなくなる。隠れしな、銃口のみカウンターから突き出して左側の通路で攻撃してるガンナーの頭を狙い済まし、撃つ。ぱしゅっ、と空気の震える微かな音の直後、狙った敵は頭部の肉片と血液を四散させ倒れた。
「隠れてないで反撃するんだ。それとも怖気づいたのか? マクレディ」
と、カウンターの下で身を竦ませていたマクレディが俺の一言ではっと気を取り直した様子で、手にしたライフルを構えて姿勢を低くしたままだが、正確に相手を射抜いていく。撃つ度に死体が廊下に転がる様は、舌を巻く程だった。
「……誰もがあいつを怖がってた。ジュリアンは知らないからそう言えるだろうが。
あいつのやり方は酷いを通り越して惨いものだった。通る道には惨たらしく殺された死体が折り重なっていくもんだから、狂犬とかあだ名を付けられた事もある。──ここを出たら教えてやるよ。もっとも、出られたらの話だがな」
ふぅん、と俺は間延びした返事をしたので、彼は気を悪くしたのか、誇張だとでも思ってるんだろう、と苛立たしげに言い返してきた。そんなんじゃねぇよ。
「なら、俺がそいつの首を捕ってやれば、お前は怖がらずに済むんだろ?」
……そう、言ったのはついさっきだった……いや、かなり前だっただろうか。屋内に居るせいか、銃撃戦を始めて最早何時間経ったのかすらよく分からない。
逃げ道がない以上、前に進むしかなく──俺達はラウンジを出て応戦した。最初は勝てると思っていたんだ。……けど、敵の数は予想を超えてあまりに多く──じわじわとこちらを追い詰めていった。
迂闊だったと言わざるを得ない。休憩中に依頼を受けたせいだというのと、相手がレイダーだと信じ込んでいたせいもあって、俺は必需品の補充を怠ってしまっていたのだ。Pip-boyからスティムパックを出す際残数も表示されるのだが、それがどんどん減っていくのに内心、苛立ちを隠せなかった。攻撃の合間、死体から奪おうにも、不思議なことにガンナー達はスティムパックを一つとも持っていなかったのだ。銃弾や武器はたっぷり補充できたものの、何故回復薬が無いのか──考えればすぐに察しがつく。
俺達が死体から奪うものを極力減らしている……つまり、スティムパックや携行食糧を得て延命しないようにしているのだろう。ましてこのVaultは廃墟となって随分経っている。漁ったところで何も見つからないまま徒労に終わるのが関の山だ。
ガンナーの数は徐々に減っていったが、それと同時にこちらの回復薬も減って言ったのは事実で……
どれほど進んだかわからず、気付けばVaultの最奥部まで来ている気がする。あちこちの部屋で隠れ、隠れながら銃弾を撃ってきたが、いつしかスティムパックの残量は1個までになっていた。
身体や、手にしたコンバットライフルは返り血と汗でべとべとになっている。それは傍らに立つマクレディも同じで、はぁはぁと息を弾ませながら、隠れている壁際で廊下を走ってくる者達の足音を聞きつけては、銃口を向けていた。
「ちょっと……きついな、マクレディ」
笑みを浮かべながら、照準を向けて一発放つ。音も無く走り寄ってこようとしたガンナーは廊下でくず折れた。
「……今頃になって弱音を吐くとか、本気か? 俺なんてもうさっきからずっときついって思ってるのに」
わざとおどけた口調で返してくるマクレディ。
互いにまだ致命傷を負っていないのは幸いだった。何度かスティムパックを使い、傷を癒しながら進んだものの──最早何人倒したかなんて把握出来てない。
奇妙なことにあのブラフはあれから一切姿を見せていなかった。どこかでこちらが弱るのを待っているのかもしれない。……早いところ、ここから逃げたほうがいいだろう。回復薬が無いのに強敵と戦うなんて無駄死にする行為はごめんだ。彼を倒すのはその後でも構わない。
態勢を整えてから倒しに来るでもいいだろうしな。……それまでここに居るかなんて分からないけど。
「ジュリアンさ、……鍵開け、うまかったろ」
ぽつりとマクレディが言った。疲労がべったりと顔に張り付いているが、まだ目は輝きを失っていない。
「ああ、それがどうした?」
「どうしたって、決まってるだろ。……エレベーターに繋がる唯一の道が閉ざされてるのは分かってるさ。それをこじ開けることが出来るか、って聞いてるんだ」
察しろよ、と言いたそうにマクレディは小さく舌打ちする。……果たしてあの扉に鍵穴があっただろうか。けど試してみる価値はありそうだ。
「成程な。試してみたいが──まだブラフとやらを倒してないんだぜ、どっかでこちらの動きを探ってるかもしれない」
と言ってみたものの、怖気づいたのか、とマクレディに言われてしまう始末。さっきまで震えていたお前に言われたくねぇよと言い返すと、彼はむくれた様子で部屋を飛び出した。
「大分殺したし、今のところこっちに近づいてくる足音も聞こえない。……今なら行けるさ、ジュリアン」
マクレディは鉄砲玉だ、と思ったことは一度や二度ではない。その都度反撃を受けたりしてその都度俺がスティムパックを与えるのもしばしばだった。今回ばかりはそうならない事を願う。今ここで反撃を返したとしても、回復する手立てがなければ、幾ら武器弾薬を持ち合わせていても致命傷で死ぬ事に変わりはないからな。
「分かった。……姿勢を低くして隠れながら行くぞ」
ここで相手を迎撃してるだけじゃ無駄に時間を浪費するだけだ。長期戦となると、どうみても分が悪いのはこちらの方だし。
自分達が居るのは恐らく最下階の地下3階の居住区エリア。道なりに向かえばラウンジのあるホールに辿り着く筈だった。応戦しながら後退してきたせいで随分奥まで来ていたことに今更ながら気付く。
じりじりと腰を落とした状態で歩き、時折壁に隠れながら行く先を阻む者が居ないかを確認していくのは骨が折れたが、なんとかラウンジに出ること出来たのは幸いだった。途中見つけたのはガンナーの死体ばかり。
ホールに入る前、壁から顔だけをそっと突き出してざっと周囲を見渡してみる。──二階部分にある廊下には誰の姿も見えない。死体がいくつか転がっているが、ぴくりとも動く様子が無い、……ブラフは何処に行ったのだろうか。ここからだと向かい側の廊下しか見えないため、自分の今居る頭上に居ないとも限らない。
“マクレディ、壁側を沿って進むぞ”
小声でそう告げてから、先ほどラウンジから出た方法を今度は逆に進み音を立てずそろりそろりとラウンジからエレベーターへ繋がる扉に近づく。勿論扉は閉まったままだ。鍵穴らしきものがないか目を配ると──あった。恐らく緊急用の電源が無くても手動で切り替えるためのものだろうが、確かに鍵穴がある。何とかなりそうだ。
“ジュリアン、出来そうか?”
マクレディがこれまた小声で心配そうに訊いてくるので、俺は黙って頷いてみせる。その途端、彼の表情が和らいだ。極度の緊張状態を長く保てるほど、いくら戦場に場慣れしている者とてそう耐えられるものではないのだ。
そうと決まれば、俺はそろりそろりと扉に近づいていく。扉がある部分は頭上を隠すものもなければ、ラウンジの階上からは目を凝らさなくても姿を見られてしまうため、気取られないように注意深く一歩ずつ前へ進んでみるが、廊下には誰の姿もなく、動かない死体があちこちに倒れていた。ぽた、ぽた、と死体から流れ落ちる血が俺達の居る階下のに血溜まりとなっているのが、唯一動くものといえば動くものだった。
誰もいないと安堵して、俺は立ち上がり──扉に駆け寄る。マクレディも俺が警戒を解くと立ち上がって傍らでこちらの挙動を見守っていた。Pip-boyからヘアピンと鍵の変わりに回転させるためのドライバーを取り出し、その二つを差し込んだ瞬間──
ぞくり、と背筋を悪寒が走った。誰かに……誰かに見られている?!
ばっ、と背後を振り向いて──ラウンジの先、死体の連なっている部分に目を凝らすと、折り重なった死体の間から出ている黒く細長い──銃口。
「マクレディ!」
声を張り上げて彼を横に突き飛ばすのと、死体の山からこちらを狙うスナイパーライフルの銃口からダーン、と音を立てて鉛の弾が発射されたのはほぼ同時で──どっ、という衝撃と共に右足の脛にその弾が当たった感触と衝撃が同時に押し寄せ、次の瞬間には扉に全身を叩きつけられていた。
脛と背中に激痛が走り、瞬間息が止まる。意識が朦朧とする中、死体を掻き分けて立ち上がる、パワーアーマーの男が下卑た笑いをホール中に響かせていた──
-----------------------------------
ごめんなさい。前中後編になっちまいました。まさかここまで回りくどくなるとは(読んでる方には申し訳ない・・
こんな長ったらしいの読む人がいるかわからんですが><
最近のジュリアンさん(中の人)はマクレディに傾倒してもう離れられませんorz
なのでずーとマクレディの話しか考えてない有様で・・コミケ受かったらマクレディ本を作りそうで怖いです;;
ゲームのほうはというと、新サバイバルモードが(つまり1.5が)出たのでそっちでプレイしてます。新サバ面白いです。マゾいゲームとなると燃えるのがジュリアンさんなので(笑)
今度近々ゲームのほうもここでプレイ日記書いていけたらいいなぁ・・・なにせ今のところFO4の記事は全部二次創作ばっかりだからww
そんな今週久々にまたまともに更新日に更新できました。
次回もお楽しみに。
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ごめんなさい。前中後編になっちまいました。まさかここまで回りくどくなるとは(読んでる方には申し訳ない・・
こんな長ったらしいの読む人がいるかわからんですが><
最近のジュリアンさん(中の人)はマクレディに傾倒してもう離れられませんorz
なのでずーとマクレディの話しか考えてない有様で・・コミケ受かったらマクレディ本を作りそうで怖いです;;
ゲームのほうはというと、新サバイバルモードが(つまり1.5が)出たのでそっちでプレイしてます。新サバ面白いです。マゾいゲームとなると燃えるのがジュリアンさんなので(笑)
今度近々ゲームのほうもここでプレイ日記書いていけたらいいなぁ・・・なにせ今のところFO4の記事は全部二次創作ばっかりだからww
そんな今週久々にまたまともに更新日に更新できました。
次回もお楽しみに。
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05.22.21:31
Blood feud
嵌められたと知ったときは既に遅かった。
……いや、いつから俺たちは罠にかかっていたのだろう、始めからか? それとも──思い出そうにも、痛みで頭がくらくらする状況ではまともに思いつかない。
既に手持ちにある必需品の殆どは使い果たしてしまった。残っているのは最後の一つとなったスティムパックと、体力は癒えても傷を治すことが出来ない僅かな携行食糧のみ。銃火器や弾薬の類は普段と変わらないほど持ち合わせているから、反撃使用と思えばいくらでも出来る──いや、出来た、か。この足では最早動くことも適わない。
自分の右足を見る。左足の脛には銃弾に貫かれた跡がはっきりと残っており、そこから絶えず血が流れ、青いジャンプスーツを赤黒く染めていた。──迂闊だった、と言わざるを得ない。まさかこんな事になるなんて。
それでも握り締めているスティムパックを使えば、足の怪我も緩和して再び動くことは出来る。──けど、癒したとしてどうする? 周り中敵だらけの中で、また銃弾を浴び再び動けなくなる可能性がないなんて有り得ないのに。
それならいっその事……俺は傍らで辺りを警戒しつつ目を配っているマクレディに声をかけた。
「──逃げるんだ、マクレディ」
事の始まりは……恐らく、マクレディとダイヤモンド・シティの飲み屋、ダグアウト・インで寛いでいた時だろう、──つい半日前の事なのに。
「なぁ、……あんた、ミニッツメンだろう?」
酒場にしつらえてある三人掛けソファーに、俺と隣に座っているマクレディは互いにビールを飲み喉を潤しながら、今日は何をしようかと考えあぐねていたのを邪魔するように、背の低いテーブルを挟んだソファーに男が座りしな、声をかけてきたもんだから、
「……そうだが、見ての通り、今は休憩中なもんでね。何かあるなら終わった後にしてくれないか?」
やや不機嫌そうに言ってしまったが、隣に座っているマクレディは表情一つ変えず、ビール瓶を口に傾けながら話しかけてきた男をじっと見ていた。見たところ、あちこち擦り切れたシャツを羽織ってスラックスを穿いただけの井出達で、そこらに居る居住者となんら変わらない。顔は日に焼けて浅黒く、こちらを見る青い目は眉を顰めているせいか、曇って見える気がしなくもない。
「話だけでも聞いてくれないか。……本当に困っているんだ」
困っている、ね。ちらりと隣のマクレディを見ると思ったとおり、目前に居る男同様に表情を曇らせていた。俺は声を掛ける代わりに、彼の肩をぽんぽんと叩いてやると、彼はこっちを振り向き、“俺またそういう顔してたか?”と言いたそうに見つめてくる。
そのギャップが面白くて、思わずふふっと微かに笑ってしまった。……おっと、今は目の前の男と話してるのに。
「……ああ、いいぜ。何が起きたんだ?」
水を向けてやると、男はぽつぽつ話し始めた。……が、至って簡単な内容だった。レイダーが自分の身内を誘拐した、助けてほしい、それだけ。
場所はモールデンにある中等学校だった。ダイヤモンド・シティから北東部に位置する中学校の廃墟。……の地下にはVault75がある。
その時点で俺はおや、と思った。レイダーがVaultを占拠しているという情報を聞いた覚えがないからだ。連邦中には俺がいたVault111を含め、あちこちに古いVaultの遺跡や今も稼動しているのも存在するが、大体扉が開かれて荒らされまくったVaultを占拠するのはレイダーではなく、ガンナー集団の方が多い。レイダーとて、ガンナーの武力には太刀打ちできないから彼らは古い廃墟しかせいぜい居座る事が出来ないのだろうと思っていたのだが……。
そしてもう一つ。レイダーが人質を取った、というのも聞いた覚えがない。スーパー・ミュータントやガンナーは人質を取って交渉しなければ殺すという暴挙に出ることはあれど、レイダーが人質を取るという、言ってみれば高尚な手段を持ち合わせるような集団だっただろうか?
腑に落ちない点がいくつかあるが……助けない訳にはいかないしな。俺は手に持ったビール瓶に入っている液体を一気に飲み干し、
「──分かった。そのレイダーを倒してきてやる」
そう言うと男は喜び、宜しく頼むと言いながら何度も頭を下げつつ、自分はここで待っていると言いながらダグアウト・インを辞していった。──直後、マクレディが機嫌悪そうに、
「おちおち休んでもいられないんだな、将軍様は」
俺の気持ちを代弁してくれた。──ま、しょうがないさ。
「そんな言い方するって事は、まさか、ついてこないつもりか?」
多少からかうつもりでそう言うと、マクレディは顔を動かさず、目だけじろり、と動かしてこちらを見据え、
「──俺が居ないと困るって言うくせに」
ああ、その通りさ。「困るに決まってるだろ、誰が俺の背後からスナイパーライフルで仕留めてくれるんだ?」
褒めたつもりではないが、マクレディは褒められたと勘違いしたのか、照れくさそうに目を逸らした。……そういう所がまだ幼さを感じさせる。
「じゃ、早速モールデンに向かおう。三時間位あれば着くかな」
今は昼前の11時過ぎ。午後3時前には着くだろう。普段、夜に行動するのが俺のモットーだが今回は室内、しかも廃墟のVaultとなれば外が明るかろうが暗かろうが関係ない。さっさと済ませてさっさと誘拐された人を戻したほうが気分がいいのは確かだ。
案の定、というか、予定通りというか──Vault75の入り口に着いたのは昼の3時前。
モールデン中等学校の廃墟にある入り口から中に入り、そこから薄暗い廊下の通った先に現れたのは開かれっぱなしのVault75の扉だった。電力は未だ稼動しており、あちこちからウィィ……と機械の動く静かな動作音が耳に入ってくる。
歯車の形に切り取られた、重厚な扉の先にはエレベーターのボタンが明滅しながら主を待つかのように佇んでいる。
「このVaultが開かれたのはかなり前みたいだな。開かれる前からこんなんだったんだろうが」
マクレディが誰とはなしにそこら中に散乱している、今となっては骨だけしか残らない骸を蹴っ飛ばしながらごちている。今のところ、レイダーの姿は見受けられない。居るとしたらVaultの内部か。手にしたコンバットライフルの弾倉を確かめていると、音もなくエレベーターの扉がすっと開いた。開いたエレベーターの室内は一般的なそれと同じで、唯一違う点はここがVaultの内部だと現すに相応しいVault-tecのロゴが真ん中にでかでかと描かれてあるだけだった。
「来た。……行くぞ」
「了解」
短い挨拶を交わし、互いに狭いエレベーターに乗り込み、降下ボタンを押すと『下に参ります』と合成音声が扉を閉めながら一気に鋼鉄の箱を降ろしていく。地下何メートルの位置にVault居住地区はあるのだろうか、と思っていると『下層階』合成音と共に扉が開いた。
静かだった。……誰の姿も見えないし声もしない。明りは煌々と灯されており眩しい位だが、ここが廃墟なのだと現すように辺り一面物が散乱し、床は黴と汚れが浮いていて、人が住むのに適した環境ではないと訴えているかのようだった。
「人の気配が感じられないな……」
背後で歩くマクレディがぽつりと言う。俺は背を低くし、足音を極力立てないように屈みながらゆっくりと歩き出した。明りの前に立つ訳には行かない。矢面に立つのと同じ事だからだ。
じりじりと、ゆっくりとした足取りで気配を察知しつつ歩いていくと──進む廊下の右側──恐らくラウンジ辺りだろう──から微かに物音が聞こえてくる。人の歩く足音だ。……レイダーだろうか。
マクレディに静かに歩けと手で合図しながら、俺はゆっくりと廊下の角から頭を突き出し、その先──開けたホールのようなラウンジを見た。
……テーブルやがらくたが散乱していてあまりよくは見えないが……部屋の奥に二人ほど動いている姿が見える。ここからだと他に誰かが居る感じではなさそうだ。もう少し進んだ先で確認し、誰も居なければ一撃で倒せばいい。
「マクレディ、先の部屋に居る奴らを仕留めるぞ」
彼は目視していたらしく、小声で再び了解とだけ言ってきた。にじり寄るように歩いてラウンジの手前までくると、はっきりその姿を確認することが出来た。……が。
「──あれは、ガンナーじゃないか」
思わず口に出さずにはいられなかった。歩いている奴らは全員四肢と胴体を守るコンバットアーマーを身につけ、頭にはヘルメット等を被った全身防備を備えている奴らばかりだったのだ。辺りをせわしなく警戒している姿も、レイダー達のような無能(失礼)の集団とは違い、手練れの傭兵さながらのやり方をしている。敵が何処に隠れ、どこから狙撃してくるかを分かっているような動き。
確かレイダーに誘拐された、とあの男は言ってた筈だ。──なのにどうして、ここにガンナーが居るんだ? 俺らが来る前にガンナーがレイダーを襲撃したのか、と思ったがそれはおかしい。ここに来るまでに死体を一つも──Vault居住者の骸骨は無視して──見ていないのだ。
即ち、ここには最初からガンナーの集団が棲みついているという事。……しかしこの開けた場所には二人しか居なさそうだ。正確に倒していけば、然程苦労する相手でもあるまい。
「どうする、ジュリアン」マクレディが言ってくる。
「俺は左を撃つ。お前は右だ」
短くそう答え、コンバットライフルの照準に目を当てた。円状に作られた照準の真ん中に敵を当てると、躊躇いもせず引き金を引く。サイレンサー付きのため、ぱしゅ、と短くくぐもった音が響くと同時に薬室に送り込まれた銃弾が勢いよく弾き飛ばされ──
「ぐぉっ」「うぁっ」
ほぼ同時に、俺とマクレディの放った弾が狙い済ました奴に当たり、その二人が身を捩じらせながら床に倒れた──直後。
ばっ、ばっ、と天井──いや、二階だ──から俺たちめがけて一斉に光が注がれたのだ。サーチライトの光──ばれたか?
「マクレディ、一旦引──」
目を焼かないように片目を閉じながら傍らに居るマクレディに声をかけたのと、上の階から野太い声が響いたのはほぼ同時だった。
「はははっ、馬鹿め。引っかかったな!」
引っかかった? 何に?
疑問に応えるよりもここから一旦退いた方が懸命だと思い、ラウンジから出ようとしたものの──しゅっ、という微かな電子音が扉を閉めた事を俺に伝えてくれた。誰が閉めたんだ?
「おっと、逃がさないぜ、マクレディ。──俺を知ってるだろう?」
再びあの野太い声。……強烈な光に目がだいぶ慣れてきたのか、はたまた何故か相手が光量を下げたのか、姿を見ることが出来た。ラウンジの先、反対側の扉の上に廊下が左右を繋ぐ橋渡しのように架かっている。
そこに──パワーアーマーを着ている男が突っ立っていた。左肩と左足が欠落しており、フレームが顔を覗かせている。──ああ、あと顔もだ。年は俺と似たり寄ったり。無精髭を蓄えており、眉毛は長年剃っていないのか太く濃いのが遠くからでも見えた。
こちらが見つかっている以上、屈んでいる意味も無いので俺は立ち上がった。──が、傍らのマクレディは屈んだまま微動だにしない。それどころか、愕然とした表情さえ浮かべている。
「………え? なんで……」
どうした、と声をかける前に、階上の廊下に居る男が声をかけてきた。
「久しぶりだな、マクレディ。──お前がウィンロックとバーンズを倒した事は薄々気付いていた。だからお礼参りに来たって訳だ。……俺のことを忘れちゃいないだろう?」
何のことかさっぱり話を掴めない俺を他所に、マクレディは身を震わせ、上に突っ立っている男を凝視していた。
時々「嘘だろ……?」とか細い声を上げながら。
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ども、ご無沙汰してました。
やっと書けました……というかこの話前から書いてみたかったんです。
といってもまだ冒頭の逃げるくだりの話が出てないから、経緯しかなくって話が見えないかもしれません、すいません・・・・
前についったで独白してましたけど、
「マクレディを雇ってた人たち、ウィンロックとバーンズが死んだからって、ガンナーがマクレディの報復を忘れることはないんじゃないの?」
的なことを考えて書いた話がこれです。後半読まないとさっぱりですね><
とりあえず後半で終わらせるつもりですが、ちょっと長くなりすぎたので今回は前編という形でとめました。
後編も書きますので気長にお待ちを。
であ最後に、とあるついったのコラ用で作った自キャラ111さんのカラー絵をはぢめて描いたので載せておきますw
オレンジ頭なのはSkyrimのジュリアンと(つまりモトネタのSFIIIのジュリアンと)同じですけど、若干顔は変えてます。一応FO4のキャラクターに似せたつもりですが・・・どうかなぁ。
マクレディもまともな絵を近々描きたいですね、。。。
ではまた。後編をお楽しみ(?)に。
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ども、ご無沙汰してました。
やっと書けました……というかこの話前から書いてみたかったんです。
といってもまだ冒頭の逃げるくだりの話が出てないから、経緯しかなくって話が見えないかもしれません、すいません・・・・
前についったで独白してましたけど、
「マクレディを雇ってた人たち、ウィンロックとバーンズが死んだからって、ガンナーがマクレディの報復を忘れることはないんじゃないの?」
的なことを考えて書いた話がこれです。後半読まないとさっぱりですね><
とりあえず後半で終わらせるつもりですが、ちょっと長くなりすぎたので今回は前編という形でとめました。
後編も書きますので気長にお待ちを。
であ最後に、とあるついったのコラ用で作った自キャラ111さんのカラー絵をはぢめて描いたので載せておきますw
オレンジ頭なのはSkyrimのジュリアンと(つまりモトネタのSFIIIのジュリアンと)同じですけど、若干顔は変えてます。一応FO4のキャラクターに似せたつもりですが・・・どうかなぁ。
マクレディもまともな絵を近々描きたいですね、。。。
ではまた。後編をお楽しみ(?)に。
05.07.20:39
Interdependence
よく勘違いされる。
お前は強いからどんな者にも決して畏怖を感じないだろ、と。
その問いの答えは、馬鹿かお前? ──だ。デスクローやフェラル・グール等、連邦で生き延びるのは辛過ぎる要因は両手一杯どころか落ちるほどあるのに、生きる手段はほんの僅かしかない……そんな世界で怖いもの知らずだって? この俺が?
そういう奴は大して俺のことなぞ見てもいないのだろう──いや、見る機会もないのだから仕方ない。しかし連邦では弱味を知られれば命取りになりかねない。だから普段からそういうものは隠しておくのだ──他人に知られないようにと。
衣擦れの音一つ耳に入ってこない廃墟の中を、腰を落として忍び足でこれまた音一つ立てず歩く俺の背後をマクレディが同じ格好で歩いてくる。しかし彼は隠密行動があまり上手くなく、歩くたびにじゃりっ、とブーツと地面が触れる度に摩擦音を立てていた。
連邦の北部にあるUSAF衛星基地オリビア──時々どこからともなくレイダーの一団がやってきては根城とされている。戦前は衛星基地として使われていたこの場所も現在ではただの鉄塔となんら変わらず、失われたテクノロジーの残骸として残っている巨大なパラボラアンテナがレイダーや柄の悪い連中を引き寄せる原因にもなっていた。
なもんだから、時々付近の居住地から退治してほしいと要望がくるのだ──今回訪れたのもそのためだった。ミニッツメンの一員としてレイダーを駆逐する事に何の不満もないが、マクレディは相変わらず俺の無条件で引き受ける態度を見ていい顔をしていなかったのは言うまでもない。
「どうやら……レイダーの連中は全員倒したみたいだな」
マクレディが背後を歩きながらぼそり、とつぶやく。煌々と明りだけが照らす衛星基地の内部に、俺とマクレディ以外人の気配は感じられない。姿を隠しながら玉を数発、相手に打ち込むだけでレイダーはまるで紙を容易く射抜くようにばたばたと地面に転がっていったため、気付けばあっという間に全滅させていた訳か。
念のため、左右を確かめ──再度気配を察しないことを確認し、俺は中腰の姿勢から立ち上がった。それを見てマクレディも立ち上がり、腰を痛めたのか落とした姿勢で歩くのが得意でないのか、数回腰を回すように動かしていた。
「っと………じゃ、全部の部屋見て回ろうぜ、ジュリアン。もう敵は居なさそうだしな」
「ああ、そうしよう」
首肯して見せると、マクレディは嬉しそうに辺りを物色し始めた。別段、俺より彼が先に戦利品を奪っても大して気にはしていない。マクレディの方もそういう俺のやり方を心得たらしく、必要最低限の銃弾と、使えそうな武器しか手にはしない。重すぎても持って帰れないし、所詮レイダーの装備なぞ売り払っても大したキャップにもならないと知っての事だろう。
その代わり、俺は彼の拾わない物──彼がよく言う所謂“がらくた”の事だ──を好んで拾い、居住地に帰った後に加工する為のものとして得る事が多かった。そのため互いに得る物を得て、但し銃弾は分け合ったりと妙な分配具合で旅を続けている。
一階へと降り、いくつかの部屋からスティムパックや弾薬を得た後、一番奥の部屋の扉が施錠されている事に気付いた。
「鍵がかかってるって事は何かありそうだな」
言いながらヘアピンの箱から一つ取り出し、すぐさま鍵穴に差し込む。左手にドライバーを、右手にヘアピンを持つといった格好だ。
ヘアピンを持つ右手に手ごたえを感じながら、ドライバーを半回転させると難なくぱちん、と錠が降りる音が立った。
「相変わらず素早い腕前だな。今度教えてもらわないと」
いつも感心したように言ってみせるマクレディだったが、大雑把な彼にこんな細かい事が出来るとは到底思えないので俺は黙っていた。むしろ錠前を開ける技術より隠密の方を向上させてもらいたいものだ、折角音もなく忍び寄ってる最中にマクレディの姿が相手に見つかって煮え湯を飲まされた経験が何度もあるからな。
黙ったまま俺は扉を開けた直後──耳に入ってきた音は俺の神経を逆撫でさせるに十分値する僅かな音だった。
動く度にカサ、と、キキキ……と、鳴いているのか、口か触覚を動かしているかのように響く不快な音。
全身が粟立つような感覚を覚えた。この部屋にあれが居る。
思わず腰を落とし、こちらの気配を悟られないように俺は思わずじり……と一歩、また一歩と後退していくのをマクレディが見逃すはずがなく、
「おいジュリアン、どうしたんだ?」
彼の声に反応したのか、彼らが動く気配が嫌でも伝わってくる。扉のある壁の奥にいるのか、開けただけでは彼らの姿は見えない。見えないままでいい。このまま下がってやり過ごせばいい──そう思っていたのに。
「この部屋から離れるんだ……マクレディ」
小声でそう言ってみせたものの、彼は怪訝そうに眉をひそめ──その直後、
「ん、誰かいるのか?!」
気配を察したらしく、声を荒げて部屋の中に入っていこうとするではないか。
「馬鹿! マクレディ!! 止め──」
俺の声に反応してこちらを向いたマクレディと、その目前を巨大な緑色に光る──何かが床を這って近づいてきた姿を見て俺は戦慄した。ラッドローチ。俺のもっとも苦手とする生き物。
ラッドローチが数匹、マクレディに襲い掛かるのと同時にこちらにも近づいてきているのを見て、
「く、く、来るなぁぁあああああ!!」
プライドも何もかなぐり捨てて俺はその場から逃げ出そうと立ち上がろうと──しながら足を動かしたせいか足首を捻ってしまう。ぐきっ、と鈍い感触と共に痛みが全身を駆け巡った。
「ぐぁっ……!」
そのまま走る事も出来ず倒れこんでしまう。ラッドローチは既に俺の足元まできていた。俺はへたり込みながら構えていたコンバットライフルを突き付け、
「こっちに来るな! 俺に寄るんじゃねぇえ!!」
いつもの冷静さは何処へやら──引き金を引くので精一杯だった。サイレンサー付きの消音効果のせいで、ぱしゅ、ぱしゅと僅かな音を立てながら銃弾は地面に打ち付けられるものの、近づいてくるラッドローチには全くといっていいほど当たっていない。冷静さを失った故に照準を狙えず、手当たり次第にあちこちに放っている形は無様を通り越して子供が悪い悪戯をしている姿同然だった。
「ジュリアン、大丈夫か、ジュリアン!」
マクレディが数匹相手にしていたのを倒したらしくこっちに近づいてこようとしているのが目に入ったが、それを覆い隠そうかの如く──ラッドローチがジャンプして、へたり込む俺の足に乗っかってきたのと、それを払いのけようと照準をかまえようとするも、手が震えたせいで全くアタリが掴めない──声にならない声を叫び、俺が放った銃弾がマクレディの頬を掠った──所で俺の意識は途絶えてしまった。
「……ァン、……ジュリアン」
漣のように、誰かが俺の名前を呼ぶ。──低い、しかし言葉に不安の色を滲ませた声。
声に応じなければと思うのだが、目を──目を開けたくない。心がそう言っている。けど開けないと、不安を含めた俺の名を呼ぶ声はどんどん大きくなりそうで、俺は……一気に目を開けた。
見慣れない天井が目に飛び込む。蛍光灯と、自分の間に鉄製の廊下があり、その僅かな間から光が差す感じだった。……どこだ、ここは、と頭を地面に転がすようにして周りの状況を確認しようとした時、
「ジュリアン、目が覚めたのか? ……よかった、心配したぜ」
マクレディの顔が覗き込むようにしてぬっと現れたので、思わず俺は身を強張らせてしまう。
逆光のせいと目覚めのせいで視界が若干ぼやけているものの、彼の表情は安堵したように口元には笑みが浮かんでいるのは分かった。……その顔の右頬に、血の流れた跡が見て取れる。
「……無様な姿見せちまったな」
よろよろと半身を起こす。何の装飾もしてないむき出しのアスファルトの地面に横たわっていたため、腰が若干疼痛を訴えるがそれを無視して立ち上がろうとするが、瞬時に左足に激痛が走った。痛みに顔を歪ませつつ、マクレディに心配かけさせまいと俺は平静を装ったままちら、と痛む足首を見ると、捻った部分が見事に腫れている。これじゃ歩くのは難しい。
仕方なく、左腕に嵌めてあるPip-boyの画面を指で操作しながら、スティムパックを一つ取り出した。小型携帯端末として扱えるPip-boyは自身の体調や身体に受けた損傷度、荷物の整理など出来る便利なものだ。戦前のテクノロジーを結集したものといわれているが、付けている者なぞ210年たったこの時代でも滅多にお目にかかれるものじゃない……らしい。マクレディは事あるごとにそんな事を俺に話してくれていた。
スティムパックの針を、腫れている箇所へブーツ越しに突き刺すと、中の液体が即時注入され、注射器の上についているメーターが空になったのを示したところで俺は針を抜き、空になったそれを地面に放り投げた。生体賦活剤の一種であるスティムパックは瞬時に傷や打撲の痛みを緩和、治癒してくれる優れものだ。
それ以外はどこも痛みは感じられない。とりあえずぱん、ぱんと背中と尻についた汚れを手で払っていると、
「いや、いいんだ……でも倒れた時は生きた心地がしなかったよ。まさかラッドローチ如きで殺されるようなタマじゃないだろうに、って思ってたしさ」
マクレディの口から出た名前に、俺は身を竦ませる。……見ると、すぐ側に彼が倒してくれたのだろう、死骸が腹を出した形で横たわっていた。生きているのを見るのも嫌だが、死んでもなお、見たくもない横のスジがついた気持ち悪い腹を見せられなきゃいけないんだと嫌悪感が胃を圧迫しそうなため、俺は慌てて視線をずらす。
「すまない。どうしても……苦手で」
「ま、誰しも苦手なモノはあるよな」彼の口調は嫌味も軽蔑も含んではおらず、相変わらず気遣うような不安の色を滲ませていた。……早くここから出たほうがよさそうだ。
「……行こう、マクレディ」
そそくさと立ち去る俺の足元は若干覚束なく、それがローチのせいだというのと、彼の前で無様な姿を見せてしまった自分の羞恥心からくるものだと思うと情けなかった。
最も近い居住地であるサンクチュアリ・ヒルズに戻ったのは深夜2時前。
辺りはしんとして──所々に置かれている警戒用タレットに内蔵されているラジエーターの僅かな機械音しか耳には入ってこない。居住地に住む者達は既に全員寝静まっていた。
仕事の成果を報告するのは夜が明けてからのようだ。とりあえず俺は、元々は自分の家だった建物に荷物を置くと、軽く伸びをして──屋外に出る。マクレディは扉の前で神妙な顔つきをしてこちらを見据えていた。
「……どうかしたのか?」こちらから水を向けてやると、マクレディははっとした表情を浮かべ、
「えっ、あ、あぁ……いや、なんでもないよ」
何か隠してるな、と察しがついた。彼の態度が余所余所しい。──けれどそれを問いただす前に、やらなきゃいけない事があるな。
辺りを見回すと、ドリンク・バディーが体をがしゃん、がしゃんと音を立てて夜中に一人歩いていた。彼(?)の身体はプロテクトロンをやや改造したものだから他同様、寝る必要もなければある程度自分の意思で行動できるようになっている。元々はグッドネイバーのレクスフォード・ホテル所有のものなのだが、訳あって俺が所有し、サンクチュアリに身を置いている形となっているのだ。
「バディー、ビールを一本くれないか」
挨拶もそこそこに、俺はバディーの身体についているボタンを押してビールを取り出す。何をしようとしているのか分からないまま背後に突っ立っているマクレディにそれを渡し、
「それを飲んでろ。痛みが緩和するぞ」
「え? 痛みって?」
きょとんとしたマクレディを他所に、俺は再び自分の家へ戻ると、一組しかしつらえてないベッドに彼を座らせた。……何をするつもりだろう、と思われているのは自明の理だ、努めて冷静に俺はベッドサイドの壁に取り付けておいた、救急用の小箱から消毒用アルコールと脱脂綿を取り出し、瓶の蓋を開けると手にした脱脂綿に含ませ、彼の頬にあてがった。
「っいたたたたた! 何するんだジュリアン!」
途端、アルコールが沁みるのに耐え切れず口を開けながら叫ぶマクレディ。俺は手にした脱脂綿を擦り付けるようにして押し当てると、更に悲鳴が上がった。
「だから手にしたそれを飲んでろって言っただろう、応急処置してないから爛れてるじゃないか……端正な顔がだいなしだ」
俺の打った銃弾は彼の頬を掠っただけで済んだものの、熱傷のように頬に筋が入り、そしてそれを長時間ほったらかしにしたせいで若干化膿し始めている。跡に残ったらそれはそれで申し訳がない。
「すまなかった。──無様な姿もそうだけど、マクレディに銃口を向けてしまったこと、謝らせてくれ」
会釈のようにも見えなくもないが、俺は頭を下げた。マクレディはというと、手に持ったままのグインネットのビール瓶を口に運ぼうともせず、黙ってこちらを見ている。……その表情がふっと緩んだ。
「さっきも言っただろう? 俺は気にしてない。……いや、むしろ、嬉しいんだ」
嬉しい? 俺の怪訝そうな表情を見てマクレディがははっと笑った。
「だって、あんたがラッドローチだけは逃げ腰になる、なんて知ってるのは俺くらいじゃないか? 連邦中で? だから嬉しいのさ。どんな奴でも──デスクローだろうが、ラッドスコルピオンだろうが──平然と倒してしまうあんたが、ラッドローチだけは苦手だなんて、聞いた所で誰が信じると思う? 実際に見た俺以外誰も信じやしないだろう。
──だから嬉しかったんだ。ああ、ジュリアンも人間なんだって。いつもそんな姿をおくびに出さないあんたでも、やっぱり血の通った人間なんだって。人造人間ではあんな無様な姿見せられっこないもんな?」
皮肉めいた事を言いやがって。俺は口元を歪ませてにやにや笑いながら、平然と彼にあてがった脱脂綿を再度擦り付ける。痛いじゃないか、とマクレディは反抗するも、彼の目は笑っていた。──妙に余所余所しかった原因はこれだったんだな。
「俺を人造人間だと思ってたのか?」
「ははっ……まさか。露ほども思ったことなんてないよ。ただ、ジュリアンが他の奴には見せない姿を見られたのが嬉しくてさ。……ああ、もちろん誰にもしゃべらないよ。さっきも言った通り、誰も信用してくれやしないだろうしな」
彼にあてがっていた脱脂綿を交換しようと、力を緩めて頬から離す。脱脂綿には血とやや化膿したものが付着していたため、捨てて新しいものに取替える。アルコールを含ませながら、ぽつりと俺は言った。
「ラッドローチは……戦前はあんな巨大なもんじゃなかったんだ。さっき倒した奴の20分の1ほどのサイズだった。でも人々はアレを見て気持ち悪がったもんだ。──それがあんなでかくなるとはな。
──Vault111から出る時はあれを倒しまくって脱出せざるを得なかったけど、怖いなんてもんじゃなかった。なんであんなに肥大化したのかは恐らく放射能のせいだろうけど……俺が生きてたかつての時代に、ラッドローチが出現してたらさぞかし大スクープになっていただろうよ」
アルコールを湿らせたそれを再び頬に、とした矢先にマクレディがそれを奪うようにして手に取って自分の手であてがってしまった。それでも時折痛そうに顔をしかめている。
しょうがないので、他の脱脂綿にもう少しアルコールを含ませたものを渡し、手で抑えてもらっている間に俺はサージカルテープを貼り付けて留めてやった。これで落ちることはない。
「……その時代から、あんたはラッドローチが嫌いだったのか?」テープを貼る俺を見上げながら、マクレディが問いかけてくる。
「ああ。大嫌いを通り越して見るだけで身の毛がよだつ程だよ」
昔はかつての妻がその処理をやっていた。けど──彼女はもういない。息子もいない。今居るのは心を許した僅かな友と、ミニッツメンを頼りにやってくる見ず知らずの者達だけ──
ほとんどの人が救いの手を欲していた。そんな人の前で弱気を出すなんて出来ない──いつからそう思うようになってしまったのだろう? マクレディがさっき言ったように、“俺は平然とデスクローもラッドスコルピオンも倒す”奴になっていたのだろうか。
見ず知らずの俺を助けてくれたニック、BoSの在り方を教えてくれたパラディン・ダンス、持ちつ持たれつでやってこれたマクレディ、新聞記者のパイパーや、コンバットゾーンであった孤独な女性、ケイト──彼らに自分の弱さを見せればどうなるか──そういえばそんな事考えたことなかった。彼らは彼らで弱味があり、それを俺に話してくれた。けど、自分は──自分の事を、境遇を、話した事はあった。けど弱味は?
「そうか。……なら、俺も謝らないといけないな。ジュリアンがラッドローチ苦手だと知らなかったせいで、あんたを失神まで追い込んだのは俺だ」
どうしてそうなる?「いや、マクレディは悪くない。俺が元々──」
「だから!」俺の声を掻き消そうとばかりに、マクレディが声を張り上げた──瞬間、辺りが無音になる。
「だ、だからさ……これからは……そのぅ、教えてほしいんだ」先程威勢のいい声を飛ばしたくせに、今度の声はぼそぼそと呟く感じで聞き取りにくい。
「……何を」
マクレディは帽子を取ろうともせずに左手で後頭部をしごきながら、照れくさそうにいった。「あんたのそういう所を」
「そういう所って?」さっぱり話が分からない。しかしマクレディは察しろよ、といわんばかりに視線をこちらに向け──直視できないのか再びぱっと逸らして見せた。変な奴だ。
「あ、あんたの事だよ。ジュリアン。あんた自身の事だ。俺は知りたいんだ。……あんたの事を人造人間なんて思いたくないからさ」
……最後の一言は余計だぞ、マクレディ。
しかし俺は自然と頷いていた。今まで会った者達は、自分や、自分の境遇を良くする事に懸命で、俺はそれに手を貸す形を取っていた。マクレディにしてもそうだ。彼の息子を助けるために薬を手に入れ、それを送るように手筈を整えた事も。
ニック。俺に手を貸してくれた最初の……人造人間。俺の事を慮ってくれたのは彼が初めてだった。彼が一人で歩いていけると知ってから俺は一時別れたものの、思えばそれ以来、自分の事をあまり話す機会は無かったな──目の前にいるマクレディを除いては。
「つまり、俺に興味がある、って事か?」
別に他意を含めた言い方をしていないのにも関わらず、マクレディは何故かその一言で顔を赤らめた。今回は間近に居るのと座っている事もあって背を向けようにも向けられず、彼の視線はあちこち泳いでいる。……俺何か変な事言っただろうか?
しばし、互いに黙ったのち、
「──ど、どう取ったって構わない。た、ただ俺は、俺を雇った奴の事くらい知っておいたって何の損もないだろう、ってことだ」
雇った、と言われてもマクレディの方から金を返したんじゃなかっただろうか、と言おうとしたが──やめておいた。まだ20代そこそこのマクレディにとって、感情を曝け出すのは勇気が居ることだろう。前に俺に素性を明かしたときもそうだった。つまり俺は彼の心に何かしら残せた、って事か。
「おかしな奴だな」
けど、嫌いじゃない。
そう心の中で付け足して俺は立ち上がった。何処へ行くんだ、といわんばかりにマクレディも立ち上がろうとするも、俺は片手でそれを制し、
「疲れただろう、そこで休んでろ。俺はこっちで寝てるから。……おやすみ」
制した片手をひらひらとさせて、俺はその向かい側、かつてはショーンの寝室だった場所においてある寝袋に横たわった。途端に眠気が瞼を襲う。自然と瞼を閉じて意識を委ねる頃には、マクレディの微かな寝息が耳に入り──不思議と安心しながら眠りに落ちた。
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今回は趣向を変えてうちのパパ(ジュリアン)のラッドローチ嫌いを表に出して見ましたよ。
FO3とかではぜんぜん気にもならなかったラッドローチですが、4であまりにリアリティありすぎて大嫌いになった中のヒトのせいです。ごめんちゃい。
いやーでもだって、俺がもしパパだったとして、かつては小さいながらも見ると不快感丸出しにさせてくるゴキブリが巨大化して、しかもそれを倒さなきゃならんなんて俺絶対無理ですよ。そもそも多分Vault111を脱出すら出来ませんよ、ラッドローチと戦いたくないし(笑)
だから戦前のヒトっぽくゴキブリ・・コックローチが嫌いな部分があるって設定(設定にしなくても中の人が大嫌いなだけ)にしてます。うちのパパさんは。あんなの平然と戦えないよーーたとえ元軍人だとしても俺はゴキブリ嫌いです。
まぁマクレディも好きか嫌いか、って言われりゃ大嫌いだと思うけど、ジュリさんほど逃げたりはしないだろうと。
作中で手当たり次第に銃弾ぶっ放してますけど、ゲーム中でも俺それやったことあるのですいません(汗焦
で、肝心の「お前はパパ×マク派か?」というご質問が飛んできそうですが、
あまりホモホモしい事は書きません。だってつまらんもん。非生産的とかそういう事じゃないですよw
マクレディはまだ20台そこそこのガキに毛が生えた(笑)程度ですから、憧れと好意をごっちゃにしてる感じで書いてるだけです。というかそういう部分が見え隠れしてるとゲームの中でも思ってます。ロマンス入った後は特にw
ジュリアンさんは特に何も思ってません(笑)。ただマクレディのことは好きです。LikeであってLoveではない。そんな関係のまま多分今後もだらだーらと書いていくんじゃないかな。
なんだか変な方向に話がイッちゃいそうなのでこの辺で。
最近木曜日の更新になかなか間に合わずすいません。ではまた。
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今回は趣向を変えてうちのパパ(ジュリアン)のラッドローチ嫌いを表に出して見ましたよ。
FO3とかではぜんぜん気にもならなかったラッドローチですが、4であまりにリアリティありすぎて大嫌いになった中のヒトのせいです。ごめんちゃい。
いやーでもだって、俺がもしパパだったとして、かつては小さいながらも見ると不快感丸出しにさせてくるゴキブリが巨大化して、しかもそれを倒さなきゃならんなんて俺絶対無理ですよ。そもそも多分Vault111を脱出すら出来ませんよ、ラッドローチと戦いたくないし(笑)
だから戦前のヒトっぽくゴキブリ・・コックローチが嫌いな部分があるって設定(設定にしなくても中の人が大嫌いなだけ)にしてます。うちのパパさんは。あんなの平然と戦えないよーーたとえ元軍人だとしても俺はゴキブリ嫌いです。
まぁマクレディも好きか嫌いか、って言われりゃ大嫌いだと思うけど、ジュリさんほど逃げたりはしないだろうと。
作中で手当たり次第に銃弾ぶっ放してますけど、ゲーム中でも俺それやったことあるのですいません(汗焦
で、肝心の「お前はパパ×マク派か?」というご質問が飛んできそうですが、
あまりホモホモしい事は書きません。だってつまらんもん。非生産的とかそういう事じゃないですよw
マクレディはまだ20台そこそこのガキに毛が生えた(笑)程度ですから、憧れと好意をごっちゃにしてる感じで書いてるだけです。というかそういう部分が見え隠れしてるとゲームの中でも思ってます。ロマンス入った後は特にw
ジュリアンさんは特に何も思ってません(笑)。ただマクレディのことは好きです。LikeであってLoveではない。そんな関係のまま多分今後もだらだーらと書いていくんじゃないかな。
なんだか変な方向に話がイッちゃいそうなのでこの辺で。
最近木曜日の更新になかなか間に合わずすいません。ではまた。
おまけ。
タイトルは和訳で「持ちつ持たれつ(の関係」ですw
05.01.23:55
霽月
……夕闇が人気のない都市部を覆っていく。
大地に近づくにつれ、背の低い建物から影を落とし、やがて連邦全体がすっぽりと影に包まれると、今度は音もなく空が東からインクを落としたかのようにじわじわと赤がね色から藍色、そして何もか塗り潰す黒へと変貌を遂げていく。
逢魔が時──と、昔の人はこの時間帯を指しては口にしたらしい。赤がね色が夜の帳に包まれるこの時間、化け物が現れては人を連れ去ってしまう──と。
でも恐らく、その化け物は言葉通りの化け物ではあるまい。ヒトの姿をした人間だ……いつからだろう、そう確信したのは。
「そろそろ何処かで宿を取った方がよさそうだな、マクレディ」
俺がそう声をかけると、彼は何となく心ここにあらずだったようで、僅かの後、ああと声を返しつつ、
「そうだな……ここからだとバンカーヒルが近い。知ってるか? キャラバンが立ち寄る交易所みたいなものさ。宿もあるからそこがいいだろう。……部屋が空いてなくても俺に文句を言うんじゃないぞ」
バンカーヒル。一度だけ立ち寄ったことがある、レイルロードでの仕事の最中だった。追われている人造人間を匿うため、一時預かっていると交渉しに来たんだったか。
マクレディは俺より長く──当たり前っちゃ当たり前なのだが──連邦を根城に活動していたためか、俺の知らない事や地域の事などあれこれ道中教えてくれたりもして、すっかり頼るようになってしまった。彼は最初こそ柄の悪い感を醸し出させていたものの、内情や素性を知るにつれ信頼を寄せるようになっていったのは事実で、彼もまた自分の戦闘能力の高さと、自身の息子を助ける薬をメッド・テックから手に入れて以降、俺に向ける視線が刺々しかった頃と一変しているは明らかだった。
「ああ、わかっているさ。部屋がなくてもいいさ、今夜はそこに泊まろう。とりあえず衣服はやむないとしても、せめて身体だけでも拭きたいもんだな」
つい先ほどまでフェラル・グールと戦って──マクレディがスニーク能力がからきしだというのを知ったのは彼を雇うようになってすぐだ──いたため、浴びたくもない体液をまともに浴びてしまっていた……RADを含んだ体液をさっさと取り除かないと、自らもフェラルになりそうであまりいい気持ちがしない。まぁ、体液程度で変質する事はないのだが。
バンカーヒルは先程マクレディが言ったように連邦全域を旅するキャラバンの本拠地というだけあって、施設内の一角には荷物を下ろされ身軽になったバラモンが水や餌を食む姿が見受けられるし、店先には品物を仕入れようとするキャラバン隊の者達が談笑する姿がうかがえる。店の数も品物の数もそこそこあるし、何より都会の真ん中にある記念塔を囲むようにして覆われている高い塀、そして電気の灯す明かりを見て集まる者達も多い。チャールズタウンという川沿いに近いボストンの一帯を指すその地名の中で、唯一人の行きかう場所だからだろうか。
敷地内に入るだけでほっとする。すっかり辺りは暗闇に覆われた中、誰もいない都市部の廃墟を徘徊するのはあまり気持ちのいいものではない。自分がたとえどんなに強かろうと、だ。
ジョー・サボルディが経営する休憩所にまっすぐ進み、息子のトニーに声をかけると、ちょうど一部屋だけ空いているとのこと。……一部屋だけ?
「もう一人分のベッドはないのか?」
食い下がってみたものの、無い袖は振れないと断られてしまった。困ったな、と思った矢先、
「ジュリアン、俺のことは気にしなくていいから」
気を遣ったようにマクレディが言ってくる。余計な心配をかけさせまいとしたのに裏目に出てしまったらしい。
「交代で寝るしかなさそうだな」
言いながら俺はトニーに10キャップを寄越す。彼はうれしそうにそれを受け取り、懐の財布に入れ込んだ。
借りた部屋といっても、親父が仕切る休憩所の上にしつらえた、小屋というのはお世辞にも程がある四角く切り取られた瑣末な屋内にマットレスが敷かれた程度の部屋だった。別々の部屋とは一応、申し訳程度の寄せ集めの木々で作られた壁で区切られているとはいえ、プライバシーも何もあったものではない。隙間風は入り込む上に扉すらないのだ。
とはいえ文句が言える程の身分でもなければ状況でもないため、とりあえず荷物を置くだけおいて、貴重品──といっても最低限の護身用の銃器とキャップだが──だけ持ち、部屋を出た。マクレディは階下で突っ立ったままこちらを待っていたが、俺は黙って通り過ぎ、ジョーからビール瓶を二つ買い込んで一つを彼に投げて寄越す。
「いいのか? ……いつも悪いな」
一応遠慮するそぶりを見せるだけましかもしれない。雇い始めた頃はそんな態度すらおくびに出さなかったし。
ジョーの店は混雑していたため、俺とマクレディは記念塔の近くまでぶらぶらと歩き、めいめい壁に寄りかかってビール瓶を口に運ぶ。
……しばし、互いに黙ったまま、喉を潤していたが、その沈黙を破ったのはマクレディの方からだった。
「俺さ、時々……思うんだ」
「ん? 何をだ」
傾けていたビール瓶を口から離して傍らを見る。マクレディは視線を右手に持つ瓶の口に向けながら、思ったことを考えながら口に出している様子だった。
「最初はそんなこと思ってはいなかったんだ。……ああ、最初に断っておくが、前に話した、俺の知ってる奴と勘違いした奴の事じゃないよ。確かに似てるけど、あんたと彼は違うってはっきり分かったし。
その話じゃないんだ……俺の予想を超えていたのさ。あんたの強さは想像以上だった。まさか俺以上に射撃の腕が強い奴……だなんて」
今更お世辞か? と笑ってすごしてやろうかと思ったが、マクレディの口のほうが早かった。
「それだけじゃない。あんたの性格や人間性も他とは格別だって事さ。人助けをする事も厭わない、……そしてあんたのその性格に俺も頼っちまった。息子の病気を治す薬を見つける手立てまで探してくれて──」
「マクレディ、それに関してはあんたからは十分すぎるほどお礼を言われたし、今更またお礼を言われる事じゃないよ。俺はただ、俺みたいな境遇をこれ以上増やしたくはないと……」
「だから余計に思うのさ」やや強めの口調でそう言うと、マクレディは視線をビール瓶から自分にまっすぐ向けた。青い瞳はじっと俺のそれを見据え、ぶれることはない。
……彼の態度に瞬間、言葉を詰まらせたものの、
「……思うって?」
とだけ言い返すと、彼の表情はふっと、寂しげなそれに変わった。
「なぁ、ジュリアン。……こんな奴でもいいのか?」
は? こんな奴って?
問いかけられた事に対して答えられないでいると、マクレディが再び視線を落とし、
「……俺がかつてガンナーと行動を共にしていたのは話しただろ、ウィンロックとバーンズ。……彼らはあんたの協力もあって俺達が倒したけど、それじゃない。問題はそれじゃないんだ」
じゃあ何が問題だと言うのだろう。俺は黙っていると、促されていると思ったのか、マクレディは再び口を開いた。
「俺がガンナーだった頃を知る奴が俺を見て、俺と行動を共にしてくれているあんたを見てどう思うか、……分かるか? そこであんたの評判が落ちるんだ。あんたが人助けをやってる側から、俺がいるだけであんたのやってる事を俺が無駄にしているかもしれないって事実を。気付いていない訳じゃないだろう?」
ちらっ、とこちらを一瞥するかのように視線を向けたマクレディだったが、すぐに申し訳なさそうに視線を元に戻し、「……だから時々思うんだ。俺みたいな奴があんたと一緒にいてはいけない、ってさ」
彼は意を決したように言ってみせた様子だったが、俺からすれば寝耳に水同然の話で、ぽかんとしていた。……そんな態度を彼は悪い様に受け取ったらしく、
「すまない。……本来なら、あんたに助けられるなんてされてはいけなかったんだ。もし過去に戻れるならガンナーに入ろうとする自分に止めとけ、って言ってやりたいぜ、ジュリアンと会う事を知ってたらこんな事──」
「ちょ、ちょっと待て……マクレディ。勝手に話を完結させるな」
このままじゃ勝手に別れを切り出されかねないと、慌てて口を挟んだ。マクレディは言葉を切って、つと遠慮がちに顔をこちらに向ける。
「俺の人間性がどうこうとか、だからお前が俺と一緒にいてはいけないとか、勝手に思わないでくれ。俺はマクレディがどんなにひどい口の利き方をしようが、人間性が悪かろうが、そんなの一向に気にしない。あんたにキャップを払って雇ったのは俺だ。……まぁその金はお前が返してはくれたけど。──それに」
一気にまくし立てるのはあまり得意でないため、俺は一旦口を切ってビールを一気に流し込む。酒精が頭を駆け巡り、饒舌にさせてくれるのを知っていてのことだ。
「……俺はお前を頼りにしている。マクレディ。
俺のほうがお前より強いだって? そんな訳ないだろ。俺は目覚めてまだ半年足らずの奴だぜ、そんな奴がお前に勝てる筈ないだろうが。人間性が悪いって? 俺は知ってるんだぞ、グッドネイバーのデイジーが言ってた、お前はいい奴だって、ただ人に誤解されがちだけど、と──
あんたは不器用だ。けど不器用なりに必死になって俺に助けを求めたんだ。その結果、一人じゃ無理なことを俺とやってのけた。
何で手を貸したのかって、マクレディを信頼しているからだ。そう言えば……筋が通るだろう」
彼の面倒を見てあげて。悪い人じゃない。ただ、人を頼るのが苦手なの、恐らくこれまでの人生の中で人を頼るという選択肢を持てない環境に居たせいだと思うわ、あんたなら彼を変えられるんじゃないかしら──
グッドネイバーで店を構えるデイジーがそう言ってたのを思い出す。恐らく彼は酷く──傷つくのを恐れて生きてきたのだ。だから今もこうして、悪いのは自分だから、と傷つかないように自らを守る布石を敷いて俺に言ってきた。
でもそうじゃない。と俺は言いたい。彼の人生の中で頼る事、それは甘えだと思って生きてきたのだろう。でも人間どのみち一人では生きながらえない、ましてこんな殺伐としたウェイストランドでは、弱味を握られるのは自らの死を招く要因にもなりかねないのだから。
人々が俺やミニッツメンを頼るたび、マクレディがいつも怪訝そうな表情を浮かべていたのを思い出す。恐らく内心こう思っていたのだろう──なぜ頼るんだ。弱い奴なら受け入れるのもやむを得ないだろう、と。でもそれを受け入れていてはいつまでたってもこの連邦は殺伐としたままだ。
彼を変えるのは、即ちこの連邦を変えていくのと同じ事──それが分かったから、俺はマクレディと行動を共にし続けると決めた。いずれ彼が気付き、頼られる時が来た際に共倒れしないようにと。
「そ、……そんな事、」
彼は動揺しているらしく、頬を赤く染めてぷい、と背を向けてしまった。見掛けによらず照れ屋らしい。案外かわいい性格しているんだな。
「ま、そういうことだから。勝手に俺の目の前から逃げ出したりするんじゃねぇぞ、マクレディ。……さて、ビールも尽きたしそろそろ寝るか」
瓶は素材として再利用するために俺は空になったそれを手にしたまま、借りた部屋のほうへと歩いていくとマクレディも黙って後をついてくるので内心胸をなでおろした。
さっきまで俺に背を向けてたくせに、と思うとちょっとからかいたくなってしまうのが俺の悪い性格で──
「そうだマクレディ、一緒に寝ないか? 一人分のマットレスに二人ってのは密着状態になるけど、案外寝心地はいいかもしれないぜ?」
踵でくるりとターンし、後を追うマクレディの方を向いて提案を述べると、彼はどきっとした表情を浮かべ──次の瞬間顔を紅潮させ、
「い、い、いや、俺はいいよ、だ、大丈夫だから。寝てる間に俺があんたから離れたりするとか思ってるのか? それを危惧して言ってるんだろ? もうさっきみたいな事は言わないよ、約束する」
取り成すように弁明する彼の姿がおかしくて、俺は笑ってしまった。はは、と笑う声に、辺りにいる居住地の住人やキャラバンの者達が俺達にいっせいに視線を向けた。
マクレディは辺りの視線を一手に引き受けてしまってるのに気付いて、顔を紅潮させながら困ったような表情を浮かべつつ、しかし口元は笑っていた。
大丈夫だ、マクレディ。世界はあんたが思うほど、刺々しいものじゃないよ。
笑い声は裸電球の灯るバンカーヒルを囲む廃墟のビルや高速道路の残骸まで響き──その上を、名も知らぬ星々が瞬きながら闇に包まれた連邦を見下ろしていた。
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「俺(わたし)の知ってるマクレディじゃない!!」
という声が聞こえてきそうな話を書いてしまった(笑)
まぁ自分もまさかこんな展開になるとは思ってなかったので・・w
マクレディって時々話しているというんです、
「俺があんたにとって一緒に居ていい奴じゃないってのは分かる」みたいなことを(正確になんといってるかは忘れましたw
んな訳ねーだろw と思って書いたのがこれですw
結構彼は自虐的な面もあるのかなー なんて思ったりして。
殺伐とした世界で人を信じて頼るというのは綺麗事、みたいな感じが漂うこの連邦の中でマクレディがどうやって生き抜いてきたかは想像するしかないですが、もともと市長だったためプライドが高く、けどそれを捨てきれず、頼る事をせずに息子に薬を与えようとメッドテックに一度は一人で向かうも歯が立たず、そこで自分を雇った奴が自分以上の腕前だったから初めて自分から頭を下げて息子を助けてくれと懇願した、と思うと彼が恐らく今まで頼られることはあれど、自分から人を頼るということはしなかったんじゃないかなーと思うのですよ。
だから111のパパ(ジュリアン)に頼るのは相当勇気がいったんじゃないかな。彼の人生の中で人に頭下げて者を頼むってなさそうでしたから。
けどそれをしたことで彼も変わったのだから、やはり人を変えるのはロマンス・・じゃない、愛なのだなーと(爆笑)
そういうことが言いたいだけのお話でした。
とりあえずマクレディはいいぞ。といっておくにとどめてこの場を終わらせます。
ではまた次回の更新日に。
04.18.23:48
Quirk of fate
※自己満足120%の話です。興味がない方はブラウザバックでお戻りを。
ずっと追い求めていた。……なんて、言えなくて。
ずっと追い求めていた。……なんて、言えなくて。
姿を見せなくなってから、いつしか自分は大人になり、あいつと出会った場所を離れざるを得なくなり──
出た後に探したんだ。それでも見つからなかった。
だから俺は妻を娶り、子供を設け、静かに過ごそう。そう決めたんだ──
妻が殺されるまでは。
厄介な相手に見つかるのはそう時間はかからないと思っていた。だから彼ら二人が今、俺の目前に突っ立っていてもなんらおかしくはない。ただ、見つかるのが若干遅すぎた──そう思うくらいで。
「おい、マクレディ。こんな薄汚い場所に居るとは思わなかったぜ」
なれなれしく口を利いてくる。──ウィンロック。一時期身を寄せていたガンナー達のボス。
せっかく人が思い出に耽っていたのに、それすらも邪魔してくる。だからこいつらとは合わない。……まぁそれ以外にも合わないところはいくつかあるのだけど。
「いつお前の手下に見つかってしまうかって思ってたよ、ウィンロック」
こちらの感情を気取られないよう、努めて冷静に受け答える。しかし相手は俺の内心なぞ気づく様子もなければ気にもしない様子で、ふん、と苛立ちを滲ませた鼻息を飛ばした。
「……まぁ、今日はお前に報復を与える為に来たんじゃない。メッセージを持ってきたのさ」
メッセージ?「忘れてないか、ウィンロック。俺はお前達とは縁を切ったって事を」
言い終わる前に、相手の首は分かっている、といったふうに黙って首肯して見せた。「ああ、聞いたさ。……けどな、連邦でまた別の仕事をしようって思うなら、そうは問屋が卸さないぜ、マクレディ」
威嚇するように、低い声でわざとゆっくりとした口調で言ってのける。そんな脅しに俺が屈すると思っているのか?
「お前の命令なんか聞くもんか。……あんたらと手を切った今となっちゃ、な。
さあ、隣に居る女を連れてさっさとこっから出て行ってくれ」
言い捨てるように吐くと、ウィンロックの隣に居るバーンズの片方の眉がくい、と持ち上がった。相手の神経を逆撫でしてしまったようだったが、それは俺にとっては気分がいい事そのものだった。
「何だと? ──ウィンロック、こんな奴の戯言をこれ以上聞くのは……」
俺とウィンロックの交互を見ながら、男の隣に立つ女はやや顔を紅潮させていた。が、男──ウィンロックだ──は聞く耳も持たず黙ってこちらを見据え、
「いいか、よく聞けマクレディ。
──今お前の頭に鉛の弾をぶち込んでないのは何故だと思う? ここグッドネイバーで戦うのを俺達が望んでないからさ。相手と俺達の縄張りは共に知っていて共に不可侵を誓っておく、そうしておいた方が互いに無駄な血を流す事もなければ、無駄な争いも起きない。
けれど、正々堂々と正面から向かっていけば彼らも俺達を敵とは見なさない。むしろお前を喜んで差し出してくるだろうよ。……そういうやり方を俺達は知っている。そこはお前とは違うって訳だ」
諭すような口調のくせに、内容は俺に向かって脅しをかけているだけだった。うんざりする。聞く耳なんぞ持つものか、と──ふと目をそらすと、通路を歩いてこちらに向かってくる足音が俺の耳に届いた。
まさか仲間か、と一瞬ひやりとしたが──現れた奴の姿は、ウィンロック達ガンナーとは装備も見た目も違っていた。青いジャンプスーツの上に四肢と胴体を守る為のプロテクターをつけている。見慣れない男だった。青いジャンプスーツが、何か遠い昔の記憶を掘り起こしそうな気がしたが、今はさっきみたく思い出に耽っている余裕はない。
「がっかりさせることが出来て何よりだ。……話はそれだけなら出てってくれ」
言いながら再度、ついと通路の方を見ると、青いジャンプスーツを着た男は俺とウィンロックの話を立ち聞きしている様子だった。──何者だ?
「ふん、せいぜい粋がっているといいさ。次に姿を見つけたらただじゃおかないからな、マクレディ」
「ご忠告どうも。言いたいことはそれだけか?」
それだけだ、とウィンロックは言い捨て、大人しく女を連れて出て行った。……姿が見えなくなった途端、どっと疲れが押し寄せてくる。へたり込みそうになるのを堪え──ジャンプスーツの男はこちらをじっと見ながら先程と同じ位置で突っ立ったままだった。
まぁどうでもいいさ、と俺は座っていた椅子にどかっと腰を落とし、傍らのテーブルに飲みかけのまま置いておいたビール瓶に手を伸ばそうとした時だった。
「今の男達は誰なんだ?」
突っ立っていた男が話しかけてくる。タイミングが悪すぎるぜ、と内心舌打ちを打って、
「なぁ、原子力について説法したり、友達を探しているのなら、お門違いもいいところだぞ。雇われの殺し屋が必要なら……話に乗ろう」
座ったまま、見上げるように相手のほうを見ると、ジャンプスーツの男はいつの間にか、こちらに気づかれずに俺の目前に近づいてきていたので、一瞬視線を泳がせてしまう。懐に入ってこられるとあまりいい気持ちがしないせいだ。
「……あんた、殺し屋なのか」ぽつりとジャンプスーツの男が言う。
「あ、……ああそうだよ。……それ以上話す事もないだろう。あんたも立ち聞きしていただろうが、さっきまで喋りすぎた。250キャップで、交渉はなし。前払いだ。どうだ、雇うのか?」
男は一気にまくし立てる俺の態度に若干気圧された様子だったが、わかった、と言ってくれた、が。
「交渉がすべてだ。200キャップでどうだ」
何度目かの舌打ちを内心でする。俺の腕を知らないから値切ってくるのだろう、僅かに苛立ちを覚えたが……しかし金に余裕がある訳でもなければ、雇うかもしれない相手をみすみす逃せる身分でもなかった。だから、渋々といった様子で頷いてみせ、
「ひどく値切ったな。だが……いいだろう。お前のガンマンになろう。
俺はマクレディだ。よろしく」
握手をするような間柄でもないので、単に名乗るだけに留めておくつもりだったのが、相手の名前を聞いて思わず耳を疑った。
「俺はジュリアンだ」
ジュリアン? ──ジュリアンだって?
「えっ、ジュリアン……? あんた、ジュリアンなのか」
我ながら何と恥ずかしいことを聞いたのだろう。しかし聞き返さずにはいられなかった。そして瞬時に思い出す。……そうだ、俺はこの青いジャンプスーツと、その男の左腕についている高性能の小型デバイスの名前も知っている。Pip-boy。そうだ、たしか“ジュリアン”はそう言っていた。
「あ、あぁ、そうだけど? ……どうかしたのか」
怪訝そうに答える彼は、俺の事を覚えていないのだろうか、無理もないだろう……あの頃の俺は今以上に粋がっていたからな。
「俺を覚えているか? リトル・ランプライトの市長をやっていた頃の俺に一度会っただろう?」
しかし彼の表情は何のことだ、と言わんばかりに曇らせていた。「リトル・ランプライトって? ……誰かと勘違いしてないか、あんた」
勘違いだって? Vaultのジャンプスーツを着た男を何人も見かける、なんてなかなかある光景じゃないというのに?
「本当に違うのか? Vault101から来た──」
「ちょっと待て。俺はVault111から来たんだ。あんたの言ってるVaultの事は知らない。それに俺はこの世界に降り立ったのはつい数ヶ月前だ。お前が勘違いしている人は、間違いなく俺じゃない」
──似ている。彼に。面影も、髪型も……俺が彼を見たときは19歳だと言っていたから、今のジュリアンが俺の目の前の男と言われても俺は疑いなく受け入れていたかもしれない。
けど、と思う。俺が会ったのは子供の頃の話だ。面影が似ているというのだって、実際そうじゃないかもしれない。俺の記憶違いという事だって有り得る。それでも同じ名前の男が、場所こそ違いはあるがVaultから出てきて、そして俺の目の前に現れる確率なんて、計算しなくても相当低いって事だけは分かる。
「人違いで悪かったな。……でもあんたを雇うのは変わらないぜ。ほら、キャップだ」
言いながら彼は俺にキャップの入った袋を差し出してきたので、黙ってこちらも受け取る。
──人違いでもいい。あいつら──ウィンロックとバーンズ──がまたここに来ないとも限らない。そう考えればジュリアンに雇われていたほうがいいのは確かだ。あちこち移動し続けていれば奴らに見つかる事も早々あるまいし。
相変わらず黙ったままではあるが頷いて見せると、ジュリアンは安心したように先導するかの如く歩いていく。背中に貼られたの111の黄色い数字が、俺の知っている“ジュリアン”ではない証拠だった。
それでも……彼はどことなく“彼”に似ている。だからだろうか……ついていこう、自然とそう思えたのだ。
その原因を突きとめたい。旅をしていけばいずれ分かるだろう。
そう思い、俺は彼の背中を追って走り出した。
10年前出来なかった、彼の背中を追うように。
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えーと、まず、ごめんなさい。
いきなり誰の話かと思えばマクレディのか、と思われますが、中の人が現在進行形でマクレディに傾倒しまくってしまいまして(汗焦
しかも若干よく分からん話になってるので、すいません、説明をさせてください かなり自己満足な話なので、もうこの時点で読む人居るのか分からんけどww
話の中に出てくるジュリアンが二人いるのは、FO3のキャラクター(Vault101のアイツさん)、と今現在進行形でプレイしているFO4の主人公(Vault111のパパ)です。
で、FO3のジュリアンはこれまた俺が作ってプレイしていた主人公です(笑)勿論クソガキ時代のマクレディに会ってますw
のくせになんでマクレディが101の人を? 的な話になりますが。ここら辺は自己満足が多分に入ってるので(汗
リトル・ランプライト時代のマクレディは市長でしたし、あの性格ですから(笑)相当ムンゴ(大人)に対しても厳しい(というより汚い)口調で罵ってたりしてたんだけど、101の人には比較的友好的(といっても口調は以下略だが)で、19歳の主人公を子供しか居られない場所にすんなり入れてくれるのだから、マクレディ的には何か思うところがあったのでしょう(と勝手に推測
まぁフツーは忘れちゃうでしょうけど、自分的にはマクレディは忘れておらず、リトル~から追い出された大人が住むビッグ・タウン(笑)に行かず、キャピタル・ウェイストランドを彷徨ったと言ってたくらいですから、もしかしたら101を探してたんじゃないかなーとか勝手に妄想が膨らんで以下略。
でも見つからなくて、、、連邦について、中の人が4でも作ったジュリアン(笑)とであったマクレディが驚いた、という。
ロマンスあるマクレディだからこそのネタです (笑)
いつかそういうのも書いてみたいけど、描くことは無理なので(中の人はホモ的要素の絵とか描けません)文章で起こせたらいいなぁ、なーんて思って今回はそのさわり部分だけ。
こんな自己満足120%でプレイしております最近のFO4。
マクレディと別れられず、気づけばニックさんからマクレディに心動いてしまう始末。
いやニックさんも好きなんだよ。好きなんだけどロマンスないし(涙
収拾つかなくなる前に終わりますw
ではまた次の更新日に。
猫を探して~の話の続きも書かなきゃならんのに、マクレディに傾倒したせいで(汗
収拾つかなくなる前に終わりますw
ではまた次の更新日に。
猫を探して~の話の続きも書かなきゃならんのに、マクレディに傾倒したせいで(汗