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SkyrimとFallout4・76の二次創作メインブログです。 たまにMODの紹介も。
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05.02.09:24

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06.05.21:03

Counterattack:start.3.2.1……

※Fallout4二次創作小説チャプター2です。その手の部類が苦手な方はブラウザバックでお帰りを。
 これは第三章です。一章から読みたい方は前回の記事「Blood feud」からお読みください。

 そして毎度おなじみですが、後編は相変わらずめたくそ長いです。
 各自休憩を取りつつ。のんびり読み進めてやってくださいませ。


 目が回る。

 ぐらり、と視界が半回転し、そのまま自らの意思で身体を動かすことなく──俺は地面に崩れ落ちた。
 きーん、と耳鳴りがするせいで、周りの音が全く聞こえない。
 僅かに首を動かして、突き飛ばした彼の方を見ると──マクレディが驚愕の表情を浮かべ、両手を床につきながら何か叫んでいる。……突き飛ばした力が思いのほか強すぎたのか、だとしたらすまないな、と心の中で謝った。
 耳鳴りが止みそうにない──それが、脛のコンバットアーマーを貫いて打ち抜かれた銃創から流れ出る血のせいだと、ぼんやり思いながら……俺は意識を失った。

「ジュリアン! ジュリアン!!」
 マクレディが叫ぶ。
 ジュリアンの目が閉じると同時に彼は立ち上がり、ドアに叩きつけられて意識を失った彼の元へ駆け寄ろうとするが、ダーン、と再び銃弾が打ちぬかれた音に思わず身を竦ませてしまう。──銃弾は倒れている彼の身体を僅かにそらし、床に穴を穿った。
「マクレディ! そこにいるんだろう? 出てきてみろよ。出てこなかったらそこに倒れているミニッツメンの頭が吹き飛んでも知らんぞぉ?」
 再び銃声。──今度はジュリアンの腕を銃弾が僅かに掠ったようで、反動で微かに腕が動く。意識が戻ったのかと思ったがそうではない。掠った部分から血が滲むのをマクレディは何も出来ずじっと見ていた。
 頭を吹き飛ばす──ブラフならやりかねない。彼が行ってきた数多の殺戮を見てきたのだから──けど、のこのこと自分が出た所で、その標的がジュリアンから俺に変わるだけだ。
 腰を屈め、ちら、と上階の廊下を見やる。……彼が隠れていたであろう、力なく床に転がった血まみれの死体がいくつかあり、それらを踏みつけながら立っているブラフのパワーアーマーのフレームと、それを守るかのように数人の足が見て取れた。まだあんなに残っていたのかと、マクレディは舌打ちをする。
 隠れていてもいいだろう、けどそれではジュリアンは殺される。──マクレディはすぅ、と息を吸い──「分かった。だが出てきて撃つなんて事はしないでくれ。少しばかり話をしようじゃないか」
 狂犬のブラフに自分の言葉が通じるだろうか……しかしマクレディにはそれに賭けるしかなかった。ジュリアンをみすみす見殺しには出来ない──何故なら、彼は……。
「いいだろう。出てきてみろ」
 ほっ、と緊張の糸が緩む。……いや、まだ油断は許されない。いつ相手の気が変わりこちらに銃口を向けるなんてわからない。どうみても圧倒的に不利なのは自分達の方だ。──逃げ場はもうない、そう踏んで俺の意見を飲み込んでくれたのかもしれないのだから。
 マクレディは意を決して、ホールの真ん中、ジュリアンの倒れる目前に立った。階上の左右の部屋を繋ぐ廊下の上に立っているのはブラフと、その配下が約十人。スポットライトは先程ここに着いてガンナーを仕留めた時から変わらずこちらを照らし続けている──ショーの舞台に立ったらこういうスポットライトも気持ちのいいものなのだろうなと彼は心の中でごちた。もっとも今の状況では、自分達に狙いをつける照準を定める役割でしかなく、居心地が悪い事この上ない。
「サシで話したいのなら、訊いてやるぜ、マクレディ。おっと、命乞いだけは御免だ。そういうみっともない姿を晒したくはないだろう?」
「命乞いをする奴を、あんたは平気な顔して殺してきたからな」
 その通りだ、とブラフは笑う。……笑える話かっての。マクレディは相手の顔に唾を吐きかけたい気分だった。俺はそういうやり口が嫌いでガンナーから逃れたというのに……。
「俺は買ってたんだぜ、ってさっき言ったのを覚えているか、マクレディよぉ」
 あんたに腕を買われる筋合いはないと内心反論しつつ、呼ばれた彼は黙って首肯する。
「お前の射撃の腕は確かだった。独学だと言ってたが独学にしては大した腕前だ、いつかウィンロック達と袂を分かつ際には、お前に来てほしいと頼むつもりでもあった。それがどうした、お前はウィンロックとバーンズの前から姿を消したどころか、厄介になった場所そのものも破壊するとは。たった二人で」
 ここで口を閉じ、ブラフはマクレディの傍で倒れているジュリアンのほうへ顎をしゃくって見せながら、「そんなにそいつは強いのか? いや、違うな。……そいつはお前に多額の賃金を支払ったのか? だからそいつと──」
「違う」
 断言するようにマクレディは声をホール中に響かせた。
「……最初はそうだった。あんたの言うとおりだったよ、ブラフ。ジュリアンは俺を雇ってくれたんだ。傭兵としてな。──けど俺はその時貰ったキャップを全部返した。彼に助けてもらったんだ、そのお返しのつもりだった」
 正確には、ウィンロック達を殺してくれたお返しだったんだけどな。と彼は内心そう付け足しておいた。
「けど、彼は助けてくれただけじゃなかった。俺を救ってくれたんだ。助けじゃなく、暗いどん底の底に居て、周り見る者全てに刃向かっていた俺を、彼は素手で引き上げてくれた。どうしてそんな事をしてくれる、って訊いた事があるんだ。そしたら何て言ったと思う? ──俺を放っておけないから、だってさ。はは、一人で歩いていけるのに、ガキじゃねぇのに、おかしな話だよな」
 笑っているのに、胸が詰まりそうになる。作り笑いを浮かべて、心の中では声を上げて泣きたかった。放っておいてくれない人が、この世界にたった一人居るだけでどんなに心強いか、お前に分かるか、ブラフ? ──それがどんなに自分の心が荒もうと、どんなに苦しく先が見えなくても、手を差し伸べてくれる人が居るって事が、どれだけ心の支えになるか、お前には分からないだろう。人を愉悦で殺しまわるあんたに。
 背後のジュリアンをちら、と目を移すと、撃たれた部分から血が流れ出て地面に少量の池を作っている。その量に目が眩む。表情は振り返らないと見ることが出来ないが、ブラフを目の前にして背中を向けるなんて御免だった。
 彼を殺すわけにはいかない。……マクレディは右手を背後に回しながら、ベルトに括ってあるポーチに気取られないようにそっと手を伸ばした。
「するってぇと、お前はその男に惚れたのか?」にやにや笑いがさらにきつくなる。馬鹿な事を、とでも思っているのだろう。
「どう思ってくれて構わないさ。どうせあんたにゃ一生かかったって分からないし」
 分かる筈が無い。彼に会う前は気性の荒い猫同然だった自分が、どうして変わったかなんて。片手で安全ピンを引っこ抜き、
「お前にはこれがお似合いだよ、ブラフ!」
 グレネードを放り投げる。かん、と音を立ててブラフの立っている廊下に落ちると、それが何か判別する前にガンナー達は散り散りになってグレネードから離れると同時に、マクレディは素早く動いて倒れているジュリアンを肩に担いだ。
 どぉん! と爆発音と同時にだだだ、と立ち上がる煙の中から掃射音が響く。ブラフの何語か良く分からない声が耳に届いてくる。
 ずるずるとジュリアンを引きずりながらも必死に歩き続けて、鍵を開けに行くまで身を隠していた居住区の一室まで辿り着くと、マクレディははぁはぁと息を荒げながらそっとジュリアンを床に横たえた。すぐ傍に骸骨と成り果てた居住者の死体があったのでそれから衣服を剥ぎ取り、歯でそれを引きちぎってジュリアンの足を守るコンバットアーマーを取り外し、膝部分に布を巻きつけ、ぎゅっと縛り固定させた。少なくともこれで血が止まる筈だった。
 腕部分に銃弾が掠った跡も血が滲んでいたが、既に止血していて触れると衣服に付着した乾いた血がぱらぱらと粉になって落ちる。脈を計ると、弱々しいがちゃんと動いていた。よかった、まだ生きている。
「う、っ……」
 呻き声を上げるジュリアン。意識が戻りつつあるのかもしれない。──マクレディはほっと息を吐いた。長い間息を止めていたかのような感覚さえ覚えた。
「ジュリアン、しっかりしてくれ」
 何か飲ませるものはないかと、彼は自分のバックパックを開くが、既に殆ど使い切っており僅かなアルコールしか残っていなかった。気付けにはなるだろうかと口に運んでみると、気管に入ったらしくげほっ、げほっとむせてしまうが、その直後彼の瞼がゆっくりと開き始めた。

 酷く何かむせ返る匂いが鼻につく。──ワインか、これは? と思う前に目が覚めた。その途端異物が気管支に入ったせいで咳き込んでしまう。
「げほっ、げほっ………っ!」
 意識が戻った途端、脛に激痛が走り今度は痛みでまた数回咳き込んでしまう。激痛に頭が再び意識を失えと訴えてきているが必死になって抵抗した。また意識を失うなんてとんでもない。
「はぁ、はぁ……っ、ここは、」
「ジュリアン、気付いたのか!」
 見たところ、ついさっき──施錠された扉の鍵を開けに行こうとする前に潜伏していた居住区の一室のようだった。いつの間にこんな所に移動してきたのだろう、と考える前にマクレディが部屋に飛び込んできた。よろよろと半身を起こして寝そべっていた身体を起こすと、マクレディの片手に何故か地雷が握られている事に気付いた。
「……マクレディが、ここまで?」
「そうだよ。俺がここまで運んだんだ。もう少しで二人ともやられちまうところだった」
 そうか、と言うより前に右脹脛に激痛が再び走った。顔をしかめ、足を押さえてみると、止血すべく膝に布が固く縛られている事に今頃気付く。マクレディがやってくれたのか。
 そのおかげで血は流れていなかったが、痛みは堪えられそうにない。
「酷くやられたみたいだな……っ、くそ、痛いっての……」
 痛みに目から自然と涙がこぼれた。マクレディは何も出来ない自分に歯痒そうにこちらを見ているが、
「なぁ、ジュリアン。スティムパック持ってただろう、あれを使えば少なくともその傷の痛みは和らぐ。……俺が出したくっても、そのPip-boyの使い方が分からなくて、あんたじゃないと駄目で……」
 彼の言葉にはっとする。スティムパック。携帯用の小型生態賦活剤。──確かあと一つしか残されてなかった筈だ。確かにそれを使えばこの痛みからは解放される。致命傷を負ってしまった故に付け焼刃程度ではあるが、無いよりはましだ。……だが。
 俺が使ったらもうスティムパックの残量は無い。即ち次に致命傷を食らったらどちらかが生き延びられない、と言う事──
 マクレディに返事も返さず、俺はPip-boyの画面を見た。自らの体調、四肢の損傷を表すステイタス画面には、右足が完全にやられていると示すかのごとく、片足に包帯を巻いてよたよた歩くVault-boyの姿が映し出されている。見てる限りは滑稽だが、実際のところこの通りだろう。──スティムパックを使っても、俺は満足に歩くことが出来ない。
 画面を反射して、自分の顔がにわかに見て取れた。生気の抜けた青黒い表情。相当血が流れたのだろう、心臓に手を当ててみると、脈打つ音の感覚がいつも以上に小刻みな気がする。
「……何で地雷を手にしてる?」
 俺はわざと話を逸らした。ああこれ、と言いながらマクレディはにやっと笑ってみせ、
「ここらの通路は一本しかないだろ、だからガンナー達がこっちにきたら地雷にやられてくれるだろうって思ってさ。もしくは俺が地雷に銃弾当てて誘発させてもいいし」
 努めて明るく答えているのだろうが、彼はまだ生きる希望を諦めてない様子だった。実際そうなのだろう、扉に強打して意識を失った俺をここまで運んでくれたのだから。
 あの時、俺が意識を失っていた時──彼はどうやって俺を助けたのだろう、どうやってブラフから再び逃げおおせる事が出来たのだろう。訊きたかった。夜通し飲みながら、いつかそんな事もあったな、と笑いながらどこかの居住地で夜空を見上げながら。
 けど、恐らくそれは叶わない。──俺はPip-boyを操り、最後のスティムパックを取り出すと、右手でそれを握り締め、腰を落とした状態で傍にいるマクレディに突きつけ、言った。
「──逃げるんだ、マクレディ」

「え?」
 何を言っているのかわからない、と言いたそうだったが……その表情が困惑から当惑へ変わっていくのを、俺はじっと見ていた。
「俺がスティムパックを使っても、この足じゃ満足に歩くことさえ出来ない。……けど、お前なら、まだ致命傷を負っていないお前なら逃げることが出来る」
「そんなこと──」
「黙って最後まで聴いてくれ」
 口を挟もうとしたマクレディを俺はやんわりと、だけど予断を許さないはっきりとした声で言い切る。その剣幕に圧倒されたのか、マクレディは思わず口を噤んだ。
「この足じゃ俺は文字通り足手まといになるだけだ。満足に歩けないし、大分血を流したせいで、動くにも限界がある。
 奴らの狙いはお前だ、マクレディ。ブラフがお前に向けてまっすぐ銃口を向けていたのを俺が気付いて突き飛ばしたから、あんたは助かった。お前が逃げれば、ブラフはお前を追ってここから出て行くだろう。
 ──俺の事は気にするな。ただ、一つだけ頼みがある。前に話しただろう、俺の息子、ショーンの事を。……俺の代わりに、息子を探し出してくれないか。それだけ頼まれてほしい」
 そこで一旦言葉を切る。マクレディは表情一つ変えずにこちらをじっと見つめていたが、「……言いたいことはそれだけか」 
 と言ってきたので、こちらも黙って首肯して見せると──ぱん、という乾いた音と同時に、俺の左頬に痛みが走った。……マクレディが俺の頬を打ったのだ。
 そのまま彼は俺の、突き出したままの右手からスティムパックを奪うと、躊躇うことなく俺の右脛にぶすりと針を突き刺したではないか。
「──! マクレディ、何を」
 するんだ、と言うより前に彼は俺の胸倉をぐい、と掴んできて、成す術なく俺は彼の目前に顔を突き出す格好になった。
 怒ってるのかと思って見ると、彼は感情を努めて押し出そうとするのを必死に堪えているように唇を強く噛んでいて、瞬きひとつせずじっと俺の目を見ている。あまりに長く見つめるその瞳に俺は目を逸らすことが出来ず、じっと見返していた。
「……俺が、そんな事受け入れる奴だと思ってるのか」
「そんな事を考えている段階じゃない。生き残れる可能性が高い方が逃げろ、と言っているだけだ」
 間髪入れずに言い返すも、マクレディは黙って首を横に振った。そうじゃない、と言いたげに。
「俺が言いたいのは、──何故、あの時俺を突き飛ばしたんだ、って事だ。なんでジュリアンが撃たれなきゃならなかった! 黙って俺が撃たれるに任せた方がよかっただろう!」
 ついに堪えきれず感情が爆発したように、マクレディの声は部屋を飛び越え廊下まで響き渡った。ブラフの居る所まで声が届いてなければいいけどな、と俺は場違いな事を考えてしまう。
「……あの時は」
 どう答えたらいいものか。咄嗟の事で全く後先の事なんて考えてなかった。──けれど、俺はあの時はっきり言った。彼の名を呼んだのだ。
 銃口は間違いなくマクレディを狙っていた。頭か、背中か──そこまでは判別する事は出来ず、ただ間違いなく自分の傍らにたつ彼を狙っていたのは明らかで、それを黙って見逃す訳にはいかなかった。──結果俺は彼を庇い、自らに銃弾を受けた。
「……あんたが死んでしまったら、俺はどうすりゃいいんだ」
 子供のような事を言うマクレディ。けど……俺は知っていた。どんなに虚勢を張っても、どんなに射撃の腕が上手くても、彼はまだ幼い精神を捨てきれていない。16歳の頃にリトル・ランプライトという場所を出て僅か数年しか経っていない、その間に彼が体験してきた人生は、恐らく俺のそれより遥かに濃密で、残酷で、僅かな希望より打ちひしがれてもおかしくない絶望の方が多すぎた。
 だからこそ、俺は彼に手を貸したのだ。放っておけなかった、と言ってしまえばそれで終わりかもしれない、けど──前に俺は言った、彼を助けるのはこの連邦を助けるのと同じ事なのだと。
 結果、マクレディは俺を頼るようになった。そんな時になって、今ここで俺が居なくなれば、彼はどう思うだろう。裏切られたと俺を詰るか、それとも悲しみに打ちひしがれて泣くだろうか。──けどそれが俺じゃなく、彼だったら? 居なくなるのが俺ではなく俺の目の前からマクレディが消えたとしたら?
 そこで気付いた。何故自分が彼を庇ったのか、受けるべき銃弾を俺が受けたのか。
「俺も同じだ。……お前が居なくなったら、俺はどうすればいい?」
 えっ、と再度マクレディが短く呟く。そんな事を聞き返されるとは思ってなかったらしく、彼は半開きの口をあけたまま、俺をじっと見ていた。
「仲間が殺されるのはもう沢山だ。……話したことあったかな、俺がVault111に入る前は元軍人で、そこで自分は英雄と称された事を。
 でも俺からすれば、そんなもん要らなかった。戦場で英雄と称される条件はなんだか知ってるか? 沢山敵を殺す事だよ、沢山沢山、人を殺せば英雄と称えられるんだ。
 自分は奇跡的に生き残れたから英雄と言われたかもしれない、けど仲間は? 皆戦地で吹っ飛ばされたり体の一部をもぎ取られたりして死んでいったよ。そんな中自分だけ生き残って帰ってきて、英雄だと称えられても何の嬉しさもない。
 だから俺は軍人を辞めた。──その後はVaultで眠らされて、この通りさ。……仲間を助けられない英雄なんて、何の価値も無いんだ。もう誰一人も失いたくない。だから俺はマクレディ、お前を突き飛ばしたんだ。それが理由だ」
 言い終わると、マクレディは俺の胸倉を解放してくれた……というより掴む力が失せたような感じだった。はぁ、と息をつこうとした──が、マクレディはそんな暇さえ与えずに今度は俺の双肩を両手をがしっ、と掴み、
「自分勝手じゃないか、そんなこと。──俺に逃げろとか言っておいて、あんたはそりゃ満足だろう、仲間を殺させたくない大儀を果たせるんだから。
 けど俺はどうする? こっちの意思を汲みもせず逃げろと言われて黙って逃げるような奴だと思ってるのか、あんたは? そりゃ雇い主と雇われ傭兵だった関係ならそれも有り得るだろう、けど今は違う。俺はあんたの雇われ傭兵じゃない。あんたと一緒に居たいからここにいる。それが理由だ。だから俺は逃げろと言われたって逃げたりなんかしない。一人で逃げるような卑怯な事は御免だ」
 ぎらぎらした瞳をじっと見せ付けてくる。──強い意志をもった証。誰がなんと言おうと自分はこうすると決めている、曇りの無い青い瞳が俺の胸を打つ。
 これ以上説得しても無意味だろう、……いや、元から説得に応じる筈が無いとさえ思っていた。けど俺は満足に歩くことが出来ない。生き残る可能性が高いほうに賭けるのはごく自然な事。
 たとえ俺の提案がなくても、マクレディが一人で逃げたとしてもそれを咎めるつもりもなければ後ろ指を差されるような行為ではない。戦場で足手まといの者を救うことは即ち自らの首を絞めるのと同等なのだから。──けれど彼は俺の申し出を断った。俺と一緒に居ると言ってくれた。それは俺の心にもしっかりと届いた。……嬉しかった。
 俺は諦めたように肩をすくめ、降参のポーズをとる。「分かった、もうお前一人で逃げろなんて言わない。何としてもここから脱出しよう、一緒に」
 言ってみてから取り様によっては変な事言ってるな、と内心自分に突っ込みを入れていたのだが、それを聞いてようやくマクレディは安心したのか、ふっと笑みを浮かべああ、と力強く応じてくれたので気にしない事にした。
 マクレディが刺したままのスティムパックの本体を脛から引き抜き、そこらに放り投げる。薬剤の効果は既に現れており、銃創は相変わらず自分の肉を抉ったままだが、痛みは既に引いていた。しかしこれはあくまで応急処置的なものだ。歩き続ければ再び血が銃創から流れ落ちるのは間違いない。ばい菌による破傷風等にならないのを祈るのみだった。
「さて、出るとして──どうするか、だが」
 先程のように無計画で扉の前に行けばまた銃弾の餌食になるのは間違いない。マクレディがちらちらと扉のあった壁から通路の方を見やっているが、追っ手は来ていない。
 つまり彼らはこう踏んでいるのだ──俺は致命傷を負った、何をしなくても死ぬのは間違いない、唯一の脱出口があるエレベーターに繋がる扉は閉まったまま、そこで待ち伏せしておいた方が体力的にも銃弾の温存にもいい。無駄に俺達を追って命を失い銃弾を奪われるよりも、籠城していればいずれ音を上げるのはこちらの方だ──と。
 Pip-boyの画面を見て、現在の体調を確認する。足はまだ包帯を巻かれた状態ではあったが、歩けない事はない。僅かな回復アイテムはすべて使い切ってしまい、残っているのはウイスキーと自分でこしらえた携行食糧のみ。とりあえずマクレディは俺以上に疲弊しているであろうから、食料と酒を与えると彼は待ってましたとばかりにかぶりついた。極度の緊張状態で食べることすら忘れていた様子だった。
「マクレディ、俺をどうやってあの場から助けることが出来たんだ?」
 焼いた犬の肉を噛みちぎってる最中に話しかけるのは申し訳ない気がしたが、今はあまり時間を要してはいられない。相手が痺れを切らしてこっちに向かってこない保証などないのだから。
「ん……グレネードだよ。背中につけてるポケットに忍ばせているんだ、片手で安全ピンを引き抜いて隙を見て投げた。相手が怯んでるのと爆発で起きた煙のおかげかな」
 グレネードか。「そのグレネード、どこに投げた?」
 質問の連続にちょっとは食わせろよ、とマクレディは悪態をついたが、「そりゃ……ブラフの足元近くさ、他にもガンナーが数人生き残ってたけど、そいつらも慌てて逃げてたしな。まだ10人近くは居た筈だぜ」
「10人位? 全員廊下にいたのか?」
 間を空けず再三の質問に、マクレディは今度は食べることをやめずにぶっきらぼうに頷いて見せただけだった。
 一発だけでは効かなかったか、けどあの手を使えば──もしかしたら。
「マクレディ、脱出できる可能性が見つかった。脱出できて相手も一網打尽に出来るかもしれない。グレネードの残数はいくつある?」
 えっ、と驚きの表情ののちにどこかに食べ物が入ったのか、マクレディはむせてしまった。げほげほ咳き込むので悪い事したか、と思わず背中をさすってしまう。
「すまない、大丈夫か?」
「ジュ、……ジュリアンが変な事言うもんだから、ったく……さっきまでお前は逃げろって言ってたくせに、あんた、卑怯だな」
 俺を卑怯と言いながら彼は笑ってみせた。そうかもしれない。これからやろうとする行為は卑怯そのものだ。けど戦争に卑怯も卑劣も無い。生き残る事の何が悪い、だ。
 Pip-boyからグレネードの残数を確認すると、ざっと4つ。マクレディは2つ持っていた。合わせて6発か……長年放置されていたことでの老朽化を願うしか他なかった。
「作戦を言うぞ、マクレディ。最初……」
 俺達以外に誰も居無い事を確認して話し出す。──しばし、居住区エリアがしんとなった。

「あいつら来ませんね、ボス」
「ふん、好きなだけ籠城してるがいいさ。いずれくたばるのはあっちの方だ。マクレディは無傷のようだがな、もう一人のミニッツメンはもう先が長くあるまい。一人になったマクレディがこっちに突っ込んでこようと、扉の前で蜂の巣にされるだけさ」
 わざわざパワーアーマーを着込んで対峙するほどでもなかったかもな、と内心ブラフは呟いた。マクレディの射撃の腕は確かだ。だからこそ身体に銃弾を浴びても然程影響を受けにくいパワーアーマーを着けてきたのに、それも無用の長物だったかもしれない。
 いつまで立て篭もっていられるか──先程少し話し合ったマクレディの様子からして、回復用アイテムは底を尽いている様子だった。……けれど、あいつの態度。
 数時間前に話し合った時のマクレディの態度は明らかに彼自身が知っているマクレディとは違った。弱くなったのではない、むしろ──自らの意思で動く。信念で行動する強い意思にこちらが驚かされた。その後にグレネードを寄越してきたせいで分からなかったが、マクレディを突き動かすその強い意志は何だ?
「……人助けをする集団に心動かされたのか? まさかな」
 あの男。──ミニッツメンの新しい将軍だと聞いた。そんな男にあいつが絆されたとでも? 確かに他の奴とは違う風格を漂わせていたが──
 と考えに耽っていたブラフの耳朶に、ぎゅん、と空気を突き破って飛び込んでくる銃弾の音が飛び込んできた。──来たか、マクレディ。
 廊下の上で待機していたガンナーが一斉に銃口を向ける。──物陰に隠れながらさっ、と動く影があった。数は一人。……あの将軍は死んだのだろう。
「マクレディ! もう容赦しねぇぞ!!」
 だだだ、と階下の影に向かって全員が一斉掃射をするが、相手は先程、こちらにわざと仕向けるように一発撃ってきただけで、奇妙なことにそれ以上応戦してこようとはしない。……? 隠れているだけなのか? それともこちらの弾が尽きるまでそこにいるとでも? しかしそれでは意味が無い。隠れていたってこちらが総攻撃を仕掛ければやられるのは奴の方だ。……とすると、何かを待っている……!?
 その瞬間、ブラフは嫌な予感がした。思わず左右に首を動かして状況を確認する。仲間のガンナーはマクレディに向かって銃を撃ち続けていたが──かん、かん、と僅かながら、何かが幾つも足元に落ちる音がした。
 ころころとこちらに転がってくるものは──グレネード。投げられた方向を見ると──いつの間にか階上にきていたのか、廊下の先にある細長い部屋──医務室か何かだろうか、その中からあのミニッツメンの将軍がこちらをじっと見据えていた。

 どん、どん、と次々に爆発が起きる。何事が起きたか分からないまま吹っ飛ばされたガンナー達は抵抗も出来ず階下の床に叩きつけられた。辺りに鮮血が飛び散り、爆風によって四散した肉片が吹っ飛ぶ。もうもうと煙が立ち込める中、ブラフはまだなお立ち続けていた。さすがパワーアーマーだな、と感心すべきではないがそう思ってしまう。
「……生きていたのか」苦虫を噛み潰したような表情で呻くブラフ。唯一パワーアーマーに覆われていない顔にはべっとりと鮮血が塗られていたが、まだ致命傷を受けていない様子だった。
「ああ、まぁな。俺は隠密行動が得意なんでね、あんた達がマクレディに気をとられているのを大いに利用させてもらったよ。……おっと、そこから動かないほうがいいぜ」
 そう言われて地雷でもあるのかと、ブラフはちらりと足元を見やったが、何もないと知るや「何もないじゃないか! ふざけやがっ──」
 ブラフがこちらに近づこうと一歩足を踏み出した時には遅かった。ずず、と何かが崩れる音と共に足元が揺れる。何が起きた、とブラフが思うより前に、足を支えていた廊下の床が突然崩れ落ちていったのだ。
「なっ……」
 それが、俺の聞いたブラフの最期の言葉だった。
 廊下の手すりに慌てて手を伸ばすブラフだったが、それは既に先程のグレネードによってぐにゃりと曲げられており、彼と、彼の体重より重いパワーアーマーを支える力は残っていなかった。ぶつん、と簡単に切れてしまった手すりを掴んだまま、ブラフと彼を支えていた床がごごご……と音を立てて崩れていく様を俺は黙ってみていた。
 どぉぉぉん、と地割れするような音が篭った空気を通して響かせると同時に、どん、どん……と今度は爆発音が空気を振動しこちらに伝わってくる。──マクレディが居住区エリアで撒いていた地雷を、ブラフの立っている場所付近、階下の足元部分に大量に仕掛けておいたのが発動したようだった。──数分間の地響きの後、煙はまだ立ち込めていたが辺りはしん、と静まり返った。再び廃墟が廃墟らしさを取り戻したかのように。
 早くは歩けないため、右足を引きずりながらゆっくりと部屋の外、既に廊下は無くなった部分から階下を見ると、横たわったブラフの姿が見えた。目をかっと見開いたまま絶命している。パワーアーマーはどうやら全部壊れたらしく、フレームから外れて散らばっていた──なんとか成功したようだ。
 作戦は、俺とマクレディが別行動しマクレディは階下で連中を引き付けている最中、俺が階上へ向かいこっそりグレネードを仕掛けるというものだった。Vault75の長年の腐敗による鉄筋の老朽化に賭けてみたのだ。人が歩いたり走ったりする程度ならまだ耐えられても、グレネードによる爆発で支えている鉄筋や廊下の床が耐えられるとは限らないと。
 ……しかしそれでガンナーは全員殺せても、パワーアーマーに身を守られているブラフはそうもいかない。何せパワーアーマーはどんな高層階から落ちても打撲すら受けないような構造になっているのだ。よって廊下が崩れ落ちても、それだけではブラフを殺す致命傷にはならない。
 だからこそ足元に大量の地雷を撒いておいたのだ。廊下が崩れ落ちた後、巻き込まれたブラフはがれきによって身動きが暫くとれなくなるに違いない、致命傷を与えるには大量の地雷を彼の立っていた付近に撒いておけばあるいは、というものだった。
 その廊下は薄い鉄筋が格子状になったもので、下を見ればあっさり見つかってしまうといったものだったのだが、幸いにもブラフの配下の死体が床にいくつも倒れていたのもあって、ステルス能力の可否にかかわらず地雷を撒いていても全く気付かれなかったのが幸いか。その死体のおかげもあって、地雷がしっかり働いてくれたのかもしれない。
 勿論これはVault75の老朽化があればこそで、賭けに負けていたら俺が死んでいた事になるのだが──
「ジュリアン!」
 振り向くと、マクレディが俺の居る部屋まで走ってきていた。表情は晴れやかで、疲れさえも吹っ飛んだ様子だった。──あれだけ狙われて銃弾を撃たれていたのに、よほど上手く隠れていたのか、かすり傷一つ負っていない様子にほっとする。何度も反撃するな、お前は隠れているだけでいいと言っておいたのが功を奏したらしい。
「やれやれ、終わったな」ぽつりと呟くと、彼はしっかりと頷く。
「ああ、……疲れたな。今はなんだか無性に外の空気が吸いたいよ。煙草を初めて吸った時よりもきっと何倍にもおいしいって気がする」
 同感だ、と二人で笑いあった。ここで動くのは俺とマクレディしか最早残っていない。再びこの場所は廃墟として戻すべきだろう。願わくば、二度と変な輩が棲みついたりしませんように。
「さあ、脱出だ。行こうぜ、マクレディ」
「ああ、ジュリアン」
 あまり早く歩けないのでゆっくりと階下に降り、閉まっている扉を鍵穴にヘアピンを差し込むと、閉じた時同様扉は音もなく開いた。そのまま歩いてエレベーターに乗り込み、地上を目指す。Vault75の重厚な扉を反対側からくぐり、モールデンの中学校跡に戻った時は既に辺りは真っ暗だった。

「ジュリアン……覚えているか、俺がブラフを見た時初めて、嘘だろ、って言ったこと」
 サンクチュアリ・ヒルズ──深夜3時過ぎ。
 必死になって歩いたせいもあって、銃創から再び血が流れているのに気付いていたが俺は無視して歩き続け、なんとかサンクチュアリ・ヒルズに戻ることが出来た。……もっと近い居住区があっただろうって? しかし俺はここを拠点としている故に、補給品や手術道具等、ここじゃないと揃えてないのも(勿論、各拠点に配置すべき事だとは思っているが)あって、なんとか到着した途端気が抜けて倒れこんでしまった。再びマクレディの厄介になりながら、自分と亡き妻、そしてショーンの住んでいた家……の廃墟にしつらえたベッドに寝かせてもらい、今は彼に手当てを受けてもらっている。
 血液パックを自らの血管とつなぎ、点滴状にして注入するなんて行為をマクレディが躊躇いもせずにやるもんだから、何処でやり方を知ったのかと聞くと「リトル・ランプライトに居た医者のルーシーが教えてくれた」とぶっきらぼうに言い放った。よくそんな事を覚えているもんだと、彼の記憶力に俺は感心した──結果、何度か血管に針を通すのを間違えてくれたおかげで俺の腕に数箇所、針の跡が残っちまったけど。
 銃創は俺が自ら針と糸を使って縫合した。銃弾が突き抜けた脹脛の部分は、コンバットアーマーが防御してくれたおかげもあってさほど抉れていなかったのが幸いか。突き抜けてくれたおかげもあって弾が体内に残っていなかったのも不幸中の幸いだった。
「ああ、……覚えているよ」
 すべての処置が終わったのは深夜3時を回った後。ぴっ、ぴっ、と一滴ずつ、血液が徐々に管を通って体内に入っていくのをぼんやり見ていた最中だった。ぽつりとマクレディがそう言ってきたのは。
 答えてやると、彼は伏し目がちに地面に視線を落とし、「何に対して嘘だろ、って言ったか……分かるか?」
「再び相見えるとは思っていなかった……とか?」
 適当ではないが、恐らくそうだろうと思って言った事だったが、違っていたようだ。マクレディは黙って首を横に振った。
「そうじゃない。──ジュリアンの前に、あいつら……俺の元居たガンナーの残党が現れるなんて嘘だろう、という意味だった。ブラフのことを忘れていた訳じゃないが、会話を聞いただろう、彼は別の場所に向かっていたと。だからすっかり……そういう事だろうと思っていたのもあって、まぁ、やっぱり、失念してたんだろうな」
 ははっと自虐めいて笑うマクレディ。けど話はこれで終わりじゃないようで、
「あの時嘘だろう、って言ったのは……そういうのもあったけど、あんたにまた迷惑がかかるかもしれない、って事を危惧した意味もあったんだ。
 前に話したよな、俺が居るせいであんたに迷惑がかかるかもしれない、って。俺がガンナーに所属していたことを知る輩は、ミニッツメンのあんたと行動を共にしているのを見て、周りはどう思うかと。
 けどあんたは俺に居ていいと言ってくれた、でもまた……ブラフが現れた事によって、今度こそ間違いなくあんたに迷惑がかかる事と、あんたの評判がそれによって落ちることを俺は恐れたんだ。ブラフは確かに俺に血の復讐を遂げるために差し金を向けたのは間違いない、あんたを通して人を助けてほしい、って──ミニッツメンは人の助けになる、って言葉通り、ジュリアンはちゃんと応じてくれた。けれど応じたせいでこんな事になった。……すべては俺が撒いた種なんだ」
「それで? まさかまた同じ事言うつもりじゃないだろうな」
 努めて明るく答えると、マクレディは俺を見ていられないのか黙って俯いてしまった。……つい数時間前、生きる気力を失っていた俺を励ました男は何処に行った?
 帽子越しではあったが、ぺしっ、と頭を叩いてやると、痛くもないのに「いてっ」と声を出すマクレディ。
「さっき俺に言ったよな、自分の意思で俺の傍に居る、って。俺は迷惑だなんて思ってもいないし、今後またウィンロック達ガンナー一族の残党が束でかかってきたって、お前を迷惑だと思ったりしねぇよ。むしろかかってこい、だ」
 ベッドの傍に置いといた水の入ったパックをマクレディに差し出す。今は酒精で頭をぼかすつもりはなかった。自分も口を開けて水を飲み干す。ほぼ一日、まともに水分補給をしていなかったためか、喉を潤す透明の水が身体に浸透していくようだった。
「マクレディ、俺からも一ついいか」
 ベッド脇にある椅子に座ったままのマクレディが、ふ、と顔を上げて罰が悪そうな表情のまま、「……何だ」とだけ言った。
「ブラフに撃たれた後、気を失っててよく覚えてないんだが、お前どうやってあの窮地を脱したんだ? ……いや、グレネードを使ったのは聞いた。けどその前お前がブラフと何か話していたような気がするんだが……」
「……な、何も」
 にべもなく言い捨てるマクレディ。……これは何か隠しているな。
「俺とお前の関係を聞かれてたと思ったんだが、違うかな?」
 適当に言ってみただけだったが、マクレディは慌てて「あ……有る訳ないだろ。あいつと話が通じるなんてそんな事出来る筈がない」と言い出すもんだから、図星だな、と確信した。見かけによらず嘘が下手だな、マクレディ。
「……ふうん、そうか。俺の聞き間違いだったのかな、てっきりマクレディがミニッツメンの将軍と一緒に居るのは、自分の意思からだ、と俺に話してくれたようなことを相手にも言ってのけたんだと思ったんだがな、残念だな」
 相手の反応が面白くてわざとからかうような言い方をしてみせたのだが、マクレディは最早何も言うまいといった様子で顔を逸らしてしまった。そういう態度が図星だって言ってるようなもんだぜ。
 しょうがない、と俺は両手を──数時間前彼がそうしたように──マクレディの双肩に置いてぐっと手で掴んで彼の上半身を自分の方へと引き寄せた。
 突如そんな事をされてマクレディは驚いた様子だった。真夜中に何で男同士が顔を突き合せなければならないんだ、と奇妙な考えが頭に沸いたが、すぐに頭から追い出す。
「俺にこうしてくれた時と同じ事を今度はお前に言うぞ、マクレディ。──俺と一緒に居たいか? 俺の傍に居たいか?
 勿論俺の答えは変わらない──俺の傍にいろ」
 マクレディの顔が赤面する。照れたというより、感極まっての紅潮と言ったほうがいいかもしれない。異性同士じゃあるまいし。
「そ、傍に居るに決まってるだろ。じゃなきゃなん……なんで、あんたをあそこから生き長らえさせてやったか意味がなくなるじゃないか。そうさ、俺は言った。ブラフに言ってやったんだ、なんでお前がミニッツメンの将軍と一緒に居るんだと聞いてきたから、あんたが俺を放っておかないから……と。だから俺も……ジュリアンの傍に居るって、本来ならそう言いたかったんだけど、その前にグレネードを投げ込んでしまったんだ、あんたが……ジュリアンが出血多量で死んだらどうしよう、って気が気でなかったからさ」
 やっと白状したか。──その通りだよ。俺はお前を一人にはしない。マクレディが言った通り、俺がお前を放っておかないと決めたから。
 一人じゃ危なっかしい。猪突猛進で、無鉄砲で、けど傷つくのが怖いという二面性を持ち、まだ幼い気質を捨てきれないこいつを、一人で連邦に放り出すことを見過ごすことが出来なかった。最初こそ、マクレディの勘違いで俺を別の誰かと間違ってしまったとはいえ──俺はマクレディの人柄に惹かれていたのは事実だった。彼の方はどうだか知らないが。
「俺が生き延びられたのはお前のおかげだ、マクレディ。……これからも宜しく頼む」
 そっと肩から手を離すと、なんとマクレディは力を失ったようにベッドに倒れこんでしまった。そのため俺の上に覆いかぶさる格好になってしまう。……何だ、この奇妙な形は。
「ジュリアン………も………、……」
 すぅ、と寝息を立ててしまうマクレディ。何だよ人が話している最中に、と悪態つきかけたが、思えばマクレディは俺よりかなり疲弊していてもおかしくはなかった。俺の身体を引きずって居住地エリアに運んだり、サンクチュアリに辿り着くまでだって何度となく手を貸してくれた。安堵感に包まれて眠ってしまっても──無理ないか。
 点滴をはずさないように、そっと彼の身体を寝台に横たえ、一人分のベッドに二人で寝る格好になってしまったが、まぁいいかと彼の隣に身を横たえた。
 裸電球の煌々とした明りの中、目を閉じるとすぅ、と意識が遠のく。長かった一日がようやく終わりを迎えた。今は休もう。そしてまた元気になったら活動すればいい──
 けど目覚めた時、マクレディはどんな顔をするだろう。恐らく頬を真っ赤に染めて、何で俺と一緒に寝ているのだと訊いてくるんだろうな──などと心の中でくつくつと笑いながら俺は意識を睡魔に委ねた。

 空の上にきらめく星空が、それよりも輝く太陽の光によって遮られるころになっても、二人は眠り続けた。
 太陽の光は荒廃した台地に、残骸となった都市部にあるビルに照らされガラスがきらきらと光を反射させている。
 変わらない連邦の一日が今日もまた始まろうとしていた──



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後書き書くと長くなるので別の記事にて。拝読お疲れ様でした。

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