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スカイリムの攻略とかあまり役に立たない日々のプレイ日記をだらだらかいていくつもりです。

雪と氷とドラゴンと。

   

“聲”の在り処

※ これはSkyrim二次創作小説第四チャプターです。その手の類が苦手な方はブラウザバックでお帰りを。
※2 この話は去年10月位に書いた「誘う者 誘われる者(第一チャプター)」から続く先週、先々週の話の続きです。
 一話から読みたい方は「誘う~」からお読み下さい(二次創作カテゴリから飛べます)
 そして毎度おなじみ最終話はめちゃ長いです。時々休憩を挟みつつどうぞ。


「い、今、なんて……」
 驚いた様子で声を上げた俺に対し、セラーナはきょとんとした表情だった。何を言ってるんだ、といった様子。……聞こえてないのか? 今の──
“話しかけタの、お。に、イさん?”
 まただ。声が頭の中に直接滑り込んでくる。そしてそれは間違いなく、目の前の小さなネッチから発せられたもの。
「……ああ、そうだ。俺の声が聞こえるか?」
 再び声を発した事に対して、突如動き出したネッチを見ていたセラーナが俺のほうを向いて、
「もしかして……声が聞こえたんですの?」
「ああ。セラーナは聞こえなかったのか?」
 返事の変わりに彼女は肩をすくめて見せる。やはり俺だけにしか“聞こえない”らしい。しかし一体どうして突然聞こえるようになったのか。
 俺の声に返事をするかと思ってみていたが、ネッチはじっとしたまま、前後にゆらゆら動きながらもその場に佇みじっとこちらを向いたままだった。……なんだっていきなり無言になるんだ? 俺に聞いてきたんじゃないのか?
“こえ、聞コ、えない。人間でいう、耳といウ、器官が、ない”
「わっ」
 再び頭に入ってきたそれに、驚き思わず声を上げてしまった。セラーナはそんな俺の態度にやや呆れたような疲れたような視線を送ってくる。彼女には聞こえないのに俺だけに聞こえる、第三者にそれを伝えるってのは難しいしなんだか若干恥ずかしい。……話を戻そう。
 耳がない、ということは俺の思念を通じて会話が出来るということだろう。だから先ほど、俺が何で無言になるんだ、という“声”に子供のネッチは返答してきたというわけだ。
『……つまり、こういうことか。心の中でネッチに向かって声を出す、と』
 心の中で投げかけると、すぐに返事が返ってきた。
“そう。それなラ、聞こえる”
 心なしか、ふよふよ浮くネッチの頭がうなずいたように見えた。
「心で投げかければ聞こえるらしい。……セラーナには相変わらず聞こえないんだよな?」
 ええ、と短く答えるセラーナに俺は内心ほっとしていた。先ほどこいつ──ネッチが発した声が聞こえていたらどう言い訳しようか、と内心ひやひやしていたのだ。
「意識が戻ったのはよかったですわ。……私が居ると満足に会話ができないでしょうから、外しておきますわね」
 言いながらすっと立ち上がり、セラーナは寝室から出て行ってしまった。返事をする暇も与えず。……なんで急に不機嫌になったのだろうか? 先程俺と冗談を言ってた時は笑ったりしてくれたのに……
“おにいさん、どう。シたの”
 俺から何も問いかけがこないのを気にしたのか、ネッチがふよふよ浮かびながらこちらへ近づいてきた。俺の拙い回復魔法が効いたのか、浮かぶネッチの動きにおかしな点は見られない。
『……いや、何でもない。何処か痛みを感じたりはしないか?』
 大丈夫、と声が返ってくる。それと同時に俺も先程から考えあぐねていた質問をネッチの方からもしてきた。
“なんでおニいさんは 声が聞、こエるの”
『俺も分からないんだ。以前はネッチの傍まで近づいても聞こえた事なんて無いのによ、夜中に助けてって声が聞こえて探してみたら、お前がいたんだ。デカいネッチに潰されて。……あれ、お前の親、だったのか?』
 その問いに、しばし返事が返ってこなかった。やはり親だったのか──聞いた事を詫びようと口を開いたとき、
“……おニイさんの、世界デイう、お父さん、という存在だッたのかな。……あのとき、とつぜン、ヒトが、襲ってきて”
 やはり狩人だったのか。死体には数多くの刀傷や弓矢が突き刺さっていたからな……大方俺の予想通り、彼らの腕試しとして標的にされたのだろう。
“おとうサん、かばってるうち、逃げよう、としたけど。マ、にあわなくって……”
『それ以上言わなくていいさ。辛い事聞いてすまなかった。……お母さんのほうは居るんだろ? よければお母さんの所へ連れてってやるよ』
 元気付けようとして言ってみると、
“ほんとう? ずっとおかアさンに呼びかけテ、いたんだ。たすけてって。……そしたらそれをキイたのが、おにイさんだったんだけど”
 嬉しいのか、ネッチの声が一オクターブ音程が上がった気がした。
 あの声はお母さんに呼びかけてたのか。か細い声じゃ母親だって気づかなかっただろう。たまたま同じ地面の下で、一番海岸に近いセヴェリン邸に居たから俺が聞こえた──聞こえるようになった理由は依然不明だが──から助けられたとはいえ、それで俺が聞こえなかったら、数日ももたずして父親の亡骸に潰されたまま死んでいたに違いない。
『ああ、きっと心配してる筈さ。見つけてやるよ。……もっとも、お前が前に何処に居たかとか、いつも居る場所はどこだとか知ってれば有難いんだがな』
 セラーナが置いていった残りのエールをカップに注ぎしな言ってみると、“もちろん知ってる”と自慢げに言ってきたので思わず耳を疑った。
『知ってるのか?』
“オにいさん、小さいからってアマく見ないでね。コレデも、おニイさんの三倍は年上なんだから”
 ネッチの“声”は、所々聞き取りづらく前後の単語が絡みついたような発言が多かった。そのため時々頭の中で声を反芻させないと理解できなかったのだが……今のは心なしか、その声が威張ったように聞こえたのは気のせいか?
『……そうか。じゃあ夜が明けたらそこへ向かおうぜ。きっと母親も心配してるだろうからな』
 そう言ったところで自分自身も安堵したのか、どっと疲れが押し寄せてきた。時計を見ると夜明け前。あぁ、一晩寝ずに過ごしちまったな……
“疲れテる、みたい。おにいさん”
 怪我人──ヒトではないが──に気を遣わせちまったらおしまいだ。そんなこと無いと俺はやや引きつった笑みを浮かべて見せた……しかし体は正直で、1時間でもベッドで横になりたいと訴えてくる。温めてもらった蜂蜜酒も既に冷め切っており、最早酒精でどうこうできる状態ではなくなりつつあった。
『……けど少し横になってもいいか? 精神力使ったせいでいつも以上に体力の消耗が……』
 幸い小さなネッチは起き上がって空中に漂っているため、返事すら待たずに俺はベッドにどさりと倒れこんだ。瞬時にふっ……と意識が遠のき、同時に睡魔が忍び寄ってくる。
“……さん、……”
 何やら話しかけてくるネッチだったが、意識を睡魔に奪われた俺には返事をする事も出来ず、深い闇へと吸い込まれるように眠りに落ちていった。

「ジュリアン、目を覚ましていただけますこと? ジュリアン」
 セラーナの声が漣のように押し寄せてくる。何度も何度も俺を呼ぶ声。
 重い瞼を開くと、ぼけた視界に見慣れた天井、そしてその間にふよふよ浮かぶ子供のネッチの姿が目に飛び込んできた。どうやら俺の傍を離れなかったらしい。
「……ぁあ、眠ってしまったのか……」
 むくり、と起き上がるが体はまだ完全に疲れを取れてないらしく、もう少し眠らせろとばかりに大きな欠伸を一つしてしまった。
「2時間くらい眠っていたようですわね。……朝ごはん、出来てますわよ」
 上体だけ起こしてみると、セラーナが寝室の扉の前で突っ立ってこちらを見ていた。その手にはお玉が握られている。
 セラーナと行動を共にして長いが、何度かこうやって俺の飯を作ってくれた事はあった。……とはいえ最初は不味くて食えたものじゃなかったが、その都度俺がアドバイスをしてきたおかげか、回を重ねる毎に上達していった。
 しかし、まだまだ作れる料理のレパートリーが少ないのが難点か。それでも俺一人で行動してる時よりずっと有難いし、こちらから何も言わずともこうして作ってくれるのが素直に嬉しい。
 だから、
「ありがとう。いつも助かるよ、セラーナ。……着替えてから行く」
 感謝をこめつつ返事を返すと、彼女は僅かに頷いて扉を閉めて調理場の方へ戻っていった。
 さて、着替えるか……と、昨晩から着っぱなしのチュニックを脱ぎかけた時、
“おにいさンは、あのヒトのこと。好きなの?”
 突然頭に飛び込んできた声に、俺は思わずネッチの方を振り向いてしまった。畜生これじゃ動揺してるのがバレバレじゃねぇか。
『……お前、耳という器官がないって言ってなかったか? 俺が今話してた事聞こえてたのかよ』
“ないヨ。けど、おにいサんの、ココろの中。あったかい気がしたから。あのヒトの、カオを。見てるとき”
 なんてこった……こんな小さな──とはいえ俺より三倍は歳が上だとかぬかしてたが──ネッチですら、俺の心が明け透けに読まれちまうとは……!
 他人や誰かに指摘されると赤面するタチの悪い性格が災いして、俺の顔が熱くなっているのが鏡を見なくても分かった。このままのらりくらりとやり過ごす事は少し難しいだろう。
『……ああ、そうだ。彼女が好きだよ。ただ、あのヒト、じゃない。彼女の名前はセラーナだ。
 ついでに言っておくが、俺もお兄さんと呼ばなくていいぜ。俺の名前はジュリアン。職業は傭兵だ』
“ジュりあン、さんが。おにイサんの名前? そうなんだ。よロしく”
 こちらこそ。心の中でそう言ってから思わず笑みがこぼれた。普通、言葉を交わすことすら出来ない生物に名前を教えるとは不思議な感覚だった。
 チュニックを脱ぎ捨て、洗い立ての別の衣服に袖を通した所でようやく一息つく。と同時に腹の虫が催促するかのように鳴り出した。やれやれ。
「さて朝ごはんを……」
 寝室の扉を開け、セラーナが立っている調理場に向かおうとした矢先のことだった。
「ジュリアン! ジュリアン! 居るか!!」
 俺の名を呼ぶ声と同時に扉をがんがん叩く音。俺を含む動く者全て地下にいたため、その音は地上で聞くよりやや遠く感じたが誰かが扉を叩いてるのは間違いないようだった。
「……誰だ、朝っぱらから」
 折角飯を食べようとしたのに、と内心愚痴りながら俺は地上へ続く階段を足早に駆け上がり扉を開くと、レイブンロックではまず見かけることが無い厚手の防寒具を身につけ、フードを目深に被った男が突っ立っていた。俺の顔を見てすぐににやりと笑みを浮かべるその顔は紛れも無く、
「……ストルンじゃないか」
「ジュリアン、元気だったか! あれから変わりはないか?」
 ばしばし俺の肩を叩きながら喋るのは、前回の一件でお世話になった呪術師ストルンだった。俺がミラークに体を乗っ取られかけた際、俺とセラーナに力を貸してくれた命の恩人──なんて言うと大層な感じではあるが──だ。
 スコール村からわざわざ俺に会いにレイブンロックまで来たのだろうか? と疑問が沸いたがとりあえず立ち話もなんなので室内に招くと、
「セラーナじゃないか! ジュリアンと仲直りしたのか?」
 階下でこちらを見上げているセラーナに対し、いけしゃあしゃあと言ってくるストルンを見て俺は一言言いたい気分になった。
「……あんたが図ったんだろ? セラーナに一芝居打てなんて言いやがって。おかげでこっちは……」
「まぁまぁ、仲直りできたならいいじゃないか。そうだろう、ジュリアン」
 と、話を終わらせようとしてきた。……そう言われるとこちらとて、世話になった身分だし無下に問いただすことは出来ない。しょうがない、水に流してやるか。
 再び階段を下りて調理場に戻り、長テーブルに座ってからセラーナの用意してくれた朝食をやっと口にすることが出来た。ストルンにも朝食を食べるかと勧めたがどこかで済ませてきたらしく、いやいやと手を振ったので、ならばせめて寒さ凌ぎにとスジャンマを入れたカップを渡すと、そちらは有難かったのか嬉しそうに一気に飲み干した。
「助かった。何せレイブンロックは灰まみれだからな。毎度毎度来る度に喉を灰にやられちまう」
「……こんな朝早くから、ストルンは何の用でレイブンロックに?」
 あつあつの煮込みにパンを浸しながら問いかける。
 本日の朝食はソルスセイム島で採れるネギ科の食物アッシュ・ヤムを刻んで入れた、イノシシの煮込みと携行食糧のパンのつけ合わせだった。携行食として持ち歩くパンは硬いため、煮込みに付けて食べるとちょうどよい歯ごたえになる。
 煮込みはセラーナの得意料理の一つで、とりあえず何でも入れて煮込んでおけば出汁が取れて美味くなるから、という俺の教えを忠実に受け止めて作られたものだった。最初のころは塩を入れすぎたりやたら味が薄かったりしたものの、最近はコツが掴めてきたのか、極端に味がおかしいという事はなくなってきているのが上達してきている証拠だ。
「ああ、買出しだよ。二週間に一度はここを訪れて直接船員から買い付けるんだ。勿論、私だけじゃ持ち運びできん場合は誰か別の村人が同行するがな。……ところで」
 ん、と口にパンを運びながら短く答えると、ストルンは俺から視線を斜め右上に飛ばし、
「……何でネッチの子供がジュリアン、お前の隣にいるんだ? どう見てもお前の子供じゃなかろう」
 ああ、と短く答えて、俺は傍らに浮かんでいるネッチの子供の手の部類にあたるだろう、触手を優しくにぎりしな、
「それがさ、おかしな事に──あんたになら話しても変に思われることは無いだろうから言うけどさ……」

 しばし経緯を話すと、ふむ……、とストルンは押し黙ってしまった。
 ぱちぱちと暖炉の火が薪を割る音だけがしないまま、セラーナは片づけを終わらせて俺の隣に座ると、
「……やはりミラークが関係していまして? 少なくともジュリアンはこの島に来て、この前の一件がある前まではそんな声聞いた事ないと言ってましたし」
 と言うものの、ストルンは渋面を作ったまま唸るだけだった。
“……おジさん、ジュリあンの事。を、うたがってル?”
 不安げに声を飛ばしてくる子供のネッチだったが、それはない、と安心させてやる。ストルンは呪術師でこの島で俺とセラーナの理解者の一人だ。疑いはするだろうが、俺達を詐欺師扱いする筈はない。
「──一通り考えてみたんだがな、はっきりとした原因は分からん。しかしセラーナの言うとおり、あの事件以降に出てきた能力なのだとしたら、ミラークが……いや、ハルメアス・モラが関係していると言ってもおかしくないだろう」
 ハルメアス・モラ?
「なんだってここでデイドラの王子の名前が出てくるんだ?」
「ジュリアン、あんたは何度もあの領域に足を踏み入れているだろう、黒い本の力によって。……いや、それ以前にハルメアス・モラと関わった事があったと以前話していたな? オグマ・インフィニウムの話を」
 ああ、あの継ぎがあたったボロい本か。よく覚えているし確かにその話はストルンにも話した。
「想像の域を出ない事を承知で言うがな、アポクリファが万物の叡智を湛えた書庫だというのは知っているだろう? そこならあらゆる知識を満たせると言われたとか。
 そこへ何度も──自分の意思に関係なく、だぞ──訪れる事によって、何らかの知識が頭の中に滑り込んでしまったんじゃなかろうか。膨大な書庫だ、ネッチの喋る言語を網羅しいていた物があってもなんらおかしくは無い。
 前回の一件以降とは言うが、もしかしたらそれ前に黒い本の中を探索する事で何かしら知識を植えつけられていた、といっても変ではないだろうな」
 俺もセラーナも目を丸くして聞いていた。……ハルメアス・モラのせいだって? 確かに俺の意思に反して何度もあの場所を訪れてはいたが──
「ま、さっきも言ったが想像の域を出ないということを頭に入れておけよ。……さて、私はそろそろ失礼するとしようかね、フリアが待ってるのでな」
 え、ちょっと待ってくれよ。
「待ってくれ、まだ聞きたい事が──」
 立ち上がって再びフードを被りなおしたストルンを引きとめようとしたが、
「ジュリアン、私にも分からないんだ。けどもし、何か分かったら伝えよう。とりあえず差し迫って危険が及ぶ事でもなかろう? それならまだ大丈夫だ」
 そしてぽつりと、スジャンマご馳走さん、とだけ言ってストルンはそのままセヴェリン邸を後にした。……なんだか後味の悪い事だけ言い捨ててった気がして落ち着かない。
「……そうだ、セラーナ。子ネッチが自分の母親や兄弟が居る場所を知ってるんだとよ。そこに向かおうぜ、朝になったら連れて行く、ってこいつと話したからさ」
 握りっぱなしだった小さなネッチの触手をそっと手から離す。握られっぱなしだったせいか離した刹那、体勢を崩してふらついたが落ちることなく持ちこたえた。
「そうなんですの? ええ、よろしくってよ」
 セラーナはそう言いながら立ち上がり、やおら、ふっと子ネッチの体に手を触れた。
「……ということは、あの場所に死んでいたのは──父親ですのね?」
 え、と一瞬思ったが、さっき母親の居場所を知っている、と話したことでそう判断したのだろうと思い至り、
「ああ。……そうだ」
「………」
 セラーナはじっと、何も言わず子ネッチのほうを見ていた。時々触れた手がさするようにして動いている。やさしく撫でているような動きに、セラーナが何を考えているか大体察した。
 父親──セラーナにとっての唯一の父親は……
「……私と、同じですのね」
 ぐっ、と胸が痛む。何故なら、彼女の父親は──
「……セラーナ」
 呼ぶ声にはっとして、セラーナは頭をぺこり、と下げて見せた。
「……ごめんなさい。ジュリアンは悪くありませんのよ。……ただ、この小さなネッチも父親を──」
 ──俺が、殺したから。
「すまない。………俺は、こいつを送りに行ってくる。……つらいんだったら、ここに居ても構わないぜ。すぐ戻ってくるから」
 と、言ってからしまった、と思った。何心にも無いことを言ってるんだ。これじゃまるで突き放してるみたいじゃないか。──居た堪れなくて。
「いえ、一緒に行きますわ。先程よろしくてよ、と言ったじゃありませんの」
 心なしか眉間に皺を寄せて返事をするセラーナ。それ以上この話を繰り返しても彼女の機嫌が悪くなるだけだ。
「分かった。……じゃ、行こうぜ」
 ネッチに声を飛ばし、セラーナにそう伝えてから俺達はセヴェリン邸を後にした。

 子ネッチの声に従い、住処らしき場所へ向かって歩き出してから子一時間。ソルスセイム島の海岸線をレイブンロックの西側から北へ向かって歩いているせいか、時折浜辺に打ち付ける波飛沫が冷たく感じられるようになった。
 空を仰ぎ見ると、ぱらぱらと雪が降り始めてきている。この島の北端にはまだ訪れたことはないが、そこは雪山が連なっており滅多に人は立ち入らない、とスコールの民が言っていたな。その方面に向かってきているのは明白だった。
 さらに歩くと、垂直に切り取られた崖が続くだけで、人が歩けるような浜辺は見当たらない。……参ったな。
『この先か?』
 心の中でネッチに言うと、うん、と短く答えが返ってきた。……即ち、冷たい海の中に入らないと俺はこの先に進めないということか。
「セラーナ。ネッチが言うにはこの先らしい。俺一人で行って来るから、ここで待っててくれないか」
 すでに雪が降り始めている。吹雪こそなくても、海の中になぞ入ったら体温が奪われ、すぐに体力が尽きるのは明白だ。セラーナを危険な目に遭わせるわけにはいかない。
 彼女は渋々と言った様子で頷いた。俺は鎧を脱いでチュニック一枚になると、
『準備はいいぜ。行こう』
“うン。……こっちだよ”
 声を飛ばした後、俺は水の中に飛び込んだ。ばしゃっ、と勢いよく水を被ったのはいいが、直後体温が急激に奪われる感じに鳥肌が立つ。……こりゃ長居はできねぇな。
「そこで待っててくれよ、すぐ戻るから」
 セラーナにそう言い捨てて俺は泳ぎ始めた。ここからは浮かんでいる子ネッチが先導する形になる。
“………き コエる”
『えっ』
 平泳ぎで精一杯な俺はそれ位しか返す余裕がなかった。
“このさキ。……ジュりあん、聞こえない?”
 何も聞こえない。……ネッチが聞こえてるっていうのは、まさか──
 絶壁部分すれすれで泳いでる俺の目の前が急に開けたと思うと、目を見張った。高いソルスセイムの山から下りてきた水が滝の形で海に流れ込んでおり、その滝周辺にはネッチが群れを成して点在して浮かんでいたのだ。
 よくレイブンロック周辺で見かけるネッチの親子とほぼ変わらず、成体二匹を中心に今俺の傍らに浮かんでいる子ネッチがいる、といった様子だ。それが滝を中心にわらわらと居るものだから、もしかしてここはネッチの里か何かだろうか? 
 山から落ちる滝は瀑布といってもおかしくはなく、ヒトが近づいたらその水の勢いに押しつぶされてしまいそうな位、遠目から見ても水飛沫が温泉の湯気さながらに出ている。
「すげぇ……」
 思わず声が漏れた。と、突然傍らに浮かんでいた子ネッチがぐんぐん先へ進んでいくではないか。
『ちょっ、お前、待て……』
 声を飛ばすも、子ネッチの返事は返ってこず、そしてまた俺のことを無視して先へ進んでしまう。しょうがないから俺も泳いで行こうかとも思ったが、この先に行くのは、何故か躊躇われた。
 仕方なくじっと、子ネッチが行く先を見ていると──何かがそれに近づいてきていた。成体ネッチ一匹と、ほぼ同じ形状の子ネッチが数匹。……親か?
 かなり離れてしまったせいで声も届かないだろうから、感動の再会がどういうものなのかは分からない。けど様子からして、あれが母親だろう。
 ──俺の役目は済んだようだな。ならば……帰らせてもらおうか。
 と、そっと背中を向けてその場を去ろうとした矢先、
“ジュりアンさん!”
 子ネッチの声が飛んでくる。首だけ後ろを向くと、成体と子ネッチがこちらに近づいてきていた。いつもふよふよ動いている以上のスピードだ。
 ……そういや、襲い掛かると成体のネッチはものすごいスピードで追ってきたな。どこにあんなパワーがあるもんなんだと思ったことがあった。
“じゅリあンさ、ん。…お母さん、が。お礼をいいたいって”
 お礼? やけに人間くさいところがあるんだな、と内心ごちた。
『お礼なんていい』
 とは言ったが、子ネッチも母親も、結局は俺の浮かんでる場所まで近づいてきた。こちらは水の上から頭と肩を出してる程度だから、成体ネッチが間近までやってくるとその大きさにやや圧倒されてしまう。
“ジュりあンさん、おかアさんの、手、握って”
 手? 触手か? 確かネッチの手って雷属性があるとかないとか……今の俺は水中にいる訳だから、もし俺を殺そうとして触手を握れと言ってたら……
 などと疑問も浮かんだが、次の瞬間には俺は冷たい水から手を上げて触手を握っていた。
『握ったぞ………ん』
 握った手が妙に暖かくなってきた。それは手を伝わり、俺の全身に広がっていった。なんだこれ、冷たい海中に漂う事で奪われた体力がじわじわと回復しつつある感覚に俺は驚いた。……そうか、これはネッチゼリーの効果と同じだ。確かネッチゼリーは麻痺毒にもなるが、うまく調合すればスタミナ回復の材料に変わるのだというのを思い出した。
『……なぁ、お母さんの声は聞こえないんだけど、なんか言ってるか』
“う、ん。ありがとウ、って。聞こえないンだ?”
 全く聞こえなかった。ストルンの話が合えば、俺はネッチの言葉を聞き取れるようになってる訳だが……まぁネッチの生態系すらまだよく分かってないらしいから、この話せる能力が何処までのものなのかなんて、分からないままの方がいいのかもしれないな。
 母親の体からは青い光がどくん、どくんと脈打つように光っている。それを見ているのが俺は前から好きだった。触手を握っているとその青い光でさえ、暖かみを感じる。
 ……母親って、こういうもんなのかね。不思議と笑みがこぼれた。
『ありがとな。十分回復した。……じゃ、俺は行くぜ。さっきも言ったけど、親から離れるんじゃねぇぞ。元気でな』
 言って、俺は母親の触手から手を話した。と同時に冷たい水の感覚が戻ってきたので思わずくしゃみを一発してしまう。
“ありがとう。ジュりあンさん。げんキでね”
 ああ、と短く答えて俺はセラーナの待つ岸辺へ向かって泳ぎ出した。

「……はー、しんどかった……!」
 何とか泳ぎ着くと、とりあえず濡れた上着を脱ぎ固く絞って水を吐き出す。勿論このまま着ても冷たいままだ。とはいえ上半身裸のままでもいられない。すると、セラーナがすっとタオルを差し出してきた。
「どうせこんなことだろうと思いましたわ。ジュリアンは備えあれば憂いなしという言葉を覚えておくべきですわね」
 嫌味を言いながらも彼女は用意してくれていたのだ。俺は差し出したタオルを手に取った。
「そうだな。セラーナを見習わないといけないな。いつもこうやって気を利かしてくれる。……ありがとう」
 素直に礼を述べると、彼女は何故か押し黙った。……言い方、どこかおかしかっただろうか?
「……子ネッチは、母親と再会できたんですの?」
 話をそらすようにセラーナが聞いて来たので、妙だなと思いつつも話に乗ってみた。
「ああ。お礼もしてくれたよ。何故か親の声は聞こえなかったんだけどな。子ネッチは嬉しそうだった。二度と離れるなよ、って言っておいたぜ」
 セラーナのおかげである程度は濡れた体を拭くことが出来た。それでもさっさとセヴェリン邸まで戻って着替えないと風邪をひくかもしれない。ここは島の北端に近いし、雪もまだちらついている。
「さっさと戻ったほうが賢明だな。セラーナ、セヴェリン邸に戻ろうぜ」
 と、彼女のほうを向いて言うと、セラーナは頷きながらも、突然何かを思い出したような表情を浮かべた。
 そしてとんでもない事を口に出したのだ。
「……ジュリアン、何か落としたものはございませんこと?」
 落としたもの? と聞かれて刹那、ぴんときた。──指輪だ。指輪の入ったあの小さな小箱の事を今まですっかり忘れていた。でもどうして、それをセラーナが知ってるんだ?
「──落とした物、って?」
 内心動揺しながら俺はそれが間違いであってほしいと願った。……いや、落としたのは事実だから見つかるのは嬉しい。けどそれを一番見つけてほしくない相手に拾われていてほしくないのだ。
 セラーナは背中側につけている小さなポーチからそれを取り出した。間違いなくアレだった。──そう。セラーナに渡す指輪が入った小箱。
「これですわ。……何処で拾ったか分かります? あの子ネッチを見つけた場所ですわ。ジュリアンがぐったりしたネッチを抱えてレッチング・ネッチに向かおうとした際、落とした物ですのよ」
 しかし俺はセラーナの言葉なんて耳に入ってこなかった。一番見られたくない、知られたくない人に拾われていたなんて、俺はどんだけ間抜けな男なんだろう。世界中の男から笑い者にされるんじゃないか?
「な、な、中身、み、見たの、か?」
 言い方がまるであの子ネッチのようだ──頭の中でそんな自虐的な思考が浮かんでは消えていった。兎にも角にもそれをどう誤魔化し、どうプロポーズに結びつけるかが──
「ええ、見ましたわ。綺麗な指輪ですのね。……でもどう見ても、魔術用の道具ではありませんわね。誰かに上げる物ですの? 婚姻の誓い用とかの」
 アウト。
 頭の中でがらがらと何かが音を立てて崩れていった。どうやってこれを渡そうと考えあぐねていた事が一晩で全てが無駄になったのだ。
「ジュリアン? どうしたんですの?」
 俺へ返そうと、その小箱を差し出していたセラーナだったがいつまで経っても受け取ろうとしない俺に痺れを切らした様子だった。
 どうする? どうする? ……ぐるぐると思考が渦巻く混乱した中で俺は一つの結論に至った。──今しかない。
「……返さなくていいんだ」
 呻くように声を出したので、セラーナが何事か、といった様子で俺をじっと見つめてくる。見られているだけで鼓動がどくどく急かすように早くなった気がして呼吸が乱れた。
「返さなくていい、とはどういう事ですの? これはジュリアンの物で──」
「確かに俺の……買ったものだが、それは予め渡す人が居たから買ったんだ。
 それがセラーナ、君だ」
 彼女の声に被せるようにして俺は言った。セラーナはますます訳が分からない、といった様子ではあったが、言われた事に対して自分が今しがた“婚姻用の”と言った事に察したのか、今までじっと見ていた俺の視線を急に逸らしだした。
 こんな寒空の海辺で言うつもりじゃなかったが、もう後には引けない。俺はすぅ、と息を吸って。
「セラーナ。……俺は、君が好きだ。ずっと好きだった。
 結婚してほしい」
 びくん、と肩が震えるセラーナ。じっと彼女を見る俺の視線に一瞬、僅かに重なったその目は紅く、宝石のように輝いていて。
 先程まで寒空の中海を泳いでいた時の冷たさも、今雪がちらつく中突っ立っている寒さすらも、何も感じなくなっていた。
 その瞬間だけは、時は二人を置いて先へ進んでいってしまった。
 ちらつく雪と、時折打ち付ける波の音だけが、時間が進んでいることを示すかのように、二人の間に静かな音を立てていた──


------------------------------

キターーーーーーーーーーーーーーーー!

と喜ぶのは俺だけでしょう(笑)
いやはや最終話は毎回難産ですが今回も難産でした。ありがとうございました。

いよいよ結婚へのフラグが経ちましたけど・・・なんだかこの先怪しそうですね。まぁその先の話ももう頭の中に入ってるので気長にお待ちください。
すぐ続くのもアレなので少し時間が経ってからまた再開していく所存です。

 さて、ここからお知らせです。
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 販売開始して数日経ってますけど、なんかそれだけのためにブログ記事書くのもなんだったので今回の小説と一緒くたにご紹介(笑)
 コミケにいけなかった方、ぜひご覧になってみてくださいね。

 年始早々からすさまじい話を書いてしまった(-_-;)
 まぁ勿論これで結婚してオワリじゃないですよ。一波乱ありますよw
 そこらへんはぜひ今後もブログチェックして見てやってくださいませ。

 それでは長くなるのもあれなので本日はこれまで。木曜日定期更新に間に合わずすいませんでしたー^^;
 来週はちゃんと更新できるようがんばります。ではまた。
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ジュリアンのつぶやき

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プロフィール

HN:
ジュリアン
性別:
男性
職業:
傭兵
自己紹介:
スカイリムはホワイトラン在住のドヴァキン。
現在のところ引越しする予定はなし。
中の人はヘタレですが一応同人誌作家。マイナーゲームの絵を描いてたり。
文章も多いですが一応絵の方専門。
スカイリムの絵とか描いたりフォトショでSSをレタッチしたりするのが好き。
スカイリムに影響されて2012年から英語の勉強を始め現在進行形で勉強中。
ラジオ英語を聴いているのだが、英会話教室に通いたいのに時間と金が無くて嘆いているとかいないとか。

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