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スカイリムの攻略とかあまり役に立たない日々のプレイ日記をだらだらかいていくつもりです。

雪と氷とドラゴンと。

   

れっつ・りたーん

※Fallout4二次創作小説チャプター2です。その手の部類が苦手な方はブラウザバックでお帰りを。
 これは第二章です。一章から読みたい方は前回の記事「Chain of reprisal」からお読みください。

 今回第二章にも関わらずめたくそ長いです(解説部分が多いため)
 休憩をとりつつ読み進めてくださいませ。



 連邦の、一番光が当たっているところといえば、誰もが同じ事を言い、誰もが同じ場所を指差すだろう。
 ダイヤモンド・シティ。又の名をグリーン・ジュエルとも云う。連邦に住む者達はそのスポットライトの如く照らされる安寧の場所を求め、一時は誰もがその地に足を踏み入れる。他の居住地とは違う、ありとあらゆる物を扱う店や食べ物に困らない環境に羨望し、憧れを抱き、その地に骨を埋めたいと思う者は少なくない。が──その輝く場所は何もかもがスポットライトに浴びせられてしまう。美しいもの、富める者も──醜い者も、貧しい者も。
 やがてこういう声があちこちで出てくる──同じスポットライトに当たる場所に、貧しい者や醜い者が居るのは許せない、と。
 そうして格差が生まれ、やがてそれは人々の心にふつふつと広がり始め──いつしかそれを払拭出来る事すら出来なくなった頃、ダイヤモンド・シティの中からフェラル・グールや、持たざる者達の姿は徐々に消えていった。現市長のマクドナウが率先して排除を行ったともいうが、それ以前から球状の輝くライトに照らされて生きるのが適わない者達はひっそりとその輝きの陰に姿を眩ましていくしかなかったのだ。
 向かう場所も、安住の場所も見つからない者達は、散り散りになったかと思いきや、やがて一つ所に向かうようになった。
 日の当たる場所を追い出された者、輝く場所を忌み嫌う者、そういう者達が各々自活できるように力を貸してくれる、一人の市長の元を頼って──グッドネイバーという街へ。

 グッドネイバーにはいくつか店もあれば酒場もあり、ハンコック市長の執務室兼住居となっている旧州議事堂や、かつては明光風靡を語ったであろうレクスフォード・ホテルなど、ダイヤモンド・シティでは見られない施設もあったりと、一見観光で赴く人が居てもなんらおかしくないだろう──物々しい自警団が辺りを徘徊し、皮膚を放射能で焼かれ、フェラルとなった者達が生活する場所に足を踏み入れる覚悟があるなら、だが。
 しかしそんなグッドネイバーの数ある施設の中でも、とりわけ異彩を放っている建物があるのを、初めて訪れる者なら気付かない筈がない。
 紅い照明に入り口を照らされ、その入り口の扉もまた、赤いペンキで塗りたくられている。その上に、その建物の名前らしき看板が掲げられていた。誰もがそれを目にし、その中に何があるのか想像するだろう──メモリー・デン。
 それは、人々の脳内にある記憶を写し、それを自身に見せる事が出来る“記憶シミュレーター”がある唯一の場所。
 自身の懐かしい記憶に浸り、生きる糧を再び得る為、もしくは懐かしい誰かと記憶の中で出会う為──人は大量のキャップを握り締め、その場所に向かう。現実に直面する力を失ったものは、そこで再び活力を得られるのか──その結果は自分にしか分からない。
 結果でどうあろうが、人が途絶えることは無かった──それほど“現実”は厳しいのだ。目を覆いたくなるような世界に背中を向けてしまう事もあるだろう……俺にはわからないけれど。
 そしてその施設の中でシミュレーターを扱うことに出来る唯一の人物がDr.アマリだった。
 彼女はその日も忙しそうに機器の点検を行っていた。メモリー・デンには複数の記憶シミュレーターがあったが、一般客に使われるシミュレーターは主に一階、オーナーのイルマが座っている場所に数台置かれている。全てのメンテナンスはDr.アマリ一人だけで行っているため、不具合が起きると全て彼女にその始末を任される有様だった。オーナーであるイルマはただのんびり座って、客がシミュレーターの中で時折見せる表情をぼんやり見ているだけである。
 しかしDr.アマリはそれに対して反論するつもりは無かった。シミュレーターを設置して資金を得、残った分は自分に返ってくるから決して悪い事ではない。それにここの施設の地下まで借りて、記憶シミュレーターを向上させるための実験をしていても文句の一つも言ってこないのだから、研究者としてはこんな場所を提供してもらえるだけでも御の字だった。
 だから普段どおり、彼女は一般客用のメンテナンスをしつつ、自身の研究に勤しんでいたのだった。ばん、と荒々しく扉が開く音の直後、床を鳴らしながら歩いてくる者が目の前に現れるまでは。

 旧州議事堂の建物の地下にあるサード・レールへ続く扉を開いた頃には、外はしんと静まりかえっていた。逃げていった客の姿は既に見えず、奇妙なことに、辺りを徘徊している自警団の姿も無い。
 何処に行ったのか、と思うと同時にぴんときた。サード・レールから一斉に客が出てきた事に訝しまない奴などいない。恐らく客の誰かをとっ捕まえるか何かして、中で何が起きたか聞いている可能性が高い。
 だとすると、ここに居るのは相当まずい可能性があるな。
 俺は肩に担いでいるマクレディを再度担ぎなおし、辺りを気にしながら小走りでメモリー・デンに向かった。時刻は既に夕闇に包まれた19時過ぎ。グッドネイバーはダイヤモンド・シティと違って球場のライトに照らされている訳でもないから、通りも薄暗く人に気付かれにくいのが幸いだった。
 スニークスキルが高いおかげもあって、小走りながらも辺りに居る居住者には気付かれる様子もなく、突っ込むように扉をばん、と大きく開くと同時に身を滑り込ませ、そのまま背中を押し付けるようにして扉を閉める。ほんの数メートル走っただけなのに、息が上がっている自分に驚く。
 マクレディが重い訳ではない。緊張しているせいだ。何故緊張しているかって──その理由は分からない。ただ、ものすごく不安だった。自分が見ていない間、マクレディに何が起きたのか分からない事、彼が無防備の人を撃った事、そして撃たれて死んだ相手の素性が分からない事──ああ、くそ。分からない事だらけだ。
 俺の肩に担がれたまま、マクレディはぜぃぜぃと息を喘がせ苦悶の表情を浮かべていた。顔は蒼白で、見る限り危険な状態だと窺わせる。
 急がなくてはいけない。俺は彼の腕をぎゅっと握り、担いだままメモリー・デンの広間に向かった。二人分の加重のせいで、床がみしみしと軋む音を立てる。
 広間にはいつもどおり、数台の記憶シミュレーターと、囲むようにして置かれているそれの中心に建屋のオーナーであるイルマが鎮座していた。鎮座しているといったほうがいいだろう。いつも彼女はそうしている。二人は座れるソファーに腰をくねらせるように大胆に座り、気だるげな表情で、ねっとりとした視線を俺に送ってくるので、俺は極力その視線から逃げるようにしていた。が、今はそんな事を言ってる暇はない。
「あらあら、いらっしゃい。たしかミスター・バレンタインのお目に適った探偵さんだったわよね?」
 ニックの名前を久しぶりに聞いた気がした。
「あぁ。……Dr.アマリは何処に?」
「いつも同じところ。地下室にいるわ。そこでいつも同じ事してる。……研究してる時は機嫌悪いときもあるから、気をつけてね。……ところで担いでいる人はどうしたのかしら? 気分が悪いようだけど」
 あまり無駄話をしている暇はないのと、自分自身も良く分かっていないせいもあって、俺は適当に挨拶を述べてから逃げるようにして階下へ向かう階段がある廊下へと出た。
 動かされて気分が悪いのか、うぅ、とマクレディが苦しそうに呻く。果たしてアマリはマクレディがこうなった原因が分かるだろうか。
 階段を降りてすぐ青い扉が視界に入る。その向こう側に彼女は居る筈だ。俺はドアノブに手を掛け、一気に開いた。
 彼女は試験・実験用におかれてある二台の記憶シミュレーターを行ったり来たりしていたが、扉の開いた音と同時に立ち止まり、ふっとこっちに振り向いて──
「ジュリアン? ……どうしたの? その人は?」
 俺と、俺の腕に抱えられているマクレディを交互に一瞥しながら、彼女は当然の質問を発した。
「その事で来たんだ。──マクレディを助けてくれないか。頼む」

 横にする場所もないため、ひとまずマクレディを記憶シミュレーターの座椅子に座らせた後、俺は今までの経緯を語った。サード・レールで飲んでいた事。俺がマグノリアに目を奪われていた最中、マクレディが見知らぬ男に注射を打たれ、今のような状況に陥った事。
「その注射を打った男はどうなったの?」
「マクレディが撃って殺しちまった。……おかげでサード・レールは大混乱だ。客が全員逃げちまったからな。ホワイトチャペル・チャーリーが俺達を出入り禁止にしなきゃいいんだが」
 軽くあしらうつもりで言ったのだが、アマリは表情を曇らせた。
「……てことは、いずれここにあんた達を探しに自警団がやってくるかもしれないわね。一応、グッドネイバーはハンコック市長を筆頭に、自警団を組織してこの街を守っているのは知っているでしょう? 彼らはギャングの抗争みたいなものなら知らん振りだけど、一般人のいる場所で発砲事件となると黙っちゃおかないと思うわ。厄介な事にならなきゃいいんだけど」
 それに対してこちらが何か言うより前に、Dr.アマリがひらひらと手を振って見せ、「大丈夫よ、あなたにはいくつも貸しがあるから、二人は居ないって誤魔化しておく。……それよりも彼の方よね。マクレディ、だったわね」
 やや面食らいながらもああ、と短く答えると、アマリは彼を撃った相手の男の素性を詳しく教えてくれと言ってきた。
「身なりは普通の……そこら中に居る居住者と同じ。擦り切れたジーンズと、……やたら身体に合わないシャツを羽織ってたな。身体はやや屈強。マクレディより腕力は強かったのかもしれない。抵抗も出来ないまま腕に注射針を刺されている辺り。
 所持していたのは38口径のパイプピストルと──これだ」と、俺は大事に腰のポーチに入れておいた注射器を彼女に手渡した。アマリはその注射針の中に残されていた液体にすぐ気付いた様子で、手袋を嵌めてあちこち慎重に検分し始める、かと思うと今度はマクレディの右腕をしげしげと見つめていた。針の太さと刺した部位を見ているのだろう。
「……相当抵抗したみたいね。彼の腕に相手の腕の跡がはっきり残っているわ。掴んだ形からして、どうやら背後から襲われたみたい」
 背後──そうだ。マクレディは俺の居る方と逆、背を向けて相手に10mmピストルを向け発砲していた事に今更ながら気付かされる。その後相手は──心なしか、にやついていた気がするのだが──鮮血を胸から溢れさせて絶命したんだった。
「……けど、これ以上は手を貸せそうにないわ。知ってるでしょ、私が専門としているのは医学じゃないって事を」
 突然そんな事を言ってきたので、思わずこちらも反射的に「そ……そんな事言わないでくれ、あんたしかここでは頼れないってのに」と弱音を吐いてしまった。
「分かってる。けど……私は機械工学と人造人間関連の僅かな知識しかないのよ。インスティチュートが何を企んでるかまでは知らないけど。医学の方は殆どと言っていいほど専門外。彼が何を打たれたまで特定するのは──」
「そうは言っても、マクレディがこのままで良い訳ないだろう? 彼を助けるにはあんたの力が」必要だ、と言い続けようとした俺をDr.アマリがすっと手のひらをこちらに向けた。黙っていろ、という合図だろうか? 言い続けてもよかったが、彼女を怒らせればますますこちらの分が悪くなるだけなので、ぐっと言葉を堪え、押し黙ることにする。
 Dr.アマリは注射針に残っていた僅かな液体をじっと見ていた。先程から何度か見ていたのだが、何か変わった点でも見つけたのだろうか。……僅かな沈黙の後、
「……さっき、これを所持していたのは身なりからして普通の居住者風じゃない男、って言ってたわよね」
 神妙な顔つきで言ってくるので、こちらもつい「……ああ」と神妙に応じてしまう。しかし次に彼女が発した言葉には耳を疑った。
「もしかして、その男──ガンナーじゃないかしら。いや、ガンナーじゃないとおかしいの。そんな感じしなかった?」
 ガンナーだって? 
 なんでその事を──と思うと同時に胸にすとんと落ちるものがあった──サード・レールでホワイトチャペル・チャーリーが発した言葉──
“そういやここ数ヶ月の間、数日おきにお前を探してるって奴がここに何回も顔を見せてるんだが、お前知らないか、マクレディ”──
 その探していた人物が──殺した奴だとしたら。
 着てる服は窮屈そうだった──身なりを隠す程度の変装だったのかもしれない。
 所持していたのは38口径のパイプピストルのみ──これまた居住者を装う程度の僅かな武装をしただけかもしれない。
 けど解せないのは三つある、──何故Dr.アマリはガンナーと判別できたのだ? マクレディがかつてガンナーと手を組んでいた事を知っている筈は無い。彼女の口ぶりからして、マクレディを見るのは今回が初めての態度だったからだ。
 もう一つ。防具を装備をしていなかったこと。背後からマクレディを掴むという、振り切られれば至近距離から撃たれる可能性を持ちながら、敢えて武装をしなかった理由。
 そして、マクレディに刺した注射器。……ここからDr.アマリはガンナーの言葉を口にした。注射器に別段、変なところは無かった。となると、中に入っている液体の原因が分かったのか?
「何故、彼らだと……?」
 呻くようにに声を出す俺を無視して、彼女は一度奥の部屋に引っ込んでからすぐ戻ってきた。手に何かの瓶を持って。
「これ。何か分かる?」手にした瓶を俺に差し出す。──蓋がしっかりと閉じられ、中には透明の液体が入っていた。瓶には何か書かれたシールが貼られているが、何と書いてあるかは判別できない。
「……水、じゃないよな」
「恐らく、注射針に入っていたものと同じ薬剤よ。今からそれを証明してみるけど……出来ればこれじゃ無い事を願いたいわね」
 何だって? と言いたかったが、Dr.アマリは黙って瓶の蓋を開け、スポイトでそれを幾らか抽出してから、試験管に注ぎ入れた。……黙って見ていた方がいいだろう。しかしさっきまで自分は助けにならないとか言っておきながら、次の瞬間にはマクレディが打たれた薬を特定するとか、科学者ってのは掴み所が無い奴ばかりだな、と内心ぼやくに留めておいた。
 一つの試験管に液体を入れると、今度は俺が手渡した注射器のピストン部分を引き抜いてから、残っていた液体を別の試験管に全部注ぎこむ。その後、別のスポイトで何らかの薬を両方の試験管に入れ、コルクで出来た蓋を閉めると両方の試験管を一つずつ持ちながら両手で管を振り始めた。
 何をしているのか──と黙ったまま見ていると、両手に持った試験管の中の液体がにわかににごり始めた。透明だった液体がみるみるうちに白濁のそれに変わっていく。片方ではない、両方共、だ。
「Dr.アマリ、それは──」
 ぽつりと言葉を漏らしてしまった。無視されるかと思ったが、彼女は答えてくれた──酷く疲れた口調で。
「まさかと思ったけど……間違いない。でも、これで何を打たれたかは分かったわ」
 試験管を振るのを止めて、ケースに両方とも置いてから。彼女は俺と、俺の横でシミュレーターに座ったまま時々呻いているマクレディを見ながら口を開いた。
「何を打たれたかは分かった。──人造人間用の薬剤を打たれたの。それを開発したのはガンナー一派の何処かの組織、としか分かってない。私はそれを──あなたも知ってるでしょう、レイルロードの一員であるグローリーから受け取ったの。こういう薬を開発している連中がいる、って」

 人造人間用の薬剤……
 得体の知れない薬をマクレディは打たれたというのか。先程、この薬じゃない事を願いたいと言ったDr.アマリの言い方からして、相当危険な部類の薬なのは間違いない。
「……経緯を話してくれ。その薬を手にした経緯と、治療法を」
 促すと、アマリは黙って首肯してから、重そうな口を開いた。
「あなたも知ってるでしょう、インスティチュートのコーサーに、逃げた人造人間を戻す仕事を引き受けているガンナー連中が居るって。前にそういう人造人間を助けた事があったわよね。……そこで、ガンナー連中の中に居る頭の切れる奴が、人造人間に効く薬を開発したらしいの。
 それは人造人間の記憶中枢を瞬時に破壊し、何の役にも立たなくさせる劇薬──連中はそれを『アンハッピーターン』と呼び、コーサーとの交渉が決裂しそうな時それを使って脅すらしいのよ。最もそれに応じるコーサーが居るかどうかは分からないけど……。
 グローリーに話を聞いたとき、この薬の一部を手に入れたから持っていて欲しい、って言われて受け取ったのよ。レイルロードのDr.キャリントンも持っていて、この薬の治療薬を作るために四苦八苦してるみたいだけど──芳しくないみたい」
「ちょっと待て、人造人間に薬剤が効くのか?」当然の質問をしてみたが、彼女はこれまた黙って首肯して見せてから、「第三世代の人造人間はほぼヒトと変わらない構造をしているから、人間と同じ薬を飲んでも同様に効果を発揮するわ。ニック・バレンタインや戦闘兵として街中で見かける人造人間には効かないでしょうけど。
 そして勿論、それはヒトにも効くのは……言わずとも分かるわね」言いながらちらりと苦しい表情で息を弾ませるマクレディを見る。苦しい表情で息も絶え絶えの彼を。
「つまり……つまり、マクレディは、助からない……と?」
 絶望の淵に落とされた気分だった。──薬は判別できたのに。信じたくなくて、俺は目前に座っている彼女の顔をじっと見てしまう。
 Dr.アマリは俺の視線を受け止められず、すっと視線を落とす。……無理なのか、マクレディを助けることは、もう──
 けど、彼女の答えは違った。
 ふぅ、とため息を一つついたのち──「……あまりあなたに希望を持たせたくはないのだけど──」
 え。「何か方法があるなら言ってくれ。俺に手伝えることがあるなら──」
 おかしなことに、この時俺は相当狼狽していた。何故狼狽していたのかは分からない。分からない事だらけの中で、マクレディを失うことだけは嫌だという強い意志だけが自分を突き動かしていた。
 Dr.アマリは俺の剣幕にやや圧倒されながら、落ち着いてと何度もこちらをなだめつつ、
「……さっき言ったわよね、“人造人間がこの薬を打たれると、記憶中枢を瞬時に破壊され、何の役にも立たなくさせる”って」
「ああ」間髪を入れずに相槌を入れる。
「薬を打たれてから、1時間は経ってるでしょう。それなのにマクレディはまだ死んでないわよね。……私はそこにヒントがあると思う。
 何故人造人間の記憶が瞬時に破壊されるかって、それは恐らく、人造人間が持たされた“かつての生前の人物”の記憶の一部しか持っていないからと思うわ。
 人造人間は所詮彼らのコピーであって、彼らの記憶を全て受け継いでいる訳じゃない。だからすぐ記憶を破壊できる。……でも、ヒトは違う。
 ヒトは生きてきてからの経験、記憶、出来事を脳の海馬という部分に記憶している。それは人造人間のそれとは比較にならないほど膨大なもの──だから瞬時に記憶を破壊する事なんて出来ない。即ち、まだ猶予があるってことよ」
 猶予がある……その言葉に一瞬救われかけたが、結局のところ、治療薬がない以上どうやって?
「ジュリアン、前以上に厳しい事になるかもしれない。……それでも行くなら、私はあなたに“道”を授けることが出来ると思う。
 マクレディを助けるのには、彼の記憶を破壊するもの──アンハッピーターンの影響を除去できれば、彼を救うことが出来るかもしれない。その影響がどういうものかはわからないけど──それでも彼の脳の中に行くというなら、道を授けることが出来る。どうする?」
 この時ばかりは、Dr.アマリが神の如く後光を放つ者に見えた──というのは誇大広告すぎるが、実際彼女の差し出した手を受け取るしかマクレディを救う方法は見つからないのだ。……つまり、かつてケロッグの記憶チップを辿って彼の脳の中に入ったのと同じ事を再びするという事。
 すぅ、と息を吸い、俺ははっきりと答えた。
「勿論、行くさ。行くに決まってるだろ」

 実験用の記憶シミュレーターを二台起動すると、Dr.アマリはあわただしく動き始めた。
 マクレディの帽子を取って「失礼するわね」といいながら、彼の頭に脳波検査で使うような電極をぺたぺたと貼り付け始める。
「そんな装置で彼の脳内に入れるのか?」
 頼りないと思った訳ではないが、ニックの時と違って今回は生きている人間の脳内に侵入するという事だけに、頭に電極をつけただけで大丈夫なのかと不安になる。
「あなたがニックの身体を使って、ケロッグの記憶中枢に入った後から私が何もしてないと思ってるんじゃないでしょうね? 色々研究して開発してきたのよ。ヒトの記憶の中にも侵入することが可能かどうか、って──でも、これはまだ実験段階で、試験もしてないから成功確率は五分、ってところね。上手く行く事を願うしかない」
 話ながら、ぺたぺたとマクレディの頭を敷き詰めるようにして電極を貼り付けると、「ああ、あれを渡さないと」とアマリはぱたぱた走って一旦奥まで引っ込み──すぐさま戻ってくると、はいと言いながら手を伸ばしてくるので、つられてこちらも伸ばすと、手のひらに二つ、輪っかのようなものが落ちた。──指輪か?
「何だ、これ」
「それを、あなたとマクレディの左手の薬指に嵌めて」とDr.アマリは平然と言ってくるので俺は目を丸くしてしまう。──左手の、薬、指。
「おい、それって──」
「言いたいことは分かる。戦前の人間は結婚するとした者同士で指輪を左手の薬指に嵌めるという話。私も知らない訳じゃないの。
 けど、それにはちゃんとした理由があるのを知っているでしょう? 左手の薬指に指輪を嵌める意味が何か。そしてこれからあなたはマクレディの脳内に入る、その為に道を作らなくてはいけない。その為に必要なものなの。
 その指輪には微弱な静電気を発する装置が組み込まれてあるわ。その静電気があなたとマクレディに一時的な“道”を作る標になる。ジュリアンはマクレディと血縁関係でもなければ婚姻してる訳でもない。その為マクレディの記憶があなたを拒否する可能性も出てくる。それを防ぐものだと思っていればいいわ」
 ……よく分からないが、必要なものだといわれれば仕方がない。俺は立ち上がり、シミュレーターの椅子にほぼ横たわる形で伏せているマクレディの左手を取り、すっと指輪を嵌めてやった。
 なんだかとてもおかしな気分だな、と自嘲してしまう。普通男が男に指輪を嵌める行為なぞやるか? 意識がある時にマクレディにしてやったらどういう反応をするのか見てみたい気もするが。
「嵌めておいた。他にやることは?」
 自分の指にも同じものを嵌めてから質問を投げかけると、「無いわ。こっちも準備できてる。……ああ、でもちょっと待って」と言ってから、Dr.あまりは記憶シミュレーターを扱う機器から離れてこちらに近づいてきた。
「どうした?」
「いえ、……一応聴いておかなきゃって思って」と言いながら、Dr.アマリはもじもじとしていた。──言いたい事はわかっている。
「……なぁ。もし俺が、マクレディの頭の中から戻らなかったら──」
 こちらから水を向けてやると、彼女ははっとした表情を浮かべ、次にはぶんぶんと首を横に振っていた。
「そんな事はさせないわ。ケロッグの時と同様、私があなたを最大限サポートする。あなたがマクレディの記憶の中の何処にいるかちゃんと突き止めて──」
「分かっているよ。あんたには感謝している。いつも無茶なお願いばかりして、申し訳ないと思う位だ。サポートを宜しく頼むよ。
 ……でももし、万が一、マクレディが目覚めても俺が戻らなかったりしたら──彼に一言、伝えて欲しい事があるんだ。さっき申し訳ないと言ったばかりで失礼とは思うんだが、頼まれてくれないか」
 Dr.アマリは渋々ながら応じてくれた。自分が必ず助けるというつもりでやってくれているからこそ、万一なぞ考えたくないのだろう。
 けど、最悪の事態を想定しないつもりで俺も危険な道に向かうつもりは無い。だからこそ──俺は彼女に、その言葉を伝えた。
 それを聞いたDr.アマリは目を丸くして、「……本当にそれだけでいいの?」と問い返してくる。
「ああ。あんたならそんな事しないだろうと踏んでの事だ。信用しているからこそ伝えたんだからな。宜しく頼んだぜ」
 にやりと笑みを浮かべてみせると、当惑したようにアマリは目を伏せて、うんうんと何度も頷いて見せた。
 シミュレーターに向かう前に、俺はマクレディをじっと見つめた。時折苦しそうに呻き声を上げている。彼の手をぎゅっと握ると、いつもと変わらぬ体温で、熱もないのに彼の頭の中では破壊が繰り広げられているのかと思うと、胸にこみ上げてくるものがあった。
 ──疑ってかかるべきだった。彼を探しているという奴がどういう素性の奴ぐらい分かりそうなものなのに、俺は既にガンナー連中からのマクレディに対する報復は終わったとばかりに高を括っていたのだ。そのせいでこんな事になるなんて誰が予想しただろうか。俺がマグノリアの歌に夢中になっていたばかりに。
 ──けど、今からお前を助けに行くよ。待ってろ、マクレディ。
「急いでジュリアン、打たれた時間から逆算しても、数時間しか残されてない筈」
 Dr.アマリの声にああ、と応じながら俺は彼の手から自分のそれを離した。次その手を握るときは必ず来ると信じて。
 シミュレーターに入り、背もたれを倒したような格好で座ると、ゆっくりとした動作でカプセル型の蓋が閉まった。透明の蓋には中型のスクリーンがくっついており、その映像を覗き込む形で、人は自らの記憶と対面するという仕組みになっているのだが、今回は前回同様、他人の記憶の世界を歩くという事だから出だしからどうなるか想像もつかない。
「カウントダウンが始まるわ。──ジュリアン、気をつけてね」
「ああ」
 ケース越しではあるがはっきりとした声でそう答え、俺はスクリーンのほうをじっと見た。やがて映し出されている映像が僅かに動き始めると、10.9.……とカウントダウンを始めていく。
 色んな事が頭に浮かび、消えていった。マクレディと出会った時の事、彼と話したありとあらゆる事──
 彼の記憶の中が今どうなっているのかは想像もつかなかった。けど俺のやることは一つだけ。打たれた薬の影響を止めさせる。それだけ。
 3.2.1──0。
 カウントダウンが0になったと同時に、画面がぱあぁ、とまばゆいばかりの白い光に覆われた。
「ぐぁっ……!」
 目が焼かれる感覚に思わず瞼を閉じる──と同時に、身体と意識が分離する感覚に襲われた。強く白い輝きが俺を引っ張り出そうとしている。肉体から──
「意識を強く持ってジュリアン! ここで気を失っちゃだめよ──」
 Dr.アマリの声が耳元でした──ような気がしたが、その時俺の意識は肉体を離れ、輝く白い光に吸い込まれていた。
 なんだこれ……ケロッグの時とは違う。違いすぎる。
 それでもやがて目が光に慣れてきて恐る恐る目を開くと、とんでもない光景が視界に飛び込んできた。
 記憶の渦、といったほうがいいだろうか。白く輝く光を遮るように、時折ふっと何かがよぎる。全く知らない人物の姿、見たことの無い場所、あらゆる事象が写真のような四角く切り取られている断片となって、渦を作り出していた。
 渦に逆らうことなど出来ず、俺は断片にもみくちゃにされながら身を投じる形で落ちていく。
「うわあぁぁああああぁ?!」
 情けない声を上げてしまう。──と同時に、突然渦の中から身を脱したかのように記憶の断片が消えたかと思うかみなかで、どかっ、と顔に鋭い痛みと、衝撃で目に火花が走った。意識の中にいるせいで、上下の感覚が全く分からないせいでしばし、頭の中が混乱する。
「いったぁ~~……ったく、何だってんだ……」
 頭を振りながら、立ち上がる。──辺りを見回してみると、岩盤に囲まれた殺風景な場所だった。薄暗く、しかし完全な闇ではない。ごつごつとした岩肌に、いくつか天井や壁に打ち付けるようにして照明が点々と灯されてある。
 自分が叩きつけられるようにして落ちてきたのはどうやら通路の一角のようだった。……洞窟の中だろうか。
 とりあえず俺はマクレディの記憶の中に侵入は出来たらしい。……らしいのだが、Dr.アマリの声はまだこちらには届いていない。俺が何処に落とされたのか判別できていないのだろう。
 とりあえず進んでみるしかないだろう。自分の記憶には、こんな岩だらけの場所なんて見た覚えがない。即ちここは彼の記憶の中──なら、マクレディがどこかに居る筈だ。
 薄暗いため、Pip-boyの明りをつけてみると、意識の中でもちゃんと装置は光を灯してくれた。今は俺の意識でしか動いていない筈なのに、身なりも、腕につけているPip-boyもちゃんとそこにある。無意識に認識しているせいだろうか。
 進んでいくと、やがて開けた場所に出た。いくつも連なった電球が天井にぶら下がっており、その先に、大きな板と、間仕切りのようにいくつかトタン板や木材を無造作に打ちつけて出来たバリケードがあった。大きな板には何か文字が書かれてあるが、所々煤けているせいで判別が出来ない。
 何処からか拾ってきたのか、STOPの看板が丁度バリケードと通路の間に置かれている。何で止まらなきゃいけないんだと思いながらも、俺は無視してバリケードの方へ歩いていく。──と、頭上──バリケードの上部辺りからか、突然けたたましい声が耳に飛び込んできた。
「それ以上近づくな、ムンゴ! ここはお前のような大人が来るような場所じゃない」
 誰だ? と──辺りを伺ってみるが、薄暗いせいで人の姿は見えない。……というか、ムンゴって何だ?
 止まれと言われても埒があかないので、無視して近づこうとすると再び、
「それ以上近づくなと言ってるだろうが! これは警告だぞ、聞こえないのかムンゴ!」と罵声──にしては甲高い声だが──が飛んでくるので、ついこちらも言い返してやる。
「俺はムンゴなんて名前じゃない。さっきから人のことをそう呼ばわりする奴は誰だ? 姿を現してみろ!」
 大人気ないと思いながらも内心苛立ちながら叫ぶと、バリケードの上部の僅かな間から、顔を覗かせたのは一人の──子供だった。頭には兵士が被るような深緑色の円形ヘルメットを被り、手にはアサルト・ライフルを手にして、睨むようにじっとこちらを見据えているのは──二つの青い瞳。
 その目を見た瞬間、全てを悟った。相手が名乗らなくても分かった。この場所が何処で、俺を見る子供は誰なのか。

“小さかった頃、リトル・ランプライトって所に住んでいたんだ。そこで長を勤めてた事だってあるんだぜ。
 そこは岩だらけの場所で──時々恋しくなるよ。岩だらけの天井がある場所を。16までその場所にいたせいかな、もう戻れない場所だとしても、時々ふと、そう思う事があるんだ”──

「……お前、マクレディか?」
 それは間違いなく、彼の記憶の中にいる“マクレディ”そのものだった。
 記憶の中の世界しか会う事の出来ない、交わらない時間軸を埋め合わせるかのような出会いと共に──その記憶を蝕みつつある黒い影が近づいてきているのを、俺はまだ知らなかった。






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長い。長すぎる。
相変わらず回りくどい文章が得意な中のヒトです。どうもこんにちわ。
終わらない話のまま、とりあえず今回は予定通りのステージまでチャプターを進めようとしてここまで長くなりました。ごめん。

 
記憶シミュレーターはですね、メインクエストでたった一度しか出てこないのに、あんな素晴らしい機械を何度も出さないなんてベセスダなんてもったいない! って思って考えたネタなんですね。これ。
 ただ、ヒトの記憶にどうやったら入れるのかとか、そこまでいく経緯とか考えに考え抜いて作ったわけでして、人造人間の薬とか、あれほとんどつい最近になって思いついた部分です。ニックさんスティムパックは使えるけど。
 薬の部分とか、そういう細かいところは結構想像とご都合主義的な所で書いてるので突っ込まないでちょうだい(笑)

 で、次からいよいよ記憶の中で旅をする訳ですが。まぁ長くてもダレるだけなので
どうしても描いてみたい描写だけにとどめるつもりです。ここら辺は前々から考えていた通りかな。

 というどうでもいい解説でした。
 次回更新をお楽しみに。(している人が居ると嬉しいです)
 感想感謝叱咤激励金貴金属樹木希林はいつでも大歓迎ですZE!
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ジュリアンのつぶやき

中の人のSkyrim絵とか

プロフィール

HN:
ジュリアン
性別:
男性
職業:
傭兵
自己紹介:
スカイリムはホワイトラン在住のドヴァキン。
現在のところ引越しする予定はなし。
中の人はヘタレですが一応同人誌作家。マイナーゲームの絵を描いてたり。
文章も多いですが一応絵の方専門。
スカイリムの絵とか描いたりフォトショでSSをレタッチしたりするのが好き。
スカイリムに影響されて2012年から英語の勉強を始め現在進行形で勉強中。
ラジオ英語を聴いているのだが、英会話教室に通いたいのに時間と金が無くて嘆いているとかいないとか。

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