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SkyrimとFallout4・76の二次創作メインブログです。 たまにMODの紹介も。
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04.27.06:15

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  • 04/27/06:15

04.12.20:01

Happier(二次創作版)そのSAN値

※スカイリム二次創作小説第2チャプターですが、前の話から続いているため、ここから読み始めると若干面食らう点が多いかと思います。なので最低限前シリーズ(rude Awakening)から読み始めるといいかもしれません(それでもまだ分からない点が多いと思いますので一連の流れが知りたい方はカテゴリ「スカイリム二次創作」の2014年初頭辺りから読むといいかもしれません)
苦手な方はブラウザバックでお戻りを。
※2 今シリーズは結婚の過程があるため、若干18歳以上推奨的なシーン、文章、写真(SS)等がちょろっと出てくると思いますので、ドヴァーキン×セラーナに耐性の無いどばきんさんはこれまたブラウザバックでお戻りした方が幸せかもしれません。
※3 これは第三話です。最初から読みたい方は「Happier(二次創作版)そのいち」からお読みください。(今回はかなり長いよ!)


 夕闇が訪れ始める少し前──午後3時50分過ぎ。
 リフテンのマーラ聖堂はいつにも増して人でごった返していた。そこかしこから談笑や話し声が聞こえてくる。
 聖堂の入り口の扉は未だ閉ざされており、ドヴァーキンの結婚式を一目見ようと集まっている人は仕方なく聖堂に入れないまま、マーラ聖堂の敷地内にあるアプローチで密集していた。そこにすら入れず門からはみ出てもなお人が通路に集まっている。何事も起きなければ梃子でも動かないリフテンの衛兵はそんな聖堂近くの賑わいを冷めた目で見ながら通り過ぎていた。
 ドヴァーキンはまだか、と人々が待ち構える中──俺はその様子ビー・アンド・バルブの建物の陰からこっそり見てみて……げんなりしていたのだった。
 なんだあの人だかりは? おかしいだろ……さっき集まってた人だかり以上に増えてるんじゃないか?!
 辺りを見てみると、町の中心部の商業施設には誰もおらず店頭には何も陳列されてはいない様子からして、式の時間に合わせてさっさと店を閉めたのが見て取れた。
 客は全員聖堂に向かうからにしろ、たかだか俺一人のためにここまでする理由があるのかと疑問だけが残る。……待てよ、リフテンで結婚式を挙げた奴なんて俺はついぞ目にした事が無い。もしかしたらこれがリフテンの日常で、結婚式がある日だけはこうやって営業を停止するとか……無いな。
 考えてみてすぐその間違いに気づく。たかが他人の結婚式で営業を停止する程景気がいいとは思えない。只でさえ治安がよくないと言われてるリフテンだ、そんな所でモノを売ったりする奴が結婚式一つで仕事を休む性分とはどうにも思えないな。
「だとすると、やっぱ俺だから、か……。あーーーーくそっ! ドヴァーキンなんか好きでなったんじゃねぇのによ」
 毒づく。あの人まみれの状況の中聖堂に入っていくなんて公開処刑もいいところじゃないか。恥ずかしくてたまらない。神父にやっぱり一言何か言っとかねぇと腹の虫が収まりそうにないが……。
 このままこの場所にいたらそれこそまた遅刻して、今度はセラーナを待たせる事になる。あの芋洗い状態の場所を再三、突っ切らないといけないのかと思うと気が重い。それでさえ膝が若干笑ってるっていうのによ。
 そう、俺の両膝は少しがくがくしていた。緊張していたのだ。結婚式なんて初めてで、どうやったらいいのかさっぱり分からない。前線に立って戦場を駆けるのは得意のくせに、こういう畏まった事は全く経験がないため、武者震いならぬ膝が笑っている状況に自分自身が呆れていた。
 情けねぇぞ、俺! と自分の頬を両手で挟むようにぴしゃりと叩き、ビー・アンド・バルブの陰から表へと出た。リフテンの中心部を突っ切っていけばすぐに聖堂の門前だ。俺の姿を目ざとく見つけた人々にわかに活気付く。
「おめでとう、ドラゴンボーン! 幸せになれよ!」
「ドラゴンボーン、ばんざーい!」
 などと声援なのか祝福なのかよくわからない声が飛び交う。黙ったまま聖堂に近づいていく──話したくても緊張して心に余裕が無かったんだ──のを見計らってか、アプローチにごった返していた人々が頼んでも無いのに入り口までの道を開けてくれた。歩く道の両脇にずらっと物見客が並ぶ中歩いていくのはとても勇気がいるし、しかもその物見客が全員、虎視眈々と俺の一挙一投足を見ているのだからたまらない。
 恥ずかしさと緊張で顔が赤くなりそうだった。いつもの悪い癖を出さないように必死で努めているというのに。
 見ると子供の姿もちらほらいた。オナーホールの子供たちだろうか。彼らは俺を遠慮なく指差しながらクスクスと笑っている。どうせ俺の姿がいつもと変わらないって言ってるんだろうな。
 一旦ハニーサイドに戻ってから一時間じっくり鎧を磨いてはみたのだが、研磨剤もろくにもっていないためほとんど変わり映えはしていない。それでも俺の一張羅だからな。セラーナに忠誠を誓った時もこの装備だった。
 かつっ、とブーツが小気味よい音を立てて聖堂の扉へと繋がるステップを上がっていく。この先にセラーナがいると思うと、心音が跳ね上がる音が外にまで聞こえているんじゃないかとさえ思う。ステップを上がりきって、扉の前に立ったとき、俺は静かに深呼吸をした。
 ジャスト16時。──行くか。俺は両手をドアノブに掛け、観音扉を勢いよく一気に開いた。

 聖堂内は静かだった。身支度を整えたマラマル神父がマーラの像の前に立っているのが見える。その前には教壇があり、さらにその手前に──俺を待っていたであろうセラーナが立っていた。
 彼女はいつも身に着けている吸血鬼王族の鎧ではなく、純白のドレスを身に着けていた。肩は大胆にもあらわになっていて、胸から下を隠すように覆っている。ウエストから下は薄布で作られたドレープが幾重にも縫い合わされており、豪華さと華やかさを併せ持っていた。頭には摘んで来たのだろうか、新鮮な花を髪に結い合わせ、そこから流れるようにヴェールが肩あたりまで下がっている。
 その姿に瞬間、俺は見とれてしまった。──つまりいつも見ているセラーナは黒い服に身を包んでいるのに、白いドレスに変わっただけなのに……こんなに化ける(失礼)ものなのかと目を奪われていたといった方が当たってるかもしれない。
 吸血鬼らしい衣服から変わっただけで清楚で華奢な感じに見えてしまう。……いや違うな、元々清楚で華奢だったのだろう。それに今更ながら気づかされただけなのだ。
 聖堂内の中心の通路を分けるようにして長椅子が数脚並んで置かれてあったが、その椅子にはリフテンの首長であるライラ・ロー・ギバー、メイビン・ブラック・ブライアなどがいるだけでほとんど空いている。何で首長がわざわざ俺なんかの結婚式に来てるんだ? と思いかけてすぐその理由に気づかされた。……俺はリフテンの従士でもあったという事を。
 でもたかだが従士一人のために首長わざわざご足労かける理由には程遠い気もする。……やはりメイビン同様、一日ではあるがリフテンの町を潤してくれた俺に感謝の義でもあったりするからだろうか。
「ああ、誇らしげな花婿が来たな。式を始めるとしよう。……新郎ジュリアン、新婦セラーナの隣に。……一般客は椅子に座らず壁に沿って立ち見してくれ」
 俺に、次に俺の後ろで室内を覗き込むリフテン市民や各都市からやってきた面々や旅人に向かってマラマル神父が声を張り上げた。
 セラーナが顔だけ動かして俺を見る。……が、すぐにぷい、と顔を正面に戻してしまった。照れ臭いのか、はたまたいつもと同じ格好で来やがってとでも思っているのか。
 呼ばれた以上入り口で突っ立ってる訳にもいかず、一歩足を聖堂内へ踏み入れた──が、力が入らずがくっ、とよろけてしまう。自分自身の心臓が飛び上がるほど驚いた。何やってるんだ俺、情けねぇ……
「何緊張してるんだ、ジュリアン! この期に及んで怖気づいたのか?」
 などと野次が飛んできたので誰が言ったのか、と見ればなんと──盗賊ギルドの兄貴分、ブリニョルフが人ごみの中から顔を覗かせているではないか。……畜生、あいつにはいつもボウズだとかガキ扱いされてばかりだというのに、また一つボウズだといわれる理由が増えちまったじゃねぇか! 
 いつもの性分で耳まで真っ赤になるのが嫌でも分かった。しかし反面、これが功を奏したのか入り口で待っている一般客がどっと笑い出した。さっきまで緊張感に漂っていた聖堂内の空気が、にわかに和やかなそれに変わっていく。少しばかり、心に余裕が持てるようになった。ありがとなブリニョルフ、と心で呟く。
「……そうじゃねぇよ。ちょっと武者震いしただけさ」
 ブリニョルフの方は向かず、正面を向いたまま俺はぽつりとそう呟き──次の一歩を踏み出す。通路にしかれた赤い絨毯──ほとんど人の足跡だらけで赤黒く変色しているのだが──にくぐもった音を響かせて俺はゆっくり歩き始めた。
 それに伴って入り口にたむろしていた一般客も室内に入ってくる。しばし足音だけが響く中、俺はセラーナの隣に着いた。彼女の顔をそっと窺うと、セラーナもまたこちらの顔を窺うように見てくる。
「綺麗だよ」
 ぼそっと呟くとセラーナは返事すらせず、頬を赤らめ顔をぷいと顔を横に逸らす。近くで見れば見るほど華奢な体つきだった。いつも着ている王族の鎧は胸を若干つぶす感じでぎゅっとウエストを絞っており、細く美しく見せる効果もあったが、胸が大きいのか小さいのかすらよく分からなかったのだが、片手で揉むにはちょうどいい大きさだというのを今更ながら改めて知った。……って何言ってるんだ俺! 思考が変な方向に行こうとするのを必死で振り払った。
 待っていた一般人が全員入ったのを見計らったところで、マラマル神父が俺の内心を他所に再び声を張り上げる。
「全員入ったようだな。……では式を始めよう。聖女マーラは……」
 マラマル神父の声が聖堂内に響き渡ると、辺りはしん……と静まり返った。神父はマーラの創造物がやがて互いに愛する事を学び、独り身の人生が全うなものではないと語っている。
 独り身か。今まで全くそんな事気づきもしなかった。ずっと一人で生きていくものだと思っていたし、父親の仇敵を探すためにスカイリムに訪れていたのに冤罪で捕まってから、俺の人生という歯車が狂っちまったのかと何度も思ったりもした。
 ドヴァーキンとしての覚醒、アルドゥインとの対峙、そして人を守るという道を俺は選びアルドゥインの恐怖を退けた俺は、この世界では英雄だった。こちらの意思に関わらず。
 そんな中、俺はセラーナと出会ったのだ。……長い眠りから覚めた彼女が俺を見た時、まさか結婚相手になるなんて誰が予想できただろうか。そしてまた俺も彼女に惚れてしまうなんてその時は想像もつかなかったのは事実だ。
 マラマルが語る中、俺はこっそりセラーナの手を握った。顔はまっすぐ神父の方を向いたまま。セラーナも指を絡めてくる。
「新郎ジュリアン、セラーナとの永遠の愛を誓うか?」
 突然神父が問いかけてきたので内心慌てた。全く話を聞いていなかったため、前後の話がさっぱりだったのだが、愛を誓うかと言われれば勿論とはっきり頷いてみせる。
「……ああ、これからもずっとだ。永遠の愛を誓います」
 言いながらぎゅっと彼女の手を握る。本心だと伝わるように。
 マラマル神父は頷きながら、今度はセラーナの方へ顔を向けて、
「新婦セラーナ、ジュリアンとの永遠の愛を誓うか?」
 同じように問いかけた。……セラーナはどう言うのだろう。ちら、と彼女の方を目だけ動かして見ると、黙ってセラーナは頷いてから、
「未来永劫に。……ジュリアンへの永遠の愛を誓います」
 セラーナの口から言われると嬉しくて、胸からなんともいえないものがこみ上げてくる。
 しかしマラマル神父は畏まるように両手を俺達のほうへと手を翳しながら、とんでもない事を言ってきた。
「よろしい。では二人の愛が永遠であるように、誓いのキスを」
 え。
 思わず目を見開いた。相当間抜けな表情だったのだろう、神父が意外そうな表情を浮かべた。
「……聖女マーラは汝らを試すのだ。たった今交わした言葉が真であり続けるために。さあ、二人共」
 そうは言われても……俺はセラーナの方を向くも、彼女は照れるように目を逸らしたままだった。観衆(?)がざわめいている中、人前でキスをするなんて恥ずかしいにも程があるぜ。
 こんな事があるなんて全く知らなかった。しかしそれはセラーナも同様だったようで、しばしお互い、途方に暮れてしまう。……がここで止めるわけにもいかない。
 俺は意を決して、握っていたセラーナの手を一旦離し、彼女の方へ一歩近づいてから今度はその手を彼女の頬にそっとあてた。ぎくりとした様子でセラーナがこちらを見つめてくる。
「ジュリアン、だめですわ」か細い声で抵抗してくるが、俺は首を僅かに横に振った。誓えというなら誓ってやるさ。何度でも。
「セラーナ。君は俺のものだ」
 あの時彼女に伝えた言葉を再び口にした。そう、痛いほど手に入れたかった“魔法の言葉”。
 ──変わるとしたら一つだけかな、そう言ってから伝えた言葉は、彼女にとって俺の心は君だけのものだという意味だった。誰にも渡さないし、誰も君の変わりにはなれないから。
 セラーナにだけ聞こえるように、俺はこっそり囁いてから──くっ、と彼女の顎をもう片方の手で傾け、吸い込まれるように彼女の唇に俺のそれを重ね合わせた。──温かい。彼女の頬も唇も温かかった。……照れているせいかもしれないが。
 ずっとこのままでいたいなどと思ったが、さすがにそれは無理だし俺も恥ずかしい。僅か数秒ではあったが口を重ねて離してみると、セラーナは呆けた表情で、目がとろんとしている。人前でキスなんぞされて茫然自失状態になっているようだった。
「これで二人の結婚は許された。ジュリアンとセラーナのの新しい門出に祝福を! おめでとう!」
 マラマル神父の声が響き渡る。それと同時に周りから祝福の拍手が沸きあがった。ひゅーひゅーと口笛まで聞こえてくる。
 セラーナの肩を抱き寄せた。彼女は頬を赤らめながら笑みを浮かべこちらを見る。これから俺達は夫婦なんだ。……そんな実感まだ沸かないけどさ。
「二人には揃いの結婚指輪を渡しておく。互いを守る力になってくれるであろう。大事にされよ」
 マーラの像の両脇に座っていた司祭のブライヘルとディンヤ・バリュが立ち上がり、俺とセラーナに指輪を手渡した。セラーナには既に婚約指輪を与えていたから少々面食らってしまう。
「これはこれでちゃんと身に着けておきますわ。……勿論、婚約指輪の方も」
 セラーナが俺が考えている事に対して察したかのように返答してきたので驚いてしまう。
「……俺が何考えてるか分かったのか?」
「まぁ、大体は。……長く一緒にいるんですもの、これ位は分かりましてよ」
 自慢げな表情を浮かべる彼女がいとおしくて、彼女の首筋にキスをしてしまった。それを見て周りからはさらに口笛と歓声が飛んでくる。セラーナの顔が真っ赤になっているのがかわいかった。
「従士ジュリアン、結婚おめでとう。二人が永く幸せに過ごせるように首長としても祈っているわ」
 間を見計らって、立ち上がった首長ライラが握手を求めてきたのでこちらも自然と応対する。
「ありがとう……ございます」
 首長相手にありがとうだけじゃ無遠慮だなと思って付け足したが、かえって不自然な返事になっちまったかもしれない。首長はそれだけ述べ、お幸せにと言いながら手早く聖堂から自身の砦へと帰っていった。
 聖堂の扉が開け放たれ、一般客がざわざわしながら再びリフテンの町へと歩いていく。外は既に夕闇が訪れており、街灯の蝋燭がぼんやり街中を彩っているのが見て取れた。
「じゃ、……俺達も行こうか」
「行くって何処へですの? 今日もリフテンで泊まるんじゃないんですの?」
 そうか、セラーナは知らなかったんだった。メイビンが俺に鍵を預けた事を……そういえばメイビンは椅子に座っていたのにいつの間にか姿を消していた。一体いつ聖堂から出て行ったのやら。
 神父と司祭に再度礼を述べてから俺達は聖堂から辞した。扉を閉めてリフテン市街に戻ると、静かな町が夜でも賑わいを見せている。ビー・アンド・バルブの扉は開かれたままで、中からは吟遊詩人──ミカエルだろうか? ──の歌と談笑がこちらまで風に乗って聞こえてきた。
「今日はリフテンで泊まるんじゃないんだ。ある人から厚意で一泊分家を借りる事が出来てさ」
 メイビンの名前を出してもセラーナは彼女を知らない。黙っておいても別段おかしくはないだろう。
「一泊分ですの? ……で、それはここから遠いんでして?」
「いや、そんなに遠くはないな。歩いて30分、ってとこか。……そのドレスのままじゃ歩くのは辛いだろうから、馬でも借りて行った方がよさそうだな」

 それから数時間後の、宿屋ブラックブライア……屋外にて。
 静まり返った夜の風に一人当たる俺が居た。先程まで室内に居たのだが、少し夜風に触れたくなって外に出てきたのだ。
 数時間前──鍵のかかったこの建物に入ると、室内は煌々と明かりが灯され、暖炉にはしっかり薪がくべられており、ついさっきまで誰かが居たんじゃないか、などと勘繰ってしまうほど、建物内全てに手が行き届いてあった。一階の食堂には二人分の夕餉が出来上がってあり、スープ類は暖めればいい具合までに揃っていたのがこれまた驚いた。
「凄いですわね。いつ私達が来てもいい位までに揃ってありますわ。それなのに誰の姿も見えないのが不気味ですけど」
 俺も同じ事を思っていたので頷くしか出来なかった。でもまぁ、何はともあれ、メイビンの言ってた事は間違いなかったようだ。宿屋に着けばすぐに夕食にありつける準備はしておく、とは言ってたがここまでしてあるとは予想だにしなかっただけで。
 気味が悪い──厚意を有難く頂戴したのにも関わらず本心はそう思っていた。何か裏でもあるんじゃねぇか、と。食事を暖めている間、建物内をざっと見て周りおかしな点は無いか、と探して見たが杞憂に終わった。その間にセラーナはドレスからいつもの吸血鬼装備に戻ってしまっており、内心がっかりしたのは秘密にしておこう。
 晩餐と言うべき豪華な食事をセラーナと摂った後、ふと夜風に当たってみたくなって外に出てきた──が今までの経緯だった。

 今日一日で目まぐるしい展開がありすぎた。リフテンに人が殺到するわ、いろんな人から祝福を得るわ、そしてこの宿屋──何度も言うが宿屋という意味を成してない気もする──を貸してもらえるわ。
 でも。……全てはセラーナと結婚するという事から派生したものだ。彼女と結婚しなけりゃこんな事は起きなかったし、俺もまた結婚しようと思うことはなかっただろう。今までは旅の連れとか仲間程度だったのが、これからはそこに行き着くまでにかかるであろう、あらゆる関係をすっ飛ばして夫婦だもんな。なんだか……慣れるまで時間がかかりそうな気がする。
「でもなー……セラーナにどう言えばいいんだか」
 一人ごちる。どういえばいいのかって、そりゃ……一つしかない。夫婦になれば誰しも行うであろう行為。宗教的には愛を確かめるなんていうが、俗的には性欲を満たすだけの行為とも言う……
 セラーナがそれを知らない筈は無いのは分かっていた。だって、モラグ・バルは彼女の純潔を俺より先に、──って。
「ったく、何考えてるんだ俺……これじゃまるで……」
 僻んでるみたいじゃないか。……ため息を一つついてから俺はコテージの扉を開き、屋内に戻る。
 中に入った途端、暖かい空気が纏わりつくように体を包み込む。明かりがついた室内は静かで、広い空間に一人置かれた気分になる。セラーナは今風呂に入っているからだが、一人でこんな広い家は寂しいよな。
 そのまま俺は階段を使って二階へと上がった。二回は寝室とリビングがあるだけだったがどちらも間取りが広く、ハニーサイドと比べるとその広さに舌を巻くといったところだ。
 寝室には行かずリビングに足を踏み入れ、ぱちぱちと薪が爆ぜる音だけが響く暖炉の前に置かれた椅子に座った。ご丁寧に椅子の隣には小テーブルが置かれ、グラスと蜂蜜酒が置かれてある。先程まで外気に触れていたのと、悶々と考えていた事を払拭したいのもあってか、俺は自然と蜂蜜酒の瓶に手を伸ばした矢先。
「ジュリアン、ここに居たんですの?」
 グラスに注いで飲もうとしたのと同時にセラーナの声が背後から飛んできた。仰ぎ見ると、彼女は装備を外し、薄い赤紫のシャツだけを身に着けて扉の前に突っ立っている。先程まで風呂にはいっていたのと、シャツが胸元だけ開いているのもあって肌の色が艶めき、色気を醸し出していた。……心臓がどきん、と跳ね上がる。
「ああ、一人でやろうかと思ってたところだ。……セラーナも飲むか?」
 グラスを傾けて一口、口に含んでからそう言ってみせたが、彼女はそれに返事せず、黙ったままこちらに歩いてきただけだった。……どうかしたのか? 
 セラーナは無言で俺と暖炉の間に立つと、両手を腰に当てて、見下げるような視線をこちらに向け、
「ジュリアン、私、まだあなたに戴いてないものがありますわ」
 予想外の事を言ってきたため、思わず目を見開いてしまい、
「え?」
 などと間抜けな声を出してしまう。……あげてない物? 指輪は渡したし、結婚式も挙げたし……他にあげてない物なんて、あったか? 
「……すまない、何のことを言ってるのかさっぱり……」
 素直に分からないと言うと、今度はセラーナが目を丸くする番だった。
「……本気で言ってるんですの?」
「挙式も挙げたし、指輪も渡したし……他に何かプレゼントするって俺前に言ってたっけか? もしそうだったら申し訳ない、教えてくれないか」
 もし忘れていたら自分自身でも許せないのだが。──しかしセラーナは違うとばかりに頭を横に振った。
「何か勘違いされてませんこと? ……母に約束したじゃりませんの。もしかしてもうお忘れになったんでして?」
 母? ヴァレリカ? 約束? ──思い当たる事はひとつしかなかった。さっき屋外でいみじくも考えていた、彼女が知らない筈はないが、俺はやりたい、けとどう言えばいいのか分からなくて悶々としていた事。
 ……でも待てよ、セラーナが言ってるのは愛を貰ってないって事だけで俺が想像しているような事じゃないとしたら? 
「愛している、って? 式で言っただけじゃ気がすまないのか? セラーナ」
 そうじゃない、とばかりに彼女は再度頭を横に振る。
「もう、そういう意味じゃありませんわ。言葉で言う事しか母には約束してなかったんですの? ……それとも私にはあなたの眼鏡に適うような魅力がないとでも?」
 言ってて恥ずかしくなったのか、セラーナはぷい、と顔を横に背けて後ずさりしはじめるではないか。後ろに暖炉があるというのに。
「セラーナ駄目だ! それ以上下がったら暖炉にぶつかるぞ!!」
 思わず叫んでしまうが、逆に驚かせてしまったようで──セラーナがえっ、と後ろを振り向いた際、後ずさりしていたため体勢が僅かに崩れた。
「あっ」
 セラーナが頭から暖炉に倒れそうになるのを、咄嗟に立ち上がった俺は彼女の腕と腰を掴み、ぐっと抱き寄せた。……その後、ぱりん、と音を立ててグラスが床に落ちて割れた音が響く。
 咄嗟だったため持っていたグラスを手から離していたことに今更ながら気づくと同時に、セラーナと自分を密着させるように、力強くぎゅっと抱きしめている事に気づいて遅ればせながら心臓がどきどき鼓動を高めた。……鼓動が彼女に伝わっちまうんじゃなかろうか、と錯覚するほど。
「危ないな……後ろを見もせずに後ずさりするなよ」
「ジュリアンが悪いんですのよ。鈍感なんですもの。あなたは結婚したというのに妻に与えるものも与えず、愛しているは口だけで済ませるおつもりだったんでして?」
 抱きしめられて顔を赤らめながらセラーナは反論してくる。まさか、そんな訳ないだろう。
「すまない、君が俺と同じ事を思ってるかどうか分からなくてさ。……セラーナ、君が欲しい。……ずっと君が欲しかったんだ」
 言葉がすんなりと口から出る。何だ、言えるじゃないか、俺。
「最初からそう言えばいいんですのよ。まさか私が、結婚した者は夜同じベッドの上で寝ながらしりとりをするとでも思っているみたいな、何も知らない箱入り娘だと思っていたんですの?」
 そうじゃないさ。「いいや、ただ……嫌がって欲しくなかったんだ。セラーナがどういう事情で今の君になってるか知ってるからこそ、俺は君の意思を尊重したかった。それだけだ」
 そう言うと彼女は呆れ顔を浮かべ、……抱きしめられたまま顔を近づけて唇を重ねてきた。突然だったのでこちらは目を閉じる余裕も無く、思わず腕をびくん、と震わせてしまう。不意にキスをされただけで……嫌でも下半身が反応するのが分かる。
「──結婚しておいて、嫌がるなんて相手に失礼じゃありませんの。私はそこまで失礼な態度取りませんでしてよ。むしろ今のあなたの方が失礼ですわ」
 唇を離し、顔を瞳と同じくらい真っ赤に染めたセラーナが、俺の目をじっと見つめたまま言う。その色に怯えや畏怖は感じられない。
「……怖くないのか?」俺は今から、君がコールドハーバーでモラグ・バルにやられたような事をやろうとしているんだぜ。とは言わず──ぐっと喉の奥に押し込める。
 しかしセラーナの答えは予想外にシンプルなものだった。
「怖い? 何がですの? 何か勘違いしてませんですこと? 私はあなたに抱かれる事は今夜が初めてですけど、嬉しいですわ。それは勿論、ジュリアンを……愛しているから」
 今まで理性を保っていたタガがその言葉で外れた。抑えていたものが全身に溢れ──下半身に血流が溜まっていくのを感じてにわかに呼吸が荒くなる。
「……せっかく風呂に入ったのにまた汗かいちまうな。それでもいいのか?」
「また入ればいいだけでしてよ、今度は一緒に入っても構いませんわ」
 互いに笑って──今度は俺から唇を重ねた。荒々しく舌を絡め、いらやしい水音を立てながら互いに互いの身に着けていた衣服を脱いでいく。暖炉と蝋燭のみで照らされた室内に、二人の影が何度か炎で揺らめきながらも次第に深く重なり合っていった。

 光が飛び込んでくる。──そう、光だ。
 まぶしくて、薄ら目を開けると──光は窓から差す日差しだった。きらきらと輝く日差しはまるで輝く階段のように、床にきらめく一本の筋を残している。
 夜が明けてから数時間といったところか。……寝ぼけていた頭が瞬時に昨晩の営みを思い出し、はっとして傍らを見ると、ベッドの中でセラーナが静かな寝息を立てていた。
 さすがに体力を使ったのだろう、でなければ普段寝るなんて必要の無い彼女がベッドの中で寝るなんて行為すらしないだろうから。……けど寝顔のセラーナなんてなかなか見ないよな。と自然と口がにんまりしてしまう自分が居た。
 セラーナの肩が布団からわずかに出ていたため、彼女へそっと布団を掛け直してから、俺はもそもそと寝台の上を移動しつつ再度身を横たえて、彼女の寝顔をじっと見ていた。
 まだ起きなくてもいいか。と思いながら──再度まどろみの奥へと意識がさらわれていく。……その数分後に、セラーナが目を覚ましたのも気づかないまま。
  ぱち、と瞼を開けたセラーナは、ジュリアンの顔が存外に近くにあるのに心なしか驚いた。窓から差す光に、随分眠っていたようだと思うと同時に、眠ってしまうなんてと自分自身に驚きを隠せずにいた。ジュリアンを起こさないようにと、そっとベッドから起き上がると、若干ぎくっと腰が痛む。何で痛むのか、と思わなくても予想がついた。──自分も相当腰を振っていたせいだ。思い出すだけで顔が熱くなる気がした。それだけ気持ちよかったのも事実で……
 何も身に着けていないままベッドから立ち上がる。終わってからそのまま眠ってしまったのは勿論、衣服は隣のリビングで脱ぎ散らかしたままだということも思い出してセラーナは思わずくすりと笑みを浮かべた。ジュリアンはまだ眠っていてもいいだろう、……昨晩は激しく動いていたし、腰が痛くならないといいんですけど。
 セラーナは心の中で独白してからリビングに移動し、着替えてから彼の衣服もベッドサイドに置いて、一階へと降りていった。

 最初に目が覚めてから何時間経っただろうか。……完全に二度寝してしまった事に気づいたのは何度目かの寝返りをした後、先程目が覚めた時には俺の隣で眠っていたセラーナが居ない事に気づいてからだった。
「しまった……昼過ぎにはここを出るんだったよな」
 ぽつりと独り言をつぶやきながら起きる。昨晩脱いだ衣服が置いてあるのに気づいた。セラーナが置いてくれたのだろう。手早く着替えて一階に下りると、食堂にセラーナが皿を並べていたところだった。
 そんな姿さえも昨日と違って見えるのは何故だろう? 結婚したから? それとも……
「おはよう、セラーナ」
 声をかけると彼女はこちらを一瞥してから──何故か肩をすくめて見せた。
「遅いおはようですわね。昨日ほどではありませんが11時前ですわよ。……朝ごはんできてますわ。食べますわよね?」
 有難い。「戴くよ。……昨晩動いたしな、腹が減ってしょうがなかったんだ」
 勿論嘘ではないしセラーナも同様だった。互いに求め合い互いに溶け合った夜を思い出すだけで口が再びにんまりしてしまう。
「……お昼過ぎにはここを出るんですから、急いで食べないと遅れますわよ」
 聞いていない素振りを見せたセラーナだが、本当はちゃんと聞こえていたらしく、照れたように頬がほんのり赤く染まっている。……幸せだ、そう実感できた。生まれてこの方、家族を持つという事なんて考えもよらなかった事が、現実になっているのが信じられない。
「ああ、いただきます。……ここを出たらホワイトランを経由して首長に挨拶をしてからソルスセイムに戻ろう。──島の皆は俺達が結婚した事に驚くだろうな、きっと」
 向かい合うように椅子に座って、朝食にありつく。テーブルを囲んで食べる食事がこんなにも暖かく感じられるのも、幸福というスパイスが混じっているせいだろうか?
「そうですわね。……思えばレイブンロックの方々に何も言わないまま島を出たっきりでしたわ。まだ四、五日程度しか経ってないですけど」
 そうだった。島を出る時はセラーナと今生の別れか、と絶望していたのにも関わらず、今はこうしてセラーナと結婚して食卓を囲んでいる。人間生きているうちに何が起きるか分かったものじゃないな。
「セラーナ、愛しているよ」
 などと思わず口から本心が零れ出たのに自分自身が驚いた。言われた当のセラーナはというと、いきなりすぎてきょとんとした表情を浮かべてから──目と同じくらい頬を真っ赤にした。
「な、何いきなり言い出すんですのよっ! ……寝ぼけた事言ってないで朝ごはん済ませないと遅れますわよ!」
 寝ぼけてないんだが……しかしその態度が本気でおかしくて、かわいくて、愛おしくて、俺は笑った。
 
 鍵を閉め、ポストに鍵を投函してから、俺とセラーナは宿屋ブラック・ブライアから離れた。そのまま街道に出て、リフテンには立ち寄らず東を目指し、イヴァルステッドを経由してからホワイトランへ向かう。
「行こうか、セラーナ」
「ええ」
 宿屋に背を向けて、歩き出す──傍らに立つセラーナを見て、心の底から幸せだと思い──同時に、俺は心の中から一つの目的を消した。今まで追っていた……父親の仇敵を討つという事を。
 これまでも二人で歩いてきた。今迄は互いが別々の道を歩いていた。行く方向は同じでも、見据えるその先は違っていた。だから俺は仇敵を探し、いつか親父の仇を討つ事を忘れてはいなかったし、それだけを目標として長年追い続けてきた。
 ──けど、これからはそうじゃない、俺とセラーナ。二人で一つの道を歩いていくんだ。それが独り身の人生ではないということだから。
 勿論親父を殺した奴は許してはいない。けどそれ以上に愛しく守りたい者が出来た。だから捨てよう。今となっては無意味な目的を──
 「黙ってしまって、何を考えているんですの、ジュリアン?」
 セラーナが訊いてきた。
「ああ、前に父親と養父の話はしたよな? ソブンガルデで見守ってくれているであろう彼らに報告してたのさ。俺はセラーナと結婚したよ、ってさ」
 死地に赴くだけが人生じゃない。傭兵として生きながら幸せを求めたって悪くはないさ。ようやくそう思えるようになった。思える相手が出来た。だから俺はセラーナ、君を幸せにしてみせよう。愛していこう。
「……幸せになろうぜ、これからはずっと二人だ」
 ぽつりと言うと、セラーナが嬉しそうにはにかんだ笑みを浮かべてくれた。そんな彼女の手を取り、優しく握ってから、俺たちは歩き出す。
 互いの道が一つに集約して出来た、先の見えない、けれどちっとも怖くない──幸福という名の輝く道を。





あとがきは次で書きます。長文お読みいただきありがとうございました。


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